番長想い出の店(第1章):A玩具店(神奈川県藤沢市)

この店の名前は実ははっきり覚えていねえんだ
なぜって?電話帳にも載っていない忘れられた店だったからさ
そもそもおもちゃ屋かどうかもわからねえ(まあ、ほかの店にも見えなかったけどな)
でも・・・ふふふ
匂うんだよな、俺の鼻には

なぜそんな店のことを覚えていたかって?
昔のことだ、俺にもトミカなんぞを集めていた時代があった
若かったな
そのころ一度だけ行ったことがあったンだよ

1995年秋…
俺がプラレールを捜し始めた最初の日ことだ
小田急線の、江ノ島に近いとある駅前の商店街を抜けると…
その店はまだあった
薄暗い、陰気な店だったが、まさかまだやってるとは思わなかったぜ

シャッターも一枚しか開いてなく、店の中は以前にもまして薄暗い
暗さに目が慣れた頃、ゆっくりと奥からおやじが出てきた

俺は一瞬店に入ったことを後悔した
なぜなら、その店の中には、もうほとんどおもちゃと呼べるモノは残っていなかったからな
「里中満智子の星占いゲーム」と「キャンディキャンディおふろシャワー」?…そんなものしか目に入らなかった
だまって出るのも気まずいので帰る前にいちおうおやじに声をかけてみたぜ
「プラレールは…無いすか」

「…もうないね」
期待していたとおりの答えが返って来た

こんな店じゃ、しょうがねえか…そう思って、入ってきたときとは逆の方向に振り向きながら、店を出ようと思ったその時だった
目の高さの棚の上にぽつんと置き忘れられたような細長い箱がひとつ
プラレールだ!
手に取ってみた瞬間俺は手がふるえた

なぜなら、うす汚れたその箱にはこう書いてあったからだ

「寝台特急」
こいつは神様の贈り物だ

こうして俺は、プラレールを捜しはじめたその日に、寝台特急を手に入れちまった
普段は神や仏なんぞまったく関心がないの俺だが、この日ばっかりは神様の存在をちょっぴり信じたぜ。

それにしてもおやじ、最高のボケをかましてくれたぜ、フフッ
(第1章:完)
2000/6/25作成