ダイヤモンド・エイジ 著:ニール・スティーヴンスン 訳:日暮雅通 早川

2007.01.14

残念ながらマイ・フェア・レディとかピグマリオンとかは知りません。
あらすじ調べて、ほうなるほどと思ったけど。

ダイヤモンド・エイジ・・・黄金時代を通り越して人類はスゲー域に達したッ!?と思ったら
そうでもなく、ダイヤが建築材料になってる時代なんです、というちょっと人を食ったタイトルです。
ハイテクを使いこなしながらも、人ははるか昔と同じような愚かさを克服できていない。
ま、出来てたら小説になりませんけども。出来ないなりになんとかしようとする世界を描きます。

やさぐれ女の生んだ娘、ネルの成長物語がメインの内容。暴力や性搾取からの脱出も描かれるし、
女性の解放物語でもあるんだな。これこれ!こういうのやるべきだよ日本も。
何が愛国心教育だ。それ以前に、自分を愛せない人間に国が愛せるか!ドカーン!
おっ?やるじゃん?おれのようなアホウもどこかで聞いたようなセリフを吐けばこんなもんよ。

話を戻すか。
ハイテク教材<初等読本>でネルは学習していき、中のRPGみたいなプリンセス・ネルの物語
をクリアしていくと、現実もそれに応じて進んで行くというよく出来た話です。
どうよく出来ているかというと、

<初等読本>は、現実のネルが置かれた状況を、プリンセス・ネルが置かれた状況に
なぞらえて「お話」する。これにより、自分および周囲の環境を客観的に把握し、どのように
対処するかを検討する能力を育てるようになっている。
この時点で、人とうまくやる、って事が出来ないおれみたいな奴は涙流してしまう。
なるほど、こういう風に人は育つのか!と感動したんだけどおれはアホですか。うんアホです。
このガジェットの出来がクール。

その影で、<初等読本>を発想した新ヴィクトリア人の偉い人、フィンクル=マグロウ卿と
制作者のハックワース、謎の中国人ドクターX、真の大義を求める芳判事と部下達、
<初等読本>を匿名で支えるインタラクティブソフトの女優ミランダらが入り混じり
状況を刻々と変化させていく。これも最終的に<初等読本>のネルの冒険とリンクしていく。
ハックワースがどこまで確信してやったかとかよくわからんけど。
この物語の構成も超クール。

あと老人がすげえの。ドクターXが芳判事を回心させる場面の大技はいかにも大陸的スケールだし
そのドクターXに弱みを握られたハックワースにマグロウ卿が接見する場面の老獪さも震えが来る。
ハックワースはもう一人の主人公で、彼の見聞きする珍妙な体験は作者の想像力が疾りまくっている。
終盤に大真面目に乗り込んだ秘密演劇クラブで彼は重大な事実を知るのだが、この章は大ヒットだね。
おれはこういう大道具が大好きだよ!

何つーか、これとこれがこうリンクしてたら面白くねえ?運命感じねえ?みたいな技巧的な構成を
何の根拠も無しに導入すると、オカルト的な世界認識になっちゃう気がするんだけど、
SF的テクノロジーとか2大勢力の争いの描写を通じて、真面目に成り立たせようとしてるんだな。

それもあって、終盤の方で「あーそう来た。大体解ったよ」と勘のいい人は思うかも知れないが、
さすがの作者だけあって緊張で引き締まった展開を用意している。
エンディングはダイヤモンド・エイジの幕開けを予感させる、いい絵で終わるよ!

あとは名前かなあ。
ネイピア大佐とかミス・ラマヌジャンとか、チューリング大公とか、多分沢山あるだろうけど
理工科系の学生がニヤリとしそうなのが入っています。

いやー賢い人間がいたもんだ。


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