量子宇宙干渉機 著:ジェイムズ・P・ホーガン 訳:内田昌之 創元

2006.07.17

同じ著者の「未来からのホットライン」だと思うんだけど、そっちでは選択されなかった
世界は消滅してしまうんだったかな。最終的に人類は転ばぬ先の杖を手に入れる、というもの。

んで、こっちは無数の並行世界が存在して、その間でコミュニケーションが成立するという内容になっています。
並行宇宙と通信することでパワーゲームの勝利者たろうとする政治家・軍人と
その下で目的のために研究させられながらも、自分達のやりたい方向に向かって
何とか出し抜こうとする科学者達とのせめぎあい、みたいな話だなー。
またこのね、科学者が一方的にうまくやるのじゃなく、
現場の管理と軍上層部の意識の差が原因でうまいこと事態が進んでいく所とかちょっと面白い。

あと、そのテクノロジーを開発していく過程で各分野の専門家が
進化とか、宗教の神の啓示を受けるような直感的な理解だとか、芸術的ひらめきとかも
並行世界との通信なんじゃないかみたいな仮説を出してくのも面白い。
それに、登場人物達が色んな世界を見学していく場面はコントっぽいとこもあって笑みがこぼれる。

終盤に向かって、話は過激な方向に進み始める。
並行世界との通信を体験することで、登場人物達は心に変化を受けていく。
「目的の為に人間に圧力を掛け、結果を出せない奴は排除」という研究施設の方針は、
利益をもたらす奴を生かし、そうでないものを殺すという、人間牧場の世界の相似として認識される。
どっかで世界は間違った。利益の追求以前に、
「その利益って、そんなにしてまで必要なわけ?」という問いがあるんじゃねーの。みたいな。

でね、むごたらしい破滅とかは描かないの。そんな感傷しやすい方向で終わらないの。
もっと過激に、世界にアイデンティティ危機を突きつけます。

最後は王道の展開に、そうこなくっちゃ。


戻る