虚空王の秘宝 著:半村良

2013.01.05

・理性に対する悟性、科学者に対する山師感覚がたまらない
・ドロップアウトした人間達の大冒険
・人の人間的成長と宇宙的人類進化をアナロジーで重ねて遥か未来への希望を描く

読んだのは年内だったけど、感想書くのが遅れていた。
明けましておめでとうございます。

最初、おれがこの小説の事を知ったのは
筒井康隆の随筆だかコラムだかをまとめた文庫本で、そこで
「やけっぱちみたいな、とんでもねー話をよく完結させた」
というような感じの評価がされていて、
どちらかというと、破綻して強引に終わった作品なのかな?
という方向で興味を持っていた。変な意味で笑えるのかなと。

でも、ちゃんとしてたよ。
ちゃんとしてないと言えばちゃんとしてないけど。

途中長期に渡って中断があって、完結したってことで、
追いかけてた人には思い入れも含めて、ドラマがあったりしたろうし。
大体、ちゃんとしてない作品の事なんか、筒井先生が取り上げるわけねーだろ。

おれとしても、数年間「どんな作品なんだろうなー」と夢をいだきながら
図書館に行けばいいのをグズグズしていたので、勝手に感慨深かったです。

さて。本題に行きますか。

えーと、普通の宇宙探検ものって、最高の科学者や勇敢な宇宙飛行士が
自分の知性で、苦難を乗り越えて、危険をかわしながら、
宇宙の謎や不思議を解き明かしていくような内容ですよね。
知性つーか、おれが言いたいのは理性なのかな?

おれの言ってる理性って、自分の頭の中に小さな宇宙を作ったみたいな感じのこと。
大きな世界は一人の人間の頭に入らないから、理論化、数式化して、
必要に応じたシンプルなモデルにして部分的にシミュレーションする。
でもって「宇宙ってこういうものだ、そうある筈だ」という仮定が、
現実に合うかどうかを実験で確かめていく、というような、そういう働きです。

で、この作品は、その真逆なんですよねー。もう爆笑。

社会からつまはじきにされた、ドロップアウトした人間が、
偶然見つけた(といっても、導かれていたのだが)
超文明の宇宙船に乗り込んで、
目的も意味も無いまま、ただ旅立つ。

船の超知性が、知識を学習装置で与えてくれるし、
強力な兵装もあるんで大抵の危険は避けられます。
主人公達は、惑星を訪ね「させられ」て、異世界の生命の姿を体験する。

だもんですから、何つーの?悟性っつーんですかね。
気付きとか、そういう方向で物事を捉える展開になります。
「そうか、宇宙ってこういうものだったのか!」と解る。
経験に学ぶような、そういう方向に、特化したSFなんですな。
艦長からして職業が山師だからね。

内容の方。

主人公が陰謀に巻き込まれ、昨日までの生活を捨て、
秘密組織に入り、戻らない旅に身を投じます。
死んだと思ってた親父が、秘密組織の首領になってるという設定も最高。
これは単純に面白い。ドキドキして興奮する。
この組織の犯罪的な実情や、反社会というより、非社会という概念も面白い。
まさに、縁を切って出家するような方向。今後の展開を暗示している。

宇宙に旅立つときに、適当にでっち上げたような、
宗教団体の聖地巡礼バスツアーを装って
クルーたちが秩父山中に到着するのも実に良かったな。

あと組織を狙う日本政府の役人とのスパイ戦や
宇宙船の発進場面のド迫力の特撮的描写も最高。
日常なんかどっか行ってしまえ−−−否、どこかに行くのは我々の方なのだ。

で、宇宙探検。

色々な星を巡りながら、珍奇な生命と対峙します。
そこで、地球の生命と比較論をすることで
徐々に地球人類の進んできた方向性を反省していく。

また、星の意識とか、霊が恒星に戻っていくとか
そういう新しい見方にも目覚めていく。
アシスタントのアンドロイドのロミオが
徐々に人間臭くなっていくのも面白い。

主人公達は、やがて船のクルーとして認められるのだろうか。
船の超知性の目的を知る事が出来るのだろうか。

最後。

主人公達は虚空王の秘宝を手に入れる。
それは、地球人類が進化し、やがて地球を巣立ち宇宙に羽ばたく、
遥かな未来への希望を繋ぐものだったんです。

それと、物語を通して主人公達クルーが成長し、
今、彼らに知識を与え、育ててくれた母船への別れの時が迫る。
その名残惜しさが、重なり合って感無量。
大きな喜びと少しの寂しさを涙の言葉で歌いたいです。


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