潰瘍性大腸炎
Ulcerative Colitis
田淵 正文 東京大学大腸肛門外科非常勤講師
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◆病態と診断
 潰瘍性大腸炎は大腸、特に直腸からはじまる原因不明の炎症性疾患である。年齢分布は2峰性で20歳から25歳に第一の高いピークがあり、50歳から60歳にかけて第二の低いピークがある。
 病変は主として粘膜と粘膜下層にみられる。抗体依存型細胞障害と即時型アレルギーの自己免疫疾患である。心理学的要因の関与もある。脅迫的性格の人(「なになにしなければならない」という考え方をする人)がなりやすい。通常、血性粘血便や下痢で発症する。排ガスしようとして誤って粘液が出て下着が汚れてしまう症状は特徴的である。
 各種の血栓症、結節性紅斑様皮疹、硬化性胆管炎、関節炎などの種々の全身症状をともなう。慢性の粘血・血便・下痢などがあり本症が疑われるときは、放射線照射(放射線性腸炎)、抗生物質服用歴(菌交替性腸炎・偽膜性腸炎)、海外渡航歴(南米などのアメーバ赤痢による腸炎)などを聴取するとともに、細菌学・寄生虫学的検査を行って感染性腸炎を除外する。
 大腸内視鏡では、基本的には直腸から連続した炎症を認める。活動期は粘膜下血管の不透見、発赤、黄白斑、浮腫、広範な壊死所見を認める。病理所見で陰窩膿瘍が認められれば確診である。重症例の非活動期には、粘膜層の皮薄化、炎症性ポリ−プ、有窓粘膜などを認めることもある。内視鏡所見の重症度分類としてMatt’sの分類が用いられる。
 長期的予後は良好であるが、癌や血栓症に注意が必要である。潰瘍性大腸炎患者の死因のトップは、脳血栓や冠動脈不全などの血栓症である。また、全大腸型で、炎症が長引いた症例には、潰瘍性大腸炎発症後7年ぐらいから大腸癌が出やすくなる。また、ステロイド依存症例ではステロイドの副作用に悩むこともある。

◆治療方針
A。薬物治療
 心得:再燃再発時は"すぐに"しっかりと治療するのがこつ。悪くなってから治療を始めるまでの時間が長いほど、緩解導入にも時間がかかる。少し多いかなと思っても、早めに多めにステロイドを使うのがよい。緩解導入が早くえられるので、ステロイドのトータル使用量が少なくて済み、ステロイドの副作用が少なくても済む。
 潰瘍性大腸炎の治療はサラゾピリン・ペンタサ・副腎皮質ステロイド薬が中心となる。これらで効果のないときは、免疫抑制剤のアザチオプリンやサイクロスポリンが試みられることもある。難治例では、メトロニダゾールやブロードスペクトラムの抗生剤が効くことも有る。ペンタサはサラゾピリンの有効成分である5‐アミノサリチル酸の徐放製剤であり、サラゾピリンに比べ安全性が高く、臨床的に有用な製剤である。
1。軽症および中等症の潰瘍性大腸炎
(a)サラゾピリンまたはペンタサを経口投与が中心だが、緩解導入にはプレドニゾロン10ないし30mgの内服加療が必要な場合も有る。緩解維持にもサラゾピリンまたはペンタサは有効である。維持療法の期間は副作用がない限り長期間行うことが望ましい。
 潰瘍性大腸炎の診断が確かで病変がS状結腸より下部に限局するときは、ステロイドの注腸の併用が著効する。製剤としてはステロネマの他に、注射用水溶性プレドニゾロン20mgないし100mg程度を100‐200mlの微温湯に混じて1日1‐2回、排便後と眠前に2回、直腸内に投与し体位変換にて病変部に誘導する。緩解導入後は注腸療法を次第に減らし、サラゾピリンまたはペンタサにて維持療法を行う。ステロイド注腸は再燃のないように3ないし7日で20mgずつ順次減らしていくのが原則である。その他に、ペンタサ注腸剤もある。
 なお、直腸炎型では注腸の代わりにリンデロン坐薬やサラゾピリン坐薬を使用してもよい。
 
処方例 症状に応じ1)、2)を適宜併用
1)サラゾピリン錠(0。5g)6‐8錠 分3‐4 毎食後と就寝前 または
 ペンタサ錠(0。25g)6‐9錠 分3‐4 毎食後と就寝前
2)サラゾピリン坐薬(0。5g)1‐2個 就寝前、朝
リンデロン坐薬(1mg)1個 就寝前
ステロネマ注腸液(100ml)1本もしくはプレドネマ1本 就寝前
のいずれか1剤

(b)上記の治療で1週間以内に明らかな効果がない場合や増悪する場合は、プレドニゾロン1日20‐40mgの経口投与を追加する。明らかな効果が得られたら、緩解までこの量を続ける。次いで3-7日で5mgずつしだいに量していく。ステロイドの注腸も再燃しないように適宜減らしていく。

処方例
プレドニン錠(5mg)6‐8錠 分2‐3
(c)プレドニゾロン⇒の経口投与を行っても、2週間以内に明らかな効果が認められないときは、入院させ重症例の治療に移行する。

2。重症
(a)入院させて全身障害に対する管理を行う。薬物療法としては、当初よりプレドニゾロン1日40‐80mg(1‐1。5mg/kg)の経口投与、さらにステロイドの注腸を併用する(注腸が刺激となり排便回数が増える場合は中止)。静脈点滴よりも、支配動脈からの動注療法が効果的である。効果があれば、プレドニゾロンを週に5mgずつ減量し、以後は軽症・中等症に準じた治療を行う。
(b)前項の治療にて明らかな改善が得られない場合は、絶食療法、中心静脈栄養療法、白血球除去療法などを行う。

(i)強力静注療法
 @経口摂取を禁じ、高カロリー輸液を行う。
 A水溶性プレドニン⇒注40‐80mgを静注(1‐1。5mg/kg4回分注)。
 B広域スペクトル抗生物質の投与
 C電解質の補給、必要であれば血漿蛋白製剤、輸血を行う。

(ii)白血球除去療法:人工透析のような体外循環で活性化した白血球を除去する治療法である。除去フィルターや遠心分離などの方法があるが、保険適用とされているのは、酢酸セルロース製ビーズを用い顆粒球を吸着するアダカラム(日本抗体研究所)のみである。活動期は週1回ずつ5週間行う。有効性は約60%と報告されている。無効なときでも10回まで保険が利く。
(c)以上の治療でも明らかな改善が得られないときは、手術を考慮する。

3。劇症型(急性劇症型または再燃劇症型) 劇症型はきわめて予後不良である。当初より強力静注療法を行い、症状が悪化する場合や早期に症状の改善が得られない場合は緊急手術を考慮する。サイクロスポリンは保険適応ではないが、効果がある。
 なお、中等症例や重症例・難治例は専門医に相談するのが望ましい。

B。外科的治療
 大腸穿孔、中毒性巨大結腸症、コントロール困難な大量出血、強力な内科治療に抵抗する重症例は手術の適応である。特に劇症型は急激に全身状態が悪化することがあり、時期を失することなく緊急手術を考慮しなければならない。全大腸切除術と回腸によるパウチ形成術が原則であるが、全身状態や社会的な都合によっては、姑息的な炎症部のみの切除もありうる。

C。食事療法
 緩解期は基本的には何を食べてもよいが、患者によって悪くなる食物がある。多いのは、唐辛子やビール。人によっては、かんきつ類などで悪化する場合もある。古い食べ物で悪くなることが多い。大腸内に炎症を治める酪酸を誘導する発芽大麦、青汁などが勧められている。
 活動期には、低残渣食とする。残渣が多いと便量が増えて、大腸が刺激されて下痢の回数が増えてよくない。

■患者説明のポイント
 慢性の疾患であるが、病状をコントロールすることで通常の社会生活を行えることを説明し、患者の不安を取り除く。
 
■服薬指導上の注意
 重症例に対するロペラミドなどの止痢薬や鎮痙薬の投与は中毒性巨大結腸症を誘発する危険性がある。
■看護・介護のポイント
 治療が長期にわたることが多いので、患者の社会的、精神的ケアにも配慮する。