クローン病
Crohn's Disease
田淵 正文  東京大学大腸肛門外科 非常勤講師
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◆病態と診断 食物の通過する器官(口腔、食道、胃、小腸、大腸、肛門)に起こる全層性の慢性炎症性の疾患。かつては、突然の腸穿孔や腹膜炎から外科的な腸切除といった経過で見つかることが多かった。当時は特発性(原因不明の意)回腸炎(回腸が好発部)と呼ばれていた。最近は、検診時の便潜血反応陽性で、腸の検査をしたら見つかることが多い。
 主として若年者(10歳代、20歳代)に好発する。原因不明であるが、食物に対する組織の過敏性が病態の基本であり、食物をとらないと炎症が治まっていく。発症率は10万人対0.5で、男性にやや多い。腹痛、下痢、発熱、体重減少を四主徴とするが、貧血、全身倦怠感、下血・血便、肛門部病変も診断契機となる。病変は口腔から肛門部のいずれにも発生しうるが、小腸・大腸に好発する。
 特徴として、
@非連続性・区域性病変、
A敷石像、
B縦走潰瘍、
C全層性炎症、
D裂溝または瘻孔、
E多発するアフタ様潰瘍または不整形潰瘍、
F非乾酪性類上皮細胞肉芽腫
 があげられる。主病変(縦走潰瘍、敷石像)の存在部位で小腸型、小腸・大腸型、大腸型に大別される。主病変部は瘻孔、膿瘍を形成したり、狭窄に至ることがある。胃の竹節状びらんも、特徴的とされている。
 検査所見では炎症反応陽性(CRPよりもSAAのほうが敏感)、低栄養(病気の重症度に比例)、貧血などを認める。本邦の診断基準では、腸結核などの他疾患が除外され、上記AないしBを認めるかEとFの両者を満たすと確定診断となる。EのみでFが認められないときは不全型である。Fが診断の決め手であるが、内視鏡的生検でFが見つかる確率は10%ぐらいである。胃に竹節状びらんからFが見つかることが多い。

◆治療方針
 本症を完治させる治療法は確立されていないが、絶食とすれば病勢は落ち着いていく。しかし、ずっと食べないままでは通常の社会生活を営んでいけないので、どこかで、食物を再開しなければならない。食物を再開すると病気も再燃傾向となるため、患者のQOLを保ちながら、いかに病勢をコントロールしていくかが治療のポイントとなる。外科的治療のみでは再発率が高いため、食餌療法と薬物療法が基本である。

A。活動期の治療
 原則として絶食として腸管の安静を保つと同時に、細菌感染を合併している場合には抗生剤を使用して一般状態の改善をめざす。腸管安静を目的として栄養療法を施行し、適宜薬物療法を併用する。

1。栄養療法 
  完全静脈栄養療法(TPN:total parenteral nutrition)ないし経管成分栄養療法(ED:elemental diet)。重篤な病勢(著明な低栄養状態、高度な消化管病変)、あるいは瘻孔、膿瘍、狭窄などの合併症を有する場合はTPNを選択し、発熱を伴うときは広域スペクトラムの抗生物質を併用する。EDでは経鼻チューブの先端を十二指腸に留置し、注入ポンプを用いて成分栄養剤を持続投与する。TPN、EDともに2,000kcal/日以上を維持投与量とするが、必須脂肪酸欠乏を補うため、脂肪乳剤を点滴静注する。栄養療法は少なくとも4週ないし8週間施行するので、体重や生化学データを指標に投与量を適宜増減し、微量元素やビタミンの欠乏症に注意する。
処方例 
エレンタール(80g)8包 経管 持続注入
20%イントラリポス 250ml 点滴静注 週1‐2回

2。薬物療法 
 栄養療法と併用する。軽症例では栄養療法に先行して薬物治療を行うこともある。有効な薬剤として、サルファ剤と副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤としてアザチオプリン・サイクロスポリンや抗TNF-α抗体(インフリキシマブ)などがある。軽症に対してはペンタサを、まず投与する。重症例や腸管外合併症を有する患者ではインフリキシマブが著効する。プレドニンやフラジールやイムランなどを適宜併用する。

B。緩解期の治療
 再発・再燃を予防し、QOLを向上させる。
1。在宅経腸栄養療法 緩解導入後、原則として6か月間は成分栄養剤(エレンタール)、消化態栄養剤(エンテルード)あるいは半消化態栄養剤(クリニミール、エンシュア・リキッドなど)などの経腸栄養剤のみ経口摂取させる。病変の程度や社会的適応により夜間の自己挿管による在宅経管栄養を併用する。その後、徐々に低残渣・低脂肪食に移行するが、800‐1,000kcal/日の栄養療法は継続する。以上の栄養療法でも再発をくり返す患者には、在宅中心静脈栄養療法も考慮する。
2。薬物療法 サラゾピリンないしペンタサを投与し、再発時にはプレドニンやインフリキシマブを使用する。

C。外科的治療
 高度の狭窄、出血、瘻孔、膿瘍などの合併症は手術適応となる。術後再発率が高いので、切除はできるだけ小範囲に止め、腸管温存をはかる。狭窄には狭窄形成術で対処し、内視鏡の到達範囲内であれば内視鏡的拡張術を試みる。難治性の肛門部病変に対しては腸管病変の治療と並行して外科に治療を依頼する。

■患者説明のポイント
・外科的治療はあくまでも補助治療で、内科的治療が治療の中心となることを家族を含めて十分に説明する。
・栄養療法は長期に及ぶことを説明する。

■服薬指導上の注意
・薬物療法では予測される副作用(肝障害、血液障害、易感染性など)についてよく説明しておく。
・特にステロイド薬を使用する患者では、副作用と服薬状況に注意する。