大腸癌の概要 

大腸癌とはs状結腸よりも深部の結腸癌と直腸癌の総称である。大腸癌は局所にとどまっていれば、外科的に切除して治る。しかし、大腸癌がリンパ節転移や、血行転移をして全身に広がると、治すのは難しくなる。一般に血行の分布から、直腸癌は肺転移しやすく、結腸癌(s状結腸より口側)は肝臓に転移しやすい。2004年現在、大腸癌を完治できる内科的治療法は未だ開発されていない。したがって、大腸癌の早期発見が治療の最も重要なポイントである。

 

大腸癌の疫学

大腸癌による年間死亡者数は、今から30年前の1975年には約5000人のみであったが、1980年には約10000人、1985年には約20000人、1990年には約36000人と急激に増加してきた。この増加は主に結腸癌の増加による。直腸癌はほぼ横這いである。この結腸癌死亡者数の急激な増加は、食生活の欧米化、特に脂肪摂取の増加と食物繊維の摂取量の低下が原因といわれている。

日本では1990年ごろから、免疫学的便潜血反応による大腸癌検診が大規模におこなわれた。大腸内視鏡による前癌病変であるポリープ切除が全国でおこなわれるようになって、年間死亡者数の増加傾向は抑制された。ちなみに、平成13年(2001年)の大腸癌死亡者数は36947人であった(厚生労働省死因統計より)。

大腸癌罹患年齢は、先天的な遺伝子障害の若年発症を除けば、35歳ぐらいから始まる。50歳代後半から高い罹患率となり、高齢者ほど大腸癌罹患率が高い。

大腸癌のハイリスクは、家族歴、アルコール多飲、高脂血症、低残渣食、糖尿病である。

 

大腸癌の本態

遺伝子の損傷による突然変異やメチル化による機能障害の積み重ねにより、細胞が癌化する。癌化の際に、障害を受けるものとしてAPC、β-cateninK-rasp53Smad2,3&4、などが知られている。障害には、遺伝的な素因と環境因子の両方が関与する。

 

大腸ポリープと大腸癌の関係

ポリープとは、本来形態をあらわす用語であり、隆起しているものという原義である。大腸にある隆起しているものはすべて、大腸ポリープと呼んでよい。大腸ポリープは、十数種類の病変から成り立っているが、そのうち、大腸癌の前がん病変として考えられているものは、大腸腺腫である。大腸腺腫とは、大腸癌になるために必要な遺伝子の異常のうち、いくつかのものが異常を起こして発生することが知られている。そして、残りの遺伝子がさらに異常を起こしたとき癌化する。癌に関する遺伝子異常の研究が進んで、以前は癌と無関係と考えられていた、過形成結節や過形成ポリープの一部にも、癌発生と関連した遺伝子異常が見つかってきた。

陥凹型大腸癌、陥凹型大腸腫瘍、陥凹型大腸腺腫

1980年代のはじめごろまでは、大腸癌は基本的に隆起しているというのが常識であった。そのため、洞窟のイドラのせいか、隆起していない癌はほとんど見つけられていなかった。見つかっても学会報告になるくらい珍しいものと思われていた。しかし、1980年代の終わりにかけて、工藤進英と田淵正文が隆起していない平坦陥凹型の癌や腫瘍を多数見つけて、常識が一変した。1980年代末、工藤進英は陥凹型腫瘍がすべて癌であり、陥凹型大腸癌こそde-novo癌の本態と主張し、田淵正文は陥凹型腫瘍のなかにも多数の良性腫瘍があり陥凹型腫瘍も異型度のピラミッド構造を持つことから陥凹型大腸癌もadenoma-carcinoma sequence理論に従うと主張し、対立した。その対立の本質は、病理学者の大腸癌の病理診断基準の対立・論争であったが、その後の症例の蓄積や腫瘍の遺伝子異常の解析により、今では陥凹型腫瘍はすべて癌ではなく、腺腫もあるという結論になっている。
 ただし、陥凹型腫瘍はK-ras異常陰性であり、遺伝子異常の進展が隆起型腫瘍とは異なることが、藤盛孝博・田淵正文らの共同研究により解明されている。すなわち、陥凹型腫瘍は従来のVogel Steinモデルに従う隆起型大腸腫瘍の癌化とは異なる経路で癌化する。臨床的には、陥凹型大腸癌は隆起型大腸癌に比べて、早期のうちに浸潤・転移する性質を持っており、陥凹型腫瘍が注腸検査や内視鏡検査・便潜血反応で見逃されやすいこととあいまって、陥凹型大腸癌や陥凹型大腸腺腫は臨床診断上のもっとも注意しなければならない病変である。

陥凹型大腸癌の写真例
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約7mm大の陥凹型早期大腸癌の
メチレンブルーによるコントラスト像



上の写真を拡大したもの


メチレンブルーとクリスタルバイオレットによる
二重染色像:

癌に特異的なピットパターンが観察される。


大腸癌の遺伝的原因

 遺伝的な素因としては、APC(家族性大腸腺腫症)やHNPCC(遺伝性非ポリーポージス性大腸癌症候群)などが多い。その他、低頻度のものとして、Turcot症候群、Peutz-Jehger症候群、若年性ポリポージス、Cowden病などが知られている。

 

大腸癌の環境的原因

高脂肪食による二次胆汁酸の増加、リトコール酸による遺伝子障害が指摘されている。

 

大腸癌の予防法(一次予防法)

大腸癌にならないようにするには、ビールは1日500ml以下、日本酒は1合以下(のまないのがベスト)、脂の多い食事を控えて、緑黄色野菜を多くとるように心がける。肉食については賛否両論ある。オードリーヘップバーンは大腸癌で死んだが、菜食主義者でオイリーなドレッシングをかけた野菜サラダを好んだという。

大腸癌は遺伝的要素が強い。肉親に大腸癌や大腸ポリープが出たときは、腕のよい内視鏡医にきちんと大腸を調べてもらうことが、大腸癌で死なないコツである。

大腸癌の自覚症状

血便、腹痛、頑固な便秘や下痢、腫瘤触知、腹水などであるが、血便以外はあまり特異的な症状ではない。下部大腸(直腸やS状結腸)では赤い新鮮な血が、それより奥ではややどす黒い血が出やすい。粘液を産生するタイプの腫瘍では、下痢傾向となる。便が固まる下行結腸以下で癌が全周性に発育して腸管を閉塞するようになると、頑固な便秘になる。一般的には、早期癌は勿論のこと、進行癌でも症状のない場合が多い。腹痛は重い鈍痛として訴えることが多い。大腸癌が原因となって腹痛が起こっている場合は、病期はかなり進行している。腫瘤や腹水を主訴として受診した場合は、根治はほぼ無理である。

大腸癌の検査法

早期発見法(2次予防)

大腸癌早期発見のゴールデンスタンダードは熟練した一流の大腸内視鏡専門医による大腸内視鏡検査である。しかし、検診レベルの予防の方法としては35歳ぐらいから便潜血反応による大腸検査を行うのがよい。陽性が出たときは、大腸内視鏡検査をおこなう。大腸癌に対する免疫学的便潜血反応2回法の陽性的中率は、約5%といわれている。しかし、癌があっても便潜血反応陽性にならないことがあるので(偽陰性率は約30%)、便潜血反応陰性が続いても、50歳前には一度、内視鏡検査をうけることが望ましい。

便潜血反応は、大腸癌のスクリーニング法として、広く用いられている。簡便で費用が安いのが最大の長所であるが、残念ながら精度はあまり高くない。感度と特異度の評価から、2回して一回でも陽性であれば、陽性と判定する2回法が推奨されている。オッズ比は3−4程度である。早期大腸癌について言えば、隆起型大腸癌は陽性に出やすいが、表面型大腸癌や陥凹型大腸癌では陽性になりにくい。

大腸検査としての注腸造影法は、患者にかける負担のわりに診断能が低い。見落としや読みすぎなどの誤診率の高い検査である。小坂樹徳東京大学第3内科教授が1983年に最終の臨床講義で誤診率について発表したが、ワースト1位がこの注腸検査であった。

近年では、熟練した大腸内視鏡専門医のいる施設では、大腸癌や大腸ポリープの存在診断としては、注腸検査より内視鏡検査が先に選ばれる。注腸検査は、大腸癌の手術前に周囲との立体的な位置関係や大きさを知るために手術前に行われることが多い。

 大腸内視鏡検査は、医師による技術差の大きな検査である。一応の目安として、100例以下は初心者レベル。100から1000例以下は研修レベル、1000から10000例以下が並みの専門医レベル、10000例以上が一流の専門医レベルと評価できる。

 

病期診断法 腹部エコー検査、CT検査、MRI検査、PET検査

 

大腸癌の治療法

 

大腸癌の外科的治療法

 

大腸癌肝転移の治療法

 

大腸癌の内視鏡的治療法

 

大腸癌の内科的治療法