<どこまで進んだ待機児ゼロ作戦>2002年12月20日(金)朝日新聞くらし欄より
父母の不安ぬぐう方法は
公立保育園に民営化の動き広がる
保育園への入園希望者が増え続けるなか、財政難に悩む自治体で、公立保育園の民営化を進める動きが広がっている。「コスト削減とサービスの拡大」を自治体側は掲げる。一方、慣れ親しんだ保育士が入れ替わり、環境が激変することへの不安や、コストダウンによる質の低下を懸念する声があがっている。こうした不安をぬぐうには、情報公開と十分な説明、利用者の声を反映できる制度が欠かせない。移管が進む各地の動きを見た。(佐々波幸子)
質問相次ぐ説明会神奈川県相模原市
「民営化後の運営法人が決まりました」
18日夕方、神奈川県相模原市の市立橋本保育園。子どもを迎えに来た父母たちは、市保育課が発行するA4判のニュース「民営化情報第2号」を受け取った。
05年4月、同市で初めて民営化される園の運営を担うのは、東京都で認可保育園を運営している社会福祉法人菊清会(東京)だ。応募のあった13法人から書類選考や面接、保育園の実地審査を経て選ばれた。
同市の待機児童数は452人(4月現在)で、全国で9番目に多い。東京・新宿まで1時間弱という好立地のためマンションの建設が進む。今後数年は待機児は400人前後と推計されている。
市保育課によると、00年度の試算で、公立園の運営にかかる費用は園1カ所の年額平均で、民間の1.34倍、約4700万円高い。違いは主に人件費だ。「同じ保育内容でも、公立は勤続年数の長い保育士が多く、給与水準も比較的高いからだ」と同課はいう。
市は「今後も公立保育園を活性化させる」としたうえで、4カ所で公立園を民営化する方針を打ち出した。3回にわけて説明会を開いたのが、3月半ば。民営化後も子どもを預けることになる0〜2歳児クラスの父母が計55人出席した。
「先生がすべて入れ替わることが一番心配。どの程度、引き継ぎ期間を設けるのか」「民間に変わっても、市が手を引かず、指導してもらえるのか」「公務員でない保育士の質をどう保つのか」
質問が相次いだ。
市側は、@老朽化した築28年の園舎を建て替え、定員粋が150人から180人に増えるA1時間遅い午後8時まで延長保育を実施することなどの利点を挙げた。
土地は市が無償で貸与し、建て替え費用も国や市が4分の3補助する。運営費も補助をするので、父母が払う保育料は変わらないという。
来年度早々、保護者と現在の園の保育士、市、法人で協議の場を設け、民営化後の運営について話し合っていく。
2歳の子どもの父親(30)は協議の場で細かく要望を法人に伝えたい」という。園長に就く予定の「菊清会」の伊藤直樹理事は「保護者の方と十分話し合いながら、基本的にいまの保育を継承していきたい」と話している。
意見ぶつけて議論千葉県八千代市
千葉県八千代市には、全国から50を超す自治体や議会、父母の視察が相次いでいる。市側と父母側は「最初はにらみ合いだった」という。だが、意見をぶつけ合い、「保育の質を守る」という父母の思いを反映させ民営化した「茶々おおわだみなみ保育園」が01年4月にオープンしたからだ。
市が12ある公立園の約半数を民営化する方針を示したのは98年。保護者会と市職労は99年、「民営化は公的責任の放棄で保育内容の低下を招く」と約5万3千人の署名を集め市議会に請願を出したが不採択となった。
一方で「市子育て支援対策検討委員会」に父母も参加し、「職員配置は市の基準に準じる」などの条件に加え、「一人ひとりがどんな時にいい表情だったか、毎日伝えられるようなきめ細かな体制に」など親が望む保育内容を反映した提言書を市長などに出し、法人選びに生かされた。「大切なのは情報公開」と佐々木とく子・同市児童支援課長は振り返る。
園の運営費だけを比べると、民営化で01年度は約6千万円安くなった。民営化された園の職員はほかの公立園に再配置され、低年齢児の定員枠や地域の子育て支援センターが拡充された。
市保育園父母会連絡会の鈴木富夫事務局長(42)は、「話し合いの場に父母が入れたのが大きい。新たな園も好評で、今はプラス面が多く見えるが、今後も保育の質が落ちないよう見ていきたい」と話す。
公的保育担う自治体に責任
保育園を考える親の会代表 普光院亜紀さんの話
保育ニーズが急迫している現在、受け皿を増やすために、公立保育園を民営化していく動きはやむを得ない。
ただ、自治体には、子どもの保育を担っていく公的責任がある。「民間に移管したら、行政の責任はない」というのでは困るし、地域の核として今後も公立保育園は必要だ。年度途中の家庭状況の急変、虐待、不適切な施設からの避難などの緊急の場合や民間では採算の合わない難しい保育を公立には率先して担ってほしい。
経費削減の努力はいるが、質低下につながるので人件費等の礁保のルール作りが必要だ。
◆公立保育園の民営化
民営化する方法には、建物の所有は公のまま運営主体が民間となる「公設民営」と、土地建物を貸与または譲渡して、運営主体も民間に移行する「民間移管」がある。国は01年に児童福祉法を改正して自治体に民営化を促した。
厚生労働省の8月現在の調べでは、公設民営方式で新設された園を含め、民営化された園は01年は41カ所、02年は64カ所、03年以降は51カ所が予定されている。