世界の潮流とNGOの動き 第6回
開発協力をめぐる自治体とNPOの協働関係について
〜地方自治体が開発協力に本格的に取り組むべき時が来た〜
長坂寿久(正会員、拓殖大学国際開発学部教授)

1.はじめに

イラクで人質となった日本人に対し罵詈雑言が投げかけられ、しかも若者は海外などいくべきでなく、日本国内でやるべきことがあるはずだとか、果てはボランティアに資格制度を導入すべきだとかいった無茶苦茶な意見がメディアのコメンテーターの口から出てくると、日本のコメンテーターに国際感覚が全くないのだと気付く。

この国際感覚の不在を打破するには、やはり日本各地のコミュニティで地域の老若男女を開発協力に関わっていただくことを通じて、日本を変えていく以外にないのではないかと思えてくる。

そうした観点からだけではないが、地方自治体が開発協力へ取り組むことの意義はますます大きくなっている。開発途上国では、都市化の急速な進展によるスラム化やグローバル化にともなう貧困の増大のみならず、エイズなど感染症の拡大による医療や子どもの教育などが大きな問題となっている。また開発途上国のコミュニティが抱える問題も複雑化し、困難になっている。そこで、医療、教育、水などの地域サービスの向上やコミュニティの自立支援のために、先進国の地方自治体の経営経験、ノウハウと技術、人を交流していくことがますます重要であるとの認識が高まっている。

そこで、今回は、先進国の地方自治体の開発協力の意義、あり方、仕組み、そしてその歴史等について紹介することにしよう。
  

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2.地方自治体の開発協力への取り組みへ向けて

(1)国際会議――ケルン憲章からベルリン憲章へ

地方自治体が開発協力に取り組むべきことを問題意識とした最初の国際会議は、1985年にケルン(ドイツ)で開催された「タウン・アンド・デベロップメント」(Town and Development)会議(都市と開発に関する欧州会議)である。この会議では、地方自治体とNGOが南北関係へ強く取り組むよう「慈善から正義へ」をモットーとする「ケルン憲章」が採択された。この憲章ではじめて、自治体の開発協力コンセプトとしての「CDI」(Community based Development Initiatives/地域社会を基盤とした開発へのイニシアチブ=地域主体型開発協力)という言葉が使われた。この会議を契機に、自治体の開発協力を推進する国際ネットワーク組織「タウン・アンド・デベロップメント(以下T&D)」が設立された。

次いで、地方自治体の開発協力に対し明確なインパクトと理念を与えたのは、1992年10月14〜17日にドイツのベルリンで開催された「T&D」主催の「持続可能な (サステイナブル) 地方自治体イニシアチブ国際南北会議」で採択された「ベルリン憲章」である。この憲章ではケルン会議で提示された「CDI」が自治体の開発協力コンセプトとして本格的に認知され、位置づけられることになった。CDIは「相互依存と自立の精神に基づく南北・東西の地域社会の協力」を促進するもので、NGOと自治体が協働して行う「地域主体型開発協力」で、南北双方の人々の対等な協力、参加、学び合いによって、貧困、人口、疾病などの地球的諸問題を地域から解決し、公正で持続可能な地球社会の実現を目指すものとして位置づけられた。

ベルリン憲章は、以後の世界の自治体の開発政策に大きな影響を与え、国際的な運動となっていった。地域の市民によるグループ、地域の代表機関である自治体、そして地域に根付きつつ国際的な開発協力に取り組んでいるNGOが、開発途上国の人々・地域と対等なパートナーシップのもとに協力・連帯して取り組んでいく開発協力運動となった。

このベルリン会議の成果を分析した『Towards a Global Village』(マイケル・シューマン著、1994年、注3)は、「グローバル・ビレッジ」という言葉と共に、当時国際的なベストセラーとなり、地域の国際協力の基本的文献となった。

地方自治体を開発協力に導くことになったこの「T&D」という組織は、85年のケルン会議後に正式にできた組織であるが、この結成にはオランダが有力な一翼を担ってきた。 オランダ国内のNGOや自治体の開発協力を支援し、開発教育活動を行ってきた中心的機関として、NCO(全国開発教育委員会)である。 NCOはすでに80年には自治体の開発協力への取り組みを促進するための活動を本格的に開始しており、自治体への啓蒙運動を行ってきた。

上述のケルン会議もこのオランダのNCOが中核となって国際会議を開催したものである。ケルン会議以降、88年にはニカラグア(ラテンアメリカ)と連帯している欧州 150の地方自治体がアムステルダムに集まって米ソに対し中米への軍事不介入について訴える会議を開催したり、90年にはジンバブエ(南部アフリカ)のブラワヨで「開発のための提携に関する国際会議」が開催され、南北提携によって市民参加システムを構築していくことの意義が強調された。

さらに91年には、チェコのプラハで東西の自治体の協力関係についての会議が開催され、同年インドのセバグラムでも地域の開発協力会議が開催されるなど、各地で自治体の開発協力への取り組みに関する会議が開催されるようになっていった。そして、こうした経験と交流を踏まえて、1992年に、コロンブスのアメリカ "発見"500年の年に、ベルリンで南北東西の自治体が一堂に会し、新しい理念を確認しあったのである。

92年には、ブラジルのリオデジャイロで地球サミット(環境と開発国連会議)が開催され、「アジェンダ21」を採択した。その中の「ローカル・アジェンダ21」が、その後の自治体の環境問題への取り組みに大きな影響を与えた。

自治体の開発協力理念として、CDIが定着するようになったが、95年9月3日から7日の5日間、オランダのハーグでIULA(国際地方自治体連合)の第32回世界大会が開催され、そこで新しい自治体の国際協力のコンセプトとして「自治体の国際協力」(MIC/Municipal International Cooperation)が提示された。この会議には100 を越える国々から1500人以上が参加した(筆者も参加)。この会議を通じて、地方自治体の開発(国際)協力は、やっと本格的に国際的に認知されるようになったと言っていいであろう。

(2)オランダの自治体の取り組み

参考までに、この世界の自治体の開発協力への取り組みを先導してきた、オランダにおける自治体の開発協力への取り組みの歴史を書いておこう。

オランダは自治体による開発協力への取り組みの中核となる組織が1970年に設立されたNCO(全国開発教育委員会)であり、その中心人物が同委員会委員長(当時)のファン・トンヘレン氏であった。彼はNCOの代表として、80年代にオランダの自治体の開発協力への取り組みを推進し、かつ世界の自治体の運動へと展開した。

オランダの地方自治体の開発協力への取り組みの経過を次のようなものであった。
1969年、国連の第2回開発協力会議の決議 (国連開発の10年決議) には、「政府は国際協力への情報・教育を促進する活動を行うべき」という政府への諮問が含まれていた。この決議を踏まえた組織として、オランダ政府はNCOを設立した。オランダはこの国連決議の諮問に最初に忠実に従った国となった。NCOの設立が自治体の開発協力への参加を、オランダでとくに進展させ、世界に波及させていく役割を担うことになった。

オランダではすでに60年代後半頃から自治体による開発協力のケースが見られたが、1972年まで地方自治体が開発協力に関わることを政府は公式には禁止してきた。しかし、議会は72年に次の二つの条件をつけて地方自治体の開発協力への参加を許可した。
 1) 地域社会住民が直接的に参加するものであること。
 2) 国の外交政策に干渉しないこと。

さらに政府は1976年に法律を改正し、公式に自治体の開発協力への参入を認め、その際再度上記の@の条件である「開発協力には地方自治体の住民からの具体的アクションがともなうべきものであること」を求めた。つまりオランダの自治体の開発協力のカギはコミュニティ参加(CDI)にあると、この時定義されたのである。

以後これを受けて、1970年代にはすでに多くのオランダの地方自治体は開発協力活動を始めていた。プログラム・リンク、地方の民間イニシアチブへの財政支援、姉妹都市、第三世界フレンドリー製品の購入(フェアトレード)や情報提供活動等々である。
またオランダの各自治体は政府方針に従い、注意深く地域NGO を支援するかたちで国際的な開発協力に取り組んできたが、しかしもう一つの条件である政府の外交政策との関係に対しては、ニカラグア連帯運動などにみられるように、時には意識的にロビー活動やアピール等の採択によって実質的に政治的影響力を発揮してきたこともある。

NCOが自治体の開発協力への取り組みを促進する活動を本格的に始めたのは1980年であった。当初は、オランダの地方自治体の連合体であるVNG(オランダ地方自治体協会) は関心を持っていなかった。自治体が開発協力に取り組むに至る典型的ケースとしては、アムステルダム市とニカラグアのマナグア市の提携のように、地域のNGO が市役所へ書類を提出し、市役所がそれを取り上げ、市議会が採択し、市長がイニシアチブをとるという形で波及していく形態が中心であった。

1985年にNCOとVNGが共催で自治体の開発協力に関する全国会議を開催した。これには 400人の参加者と30の市長が参加、大成功を収めた。この会議後、VNGは手さぐりながら自治体の開発協力問題に取り組みを始め、87年に臨時の開発協力担当者の設置、自治体の開発協力問題に関する本の発行、年次総会での開発協力問題の討議、関係機関との定期協議の開催等を行い、80年末にこれまでの活動を評価し、開発協力をVNGの正式業務とすることを決定、フルタイム職員の設定、開発協力プロジェクトの導入などを行っていった。

以後はVNGも自治体の開発協力への取り組みを重要活動として展開するようになり、現在ではオランダでは3分の2以上の自治体が開発協力に関わるに至っている。しかし、こうした急速な拡大は、オランダでも90年代に入ってからのことである。
  

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3.自治体による開発協力の意義

では、何故、自治体は開発協力に取り組む必要があるのか。その意義について整理して置きたい。

地方自治体の開発協力のコンセプトは、前記のように「CDI」(Community based Development Initiatives/地域社会を基盤とした開発へのイニシアチブ)や、「MIC」(Municipal International Cooperation) といった言葉などで表現されているが、内容的に大きな違いがあるわけではない。しかし、MICは自治体主導のコンセプトの感じを与えるため、自治体側で用いられる場合が多いが、CDIはコミュニティをベースとした開発という点で、市民主導のコンセプトの感じを与えるためNGO側ではこの言葉が使われていることが多い。

(1)民主主義の樹立と安定に貢献する
――自治体の開発協力は地域民主主義の条件を満たすことが重要であり、そこに特質がある。民主主義の育成は地域住民の参加と意識向上による地域自治によって真に達成される。民主主義の達成には自治体レベルでの民主主義の達成が重要である。

(2)人権の尊重に貢献する
――CDI(MIC)は、開発教育に役立つ。地方自治体の開発協力は地域住民の参加(NGO) を得て行われる。自治体の活動はコミュニティ全体の広範な参加に重点が置かれ、地方の人々(一般大衆)を中心とする活動を行うので、人々の人間としての意識を高め、人権尊重意識の向上につながり、正当な権利行使の力を強化する。

(3)市民参加と市民意識の高揚 (開発教育)
――自治体の開発協力は市民の参加を主体としている点に意義がある。都市と地域社会の人々は、世界の一部だという認識 (国際感覚) ができる。

(4)地域分散化・分権化的協力
――地域への権限委譲を促進し、地方分散/ 分権化を促進する協力 (デセントライズド・コオポレーション) が重要である。自治体の開発協力は、自治体の十分な自立、独立を認識し合うことに意義がある。官僚的であってはならない。

(5)自治体の知識と専門性による協力 (自治体資源の活用)
――自治体は行政ノウハウと専門技術を総合的に備えている。自治体は組織が細分化し、かつ総合的であるという性格を備えているため、専門分野を横断したアプローチを選択できる。自治体の幅広い技術や専門家を自由に使い、それらを提供することは実に容易なことであり、実際的なやり方である。

(6)政府の開発協力政策を補助する
――CDI(MIC)は政府の開発協力政策を補助し、促進する。地方自治体は国民に最も近いところにあり、国民の声を最も早く反映し、理解でき、実行できる立場にあり、地方自治体をこうした開発協力システムに組み入れることにより、相互の住民にとってより良い、より役に立つ実質的な成果の達成への行政が可能となる。従って、開発協力の行政システムとして地方自治体を巻き込むことは中央政府にとっても有効である。

(7)小規模かつ多様なきめ細かい協力が可能
 ――自治体の開発協力は、単純で小規模で行えることに特色がある。それ故にきめ細かい、小回りのきく協力プロジェクトが可能となる。自治体の場合、具体的な短期的かつ小規模な部分から取りかかり、それと平行して大規模かつ長期的部分にとりかかる準備を開始できる。例えば下水道プロジェクトの準備のために、まずトイレ作りから取りかかることができる。その他公衆衛生、下水処理、水道整備、清掃など小規模な技術協力は短期間で目に見える成果を生み、その多くは成功事例となっている。

また、地方自治体の開発協力は、まず姉妹都市型の文化・社会・スポーツ交流やプロジェクト支援が圧倒的に多い。日本もこの型(とくに前者のみに集中しているケースが多い)に止まっている。これに対しオランダの都市の場合は後者のプロジェクト支援型からスタートするケースが多い。

CDI(MIC)はこれに留まらず、さらに開発教育、技術協力、環境問題、人道政策、住宅政策、地域開発、都市輸送、土地と水の管理、自治体の財政、人事管理等々、広範なきめ細かい開発協力への取り組みを行いうることを意味する。
また開発協力への取り組みの仕方も、市役所は行政的な体系的アプローチを行う一方、地域NGOは地域社会で第三世界ショップ(フェアトレード)、特別集会、学校のカリキュラム、チラシ、展覧会、ワンワールドウィークの活動、国別催しの開催等々、市民密着型の方法で活動を行う。こうしたきめ細かい協力により、人権尊重等の意識の向上や自治体行政能力の向上のみならず、経済関係の密接化にも貢献する。

(8)持続性と安定性と人的親密性が可能
 ――開発協力プロジェクトで働く担当者や支援者の顔ぶれの変化によって起こる情報やプロジェクトの熱意への非継続性は、自治体が提携することによって持続的かつ安定的なものにすることが可能となる。実施主体が自治体であることにより、相互の人的親しみが深まり、継続性とともに人的交流に強く繋がる。

(9)多角的都市協力 (トライラテラル協力)
  ――自治体の開発協力においては、他の先進国都市との協力関係の樹立は非常に有益である。大型のプロジェクトの場合には、1都市による実施は困難な場合でも、他都市との共同により実施すれば、専門技術者の拠出や資金の拠出などが可能となり、連携の意義は大きい。
  

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4.地方自治体の開発協力の仕組み

地方自治体は開発協力へ取り組むに当たって、どのような仕組み(システム)をつくり上げているだろうか。オランダのケース研究からは、次のように整理できる。

(1)政府および中央組織での仕組みについて

 1) 政府は自治体の開発協力活動を資金的にも支援すること――NCO(開発教育委員会)はオランダの開発教育を促進するための資金供与機関として、政府から開発予算を得ている。この中からNCOは自治体の開発協力を促進するためのプロジェクトに資金供与しており、政府はそれを支援している。

 2) 自治体は開発協力の促進のための組織を設立し、体系的な支援・サービス活動を行うこと――自治体の開発協力促進組織としては、オランダの場合NCOとVNG(オランダ自治体協会)がある。これらの活動にも政府資金が提供されている。これら支援組織が行っている活動は、資金援助、情報提供、会議の開催、調査活動、資料作成、促進プロジェクトへの資金援助等である。自治体議員や職員への意識高揚のための研修コースの主催、地域 NGOの計画先導、カウンセリング等であり、VNGは具体的な研修プロジェクト (相手国自治体の職員研修制度の実施、自治体派遣プロジェクトの支援) を行っている。

 3) 地域に開発教育センターを設置すること――地域における開発教育・情報提供サービス機関を設置し(オランダのCOS=全国約20カ所に開発教育センター的役割として設置されている)、市民、NGO 、自治体、学校、生徒等の開発協力への取り組みを最前線で支援・アドバイス・協力するサービスネットワークを敷くこと。
                         
(2)自治体(市町村)での仕組みについて

各自治体は開発協力に取り組むシステム作りを行っている。開発協力に取り組む地域社会のNGO活動を自治体議会が合法化し、NGOと市議会議員と市役所とのパイプをシステムとして設立し、またこれを精神的・財政的に支援する仕組みと予算体系をつくり、そして市役所の任務としてこれに組み込んでいる。これによってこれら開発協力活動は持続性と安定性が保証されることになる。
自治体のシステムとしては、次のように整理できよう。

 1) 市の政策計画に開発協力に関する項目を挿入 (市として開発協力を公認する)
 2) 議会での討議のための討議資料の作成、政策案の作成(これら資料を作成するために NGOの動員 (委員会設置)を図り、市役所内に専門部署を設置する)
 3) 自治体議員と地域NGOとの協力を奨励するための仕組みを設置 (政党、 NGO、議員を含めた市とNGOとの協議会の設置)
 4) 活動責任者として市長や助役の任命、担当部署と担当者の設置
 5) 市役所とコミュニティ・グループの協働基盤の設立 (開発協力のための自治体議会の開設、開発協力のための協議会や委員会の設置)
 6) 開発協力に関する特別予算の計上 (予算として市民一人当たり1 ギルダーを計上している市町村は100 以上に上る)

(3)国際的な仕組みについて

自治体の開発協力支援の国際組織と密接な関係をもつことが重要である。「T&D」 や「IULA」との関係・連携を密接にとり、これらの国際会議に積極的に参加する。とくにオランダの場合はこれら自治体開発協力の国際組織の本部をハーグに設置し、責任と役割の認識を身近にしている。

(4)開発協力活動の具体的内容について

自治体の開発協力活動として、どのような活動を行っているのか、オランダのケースを少し整理してみよう 。

 1) 情報提供・普及活動――第三世界の人々についての情報、地域の人々の支持をうるための普及活動 (会合、パネル討議、第三世界の音楽コンサート、公演、映画上映、新聞・テレビ等のメディアによる情報の広がり、募金と結びついた情報の提供、第三世界商品の販売など)

 2) 教育活動――義務教育や高等教育、成人教育の手段として、授業の提供、講義、ワークショップの開設など。

 3) プロジェクト活動――途上国のプロジェクト支援、自治体が姉妹都市提携等により長期的関係を樹立する。コミュニティやNGOの協力を得て獲得した資金の有効活用など。

 4) 姉妹都市活動――学校、女性グループ、労働組合、教会、自治体、スポーツマン、音楽家などの間で多様な交流リンケージを形成する。市場、フェスティバル、特別週間などの設定。開発途上国の言語、文化の紹介等々。

 5) プロジェクト支援 (技術・マネジメント支援)――姉妹都市間で特別のプロジェクトを設定する。プロジェクトの設定は対等をベースとする。姉妹都市やプロジェクト提携の枠組みの中で、オランダの自治体は技術・マネジメント支援を行っている。知識と経験の交流で、開発途上国の自治体の向上に貢献する。例えば、地域の交通、飲料水、都市の衛生などの点で多くの協力ができる。第三世界の現地の自治体へのアドバイスをはじめ、解決策を提供する。

 6) 経済活動――開発途上国の経済発展を支援する活動。連帯ブランドのコーヒー(フェアトレード)など、開発途上国の産品の輸入努力など。

 7) キャンペーン/ロビー活動――地域のNGOの経験を地元の自治体へキャンペーンし、さらにそれを中央政府に政治的に波及させていく活動。
  

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5.むすび――日本への意味

日本の自治体も、90年代に半ばまでは開発協力には取り組む姿勢を見せたこともあった。しかし、バブル経済崩壊後は必ずしもそれらがあまり語られなくなった感もある。これまでの日本の姉妹都市は、「地域の国際化」がキーワードであった。それは自分たちが、いかに国際化を感じあるいは学ぶかということであり、そのためには当然先進国都市との提携が前提となってきた。開発途上国都市との提携は、中国のみが例外的に多くの自治体で促進されてきたが、必ずしもまだ多くはない。
つまり、日本の姉妹提携は日本側がいかに姉妹提携プログラムから恩恵を受けるかという、一方的な受益の発想が前提となっていたきらいがあった。だから国際交流と称してもその中身は文化交流が中心であり、それ以上のものではなかった。つまり、姉妹都市提携による自己利益を前提として考えており、相手都市のために何ができるかは二の次となってきた。とくにバブル時代には、姉妹都市とは、日本の自治体にとっては、「国際化」という言葉を飾りたてる勲章程度のものであり、お祭りであり、理念など考えてもみなかったといえるのかもしれない。

バブル後も自治体の開発協力概念が定着してきたわけでもないが、しかし静かに行われてきた面もある。とくに、日本ではNPO法の導入と共に、地域のNPOが開発途上国との協力関係に取り組むケースが増えてきていることは確かである。

ちなみに、日本には、自治体の国際交流を促進する団体として、NPO(特定非営利活動法人)地域国際活動研究センター(CCDI=Center for Community-based Development Initiatives)や、地域の国際協力推進会議(CDI−JAPAN)などがある。

しかし、PARC(アジア太平洋資料センター)の資料によれば、「日本の自治体の約3分1の1000以上の自治体が海外の都市と姉妹都市関係を結んでいる」。しかし、「国際政策事業費の実に70%以上を姉妹都市交流のような交流関係費が占め、開発援助・国際協力費は5%に満たない」状況にある。しかも、「青年海外協力隊への自治体職員の派遣や研修生受入れ、専門家派遣といったJICA(国際協力機構)事業への参加という、中央政府主導により行われており、自治体独自の開発協力の例は極めて少ない」状況にある。まして、日本の自治体の国際理解、開発協力活動には、「日本の地域社会で生活を営み、多様な文化を形成している在住外国人市民の存在がしっかりと認識されていない」状況にある。

日本の経済(生存)実態は、相互依存の中にある。まさにグローバリゼーションの恩恵によって日本の経済安全保障は支えられている。地球市民意識が日本ほど必要な国はないのである。しかし、市民活動の原点である地域自治体において、国際協力・開発協力への取り組みは他の先進国に比べきわめて遅れている。

日本のこうした現状は、まず第1に地方自治法の欠陥からきている。地方自治法では、自治体の統治や仕事の中には、「国際交流・協力、在住外国人サービスが含まれておらず」(PARC資料)、これらの活動やサービスに対する法的裏付けがないため、国の交付金の使用をはじめ、独自のODA予算などの計上や独自プロジェクトの実施を難しくしている。オランダのケースから見られるように、地方自治体の開発協力活動の促進に対して、政府からの補助金の供与や、ODA予算の配布などは重要な役割を担っている。

第2には日本の場合、開発教育への取り組みがまず必要となっている。新しいODA大綱で挿入された「開発教育」の必要性はまず、地域のNPOと、自治体・学校との協力をベースに進められていくべきであろう。

そして、第3に各自治体では、地域のNPOと市議会・市役所が連携した開発協力・開発教育への取組みへの仕組みづくりがしっかりと行われ、位置づけられる必要がある。
  

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[主な参考資料]
・各関係機関、主要市へのインタビューの他に、資料としては主に以下のもの。
1.International Municipal Development Cooperation and Business, A Survey in
the Netherlands, The USA, and Canada, by Olivia E. Boyce, study for VNG,1994
2.Community-Based Development Initiatives in the Netherlands,
by Paul van Tongeren,1992(Berlin Conference Paper)
3.Towards a Global Village――International Community Development Initiatives,
by Michael Shuman, Pluto Press,1994
4.Local Challenge to Global Change,IULA,1995.その他IULA1995年世界大会資料。
5.その他、 ベルリン憲章(Berlin Charter), ケルン憲章、Netherlands  Municipalities and Development Cooperation, VNG資料、等
6.アジア太平洋資料センター(PARC)の「ODA改革に向けてのNGOからの提言」1999年10月
  

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