協働のデザイン 第8回 自立した地域づくりのチャンス
            〜地域自治組織を活用する飯田市の事例から
世古一穂(代表理事)
1.地域自治組織の活用に取り組む飯田市

地域自治組織の法人化タイプの活用による地域づくりの可能性を前号で述べたが、その制度が一般制度ではなく合併特例区という時限的なものになってしまったためにその活用にふみきろうとする自治体がなかなかあらわれないが、長野県飯田市は、個性豊かで活力ある地域を築く契機にしようと地域自治組織づくりに積極的に取り組んでいる自治体である。

先日「地域自治政府構想」を掲げ、地域自治組織活用の先鋒となって活躍している飯田市の企画課長の平澤和人さんに会い、飯田市での地域自治組織活用の状況をうかがった。

長野県南部の飯田・下伊那地域は、南アルプスと中央アルプスに囲まれた地域で、その面積は香川県より広大で、かつ険しい地形で千人未満の5村を含む1市3町14村の人口は18万人弱というという地域である。

平澤さんは「私たちは厳しい条件の中で、各地域の多様性を生かしながら、ゆるやかな統合を目指した地域自治政府構想を提案した。」ただし、18市町村の合併は近い将来には実現しそうにないため、飯田市は現在2村その合併教義を進めようとしている状況だ。
現在すすめようとしている合併に関しては、旧村が法人格をもった自治組織となることを前提に、住民主体のまちづくりをどのように進めて行くかを議論しているという。

「次の段階としては、現在の市の各地でも、過去に合併した旧町村単位に『地域内分権』をすすめ、住民自治の確立をめざそうとしている」「例えば生涯学習、福祉バスの運営、公共施設の簡易な維持補修など、地域でできることは自治組織の自由な判断と責任で行うことにより、地域の可能性を引き出していくことが肥大化した行政のスリム化にもつながる」

「事業計画に基づき負担金徴収も可能であり、住民に負担とサービスの関係が見えやすいことは、地域運営に関心が高まるなど、法人格タイプのものは様々な有効性、可能性がある」と筆者が前号で「地域自治組織は使える!」と書いた趣旨そのものの心強い自治体の現場からの発言だ。

また、こうした構想は合併特例区といった枠組みで、「5年間というしばりをもうけては実現は難しい」という意見も筆者と同様である。
   

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2.飯田市が提唱している地域自治政府構想について

飯田市を中心とした南信州広域連合では平成14年12月に「飯田・下伊那がひとつになったら」というタイトルで変革期における市町村のあり方研究会のまとめを出している。

これは、一郡一市の自治体運営の姿を仮に平成16年までに合併をし、その16年後平成32年度、2020年度を想定して構想するという長期的な視点をもったものである。

(1)新たな自治の仕組みの提示
同構想では、新たな自治のしくみとして地域内分権の必要性をうたい、地域自治政府の姿を描き出しているのが特長だ。
この地域自治政府の考え方は前回のメルマガで筆者が紹介した、地域自治組織が法人格を持つタイプと根本的な考え方は共通するものだ。

同構想では地域自治政府の運営原則として以下整理して提示している。
 1) 地域自治組織は、地域の自主的な選択による創設・解散を基本とする。
 2) 当該地域の住民は、自動的に地域自治政府の住民となる。
 3) 地域自治政府は基本的に、おおむね旧町村単位に設置する。
 4) 決定機関は、代議制を採用した「地域委員会」(いわばミニ議会)を設置する。決定については、多数決原理を摘要する。
 5) 地域委員会の委員は、住民の直接選挙により選出することとする。
 6) 委員の定数は、基本的に当該地区の人口に応じて、数名から十数名程度の定数を条例で定める。
 7) 地域自治政府の事務局は、事務執行の効率性を考慮し、その地域の行政機関(支所)がかねることが適当である。
 8) 地域自治政府の権能は、市の条例で定めることになる。具体的には、サービスの提供などの給付的事務、財産管理、市全体の土地利用計画の下での地区計画などの事務を原則とする。
 9) 地域自治政府の立法機能は、今回想定していない。
10) 地域自治政府の財政は、市からの一定の基準に基づく財源配分を原則としている。
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3.市民自治を主体にした自治体運営にむけて

地方分権がすすむ今後においては、従来のような国、都道府県に依存した市町村のあり方、しくみでは対応できない状況になる。

分権の考え方については従来の国、都道府県、市町村、といった垂直分権ではなく、地域分権、国、都道府県からの分権の担い手として地域分権という考え方をすること、つまり、地域の分権の担い手として地方自治体+その地域の市民活動団体が協働するという、水平分権の考え方をもつことが必要だ。

その視点から考えれば、地域自治組織(法人格タイプ)を活用することはまさに水平分権を実態化するもの、住民の自治活動を自治体の協働のパートナーとして位置づけ、市町村における地域づくりの担い手づくりにつながる制度と考えてられるのではないだろうか。

平成の大合併が進行中だが、国土の7割を占める中山間地域の暮らしや歴史、文化を大切にしていくことと経済効率優先の合併議論が相反するものになりがちだ。しかし、中山間地域の実態、人々の思いを大事にした上で、地方分権の進展のための合併をすすめるという本旨にたって考えてみると、法人格を有する地域自治組織をもっと積極的に活用した地域づくりの可能性にチャレンジしてみることが必要なのではないだろうか。

地域自治組織は勿論、地域の住民ニーズにすべて対応しようというもの、万能のものではない。住民の意見を反映した各地域の特色づくりに活用できることがポイントである。

市民と行政がどのような役割と責任を分担し、協働で地域づくりをしていくかのきっかけづくりの一つでもある。

行政区タイプ、法人格タイプの地域自治組織、それぞれの特性を積極的に活用して地域づくりをすすめようと飯田市の今後のとりくみに注目していきたい。
   

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