協働コーディネーター養成講座修了者の活躍する現場から 
第2回 NPO法人まちづくりネットワーク京都「アジアの中の京都」プロジェクト
〜その2 「第二回例会「粟田口善法の茶」」
西村 毅(監事、NPO法人まちづくりネットワーク京都代表理事)

特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは協働コーディネーターを養成する、協働コーディネーター養成講座を開催してきました。その成果として、協働コーディネーターとして各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、協働コーディネーターとして活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。

第2回は、前回に引き続きNPO法人まちづくりネットワーク京都の取組みとして、「アジアの中の京都」プロジェクトとその中での協働コーディネーターの役割等を紹介していきます。
  

1.プロジェクトの目的

京都文化は皇室をはじめ武家、芸道の家元、数寄者、旦那衆、近代では財閥といった文化の担い手(ある意味ではパトロンとして存在)が厳しい目を持って職人に最高のものをつくらせることで発展してきた。しかし近年そうした存在が少なくなったため高度に発展してきた文化はその担い手を失いつつある。そこで京都の文化を作り手の当主が語り、参加者が体験を通して楽しさを味わい、その楽しさすごさを口コミで広げていくことで多数の京都文化ファンをつくり、次代の日本文化のサポーターをつくっていくことを目的とする。

なおNPO法人まちづくりネットワーク京都・「アジアの中の京都」プロジェクトについては前号を参照いただきたい。
  

第二回例会「粟田口善法の茶」報告

日 時 2003年9月6日 17:00〜18:00呈茶 18:00〜講演・見学
会 場 大西清右衛門美術館
参加者 亭主・講師 釜師 十六代 大西清右衛門(会員)
点前・運び 京漆器「象彦」副社長 西村毅(代表理事)
東京大学大学院学生 濱崎加奈子
住まいの工房 松井薫(会員)
姫路市役所 吉岡氏 ほか
「粟田口善法」とは
都粟田口に、囲炉裏ひとつという草庵に住み、客をもてなすにあたっては囲炉裏に懸かった釜で飯を炊き、そのごその釜を清めて茶を点ててもてなしたという、侘びた風情の極致ともいえる伝説の茶人。利休の茶とは対極ながら江戸時代には大変評価されたことから、日本人の美意識を味わうひとつの教材として善法の茶を選択した。
  
進行
呈茶
午後5時、客は美術館内の茶室に席入りした。席中には明治期の大西家の手取り釜が懸けられている。客が席につくと亭主はすぐに懐から釜敷を出し、釜を風炉からおろすと、半東から渡されたヘギに釜の飯を盛った。香のものと飯が全員にいきわたると亭主は釜を清めるため水屋に釜を持って戻った。
客は事前の説明がなかったため、ただ驚くばかりであった。釜に湯をはり、煮えがついたころ茶の点前が始まった。ここで初めて亭主から粟田口善法の茶についての解説があり、今回の趣向に感じ入った。
  
美術館見学
大西家歴代の作品や道具類の展示、ビデオによる工程の解説を受け、すべての工程をひとりで進める茶釜製作の奥深さを学んだ。
  
工房見学
すでに作業を終え、ひっそりとした工房だが、それまで火を使っていたところには熱が残っており、そこここに製作途中の釜や失敗して隅に置かれている釜、さまざまな道具があった。それぞれのものについての解説を聞き、職人としてのこだわりを感じた。
  
講演
美術館内の広間において「アジアの中の京都」について、特に鉄器について、アジアからの影響や時代ごとの鉄器の製法など多岐にわたって話をうかがった。
  
第二回例会を経て浮上した課題
京都の職人は厳しい客の要望に対し最高峰の技術をもって応え、納得のいく品をつり出すことが仕事であり、客が文化を知らないということは想定していない。そのため文化の語り部・創造者は客そのものであって、職人が語るものではないという意識を持っている。今回は講師を引き受けていただけたが、今後職人だけでなく商家においても講師依頼をする際は、見せてもらう、教えてもらうだけの物産展のような安易な企画ではなく、参加者と講師の今後の発展が期待できる企画をしっかり練る必要を実感した。
  
番外報告:例会開催までの経緯
背景
この5年来(ひとによっては15年以上)、数人の伝統産業商家の当主がそれぞれに京都文化の語り部としての活動を企業の宣伝の枠を超えて行なう動きが出てきていた。いずれのメンバーも、本物の文化を伝えることにミッションを持っており、単なる物産展的な文化紹介ではなく、本物の京都文化に触れる機会の提供を企画・実施していた。それらは単独で行われており、協働することでもっと幅広い活動にしようという機運が高まっていった。
  
協働事業の試行
それぞれの企業等が実施しているプログラムにオブザーブし、ノウハウを研究する。あるいはミニ催事の形で協働のスタイルを模索した。
例)アメリカにおける香道のワークショップにおいて漆器の解説の時間を入れる京菓子の制作実演を器の展示のなかで行い、菓子と器の関係を解説  等
  
実施者構成の企画
上記のようなミッションを持ち、本物の京都文化を体験・体感できるプログラムを持っている企業・職家に声をかけて構成した。
   
事業趣旨の決定
「アジアの中の京都」を共通テーマに文化体験にあわせて文化研究を付加することとした。
  
参加者の構成企画
参加するひとの要件として
 日本文化に強い関心を持つひと
 学び体験したことを広く告知する(口コミで広げる)ことを担えるひと
 将来的に日本文化のパトロンとして文化を支える可能性を持つひと 等
以上を鑑み、参加者は募集によらず、企画サイドからの声がけによって集めることとした。
  
事業企画
日本文化を体験するにあたり、精神性と技術を体感できる題材として茶を選択した。そこから食、道具、歴史的背景等に企画を膨らませることとした。

4回の例会の流れとして下記を企画
第1回例会 夜咄の茶事
      もてなしの心、道具のしつらえ等をトータルに体感する
      あわせて京菓子の歴史、特徴等について学ぶ
第2回例会 粟田口善法の茶
      侘びた茶の姿を再度体感し、道具への造詣(ここでは釜・鉄器)を深める
第3回例会 漆器の歴史と技法
      道具としての漆器の用と美、意匠にみる日本の美意識等を蒔絵の現場見学にあわせて知る

第4回例会 聞香体験
      香席において組香を体験するとともに香道成立までの文化的背景を学ぶ

以上を2003年度の例会事業として企画し、実施した。
  

本事業における協働コーディネーターの役割と課題
本事業のミッションは本物の日本文化を体験する事業を通して将来的な日本文化のサポーター育成である。したがって企画スタッフは直近の売り上げにとらわれない将来展望を持ち、事業にふさわしいプログラム実施のノウハウを持っている必要がある。

京都の伝統的商家は基本的に自ら家業について語ることがない、というより客が家業について知っていることが当たり前であり、家業について語ることなどありえないというのが基本的な考え方である。高慢に見えるかもしれないが、これは京都の商品が日本の最高峰のものであり、通常の市場にあまり流通していないことを考えれば至極当然のことである。

こうした環境のなかで本事業に参加することは、ある意味で伝統産業の業界では異端として扱われる可能性もあるが、それでもあえて参加する意気込みを持つスタッフを選定する必要があった。

さまざまな人とのヒヤリング、情報交換をする中で、参加したいと表明するひともまずまずあったが、具体的なプログラムが作成できない等の理由から今回のスタッフ選定となった。

参加者の選定については、はじめのうちは文化に興味を持つ知己を中心に声掛けをしたが、2回例会以降は、周囲に伝える影響力のあるひとを特に選んで声掛けをしていった。マスコミ、海外とのルートを持つ人、芸術系の学生等が参加してくるようになった。

本事業に参画しているスタッフは、日本文化を伝えることに強いミッションを持っているが、今後今回と同条件で事業を続けていくには、少しずつでも日本文化のファン・サポーターが生まれたという結果が見えるか、可能性を実感できる必要がある。そうでなければ一過性の文化イベントに終わってしまい、参画スタッフにとっては手弁当のボランティアで物産展をやっただけというむなしさだけが残ることになる。コーディネーターとしては、この事業が今後の文化サポーター育成のステップになるよう発展プログラムを作成し、実行する必要が出てくるように感じている。

今後の発展型事業の構築を現スタッフと企画することが次の課題である。
  
▲ページトップへ

 



 

 

©2004 NPO Training and Resource Center All Right reserved