世界の潮流とNGOの動き 第5回
「フェアトレード」商品に目を向けよう
「企業の社会的責任(CSR)/社会責任投資(SRI)」 CSR/SRIとフェアトレード
長坂寿久(正会員、拓殖大学国際開発学部教授)

1.フェアトレードについて〜〜世界と私をつなぐもう一つの貿易
「フェアトレード」について聞いたことがあるだとうか。

フェアトレードという言葉は、かつては米国から、日本への貿易摩擦用語として使われていたことがあったが、90年代に欧米で定着するようになった新しいフェアトレードは、収益だけを目的とした貿易とは異なる、「もう一つ別の形の貿易(オルタナティブ・トレード)」を意味する。

「もう一つの別の形の貿易」とは、開発途上国の人々の自立を支援することを目的とする新しい形の貿易という意味だ。開発途上国の生産者と先進国の消費者とが対等なバートナーシップ(協働関係)を組んで直接取引する貿易形態である。開発途上国の人々の生活に配慮した「公正な価格」での取引と安定的・継続的な取引を目指すことによって、自立を支援する。環境に配慮した生産を行い、生産地の豊富な原材料や伝統的な技術をいかした生産を行う。そして同時に先進国の消費者に受入れられる商品開発をめざすものだ。

私たちは消費者としての「力」を自覚して、消費者から「選択者」になる時、生産活動自身を、社会自身をよりよいものに変える力をもちうるだろうと思う。グリーンコンシューマー(緑の消費者)は、環境を意識した選択者たろうとするそうした運動の一つだが、フェアトレードは、その商品を選択することが開発途上国の人々の自立を支援することにつながるという消費者運動の一つでもある。

欧米ではフェアトレードの認知度は既に非常に高く、消費者も通常のスーパーマーケットでフェアトレード商品を選択できるチャンスが拓かれている。ある調査では、英国では86%の人がフェアトレードのことを知っているという。また、フェアトレード商品であることを認証するフェアトレード・ラベルの仕組みがあるが、オランダでは消費者の90%がその意味を知っているほど普及している。ドイツやスイスでも50%の人々が理解している。そして、フェアトレード商品の売上も近年急速に伸びてきている。

日本ではフェアトレードという言葉を知っているのは、まだわずか5%に過ぎない。しかし、この数年のうちに、日本でもすでに各都道府県にフェアトレード・ショップが存在するようになったし、フェアトレード商品を店舗の棚に置く店もすこしずつ登場するようになった。

東急ハンズに行けば、ネパリ・バザーロというフェアトレード団体(NPO)が、ネバールのNGOと取り組んで開発しているフェアトレード・カレーを買うことがでる。ネパリ・バザーロはその他に手工芸品、コーヒー、紅茶のフェアトレードに取り組んでいる。

日本の各地にある生活協同組合もフェアトレードに取り組んでいる。例えば仙台のみやぎ生協では、グローバル・ヴィレッジというNGOと協働して衣料品や服飾雑貨のフェアトレード商品を取り扱っている。スーパーマーケットのジャスコ(イオン・グループ)ではフェアトレード・コーヒー豆(ブランド名はリントンマンデリン)を販売しているし、NGOのピースウィンズ・ジャパンと組んでコーヒーのカップ自動販売機を商品化している(ブランド名はピースコーヒー)。スータバックス・コーヒーも、月1回ではあるが、フェアトレード・コーヒーを提供している(特別に頼めばフェアトレード・コーヒーを煎れてくれる)。

日本ネグロス・キャンペーン委員会というNGOは、フィリピンで1989年からバナナや砂糖製品などのフェアトレード商品を開発し、オルター・トレード・ジャパンという株式会社を設立して、本格的にフェアトレードに取り組んできている。シャプラニール(市民による海外協力の会)というNGOは、バングラデシュやネパールで手工芸品類について取り組んできた。

そして、すでに日本にもフェアトレード商店街として、インタネット上にフェアトレード・プラザが立ち上がっている。

また、国際的にはフェアトレードの信頼性を確保するため、既にフェアトレード基準ができており(IFATなど)、その基準を達成したものには共通のフェアトレード・ラベル(FLO)をつけるこができるという仕組みもある。


  

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2、CSR/SRIとフェアトレード
前回の本欄で「CSR/SRI(企業の社会的責任/社会責任投資)」について書いた。もう一度おさらいすると、企業はこれまで「経済的」(財務・収益)配慮だけをして経営していればいいのだと考えられてきた。このため、これまでの企業の社会貢献論は、企業が上げた収益を社会にも還元すべきだという再配分論であった。

しかし、CSRとは、企業は経営の全プロセスに「経済的配慮」のみならず、「環境的配慮」及び「社会的配慮」の3点を取り入れた経営をおこなうべきとする新しい「企業システムモデル」だ。そしてSRIとは、経済・環境・社会のトータルな観点から企業を評価して投資する新しい「投資ビジネスモデル」なのだ。

企業は社会とかかわらねば企業競争力を喪失していくという、企業の経済活動/経営活動の仕方(プロセス)そのものの変革を問いかけているのだ。企業の財務状況だけでなく、環境や社会とのつながり方が企業価値とつながっているという時代になったということである。この点で、80年代に日本に導入された企業の社会貢献論には構造的な変化が起こっているのだ。

CSRは、90年代にNGO(非政府組織)・NPO(非営利組織)が企業との協働関係を模索する運動と活動を通じて形成されてきたものであることを前回書いたが、この点の認識が日本ではほとんどなく、かつ紹介されていないことを強く懸念している。CSR/SRIを推進する機関、評価する国際的な機関として紹介される、EIRIS、エティベル、SiRiグループ、GRI等々の団体は、そのほとんどがNGOであり、あるいはNGO関係者が入って運営されているものばかりなのだ。

日本企業にとって、「環境」的側面は既に取り組んできた経験があり、国際標準化機構のISO14001(環境マネジメント規格)を競って導入してきた。日本企業にとってよく分からないのが「社会」的側面だ。企業は最近世界のCSR評価機関から、人権、児童労働、開発協力などの社会的側面にどのように取り組んでいるかといった調査票をうけとって困惑し、コンサルにかけこんでいるのが実情だ。

CSRの評価は、各設定項目ごとに「企業とNGO(NPO)との協働関係」によって取り組んでいると高い評価を得ることができるようになっている。そこで、「社会」のポイントを高くするための取組みとして、フェアトレードが注目されてきているのだ。

フェアトレードは世界の仕組みがある程度出来上がっているので、企業にとって非常に参入しやすいからである。

その世界の仕組みの一つが、フェアトレード・ラベル制度(FLO)だ。企業はフェアトレード・コーヒー(あるいは紅茶など)を扱いたい場合には、FLOに参加し、FLOが認証したコーヒー豆を買いつけ、ラベルを取得すれば簡単にフェアトレード・ビジネスに参入できるからだ。クラフト(雑貨)類も、NGOが苦労して開発してきた商品を、当該NGOから仕入れて、自分の店で売れば立派な「社会」問題への協働関係を構築したことになりえる。

ちなみに、FLOジャパンのホームページにはコーヒは9社、紅茶は2社がフェアトレード・ラベルを取得して販売しているとして掲示されている。スターバックス・コーヒー・ジャパン(株)、小川珈琲(株)、共和食品(株)、(株)ユニカフェなどの焙煎メーカーがほとんどだ。しかし、日本ではフェアトレード・ラベルを付けて売られている商品はまだ非常に少ないのだが、最近はFLOジャパンへの問い合わせが増えてきいるということだ。

前述のように、昨年頃から、スーパーマーケットのイオン(ジャスコ)はユニカフェのフェアトレード・コーヒーを店頭の棚におくようになったし、東急ハンズがNGOのネパリ・バザーロがネパールのNGOと連携して展開してきたフェアトレード商品の中のカレーを扱うようになった。

フェアトレードへの取組みは、CSR的には当該企業は開発協力という社会問題にNGOと協働して実施していること示すものであり、質問票にはそのように書けば、その項目では高い評価が得られることになる。このため、今後、企業によるフェアトレード・コーヒーなどへの参入が急増してくる可能性もありうると考えられる。これはいいことだが、急増だと現地生産者に将来問題を起こしかねないことにもなる。ブームで生産を増やし、急にブームが終わって過剰生産となり、現地の農家に甚大な打撃を与えるケースは、ナタデノコなど後を経たない。

企業がフェアトレードに参入することは基本的にはいいことだが、NGOの姿勢を尊重し、NGOの考え方にしたがった取引を行ってもうら必要がある。

ところで、公共広告機構にフェアトレードの広告を取り上げてもらうべく、署名運動を行っている。


  
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AC(公共広告機構)キャンペーン
フェアトレードの認知度が欧米に比べてまだまだな日本です。テレビで広告してもらえたら一番なのですが、残念ながらそんな資金もありません。でもACならフェアトレードの社会的な意義に共感し、CMを作って放映してくれるかもしれません。ACの事務局へメールでお願いしてみましょう!http://www.ad-c.or.jp/(FAQのページの一番下からメールできます)
  

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