協働のデザイン第6回 指定管理者制度を検証する
世古一穂(代表理事)

【小倉城の運営を民間委託=北九州市】、【76施設の運営、3年で民間移行=仙台市】、【八王子市の都立公園について指定管理者制度を導入=東京都】、【港湾病院、指定管理者に=横浜市】、【丘の公園の管理を民間企業に指定=山梨県】等々。指定管理者制度が急速に広がっている。
指定管理者制度は2003年9月の自治法の改正で導入された新しい制度で、これまで公共団体や公共団体が2分の1以上出資する法人に限定されていた公の施設の管理を株式会社やNPO法人も議会決定があれば指定管理者になれるようにしたものである。
構造改革を推進する小泉内閣の「官から民」への一環と位置づけられる。
この制度の導入にあたっては「市民の財産である公共施設を営利企業に委ね、効率化することだけが、公共施設のあり方ではない!」「利用料も指定管理者の収入とする制度となっており、まさに税金でつくった施設で民間会社が"利益"をあげることができるとんでもない制度だ」「現在受託している公的セクターが、指定管理者の指定されなければ、雇用問題が発生する」といった批判が各方面からでている。しかし、株式会社が指定管理者になるのはいかがなものか、というなら、ではNPOならいいのか? また雇用問題というなら、現在受託している社会福祉協議会など公的セクターの雇用の安定をはかることが公の施設の目的か?と問い直さなければならないだろう。
市民の財産である公の施設をどのような形で管理・運営すればいいのか。
行政と市民、NPOとの協働の視点でこの指定管理者制度を検証してみたい。
  

1.指定管理者制度とは
指定管理者制度とは、2003年9月、地方自治法244条の「改正」が行われ、導入された新しい制度である。指定管理者制度はこれまでの「民間委託」よりその規模も狙いも対象も格段に強力なものだ。
この制度の導入は小泉「構造改革」のなかで進められている「官から民へ」という官民役割の再構築(公共部門のスリム化)、公共部門への企業経営的手法の導入というNPM(ニューパブリックマネジメント)の流れの中で位置づけられるものだ。
「自治体の"構造改革"の動きは、図書館・保育園・病院・スポーツ施設の管理の民営化にとどまらず、所有の変更をも射程に入れ、戦略化されている。」
この制度は、既存の公共施設の「所有」の変更により、公有財産が企業所有化する制度でもある。
公の施設の管理に関する制度の改正のポイントは次の5点である。
(1)条例の制定
個々の公の施設に指定管理者制度を導入することとした場合に次の事項を条例で定める
1) 指定の手続き(申請、選定、事業計画の提出等)
2) 業務の具体的範囲(施設・設備の維持管理、個別の使用許可)
3) 管理の基準(休館日、開館時間、使用制限の要件)
(2)指定方法
条例に従って、個々の指定管理者を、議会の議決を経て、期間を定め、指定する
(3)利用料金制
(公の施設の利用に係る料金を指定管理者が自らの収入として収受する制度)
(4)事業報告書の提出
指定管理者の指定された団体は、毎年度終了後、事業報告書を提出。これで、当該公の施設の目的に沿った利用をチェックする
(5)地方公共団体の長による指示、指示の取り消し、業務の停止命令
地方公共団体の長は、指定管理者に対し、必要な指示を行うことができる。指定管理者が指示に従わない場合等指定の継続が不適当な場合は、指定の取り消し、管理業務の全部または一部の停止を命令。 

これまで公の施設の管理は、地方公共団体の管理権限のもと、次の3つの団体しか具体的な事務・業務を受託できない「管理委託制度」というものだった。
・地方公共団体の出資法人のうち一定の要件を満たすもの(2分の1以上出資)、いわゆる3セク
・公共団体(土地改良区、一部事務組合等)
・公共的団体(社会福祉協議会、農協、等)
改正自治法によって生まれた「指定管理者制度」は地方公共団体の指定を受けた「指定管理者」が、管理を代行する制度だ。指定管理者は「法人その他の団体」であるため、個人を指定管理者として指定することはできない。ただし、法人格は必ずしも必要ではないとされている。また、一つの公の施設の管理について、同時に複数の者を指定管理者に指定することはできないきまりだ。

指定管理者が管理を行うために必要な経費については
(1)全て利用料金で賄う
(2)全て設置者である地方公共団体からの支出金で賄う
(3)一部を地方公共団体からの支出金で、残りを利用料金で賄う、
の3通りの方法が考えられる
「公の施設の効率的な管理を実現する観点から、現在の管理受託者よりも低いコストで高いサービスを確保できるのであれば、民間事業者が公の施設の管理を通じ適正な利潤を上げること」を想定しての制度導入であった。

また指定管理者の指定については期間を定めて行うことが明文化されている。
指定に期間が設けられたのは、最小のコストで最大の効果を上げているかなど、指定管理者による管理が適切に行われているかどうかを地方公共団体が見直す機会を設けることが必要との趣旨からだそうだが、指定の期間については法令上、特に何年以内と書いてあるわけではなく、実際は、数十年にわたることも可能である。
   

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2.公の施設
さて、公の施設とはどのような施設なのだろうか。
「公の施設」とは自治法では「住民の福祉を増進する目的をもってその利用の供するための施設」と定義している。
次のように非常に広範なもので、いわゆるこれまで「公共施設」と一般にいわれてきたもののほとんどといってよい。ただし、学校、道路、河川など個別の法によるものは指定管理者制度の対象とならない。

民生施設・・・・保育所、老人施設、福祉会館、児童館、養護老人ホーム等
衛生施設・・・・し尿処理施設、ごみ処理施設、下水終末処理施設、公衆便所、
健康センター等
体育施設・・・・体育館、陸上競技場、プール、野球場、武道館、キャンプ場、
スポーツ施設等
社会教育施設・・公民館、青年の家、図書館、博物館、資料館、自然の家等
宿泊施設・・・・国民宿舎、その他の宿泊施設等
公園・・・・・・公園、児童公園等
会館・・・・・・市民会館、公会堂、文化センター、女性会館、
コミュニティセンター等
診療施設・・・・病院、診療所等
その他・・・・・自転車駐輪場、自転車置き場、公共駐車場等
   

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3.管理委託制度と指定管理者制度の違い
従来の管理委託制度との違いは、公の施設に関する権限を広く指定管理者に委任して代行させるもので、
(1)指定管理者の範囲について特段の制約を設けず、議会の議決を経て指定できるようにしたこと。
例えば、地方公共団体が設置する文化センターや図書館、スポーツ施設等の管理を株式会社などの民間事業者やNPO法人ボランティア団体なども含めて、施設の機能に応じたよりふさわしい施設管理者を決めることが可能になったということだ。
(2)指定管理者が、使用の許可を行うことができるようになったこと。
つまり、利用料金を指定管理者が地方公共団体の承認を受けて決めることができ、その収入は指定管理者の収入とすることができるということだ。
ただし、指定管理者が利用料金を定めるにあたっては、条例で定められた基本的枠組み(金額の範囲、算定方法等)に従い、地方公共団体の承認を得ることが必要で、指定管理業者が完全に自由に利用料金をきめられるわけではない。
   
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4.現行の管理委託制度は廃止、3年以内に指定管理者制度か、直営化
これまでの管理委託制度は廃止され、現在、社会福祉協議会、事業団、公社・公団などに管理を委託している事業は、3年以内に指定管理者制度に移行するか、直営に戻すかが迫られている。
また、総務省は今後新設される「公の施設」は指定管理者制度を前提にすること、現在直営の施設も指定管理者制度へと指導しており、指定管理者制度による管理代行が主流になる。
そうした流れをうけ、現在直営の施設と新設の施設を指定管理者制度で管理代行させるため、条例化している自治体が増えているのが現状だ。
総務省はまた、指定管理者制度と独立行政法人を比較検討し、地方公共団体が自ら実施するよりも地方独立行政法人を設立して行わせる方が効率的・効果的に行政サービスを提供できると判断される場合には、地方独立行政法人制度によることが適当との指導もしており、いずれにしろ、「官から民」への流れを推進しようとしている。
   
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5.問題点
政府はこれまで、公の施設の委託については、公共の福祉と住民の平等利用の確保を主旨に厳しい制限を加えてきた。しかし、指定管理者制度はこれまでの方針を一転させて、自治体業務を大規模に民間等に委託していく手法に転換したものである。
「今回の改正により導入する指定管理者制度は、民間事業者の能力を活用し、効率的・効果的・能率的な公の施設の管理を実現する観点から、適正な管理を確保するための規定を整備した上で、地方公共団体が指定する者に住民が公の施設を利用するに当たっての使用許可まで行わせるようにするものである」(注 篠原俊博「地方自治法の一部を改正する法律の概要について」)と総務省の担当官は述べている。
しかし、民間事業者の能力を活用し、効率的・効果的・能率的な公の施設の管理を実現することで、地方公共団体の公的責任ははたされるのだろうか。
(1)指定管理者制度は経費節減、効率化を最重点に民営化し、もうけ追及の株式会社にまかせることは、住民サービスの向上をめざす自治体の公的責任を放棄し、サービスの切り捨て、後退につながることになる
(2)公の施設の設置主旨からして、その利用料は安いことは大事だが、もうけを上乗せした利用料金を民間事業者が決めていいのか。最初に安く設定されても、もうけを確保するために後で引き上げられる心配がある。公の施設が運営される上で住民が公平に、平等なサービスを受ける上でも大きな心配がある。
自治労連の指定管理者制度批判も一理ある。
しかし、もうけ追及の株式会社ではなく、NPOならいいのだろうか。
株式会社だから、NPOだからという議論の前に、適正な指定管理者とはどのようなものか、の議論が必要だ。
「効率的・効果的・能率的な公の施設の管理」というのは耳あたりのいいことばだ。なるほどこれまでの公の施設は使うものの立場にたってみれば、効率、能率の悪い、いわゆる「お役所仕事」と言いたいこと、市民の立場からみれば「無駄」がたくさんあったのは事実である。
しかし、安易な官から民への流れは、本来の分権型社会の方向ではないだろう。
特に民といった場合に日本では企業が対象となり、NPO等市民活動団体の位置づけが弱いのが問題だ。地方公共団体がその特性を活かしてやるべき公共的、公益的な仕事とは何か、NPOがやるべき公共的、公益的仕事とは何か、をしっかり議論した上での官民の役割分担が必要だ。
現行の指定管理者制度の抜本的な問題だと思うのは、施設運営への利用者や住民の参加、住民、利用者による管理委託のチェック、改善のシステムと手続きが保証されていないことだ。指定管理者には毎年、報告書の提出が義務づけられているが議会への報告義務はなく、市民社会が評価するしくみもない。
市民社会に開かれた公益的な管理・運営をしているのか、
利用者、地域住民からの共感、支持を得ているのか、
地域団体、NPO、関係団体等と連携ができているのか、
等、指定管理者に管理を任せた地方公共団体と指定管理者、二者の協働ではなく、第三者に開かれ、公益性をもったサービス提供であるか、その成果を市民が評価するしくみが不可欠だと思う。

参考文献
デイビッド・オズボーン、野沢隆ほか共訳「行政革命」日本能率協会マネジメントセンター 1995
宮川公男・山本清編著「パブリック・ガバナンスー改革と戦略」日本評論社 2002
上山信一「政策連携の時代―地域・自治体・NPOのパートナーシップ」日本評論社 2002
東京自治問題研究所編「NPM批判的入門」2003
東京自治問題研究所編 「指定管理者制度」2004
   

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