1.これまでの流れ
芽室町 は北海道十勝支庁管内にある人口約2万人の町である。基幹産業は農業。町全体の面積の4割が畑作地帯をしめ、スイートコーンやじゃがいもは全国一の収穫量がある。
この小さな町で「芽室産の野菜を活かしたコミレスを作ろう」とめむの杜は動き始めた。場所も具体的な内容もこれから、という目に見える形はないけれど、コミレスにむけての準備段階の様子をお伝えする。
コミレスとの出会いは、法人の前身である任意団体「わたしたちのまち育て研究会」にさかのぼる。この研究会のメンバーは子育て、高齢者、障がい者支援活動や市民活動支援活動に携わり、それぞれの分野で活動をしてきた経験をもつ。定例会ではこれまでの活動経験からみえてきたこと(育児不安を抱え子育てする若い親や子どもの同士のつながりの薄さ、高齢者の孤食や偏食の問題、障がいに対する正しい知識と理解が十分でないこと、生活支援や就労についても地域の支援がない)を話し合ってきた。
これらに共通している地域課題は「孤立化」であることに気づき、その解決手段として「居場所」づくりとしてのコミレスをこの 芽室町 に開設しようと動き出した。
「実際にコミレスに行って食べて、見て、居心地のよさを感じてみよう」と08年7月に 北海道釧路市 の「地域食堂」( NPO 法人わたぼうしの家の自主事業)にも足を運んだ。
「もっとコミレスをよく知ろう」と08年8月には NPO 法人 NPO 情報・研修センターの世古一穂さんを招き、コミレス講座と料理教室を開催し、芽室にもコミレスを作ろうと動き出すことになる。そのとき世古さんから「ベジコミ」という地元野菜を利用したコミレスの提案があり、それをきっかけにこの芽室産の野菜をふんだんに使ったコミレスを作ろう、と「めむの杜」は動き始めた。
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2.農家とのつながり?豆収穫体験
今年8月に開催したコミレス実践講座では、農家の主婦、道下里美さんを講師に招き、野菜を使った料理を教わった。
彼女はコミレスの趣旨にも賛同し、「ぜひコミレスをやるならお手伝いしたい」と申し出てくれた仲間の一人である。地域の生産者の方が賛同してくれるのは本当に心強い。
芽室町 は町全体の面積の4割が畑作地帯であり、市街地から車を5分走らせれば、そこには広大な畑が広がっている。しかし、市街地に住んでいるわたしたちには目の前に畑があっても畑に足を踏み入れることは日常的ではない。
「地産地消でコミレスというけれど、実際に畑に入ったことある人はいる?」
コミレス講座の反省会で思い切って投げかけてみた。そういう私自身、出面(畑作業を手伝う女性援農労働者のこと)の経験もないし、畑は近くて遠い存在であった。
メンバーも実家が農家だという人以外は経験がない。これではまるで「わたし、食べる人。あなた、作る人」だ。食を核にして地域をつないでいこうという人たちが、生産の現場は知りませんでは、話しにならない。まずは畑に行ってみようじゃないか。
地元野菜のことを何も知らないわたしたちの会話を横で聞いていた道下さんは
「それだったら一度やってみますか?うちの畑にきてみますか?」
と機会を提供してくれた。 |
それではさっそく行ってみよう、と08年10月5日 芽室町 郊外にある道下農場に出向いた。
集合は8時。10月ともなれば朝夕の冷え込みもあるのだが、今日は気温も下がらず暖かい朝だ。どうやら秋晴れの穏やかな日になりそうだ。
北海道の畑は想像以上に広くて大きい。家の前に畑があるだけではない。とても歩いていかれないほどの距離に畑があったりする。
待ち合わせ場所から車で畑に向かう。彼女の車に先導され、到着した場所はどこまでも続く長いもの畝、畝、畝。そう、彼女の家は長いもを主として作っている農家なのである。
この長いも畑の総面積は5ヘクタール。東京ドームが4.7ヘクタールというからその広さが分ると思う。
長いもはつる性の植物なので、支柱を立てて、ネットを張り、つるを這わせる。一部長いもを植えていない箇所があり、そこには豆が植わっている。今日の仕事は完熟したサヤをひとつずつ摘み取るのだ。
あまりに広い畑を呆然と眺めていると「こっち、こっち」と呼ぶ声がする。
慌てて声のする畝を探し、作業を始める。
「黄色くなったサヤだけでいいからね。このコンテナに入れていって」
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2メートルのネットいっぱいに豆は元気につるを這わせている。最初は面白がってやっていたが、サヤはいくら採っても目の前にあり、やってもやっても思うように進まない。
収穫した豆はくり豆。いったいどんな豆なのだろうかと手の中でそっとサヤを開けてみる。そこには白地に紫の絞りがかった「ぴかぴかの豆」が並んでいた。
「あぁ きれい」思わずため息がでる。
今年は台風が本州に上陸しなかったそうだが、十勝も雨が少ない秋だった。そのおかげで、豆はよく乾燥して、実の腐れがないのだ。 |
休憩時間には、道下農場で採れた野菜をご馳走になった。今回は「庭先コミレス」とまではいかなかったが、青空の下で食べる採りたての野菜と道下さんの作ってくれた料理は格別だったのは言うまでもない。
この収穫体験では、わたしたちが食べている野菜について思いを巡らせる機会となった。生産者がどんな思いで作っているのか、その生産の場を体験し、知ることは本での知識よりずっと具体的だ。この畑で採れた愛しい野菜をもっとたくさんの人に食べてもらいたい、そのための場づくりを進めていきたい。
【余談】出面さんは本当によく働く。たった1日の作業、それもかなりの軽労働だったにもかかわらず、手首は痛いし、腰は痛いし…もうぐったり。農業は重労働だ。 |
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3.町内のつながりを作る
法人設立初年度のめむの杜は「つながりを作ろう」という目標を掲げている。コミレスの継続的な実現のためには、多くの人のかかわりが必要であるし、地域の人たちの共感を作り出すことが NPO 法人の役割であると考えるからだ。
農家だけではなく、町内の関係機関や行政ともつながりを作りたいと考え、ハロウィンにちなんでカボチャのランタンづくりイベントを行うことにした。名付けて「めむろの秋を彫ろうぃん」。寂れてしまった町のにぎわいを演出しようと企画を練った。
芽室町 の中心市街地は、空き店舗ばかりが目立ち、人通りも少ない。多分どこの町もおなじであろう。「町中ににぎわいを取り戻したい」と、芽室町 観光協会事業部は毎月1日と15日に農産物と町内特産品を販売する「ゆうやけ市」を開催している。場所は中心市街地にある JA の元ガソリンスタンドだ。めむの杜はハロウィンイベントの PR を兼ねて、ブースを出すことになった。販売したのは、オモチャカボチャ。「活動資金にしたらいいよ」と親しくしている農家さんがわざわざ運んでくれたのだ。 |
ゆうやけ市の当日。カボチャを並べ、ちょっとお店っぽく演出してお客さんを待ったが、思うように人が集まらない。カボチャに興味がないというよりも街中を歩いている人がいないのだ。空洞化は深刻だと肌身で感じた。
イベントに向けてランタンづくりの練習をしていると、「そんなに人は来ないよ」という老舗のお菓子屋さんが言う。だったら出店している人たちとの交流をメインにしよう、とお財布をもってお店をまわる。「月末にこの場所を借りて、ハロウィンのイベントをやるんです」気がつくと話しの輪があちこちでできていて、さながら異業種交流会のようだ。今日の収穫は出店者の皆さんとの楽しいやり取りができたことだ。足腰の強いネットワークは焦らず地道にいこう。 |
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10月27日のハロウィンのイベントには、100名が参加した。家族で参加したグループ、子どもだけのグループ、地域の方と年齢層も子どもから年輩者まで幅広い。刃物を扱う作業なので、見守りも慎重だ。無事に50個ものカボチャランタンが出来上がり、一列に並べて火を灯した。一つとして同じ顔のランタンはない。どのランタンもいい表情をしている。出来上がったランタンを眺める顔はどこか誇らしく、満足気だ。
イベントには、できるだけ多く人にかかわってもらいたいと作戦を考えた。場所を提供してくださった 芽室町 農協さん、カボチャを提供してくれた農家の方、小規模作業所オークルにはロウソクを作ってもらった。ボランティアで入ってくれた人は7人。たくさんの人の手を借りて実現したイベントだ。やはり作業をする中で人とのつながりは生まれてくると実感する。 |
当日は 芽室町 役場商工観光課の職員も様子を見に来ていたので、後日イベントの感想を聞くと 「商店街であれほど多くの子どもたちの姿を久しぶりにみた。町中のにぎわいも十分に演出できたし、大成功だったね」と言葉をもらった。
「できれば来年も継続してもらいたいし、商店街と連携して盛り上げることも考えてみたら? 行政としてできることはお手伝いするよ」と提案もしてくれた。
予想したよりも好意的に評価してくれている!
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これは行政とかかわるチャンスだと思い、法人として地場の野菜を活かしたコミレスを作る計画があること、コミレスを拠点に地域づくりをしたいこと、実現のためにイベントを開催し、つながりを作っていること、を語った。そして、具体的なコミレスの場所を確保するための情報がほしいと話してみた。
「わかりました。地域活性化の情報を探してお知らせします」と返事をいただいた。
今後のことはわからないが、まずはめむの杜がなにをしたいのか、理解してもらったこと、これからも相談に乗ってくれる職員と出会えたことは大きい。
めむの杜にとって大事なつながりがいくつもできたイベントであった。 |
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4.今後の展開
11月ともなると農家は冬支度を始める。畑をきれいにして、来年に備えるのだ。この仕事が終わるのを待って、野菜のこと、農業のこと、などを生産者から教えていただく。来年度は地場野菜を使った「地産地消食事会」を開催してみようとメンバーで話し合っている。冬のあいだに農家とのつながりをしっかりと作り、次年度のめむの杜(NPO法人申請中)の事業である「コミュニティ・レストラン」を中心に他の事業に展開できるようにつなげていきたい。(文責 正村紀美子)
NPO 法人めむの杜(申請中)のコミレス奮闘記は、めむの杜ブログでも掲載中です。 http://blog.memunomori.net/
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