4.海外メディによる批判
ところが、 NHK の無批判的な“パック・ジャーナリズム”放送は、麻生氏を「次期首相」として、視聴者の意識に刷り込ませることに成功した。麻生氏はオタク受けする言動だけでなく、こうした差別的発言を糧として、特定の思想を持った国民の人気を集めてきた政治家だ。視聴者の側には、改憲、安保、教育問題など、麻生氏に聞きたい課題は沢山あるはずだ。だが、各社横並びの“パック・ジャーナリズム”は、分かりやすさと単純さを重視するあまり、政治的事柄の対立点を回避し、ありきたりで薄っぺらな内容の言説を繰り返し報道した。
この結果、「政治」のバラエティー化はさらに進み、視聴者は「政治」を 自分の暮らしや社会・国家の在り方、人類の将来の姿など 真摯な問題としてとらえることができなくなっている。“パック・ジャーナリズム”によって、「政治」は 実像を失い スクリーン上の浮遊物のように実体を失ってしまった。
フランスのメディアは、麻生氏自身の問題や麻生内閣を客観的に批判する視点を失っていなかった。麻生首相が誕生した直後、クリスチャン・ケスレー記者は
日刊紙「パリジャン」
( 2008 年9月24 日)で、「カトリック教徒のタカ派」の見出しで、麻生氏が戦時中にオーストラリア人、オランダ人、英国人捕虜を炭坑で働かせ、さらに朝鮮人の強制連行で富を築いた家系に属することを明記している。また、日本を「単一民族、単一言語の国」と豪語し、「従軍慰安婦」の存在を否定することで韓国を敵に回し、戦争犯罪人を合祀した靖国参拝問題で中国の怒りを買っている麻生氏の政治姿勢を、「ナショナリズムを煽る『右寄りのポピュリスト』」と結論付けている。 2008 年 9月25 日の仏紙「ルモンド」でフィリップ・ポンス記者は、麻生内閣を「総選挙に向けて、政治的に近い人間ばかりを集めた『お仲間内閣』」と揶揄している。
日本マスメディアの大量報道の中に、こうした批判的視点が皆無だった。批判的視点なしに本来のジャーナリズムは存在しえないのだが。
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