Vol.51 2008年10月15日号

「コミュニティ・レストラン」プロジェクト講座 in 芽室 開催報告                                    正村 紀美子(わたしたちのまち育て研究会)

開催日時:公開講座  2008 年 8 月 24 日  14:00〜 17:00

       実践エコクッキング  2008 年 8 月 25 日  10:00〜 13:00

会  場: 芽室町 中央公民館

主  催:わたしたちのまち育て研究会

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1.おいしい食事ができて、地域の人たちが気軽に集える場所づくりを目指して

 「わたしたちのまち育て研究会」は2008年4月に子育て支援、高齢者支援、障がい者支援、市民活動支援とそれぞれ市民活動にかかわっていたメンバーが集まり立ちあげた会である(会員8名)。毎週火曜日の定例会では、育児不安を抱え子育てする若い親や子どもの同士のつながりの薄さ、高齢者の孤食や偏食の問題、障がいに対する正しい知識と理解が十分でないこと、生活支援や就労についても地域の支援がないことなどこれまで活動してきたフィールドでの課題を整理する作業を行った。

 そこから共通してみえてきたのは、人が人とつながっているという実感がないまま孤立して生活をしている地域の姿であった。

 私たちは自分たちが暮らすこの地域の大きな課題に気がつき、その関係性を築ける場所を作りたいと漠然と思うようになっていた。「おいしい食事ができて、地域の人たちが気軽に集える場所がほしい」それはまさにコミレスではないだろうか?私たちは話し合いを続けながらコミレスのイメージを膨らませていった。コミレスについては、昨年度、芽室町民活動支援センターで開催した市民活動講座で講師を担当して下さった NPO 法人わたぼうしの家の工藤さんから法人が開催しているコミレス「地域食堂」について聞いていたこと、今年3月余市で行われた「コミュニティ・レストラン北海道フォーラム」に参加したメンバーが2人いたこと、7月には「地域食堂」の視察に行ったりと自分たちなりに情報を集めていた。

 その頃「世古さんが北海道に来る」という情報をいただいた。「これもなにかのご縁かもしれない」と思い、さっそく世古さんに連絡をし、 芽室町 でのコミレス講座開催にむけて準備がはじまった。

2.コミレス講座の目的

 NPO の活動は目的と手段を明確にしておかないと自分たちの思いが空回りしてしまう。「居場所づくり」とは耳触りはよいが、実は相当難しいことではないか、と正直不安に思っていた。というのは、コミレスのコンセプトが明確になっていなかったのだ。イメージするコミレスは特定の人たちの居場所ではなく、地域の人たち誰もが立ち寄れる場所である。その吸着剤になるものを私たちは探していた。この肝心な軸がないと、目的と手段を取り違えてしまう恐れもあると思っていたし、地域の人の共感を得ることできない。そこでこの講座の目的として、@コミレスという言葉を広く知ってもらうAコミレスの仲間づくりB芽室コミレスのコンセプトづくりの3つとした。

 

3.コミレス公開講座

日時:2008年8月24日(日)14:00〜17:00

会場: 芽室町 中央公民館

参加者:30名

 ・ コミレス講座プログラム

 @ はじめのあいさつ

 A基調講演・各地の先進事例のビデオ紹介

  「コミュニティ・レストランとは〜楽しく働き おいしく食べる くつろぎの場」
 講 師:世古一穂氏(特定非営利活動法人 NPO 研修・情報センター代表理事/金沢大学大学院人間社会環境研究科教授)

 Bコミレス事例報告「十勝でのコミレスの取り組み」と質疑・交流

  報告者1:ファミリーカフェ「ぷりすか」馬渕恭子氏
  報告者2:「ほっと・ぷらっと」特定非営利活動法人「ほっと・ぷらっと」理事長 横田静子氏

 Cまとめ

 講座参加者は町内だけでなく、十勝管内各地域から集まった。管内 NPO 関係者だけでなく、地域の市民や農業従事者、行政職員、議員である。参加動機は「コミレスという言葉に関心をもった」「コミレスについて詳しく知りたい」「コミレスを立ちあげたい」「老後を安心して暮らせる地域づくりを考えたい」「地域づくりを学びたい」などである。

(1)「コミュニティ・レストランとは〜楽しく働き おいしく食べる くつろぎの場」講 師:世古一穂氏

 世古さんからは次の点について説明と提案があった。

 @ コミレスとはミッションや考え方にもとづいて地域の課題解決をする現場であること

 Aコミレスの5つの機能(人材育成機能、生活支援センター機能、自立生活支援機能、コミュニティセンター機能、循環型まちづくり機能)と役割

 B芽室コミレスの可能性

 C全国のコミレス活動事例とコミレスの運営

 ここでは特に芽室のコミレスについて報告する。

 芽室には「愛菜屋」という農産物直売店がある。ここには、芽室町の生産者97名が手塩にかけた採りたての野菜250種類を出荷している、管内でも有名な店である。 芽室町 には新鮮でおいしい野菜が簡単に手に入る店がある。 芽室町の豊かな農作物をよく知っている世古さんからは、芽室ならではのコミレスの提案があった。「地場産野菜のおいしさ、楽しさを地元の農家と協働して発信するコミレス」=ベジコミ Vege Comi である。芽室ベジコミの展開を4つ紹介する。

 ひとつは農家との産直システムである。農家と直結して新鮮な野菜を仕入れる。それも野菜の選別の手間を省く意味で1カゴ、1箱という単位で買い取る。選別の手間を省いているので当然、形の不揃いなもの、規格外のものも入っている。あるいは洗浄せずに土付きのままの野菜を仕入れる。そうした流通にのらない野菜を買い支える仕組みを作り、農家に協力する。原油高騰で農家も経営が厳しいという。地場産野菜をおいしく安全に食べることができるこの環境を持続していくためにも消費者の意識も変わっていく必要がある。農家と協働して仕組みをつくるのも楽しい。

 その2は、地場野菜料理コミレスである。地場産野菜をおいしく楽しく食べるために工夫を凝らしたメニューを開発する。従来のレシピから料理を作るのではなくて、新しい調理方法を開発してメニューを作る。たとえばニンジンをピューラーを使ってパスタのように長くして食べる。レタスは発想をかえて丸焼きにする。今までの固定観念にとらわれずに斬新な調理の仕方を工夫してみる。また開発したメニューは地域の人たちに伝える場を作り、共有する。

 その3は活野菜コミレス。店に並ぶ採りたての地場野菜をその場で料理して食べさせてくれる。魚のいけす料理の野菜版である。

 その4は庭先コミレスである。農家の庭先で採れたて野菜を使って料理を作る。土のにおいのついたものを味わう楽しさがある。コミレスのコンセプトは「おいしく食べてたのしく働く」なので、農家に出かけて草取りや収穫の手伝いをしてその野菜を食べるというのも。提案した野菜を中心にしたコミレスは、ただ食べるだけではなくて、実は生産者と顔がみえる関係を築く、農家の手伝いをする人を確保する、子どもと楽しむ時間を作るなど地域課題の解決という意味がある。

 コミレスは食を核にして地域課題を解決していく手段である。ここで提案したベジコミだが、地域課題にどのように応えていくかはじっくり話し合ってほしい。

(2)報告

 ◆報告者1:ファミリーカフェ「ぷりすか」馬渕恭子氏

  障がい者、子ども、お年寄りのハンディキャップをフォローできるサービスを提供する店として2003 年2月にオープン。飲食を通じて交流の場になることを目指して日々の営業をしている。料理の素材は地産地消、無農薬にこだわっている。その他、職場実習を受け入れたり、まちづくりに関する自主企画や委託催事など食を通した地域とのかかわりも創り出している。今後も地域とのつながりは大事にしていきたいと考えている。

 ◆報告者2:「誰もが協働して地域社会の中でいきいきと生活することを当たり前に」
        特定非営利活動法人「ほっと・ぷらっと」理事長 横田静子氏

 ほっと・ぷらっとの活動は、平成15年4月に精神障害当事者、家族、ボランティア、関係機関の方など18名の有志と立ちあげた「多目的スペースと活動を考える会」からはじまる。十勝は精神保健活動が進んでいる地域だといわれるが「必要な情報が得られない」「ゆっくり過ごす場所や人と交流できる場所がほしい」「お互いに役割をもっている活動がしたい」という意見を反映した活動を行っている。交流スペース「ほっと・ぷらっと」は当事者の居場所でもあり、当事者と市民の交流の場である。自立支援法との関連で受益者負担や事務量の増大など今後多くの課題があるが、地域で暮らす様々な人がお互いに支え合い自分らしく生きていくことを目指して今後も活動を続けていきたい。

(3)質疑応答

Q: コミレスを立ちあげたいが、その資金集めはどのようにしたらよいか。

A: 国分寺にある「でめてる」は、女性3人が暮らしていける運営をしようと始めた店である。立ち上げ資金500万円は1口1万円の私募債を発行した。途中で「いらない」という人もいたが約束なので、7年後に全部返済した。お金を出すと店のことが気になるし、その後、店の顧客になってくれる。店をつくっていく参加者になること、ファンを増やすことは今後の経営の安定にもつながる。お金を銀行に預けても今の時代利息は期待できない。お金に価値を求めて投資をするのはやめて、これからは地域をゆくっていく NPO に投資をすることを考えてはどうだろう。自分たちが暮らす地域をよりよくしていこうという活動に投資すると、友人が増えるという利子が付いてくる。お金には換えられない人とのつながりができるのも楽しい。私は全国にそうした友人がいる。お金がないと助成金や補助金を頼るが、いい仕事をして、地域の人の共感を得て自立した活動をすることは NPO の原点だ。

Q: 「コミレス」という名前を使うには許可が必要か?

A: いらない。先ほど紹介したように全国にはコミレス活動を実践している仲間がいて、コミュニティ・レストラン研究会というネットワークを組んでいる。コミレスをはじめたらネットワークの仲間になってくれたらうれしい。

(4)まとめ

 「人とのつながりを大事にした地域の居場所をつくりたい」「生き甲斐につながるコミレスの活動は参考になった」「ビデオをみてコミレスで働いている方が生き生きと仕事をしていた」「コミレス活動は楽しみながらまちづくりに参加できる」など、コミレスを通して地域づくりをイメージした声が多く寄せられた。世古さんの「ベジコミ」という提案については、「野菜が身近にあることが当たり前に暮らしていたが、あらためて 芽室町 が豊かな食材に恵まれた町であることに気がついた」「農家としてできることはしたい」と芽室の特性を活かしたコミレスにつながる声もあった。また私募債というお金と人を集める仕組みに共感した声もあった。

4.実践!エコクッキング

日時:2008年8月25日(月)10:00 ?13:00

会場: 芽室町 中央公民館調理室

参加者:22名

●実践!エコクッキング●

@あいさつ

Aコミレスとエコクッキングについて

B本日のメニュー

C試食

Dまとめ

(1)エコクッキグとは

 エコクッキングは単なる廃物料理ではない。地産地消で安全な素材を丸ごと調理することは、環境に負荷をかけない循環型まちづくりである。コミレスではエコクッキングについて学んだり、体験したりすることができる。調理された料理の野菜について聞いたり、どのような調理方法かを知ることができる。コミレスは食べ物を通して地域の中で人との関係をつくる場所である。子育て中の女性も多くいるので、子育てについて話しをするが、子どもに伝えなくてはならないのは味覚だ。子どもは本物の味がわかるので素材そのものの味をしっかり覚えさせる。調味料に頼らず、野菜のもっている味を活かした調理の仕方をする。ほんものの味をちゃんとわかっていれば、塩梅で料理することができる。舌を鍛えることでほんものがわかるようになる。料理は今までの発想を超えて想像するところから作る。素材をみて料理を考えたり、調理法を変えたりしながら料理を楽しんでほしい。

(2) メニュー

 パスタ風にんじん炒め、ラタトゥユ、カブのスープ、手打ちうどん、丸ごとレタス、ごぼうのたたき、豚肉とトマトの炒め、キノコいろいろ味噌炒め、枝豆サラダ、ミニトマトの串揚げ、長いものかき揚げ、十勝産小麦のパン、黒小豆の羊羹、梅ジュース

(3)まとめ

 目の前にあるのは力のある野菜だけ。 レシピは作り方の簡単名で詳細は自分の塩梅で。 「今日の実習は自分の塩梅で料理を作る」という世古さんの説明に動揺していた方もいたが、実際に調理がはじまってみると自分の舌で味わい、なにを足したらよいのかそれぞれが考えながら調理をしていた。

 参加者は気づきと発想の転換、料理の楽しさを学んでいた。参加者の声を記載する。「芽室の豊富な食材を使ったシンプルな味付けがとてもよかった」「レシピのない料理づくりははじめてだったが、とてもおいしい味にできていたので自分の舌に自信をもつことができた」「素材の活かし方はさまざまであることを学んだ」「作ることの楽しさがよくわかった」「自分の味付けがとても濃いことに気がついた」「食べ方がひとつしかないと思い込んでいたが、発想を変えるとレパートリーが広がる」

(4)今後の抱負

 2日間に渡る講座を終了して、漠然としていたコミレスのイメージが一気に具体的になった。世古さんから提案されたベジコミは 、芽室町の魅力を十分に引き出すことができることを、2日目のエコクッキングで実感した。ベジコミから野菜のおいしさを発信することで、家庭に広がり、子どもの食育や環境教育にもつながっていく。私たちは、平成20年9月に特定非営利活動法人めむの杜を立ち上げ、現在認証申請中で ある。(http://blog.memunomori.net/)2日間の講座で感じたコミレスの可能性を今後の活動に反映させてゆきたい。

 また、講座を通してお世話になった農家さんはコミレスは夢だったという。共通の目的をもった生産者の方とつながりができたことは大きな収穫だと思う。その後メンバーとの話し合いでは、農業者とつながりながらさまざまなコミレスを展開していくことが確認されている。まずは10月中旬に今回つながりが出来た農家に出向き、花豆の収穫作業と「庭先コミレス」を実施する予定だ。採れた豆を加工品として販売してみようというアイデアも生まれてきた。また、農家さんに芽室の農業や野菜について教えてもらう機会を多く作ろうと考えている。地元の音楽グループの協力を得ながら農家さんと知り合う機会を楽しく演出することで、多くの人たちが共感できる場づくりも今から提供していきたい。そうした活動が農家とのネットワークを生み、常設のベジコミにつながっていくのではないかと思っている。(文責 正村紀美子)


 



 

 

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