Vol50 2008年8月20日号

協働のデザイン 第28回 海道・洞爺湖G8サミットとは何だったのか
〜NGO/NPOの活動を検証する

世古一穂(金沢大学大学院教授 / (特非)NPO研修・情報センター 代表理事)

キーワード ・・・G8サミット、反グローバリズム、市民メディア、「もうひとつの世界は可能だ」

 北海道・洞爺湖でG8サミットとは何だったのか? 終わってみれば温暖化対策=CO2排出規制=原発推進、の構図がはっきりし、米国大統領ブッシュ、仏国大統領サルコジの先進国、いや自国の利益追求=中国、インド等新興国への原発売り込み、を承認する会合になってしまったのではないか?

 グローバリズムによる食糧危機や格差拡大、貧困の増大など多くの問題が、環境問題の陰に意図的に隠されてしまった。

 日本のNGOをはじめ各国のNGOがCO2排出規制を声高に叫んでいたのも、原発推進にうまく利用された!というのは言いすぎだろうか?

 反グローバリズム=テロ活動 というとんでもないレッテル貼りで過剰警備のなかでおこなわれた今回の北海道・洞爺湖サミット。

 NGO/NPO、市民メディアはどう動いたか?

 反G 8活動や市民メディアによる活発なサミット取材等がある中で、メインストーム?のNGOの中には政府に追随し、政府の政策の結局は支援をすることになった動きもあり、多様だった。

  北海道・洞爺湖G8サミットとは何だったのか〜私が見たNGO/NPOの動きを伝える。

1.G8対抗国際フォーラム〜「もうひとつの世界は可能だ」に参加して

 7月7日から7月9日、北海道・洞爺湖でG8サミットが開催された。

 政府やマスメディアによるキャンペーンが盛んに行なわれたが一方で、G8が推し進めるグローバリゼーションに反対する市民団体、NGO、NPO、大学人などのグループによって、様々な対抗運動の枠組みが作られ、海外からは、スーザン・ジョージ(フランスの政治学者)、マイケル・ハート(デューク大学 / 政治哲学)、ジム・フレミング(NY、A utonomedia の専門家)、マッシモ・デ・アンジェリス(東ロンドン大学)、ハリー・ハルトウニアン(ニューヨーク大学)、アンドレ・グルバチッチ(サンフランシスコ・ニューカレッジ)、フランコ・ベルディ(メディア論 / イタリアの活動家)等々が参加して、サミット直前からサミット終了まで東京、札幌等々でG8対抗国際フォーラム等「反G8」をい掲げる数十の市民フォーラムやイベントが開かれた。

 NGOはG8閉幕以降も、 札幌市内で、市民サミットや飢餓、食糧危機セミナー、女性の労働と貧困をテーマにした会合を続けた。

 筆者もG8対抗国際フォーラム実行委員会等に参加した。

 G8対抗国際フォーラムの主張はG8諸国が進める新自由主義(市場原理主義)に反対し、「もうひとつの世界は可能だ」というもの。

 NGO、NPOが中心となって様々な対抗運動を展開することは、日本の国内にとどまらず、1999年のシアトル、2001年のジェノバから引き継がれてきたグローバル・ジャスティス(公正)ムーブメントの世界的潮流だ。

 今回もこうした世界的な状況に、政治的、社会的、文化的、または理論的に呼応する形で、国内外の参加者が集まり、大学等の公共空間を中心に国際的な対抗フォーラムが展開された。

 対抗フォーラムに参加した海外から来日した知識人や活動家は「反グローバリズムを主張する人間=テロ活動家」というとんでもない誤解と悪意の図式で、入管で長時間事情聴取をうけた。

 反G8の集会のため来日した韓国の農民19人、労働組合の5人は新千歳空港で入国を拒否され、1人はもみ合いで逮捕された。

 70年代の世界的なベストセラー「なぜ世界の半分が飢えるのか」の著者で、仏国の政治学者スーザン・ジョージさんも6月28日の入国の際に成田空港で4時間以上にわたって事情聴取されたひとり。

 彼女は集会で「世界の人口の14%にすぎないG8諸国が世界を支配している。仏国には『予見できるものが統治する』ということわざがあるが、G8の指導者らは私たちが十年前に指摘した金融危機も食糧危機も予見できなかった」「国際的な課税システムによる富の再分配など、新自由主義を覆す政策が必要だ。G8はもういらない」と批判した。

 しかし、日本のマスコミはこうした世界的な市民社会の潮流に無関心というより、無知である。

 従って、G8対抗国際フォーラムについてはほとんどマスコミには取り上げられなかった。

 むしろ、反グローバリズムの知識人、活動家=テロリストという政府のおかしな図式に沿った報道が繰り返し行なわれ、海外から来た知識人たちをあきれさせたのが現状だ。

 あきれさせるだけではなく入管管理局はG8対抗国際フォーラムに参加すべく来日した知識人やNGO、NPOの活動家を12時間から16時間も足止めしたり、入国させないというようなことも起きた。

 にもかかわらず、日本のマスコミにはこうしたニュースはほとんど取り上げられなかった。

 唯一といってもいいのが東京新聞。反G8運動、市民メディアの動きを「こちら特報部」というコーナー7日から9日のかけて新聞とネット等の市民メディア等とのよき補完関係という独自の視点で報道していたのが出色だった。

2.反G8を主張する人、反グローバリズムの立場にたつ知識人=テロリストという図式

 7月5 日、 札幌市 で「チャレンジ・ザ G8 サミット 1 万人のピースウォーク」が行われた。大通公園で開催された集会に多様な人々が参加し、ウォークは最終的に5千人に及ぶ大規模なものとなった。

 しかしウォーク中、音響機材を荷台に積んだトラックから音楽を流して歩くサウンドデモに対して、異様な警備体制がしかれた。 札幌市 公安条例に準拠して行われたピースウォークは、形態として音響機材操作のための荷台乗車も許可されたものだったが、機動隊・公安警察が入り乱れる状況のなかで、4人の方たちが逮捕された。

 警察がいう被疑事実は「道路交通法違反」「札幌市公安条例違反」「公務執行妨害」だが、許可されたデモ申請の範囲内で行われていた「サウンドデモ」部分に集中したこの弾圧は、警察の暴力によって引き起こされたものだった。彼らは DJ をしたり、トラックを運転していただけで、逮捕されるべき理由はまったくなかったと言える。逮捕者に含まれるロイター通信のカメラマンにしても警察は「蹴った」としていますが、そばにいたメディア関係者はそれを否定している。

 圧倒的な暴力を行使し続けたのは警察の方であって、たとえば、いきなりトラックを止めて窓ガラスを警棒などで叩き割り、首をしめながら運転手を引きずり出していく様子などは、独立メディアの報道を通じて、改めて日本の「警察の横暴性( police brutality )」が世界的に露呈する事態となった。

 テレビ、新聞等のマスメディアできちんと報道されなかったため、こうした警察によるサウンドデモへの弾圧、それを糾弾し、一刻も早い全員の釈放を要求するNGOの動き、「サミット弾圧抗議声明」が7月8日札幌サウンドデモ7・5 救援会名で出されたことなどの一連の事実をどれだけの人がご存知だろうか?

3.G8市民メディアセンター

 G8サミットでは既存メディアとは違う視点で取材する「市民メディア」が活発に活動した。

 「市民メディア」とは市民の視点で映像をとったり、記事を書いたり一定の地域を対象とするコミュニティ・ラジオ局などをいう。オルタナティブ・メディアともいう。

 NGO/NPOが運営している場合もあればフリージャーナリストが含まれることもある。

 G8ではそれらの人々が集まってG8メディアネットワークを結成。

 6月30日から、11 日間にわたって市民メディアセンターを開設した。登録者数は200人以上。記者会見やフリー利用者などを含めると、延べ1600人の人々が利用した。

 海外からのメディア関係者も多く利用。日本と海外の市民メディアの交流の場ともなった。

 11 日間にわたる当センタ ーの活動 のあらましは次のとおり。

 ◆ 登録者は230人、うち海外からの登録が60人
 札幌市内3カ所(天神山・西18丁目・北海道大学)に開設した市民メ ディアセンター。
 利用者数は、ウエブサイトを通じた事前の登録者数ベースで、約230人。うち60人が海外からの登録者(英文フォームからの登録者)。
 また、6月30日からの利用者数は、天神山が400人(延べ人数)、西18丁目が600人 北海道大学が400人。
  登録者・利用者数ベースでみると、昨年のドイツ・ハイリゲンダムサ ミットで開設された市民メディアセンターと同等、またはそれ以上の規模でのサービス が展開で きたといえる状況だ。

 ◆ 記者会見22 回、プレスリリース20本。映画祭も開催
  地球環境問題が最大のテーマとなった北海道洞爺湖サミットに対応し て、市民メディアセンターでは、環境や食料、貧困、平和などさまざまなテーマにつ いて、NGO ・市民の立場からの対抗的な情報発信のサポートを積極的に行なった 。
  市民メディアセンター開設期間中に、市民メディアセンター北海道大学などにおいて、 NGOなどが開いた記者会見は22回。また、当センターの動きなどを伝 えるた めに随時発信されたプレスリリースの数は20本にのぼった。
  また、7月2日から4日にかけては、各地で、不安定な労働・生活を強 いられる人々( プレカリアート)をテーマとした、台湾・韓国・米国・日本などのドキュメンタリー作品を上映する「プレカリアート映画祭」を開催。グローバル化 が進む現 代社会において進行する新たな格差の問題について、多くの人々ととも に考える場を提供した。
  こうした取り組みを通じて、様々な活動団 体が370本のニュース記事、120本のビデオなど、三つの市民メディアセンターを利用して、数多くのニュース記事やビデオコンテンツが制作 ・発信された。
 *ニュース記事
(1) G8メディアネットワークのテキストニュース 104本(うち4本は英訳掲載済み)
(2)写真記事  165本
(3)掲示板への投稿 108本    
 *ビデオ
(1) G8メディアネットワークのビデオクリップ  92本(うち海外作品5本)
(2) FREEZONE 投稿ビデオ数  10本(うち海外作品2本)
(3)インターネットライブ番組  18本


 ◆ 市民が作るメディアセンター 約 100人のスタッフ・ボランティアが活動
  今回の市民メディアセンターについて特筆すべきこととして、オルタ ナティブ・メディア の取材者・制作者だけでなく、札幌・北海道地域の市民が、ボランティ アとして 3カ所の市民メディアセンターの運営に携わったことが挙げられる。 G8メディアネットワークと G8市民メディアセンター札幌実行委員会の スタッフ30人のほかに、主に札幌・北海道地域の市民66人が、ボランティアとして市民 メディアセンターの運営に参画した。ボランティアスタッフは、センターの設営や利用者の登録・案内、イベントの運営、ニュース記事・ビデオの制作サポー トを行った 。

□  「世界と出会う貴重な機会。この経験を生かしたい」
  市民メディアセンターのクローズにあたって次のコメントが主催者からだされた 。
● G8メディアネットワーク共同代表・平沢剛
 「日本のオルタナティブ・メディア、インディペンデント・メディアが世界 と出会い、 協働できた貴重な機会だったと思います。各自がこの経験を国内外で生 かしてい ければと願っています」

● G8市民メディアセンター札幌実行委員会代表・滝口一臣
  「札幌のメディア・アクティビストが、今回の「大事」に参加することで、貴重な経験を得ることができたことを、まずは喜びたいと思います。今回の経験を、日常の市民メディア活動に取り込んでいくことが、札幌の次の課題となり ます」

 メディアセンターの今後の問い合わせは
 札幌事務所  G 8市民メディアセンター札幌実行委員会
 電話: 011-807-7975
 東京広報窓口  NPO 法人 OurPlanet-TV
 電話: 03-3296-2730

 市民メディアは画質などでマスメディアにかなわない部分もあるが、G8メディアネットワークを管理する白石草さん(OurPlanet-TV)が東京新聞のインタビューで答えたように「市民一人一人が見たものを、そのまま伝えていくことが大切」「マスメディアじゃ当局からの情報を大切にするが、市民メディアは当局にアクセスせず、自分の視点を重視する。両者は決して対立するものではなく、相互に足りないところをおぎないあえばいいと思う」

 市民感覚を生かした低い目線から見えてきたものを伝えることが「市民メディア」の存在意義だ。今回のG8の取材では既存メディアとは一味違う視点での取材が大きな成果をあげたといえる。

 今回、市民メディアが協働してG8メディアネットワークを立ち上げ、市民メディアセンターを基点に活動したことはほとんど成果のなかったG8に対して、今後の日本の市民社会の進展に大きな希望をいだかせる活動となったといえる。

4.「自分にできることを積み重ねれば、世界は変わって行く」

  「自分にできることを積み重ねれば、世界は変わって行く」

 この力強いメッセージは子ども兵士の社会復帰や地雷撤去支援などに取り組むNPO法人「テラ・ルネッサンス」( 京都市 )の理事長鬼丸昌也さん( 28)が発したものだ。

 鬼丸さんは大学 4年生の01年、神戸のNGOメンバーのひとりとして、カンボジアの地雷原を訪問。足を吹き飛ばされた人、地雷で婚約者を失った若者等に出会って、現実の厳しさに衝撃を受け、うちのめされたという。

 しかし、鬼丸さんは帰国後、「僕にはお金も技術もないけど見たことは伝えられる!」と友人達に現地報告をした。

 03年には世界の子ども兵士の状況をさらに勉強するために英国に。翌年「自分の目で確かめたい」と東アフリカ・ウガンダに赴き、 06年1月には現地に元子ども兵士の社会復帰支援施設を開設した。

 「僕の話を、周りの人に伝えてください」というメッセージが口コミで広がり、一昨年が110 回、昨年は140回の講演を全国各地で実施した。

 講演会は学校や市民活動団体、企業などに呼ばれて行なっている。

 数人の集いもあれば1000人を超えることもあるという。

 講演を聞いて毎年募金を集めて送ってくれる中学校、顧客の仲介手数料を 1 %寄付する不動産会社など支援者の輪は着実に広がっている。

5.リベラリズムの限界 新しい協働性を求めて

  1970年以降の多元化する社会の中で、新しい共同性の構築を目指した理論的な作業に最も熱心に取り組んだのが、 J ・ロールズの『正義論』に始まる現代リベラリズムである。

 ノーベル経済学賞を受賞したA・センもその一翼を担っているこの思想運動は、格差と不平等の問題に対して「格差原理」(ロールズ)や「潜在的能力」論(セン)などで答えるとともに、異なる文化の共存やマイノリティ文化の位置づけについても、「中立性」という基準を用いたりしながら、普遍的に妥当しうる規範的原理を探求してきた。

 これには、批判論者も含めて多くの哲学者や社会学者が参入して活発な論議の盛り上がりが見られた。

 そこにあったのは、リベラリズムこそは、多元的な価値が並立する現代社会において、それらの共存を理論化し得る最も有望な思想戦略だという期待に他ならなかった。と、盛山和夫(東京大学教授)は分析している。

 いうまでもなく、「リベラリズム」とは「ネオリベ」と蔑称される「新自由主義」とはまったく似て非なるものである。

 両者は個人の自律性や自由を強調する点では共通しているが、後者と違って、 J ・ロールズらのリベラリズムは平等主義に強くコミットした思想である。

 このリベラリズムは、ジェンダーや異文化の問題、生命倫理などに関する論考を通じて日本の社会科学者や哲学者にも大きな影響を与えている。

 多くの論者がリベラリズムに魅了された理由は、そこに「正義」という価値観が掲げられていたからである。

 つまり、「正義」こそは、利害や立場や文化の対立相違を乗り越えて、多様な人々が新しい共同性を取り結ぶための共通の根底的な価値になり得ると思われたのである。

 しかし、実は「正義」というのはきわめて危うい価値である。

 そのことは論者たちに十分意識されていない。

 端的に言えば、「正義」とは非寛容なものなのだ。

 「正義」を掲げることは、むしろ異質なものや地域的なものを抑圧したり排除したりする危険がある。

 しかも、リベラリズムは「正義」のほかには新しい共同の価値を創出することを自らに禁じている。

 そこには、人々がすでに抱いている緒価値を超越し得るのは「正義」だけだという考えがある。

 けれども、そうした正義一元論的な理論戦略では、多元的な社会における多様な人々が受け入れ得るような共同性を実際につくり上げることはできないのである。

 昨日まで時代の先頭を走っていたのに「チェンジ」の旋風に行く手を阻まれ、気がついたら時代が彼女を通り越していた。

 女性だから、ではない。世代間闘争となったから、負けたのではないかといわれる。 

 事実とそれを解釈する観念を区別し、人々が受け入れる理解しやすい観念を「通念」と呼んだのは経済学者のガルブレイスだ。

 「通念が知名的な打撃をうけるのは、陳腐化した通念を、明瞭に適用できないような不慮の事件が起こって、通念では処理し得ないことがはっきりしたときである」(「ゆたかな社会」岩波現代文庫)

 「大統領は白人の男しかなれない」が建国以来の通念だった。今年、この通念は致命的な打撃を受けた。同時に「無敵のヒラリー」という今までの常識も崩れた。

 「どうせかわりっこない」とだれもが惰性で思い込む通念は日本にもある。

 通念を次々に破る大胆な転換に米国の再生力をみる思いがするが日本に根強く残る「行政をお上」にしてそれに従っていれば無難という通念、「どうせNPOといっても行政の下請け程度の力しかない」「世の中、そうそうかわりっこない」という通念を破る大胆な転換、非暴力行動主義の市民革命が日本に、今必要だ。

■最後にNGO/NPOの共同声明、札幌宣言 世界の貧困をなくすための市民の声〜を掲載しておこう

+

札幌宣言

〜世界の貧困をなくすための市民の声〜

Sapporo Declaration: Global Voices to End Poverty

 

2008 年 7 月 7 日

私たちの生きる世界は不公正な世界である。わずか2%の最も裕福な人びとが世界の富の半分を享受する一方で、貧しい側の半分の人びとが世界の1%の富を分け合う世界。 10 億以上の人びとが今なお、 1 日 1 ドル未満で生きざるを得ない世界。食べ物はあるのに、人々が飢えている世界。薬はあるのに、予防・治療が可能な原因で人々の命が奪われる世界。資金はあるのに、人々が、とりわけ周縁化された人々が、貧困によって死にゆく世界。これが私たちの生きる世界である。  

私たちは、この不公正を受け入れることはできない。 G8 の指導者たちは様々な誓約を私たちの前に積み上げてきた。それらの約束によって、世界は 60 年前に制定された「世界人権宣言」の精神を体現するものになる、と彼らはいった。しかし、積み重ねられた誓約は、単なる言葉の羅列に、そしてその言葉の羅列の再確認へと堕し、必要とされる行動へと翻案されることはなかった。世界はまず欺かれ、そして欺かれ続けた。そして私たちはこの世界、不公正な世界に生き続けている。その世界を作り、維持し、導いてきたのは G8 だ。そこでは、ただ財産の有無だけが、人間の生き死にを決定する。

38 年前、 1970 年に開かれた国連総会。そこで、富裕国は国民総所得( GNI )の 0.7 %を政府開発援助( ODA )に充てることを約束した。この誓約は、 2003 年にメキシコ・モンテレーで開催された国連開発資金国際会議で改めて確認された。富裕国の GNI のわずか 0.7% を充てれば、ミレニアム開発目標は 2015 年の達成期限までにたやすく実現するはずだった。にもかかわらず、今に至るまで、 G8 諸国は一つとして、この目標に近づいてもいない。 2005 年には、英国・グレンイーグルズで行われた G8 サミットで、 2010 年を期限として開発援助を 500 億ドル増額すること、そしてその半分をアフリカ支援に充てることが約束された。 3 年を経た現在、まったく志の低い、この約束ですら、その実現が危ぶまれている。

世界の貧困と格差の歴史を終わらせ、これらを過去のものにすることを求める私たち市民社会は、今日ここに結集し、 G8 の首脳に対して、果たされるべき約束の誠実な履行とさらなる指導力の発揮を強く求める。そしてこの世界の不正義と不公正の歴史を断ち切るために、十分な説明責任をもって以下の行動がなされる必要がある。

■ G8 は既存の約束を履行し、 MDGs 達成のための責任を果たすべき

G8 は、 MDGs をはじめとする過去になされたすべての約束の達成に向けて、達成期限を定めた拠出目標を設定し、包括的な行動計画を策定すべきである。そしてこれらの計画の実施に関する検証・評価を行い、説明責任を果たすことが必要である。 G8 は、少なくとも以下に述べるこれまでの約束を履行する必要がある。

 ・  「万人のための教育」( EFA )達成のために必要な年間 110 億ドルの資金ギャップを埋め、 7200 万人の未就学児童が小学校に就学できるよう支援すること。 2015 年までに初等教育完全普及を達成するために不足する 1800 万人もの新規の教員が養成され、雇用され、給与が適切に支払われるために、 G8 は教育援助を予測可能なものにし、かつ経常経費も対象とすることを約束すること。

 ・「 2010 年までの HIV/ エイズ治療・予防・ケアへの普遍的アクセス」目標を実現すること。そして HIV/ 結核の二重感染、多剤耐性結核( MDR-TB )および超多剤耐性結核( XDR-TB )等の緊急の課題に対処するとともに、ストップ結核世界計画を支援すること。また、マラリアに関する「アブジャ目標」を達成すること。さらに 2007 年ハイリゲンダム G8 サミットで約束された、三大感染症および保健システム強化に対する当面 600 億ドルの拠出誓約について、「誰が、いつまでに、いくら拠出するか」を達成期限つきで示した明確な計画を策定すること。

 ・ MDG4 ・ 5 達成に必要な年間 102 億ドル増額を実現し、リプロダクティブ・ヘルス・サービスの普遍的アクセスを実現すること。また、妊産婦死亡率を質の高い保健医療サービスへのアクセスを測る指標とすること。

 ・ 水・衛生に関する MDG 達成に必要な年間 100 億ドルの資金( UNDP 推計)を拠出し、目標を実現するための具体的な計画を形成すること。

開発のためのあらゆる努力は、 MDGs をはじめとする社会開発目標の達成を最優先課題として取り組まれるべきである。開発援助は、最も脆弱 弱性 なコミュニティに裨益するものでなければならない。さらに、これらの目標を達成するにあたっては、ジェンダー格差の解決が不可欠である。女性および少女が、教育や保健サービスを受けることができるよう、ジェンダーの視点に配慮することを怠ってはならない。また、 MDGs の達成に向けて開発援助における若者への配慮もなされるべきである。

■目標達成のために、資金メカニズムの導入と債務免除を

 ・G8 は、 ODA に GNI の 0.7% を充てる目標を実現するため、達成期限を設けた資金拠出目標および具体的な行動計画を策定すること。

 ・ODA を補完し、世界経済をより公正なものとすることを目的とする「国際連帯税」などの革新的な資金メカニズムの導入を、世界規模で早期に導入すること。

 ・MDGs 達成を困難にしている途上国債務をすべて免除すること。 ODA 増額は、債務免除とは別になされなければならず、債務免除額が ODA 総額に含まれてはならない。

 ・より効果的で、政策としての首尾一貫性が確保された援助を実施すべく、今後のアクラ・ハイレベル・フォーラムおよびドーハ開発資金国際会議において指導力を発揮すること。

 ・国際社会の責任において、自然災害や紛争・戦争にさらされた人々への支援を、継続性をもって、迅速にかつ連携して行うこと。

■新たなる脅威に、さらなる指導力を

世界はいま、食料価格の高騰や気候変動といった新たな脅威に見舞われている。 G8 は、緊急性を持って以下の課題に取り組む必要がある。

世界には 8 億 5000 万人もの飢えに苦しむ人びとがいるが、昨今の食料価格の高騰は、「静かなる津波」として新たに 1 億もの人びとを飢餓状態に追いやろうとしており、 2015 年までの MDGs 達成へのあらゆる努力に負の影響を与えている。食料安全保障の欠如が主な原因で、貧困人口が 17 億人に増加するのではないかという報告もある。世界には十分な食料があるにもかかわらず、先進国を利する金融投機やバイオ燃料政策が食料価格を引き上げ、公平な食料の分配を大きく妨げている。食料へのアクセスを確保するために、 G8 は直ちに途上国に対して、途上国現地の農家からの購入を優先・支援する形で緊急食料援助を実施し、持続可能な小規模農業生産に対する投資を拡大するべきである。さらに G8 は、自らのバイオ燃料政策・農業補助政策を取り止め、先物投機を規制するほか、途上国に悪影響を及ぼす貿易政策を撤廃しなければならない。そして、途上国における農業生産力の向上を持続可能な形で支援し、 MDGs を履行するべきである。

気候変動は、それに対して何の責任も負わない貧しい人びとの生存を脅かし、開発の成果を台無しにする。 G8 は国連気候変動枠組条約プロセスを尊重し、自らの温室効果ガス排出量削減に関して 2020 年までに 1990 年比で少なくとも 25 〜 40 %を削減するという拘束力のある目標を打ち出し、途上国における気候変動の影響を最小限に食い止めるための適応支援と、低炭素型の経済発展を実現するためのクリーン・テクノロジーへのアクセス確保を迅速に行うべきであり、またその責任を有する。このための資金は、従来の開発資金が犠牲とならないように拠出される必要がある。

また、人間の健康をむしばむ新たな脅威が、世界の貧困化の拡大によって生じているにも関わらず、これらが無視されていることに警告を発さなければならない。この健康上の脅威とは、例えば、鬱病など精神疾患および自殺の増加、大気汚染による喘息など呼吸器系疾患、慢性閉塞性肺疾患( COPD )などの慢性病の増加である。さらに G8 は、保健関連目標の達成を極めて困難にしている医療従事者の不足について、特別な配慮を行う必要がある。

■市民社会の声を政策に反映すべき

貧困との闘いに勝利するには、市民社会の力強い連帯、参加、運動が不可欠である。市民社会は、脆弱性を有するコミュニティや周縁化された人々の声を政策決定者に届けるという極めて重要な役割を担うからである。そのため、政策決定が人びとのためになされるよう、意思決定・政策決定への市民社会の十分な参加と関与が確保されるべきである。 G8 は、「 Civil G8 対話」を含む市民社会との対話を拡大し、市民社会の提言を G8 の公式議題に取り入れるべきである。来年のイタリアやその後の G8 サミットにおいても、市民社会との対話が定期的になされ、市民社会の声が政策決定者に届けられることが必要である。

市民サミット 2008 「 Global Voices to End Poverty 」参加者一同

●G8サミット成果文書 http://www.g8summit.go.jp/doc/index.html  

【首脳宣言(7月8日)】  

「環境・気候変動」

持続可能な開発のための教育

39. 我々は、より持続可能な低炭素社会の実現につながるような国民の行動を奨励するため、持続可能な開発のための教育 (ESD) の分野におけるユネスコ及びその他の機関への支援及び、大学を含む関連機関間の知のネットワークを通じて、 ESD を促進する。  

「開発・アフリカ」

教育

48. 個人、機関、組織及び社会の能力を強化することは持続可能な開発と成長にとって鍵であり、それゆえ、開発途上国における教育はあらゆるレベルで強化されるべきである。したがって、我々は、生涯学習と教育システム全体を俯瞰したアプローチ、すなわち、すべての男児、女児による質の伴った初等教育修了を引き続き優先課題としつつ、各国における制約条件と経済的ニーズを踏まえて、初等教育及び初等教育以降の教育にバランス良く取り組む必要性に応えることを重視する。我々は、アフリカにおける教員の不足、維持及び管理という問題とともに、学習成果の向上という問題への取組にコミットしている。我々は、教員の能力開発とコミュニティの参加を通じて、教育へのアクセスと教育の質を向上させるために更に取り組む。教員の研修は、必要とされる能力と技術の向上を重視して、強化されるべきである。学校保健と学校給食は子供の就学と子供の健康を共に改善させ得ることから、我々は教育と他の開発分野の相乗効果を促進する。  

49. 我々は、万人のための教育 (EFA) 及びそれを実施する国際機関に対し引き続きコミットしており、初等教育の完全普及に向けたファスト・トラック・イニシアティブ (FTI) の取組を支持する。我々は、他のドナーとともに、 FTI 事務局によれば 2008 年には約 10 億米ドルと見積もられている FTI に承認された国における資源不足に対処するため、二国間及び多国間の資源を動員する努力を継続する一方で、外部評価を通じてその有効性の改善を支援する。教育の質及びプログラムの効果に重きが置かれるべきである。我々は、紛争や危機に見舞われている国々、女児、その大半が学校から取り残されている疎外された人々に対して特に注意を払う。資源不足への対処を含む、 G8 による FTI を支援する取組の進捗は、 2009 年のサミットにおいて提示される報告書を通じてモニターされる。    

【議長総括(7月9日)】

2.気候変動  の最後の部分

・・・・・  我々はまた、森林、生物多様性、 3 R(廃棄物の発生抑制、再使用、再資源化)及び持続可能な開発のための教育(ESD)といった環境問題に取り組むことの重要性を認識した。  

  ●環境大臣会合  http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=11511&hou_id=9764  

【議長総括(5月26日)】    

人材育成・持続可能な開発のための教育( ESD )

12.   持続可能な社会を担う人材育成を進めるため、国連 ESD の10年が重要であり、ドイツ における来年3月の ESD   の世界会議開催が歓迎された。 ESD   の一層推進のため、関係主     体間の協働による取組事例等の各国の優良事例の共有や、途上国と先進国間での高等教     育機関及び国際機関等のネットワークによる途上国の人材育成支援が有用と考えられ る。  

  ●福田ビジョン「低炭素社会・日本」をめざして(6月9日) http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaspeech/2008/06/09speech.html  

<具体的な政策>

4.国民が主役 ・・・・ 国民は、観客席で低炭素社会への動きを見ているのではなく、一人ひとりがその「演じ手」であり、「主役」であるのです。低炭素社会をつくっていくためには、知ること、新しい社会を描くこと、行動すること、そして伝え広げることが大切であります。  意識の高い人々は、もうすでに活発に動いております。そういった人たちがもっと動けるように、そして周りに広げていけるように、政府の役割は、低炭素型に行動を変えたくなるような仕組みづくりを提供するとともに、まだ意識していない人たちに対し、気づきのきっかけを提供していくということであります。  そのために教育は非常に重要な役割を担います。義務教育はもちろん、生涯を通してのあらゆるレベル・あらゆる場面での教育において、低炭素社会や持続可能な社会について教え、学ぶ仕組みを取り入れていかなければなりません ・・・・・

  以上

 

 



 

 

©2004 NPO Training and Resource Center All Right reserved