協働のデザイン第3回 「地域自治組織」を知っていますか?
世古一穂(代表理事)
 合併特例法の期限切れを1年後に控え、市町村合併が急速に進んでいる。
私は内閣総理大臣の諮問機関である第27次地方制度調査会(総務省)の委員として合併をめぐる地方制度改革の議論の真っ只中にいた。
 同調査会は平成15年11月13日に2年間の審議をへて「今後の地方自治制度のあり方に関する答申」を総理大臣に出した。本稿では、これがこれからの日本の市民社会にとってどのような意味をもつものなのか、唯一NPO関係者として審議に携わった者として報告をしておきたい。
  
 同答申については合併構想を策定すべき対象市町村の人口基準を「1万人未満」としたことが、マスコミ等で大きく報道されたことを記憶している方も多いと思うが、私がこの答申の目玉と考え、審議会でも強く主張したのは、合併後も合併前の自治体のアイデンティティを守り、地域の自治を推進するしくみとしての「地域自治組織」の創設だ。
 地域自治組織は基礎自治体における住民自治や行政と住民との協働推進のための新しい仕組みである。
 地域自治組織とは何か。同答申では次のように書かれている。
  
(1)住民自治の強化を図るとともに、行政と住民が相互に連携し、ともに担い手となって地域の潜在力を発揮する仕組みをつくっていくため、基礎自治体の一定の区域を単位とする地域自治組織を基礎自治体の判断によって設置できることとすべき。
(2)地域自治組織のタイプとしては一般制度としての行政区的なタイプ(法人格を有しない)を導入すべきであるが、市町村合併に際し、合併前の旧市町村のまとまりにも特に配慮すべき事情がある場合には、合併後の一定期間、合併前の旧市町村単位に特別地方公共団体とするタイプ(法人格を有する)を設置できることとすることが適当。
(3)地域自治組織には、地域協議会、地域自治組織の長及び事務所を置く。地域自治組織の長は、基礎自治体の長が選任。地域協議会の構成員は無報酬。
(4)地域自治組織(一般制度)は住民の身近なところで住民に身近な基礎自治体の事務を処理する機能、住民の意向を反映させる機能、さらに行政と住民が協働して担う地域づくりの場としての機能を有する。
区域をはじめ基本的な事項は、基礎自治体の条例で定める。基礎自治体の長が地域協議会の構成員を選任するに当たっては、地域を基盤とする多様な団体から推薦を受けた者や公募による住民の中から選ぶこととするなど、地域の意見が適切に反映される構成となるよう配慮する必要。
(5)特別地方公共団体とする地域自治組織は、合併協議の場において規約を定めることにより、合併後の一定期間、合併前の旧市町村単位に設置されることとし、その規約において、地域自治組織が処理する地域共同体的な事務範囲や地域協議会の構成員の選出方法等を定める。
地域協議会は予算権を有する。財源は基礎自治体からの移転財源によることが原則。
  
 注目してほしいのは「合併後の一定期間、合併前の旧市町村のまとまりにも特に配慮すべき事情がある場合には、合併後の一定期間、合併前の旧市町村単位に特別地方公共団体とするタイプ(法人格を有する)を設置できることとすることが適当。」の部分である。
 この意味は基礎自治体、つまり、大きな市の中に法人格をもつもうひとつの自治体を住民の意志によって作れるということを書いているのだ。これは日本の地方自治にとって画期的なことである。
 これまでわが国では地方自治体というが住民が自ら自治体を組織できる制度はなかった。答申は合併自治体に関してのみ認められる制度になったが、審議過程では合併にかかわらず一般制度として設置できるようにすること、地域自治組織の長は、基礎自治体の長が選任するのではなく選挙で選ぶことを私を含め、数人の委員が主張した。
 これらの部分は合併後の市の中に旧町村が法人格を持って残るとせっかく合併してもやりにくい、長を選挙で選ぶなどもってのほか等、自民党等から大きな反対がおこり、最後の最後までもめた部分で、奇跡的に残ったといっても過言ではない部分であった。
 ともあれ、結果としては「合併後の一定期間、合併前の旧市町村単位に設置されること」というかたちで決着した。私は「合併後の一定期間」という表現はあいまい、一定期間とはどのくらいかと質問したが、「一定期間」というのは期間を定めないことと同義という解釈との説得でこの部分が残されたということを付記しておこう。
  
 ではなぜ「合併前の旧市町村単位に特別地方公共団体とするタイプ(法人格を有する)を設置できること」が重要なのか。
 私は合併により小規模市町村が大きな市に吸収されるのではなく、対等性を確保し、事務の効率化をはかるという合併のメリットの部分は生かしつつ、旧市町村が住民自治の部分はしっかりもってやっていけることを担保するために法人格を有するタイプの地域自治組織を設置できることが必要と考えている。
 また、核となる市がない場合、小規模市町村の広域連合的合併の場合に、特にこの制度は有効である。つまり、住民自治にかかわる、地域のアイデンティティは法人格をもつ地域自治組織として存続させ、広域で処理する事業を効率的にやるために合併するというタイプの合併が可能となるからだ。
 これまでの広域連合というやり方では利害関係が調整しにくく、リーダーシップが発揮できなかった部分をひとつの市となることで効率的な運営をしつつ、地域の自治はそれぞれの地域自治組織でやっていくという構想だ。
 また、地方自治法改正案では、地方制度調査会の答申をうけた合併するしないにかかわらず、市町村が一定区域を単位に「区」を設置し、限定された自治権を持たせることができるとしている。法人格は持たないが、導入した市町村の住民にとっては、政令指定市同様、区がもっとも身近な行政組織となる。
  
 地方制度がこのように身近な行政組織づくりへと大きく変化する。まさに地方分権の流れである。
ただし、安易に肯定できないのは、政府の財源不足を地方におしつける分権の流れであることも否定できない事実であるからだ。
 政府の権限を地方自治体への分権するという行政内だけの分権ではコップの中のできごとでしかない。必要なのは地域に分権するという発想、地域の分権の担い手は 地域の行政セクター(地方自治体)+地域の市民セクター(NPO等多様な市民活動団体)という構図、つまり、協働の構図をきちんとつくっていくことだ。
 次回はさらに市町村合併をめぐる動きについて書いていく。
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