2.「協働コーディネーター養成講座」開催における役割と課題
(1)計画立案の動機・きっかけ
@行政内部での協働に対する理解不足
自分が協働コーディネーター養成講座を受講し、 NPOの本当の役割は経済的な価値の問題ではなく、多様な価値観を生み出し、市民社会の能力・質を高め、より良い市民社会を実現していくことだと認識し、そのための職能化された「協働コーディネーター」の必要性が理解できてくるに従い、反面、協働やNPOに対する行政内部の認識が、 NPOを行政の下請け的に考える「経済的な視点のみ」の見解しか持たない、いわゆる「財政の悪化を起因に協働を模索している行政」の体質に、行政職員としての葛藤を感じていた。そしてこれらを打開するためには、自分自身での情報発信だけでなく、講座を体験してもらうことが、まずは現時点で 1 番必要なことだと判断し、講座の立案をおこなった。
A NPO 側の協働に対する認識の現状
地域での「行政と NPO の情報交換会」を傍聴したなかで、NPO側の意見でも行政に対する依存(資金的な援助や事業の下請け)を求める声が多かったことで、 NPOも行政と同じく正しく協働を理解していないと感じていた。
また、平成18年度に静岡県で開催された「協働推進人づくり塾」に参加する中でも、実践経験も多いNPO(言葉は適当かわからないが、いわゆる老舗かつ有名なNPO)や中間支援組織のメンバーも多く参加していたにもかかわらず、講座の初期の段階では、 NPOの メンバーから「協働」という言葉があまり聞かれなかったし、講座の終了後に「行政に依存していた」とか「行政の下請けでない協働をしたい」等の意見を多く聞き、改めて協働に対する理解がされないままに、下請け的な協働が行われているのではないかと感じた。
そして、行政が「協働、協働」と提唱するほどには、協働という言葉・意義が地域に浸透していないのが実態ではないかと考え、「行政の(財政的な)支援と、とにかく事業が欲しい NPO 等の市民活動団体」が多い実態を、少しでも改善するために、やはり地域でも人材育成を行うことが必要だと認識した。
B東京での協働コーディネーター養成講座の受講の仲間で、全国各地でそれぞれのメンバーが講座のコーディネートをする役割を決意
TRCでほぼ同じ時期に学び始めた仲間で行ったミーティングで、自分たちが今後どのようにTRCにかかわれるか、またどのような役割を果たせるのか検討した。その結果、私を含め、何人かがTRCの講座を自分の地元等で開催するためのコーディネーターの役割を担う決意をした。
(2)目的・目標
@正しい協働の概念や協働コーディネーターの必要性を、より多くの人が理解していくこと
現状での課題は、上述したとおり、地域においては行政にも NPO にも協働について正しく理解している人が少ないことである。正しい協働の概念の理解と、さらに、職能化された協働コーディネーターの必要性の理解を第1の目標にした。
A東京等での中級・上級講座に進んでいく人材養成が図れること
この講座を1度や2度受講したからといって、協働コーディネーターになれるわけではない。協働コーディネーターの必要性や職能化の必要性を理解し、継続して受講していく人材が輩出できること、またそのきっかけになることを第2の目標とした。
B自分自身のレベルアップ
この講座を企画した当時、自分自身では、グループのメンバーとしての市民活動は行っていたが、自分が主体的に行う市民活動をしていなかった。
この講座を開催するための、企画から準備、運営までの一連の取り組みが、自分のレベルアップにつながると考えて取り組んだ。
(3)準備・実施に向けての役割
@講座の日程、レベル、目標の設定と調整
開催日程、開催する講座のレベル(入門・初級・中級)を講師・コーディネーターと協議し、設定した。また、講座の目標を上記のとおり設定した。
A協働コーディネーター人材養成研究会の結成
助成金申請にあたり、世古代表理事に相談した結果、「協働コーディネーター人材養成研究会」を結成し、この組織で助成金申請から講座の実施までを行うことにした。
B助成金申請により地方における参加しやすい環境整備
冷静に地域の実態を見たときに、参加費をどのくらいに設定するかということは大きな課題であった。現実的に参加者が一定数集まる金額に設定し、参加しやすい環境整備のための手段として、助成金獲得を目標にして取り組んだ。
なお、助成金を獲得するために、企画書をしっかり書くことはもちろん重要であるが、プレゼンテーションでいかに事業の必要性を訴えることができるのかも重要な要素であったため、この一連の取り組みも私にとってトレーニングの場となった。
C多様な参加者の確保
自分が参加してきた東京での講座がそうであったように、行政だけ、NPOだけの参加者では講座の意義が半減してしまう。多様な活動の背景を持つ人に参加してもらうための工夫も必要になった。
取り組みとしては、まず行政職員の参加を促すために、自分の所属する組織内での告知はもちろん、県・近隣各市へ案内を行った。特に県を通じての案内は効果的であった。
また、地域のNPO/ 市民活動団体のメンバーに参加してもらうため、公民館を中心に市内の公共施設へチラシを設置するとともに、市内のNPOを訪問し講座の案内を行った。
その結果、参加者の構成は、行政職員16人、 NPO13人、企業1名、その他2人(所属団体等での分類)とうい構成となった。
(4)実施内容・当日のプログラム
1日目
レクチャー「協働コーディネーターとは何か」 (NPO研修・情報センター世古代表理事)
講演1「 姫路市 のまちづくりについて」( 姫路市 役所 吉岡幸彦氏)
講演1に関する質疑
振り返りシートの記入と発表
2日目
北宿のまちづくりのビデオ(吉岡幸彦氏)
レクチャー「コミュニティー・レストランについて」(世古代表理事)
講演2「コミュニティー・レストランについて」 (コミュニティー・レストラン「てまえみそ」オーナー 富田久恵氏)
講演2に関する質疑
アイスブレイク
WISH POEM の WS
振り返りシートの記入と発表
質疑と補足のレクチャー
(5)参加者にとっての成果(主催者として見た評価)
@正しい協働の概念や職能化された協働コーディネーターの必要性の理解
振り返りシートや何人かの参加者との意見交換では、「本当の協働の意義がわかった」等の意見を多く聞くことができた。当初設定した初級講座としての目標は達成できたと評価している。
今後は、これをいかに参加者の実践(自身の活動や中級講座への参加)につなげていくことができるかが課題であるが、これは課題の項で整理したい。
A協働コーディネーターを目指し中級・上級へのステップを希望する参加者
講座終了後、数人から東京での中級講座への参加の希望があった。やはり、自費で参加費・交通費・宿泊費を負担して学びたいという参加者がいることは、初級講座の開催としては大きな成果であった。
しかしながら、日程の都合等により、実際の参加者がいないことは、課題にもなっている。
(6)講座を主催しての成果(自己評価)
@共通の言語(協働の理解)で話ができる人の増加と参加者とのネットワーク
今まで、行政内部で市民参加や協働の話をしても、なかなか同じ認識での話ができず、話がかみ合わなかった。しかし、この講座に参加した同僚や県の職員と共通の認識をもつことができ、また、 NPOの参加者ともそれぞれの立場(所属)は違っても、同じ認識で意見交換をすることができるようになったたことは、大きな成果である。
講座を主催することにより、講座の案内のためにいくつかのNPOを訪問したことや、また参加者との講座のやりとりで、講座を主催しなければ出会うことがなかった様々な背景をもつ方々とネットワークができ、その結果、正しい協働概念の普及の必要性や後述する「中間支援組織」の必要性等についての協議を行うことができた。
A中間支援組織の検討へ
上記の成果により、講座に参加したNPOの代表2人と後日、協議の場を持つことができた。
講座での学習の振り返りも含めて、行政とNPOがお互いに何ができるかを意見交換していく過程で、中間支援組織の設立について検討した。その理由として
・自立した市民活動を行うためには行政への依存ではだめ
・地域の NPO 同士のつながりがほとんどない実体がある
・サービスプロバイダとしての NPO でなく、アドボカシーや社会変革の主体となるための力をつける必要がある
・本当の意味での協働を実現するためには、セクター間の協働にする必要がある
そのためにも、 NPO の人材や情報面の支援や NPO 間の調整を行う中間支援組織が必要との認識に立ち検討をしている。
B助成金応募(プレゼン)における意識の高いメンバーとのネットワーク
今回の助成金の2次審査は、審査員だけでなく、応募者の前でのプレゼンテーション審査が行われたため、参加者がお互いの提案内容や活動内容がわかり、そこでも協働コーディネーター養成の必要性を PR することができたことも成果となった。審査員は、近隣4市町の協働担当係長であり、また、助成金に応募してまで事業を進めようとする熱意ある団体のメンバーとも意見交換できたことは、予想外の成果となった。
C行政内部での認知
今回講座を開催するにあたって行政内部や NPO に案内したこと等の取り組みが、少しずつ組織内外で認知されてきている。
その結果、市幹部や協働担当課長に、(組織内では)協働や NPO について実践し理解がある職員がいるとの認知がされ、明確な権限はないものの、協働担当課からの紹介や自主的な訪問によりいくつか市民活動団体の相談を受けることとなり、事業実施の相談による関係課との調整や広報への関与を行った。
また、市の懇話会委員からも話しがあり、正式な会議ではないが、一部の委員とも意見交換をさせていただいた。次年度以降の懇話会提言には、是非協働に関しての提言を盛り込むよう関わっていければと考えている。
このように、本来の職務権限を越えて、庁内調整と市民活動団体等との対話等の活動ができていることは、「行政内部のコーディネーター」のあり方や可能性を考える契機になった。
(7)課題
@講座開催後の参加者へのフォローと参加者からの評価の採取
成果として、中級・上級へのステップアップを希望する参加者がいたことを挙げたが、実際には、その後2回東京で開催された中級講座への参加者はいなかった。これは、講座実施後のフォロー不足も大きく起因している。
また、「協働コーディネーター人材養成研究会」主催として講座を実施したにもかかわらず、講座終了後、振り返りシート以外に参加者からの評価を採取していない。講座時の振り返り以外に、別途アンケート調査を行うなど、運営の課題や参加者の今後の取り組み等を把握することで、さらに講座の効果のアップや、今後の私の取り組みの参考にすることが可能であった。
A継続した講座開催〜東京等への中級へつながっていかないことへの対応
私自身が東京での講座で、全国各地から集まるさまざまな人たちとの交流や意見交換により刺激を受けてきたこともあり、今回の講座の参加者にも、できるだけ狭い地域の中での交流よりも、東京等での交流を促すために、当初から、地元での中級講座の開催は念頭に置いていなかった。しかし、上述したとおり、実際に中級講座に進んだ参加者がいない(今後の期待がないわけではないが)という事実も冷静に分析し、対応する必要があった。
やはり、回数は少なくても継続して、地域で協働コーディネーター養成講座を開催することが必要であり、そういう全体プランを構成できていなかった点も課題として残ることとなった。
ただし、現状では、まだまだ当初の目的を果たした状態ではないので、優先順位としては、初級講座を開催して、少しでも多くの人に協働の概念の理解や協働コーディネーターの必要性の普及を図るという目標はそのままに進めたいと考えている。
B行政内部の改革
講座には多くの行政職員の参加があり、上述したとおり参加者にとってそれぞれの成果があがったことは、振り返りシートからも読み取れる。しかし、その「個人の学習による変革」から「行政組織の変革」を起こし、真の参加協働型社会の実現につなげていかなければ、本当の成果とはいえないのではないだろうか。残念ながら、そのためにやらなければならなければならないことは、まだ数多くあるだろう。そのための1つの取り組みについて次項で述べたい。 |