Vol.48 2008年5月4日号

NPO 公共哲学研究会の活動と今後の展望

                   船戸 潔(NPO 公共哲学研究会運営委員)

  NPO 公共哲学研究会は、 2007 年の 8 月、 市民、NPO、企業、アカデミズム、行政関係等の多様な人々の参加によってスタートした市民レベルの研究会です。その目指すところは、下記の通りであり、この考え方は、新しい市民社会を切り拓く NPO 活動の「芯」として重要な役割を果たすものです。

《研究会 5 つの目的》

 @ 日本の市民社会の基盤となる「NPO公共哲学」を構築する

 A プロジェクトを創出し、実証作業を通して「NPO公共哲学」を形成しつつその真価を問う

 B 東アジアにおける市民社会形成にむけての「NPO公共哲学」としていく

 C 市民社会をエンパワメントするメディア理論の創出

 D 「NPO公共哲学」の成果の出版

 毎月講師を招く形で NPO 公共哲学研究会を進めてきましたが、 8 ヶ月を経過し、改めてこの間の成果の確認を行い、今後の方向性についての運営委員会における議論を中心に報告します。

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1 活動の実績

 第 1 回研究会(8月24日)

 ・「NPO公共哲学研究会」のミッションと活動方針、活動方法 世古一穂
 ・「公共哲学」入門 稲垣久和・東京基督教大学教授

 第2回研究会(9月29日)「協働再考フォーラム」

 ・「市場化テスト・指定管理者制度等の問題点」伊藤久雄・東京自治研究センター事務局長

 ・「『公共』とは何か――公共哲学の視点から」稲垣久和・東京基督教大学教授

 第3回研究会(11月19日)

 ・「企業とNPOとの協働 CSR(企業の社会的責任)とNPO公共哲学」長坂寿久・拓殖大学教授

 第4回研究会(12月25日)

 ・「中国の民間非営利組織とNPO公共哲学」岡室美恵子 笹川平和財団プロジェクト・コーディネーター)

 第5回研究会(1月28日)

 ・「G8洞爺湖サミットとNPO公共哲学」G8連絡会 平沢剛、木下ちがや

 第6回研究会(2月25日)

 ・「東アジアの環境問題と NPO 公共哲学〜中国の餃子事件を考える」稲垣久和

 第7回研究会(3月18日)

 ・「メディアとNPO公共哲学」  「デモクラシーナウ!ジャパン」代表・中野真紀子、「ル・モンド・ディプロマティーク日本語版」代表・斎藤かぐみ

2 成果

 ・基本的な公共哲学の考え方を学習する機会が提供された。

 ・NPO 活動にとっての哲学の重要性を認識でき、様々な視点から問題を捉えることができて非常に有用であった。

3 課題

 ・行政との協働の講座には多くの参加があったが、 G 8やメディア関連講座には、参加者が少なかった。

 ・講演の内容を振り返り、対話を行うための時間が少なかった。

 ・参加者が固定化し、広がりに欠けるきらいがあった。

4 今後の進め方

 上記の実施経過と確認された成果・課題に基づき、今後の研究会の進め方として、2つの方向性が提示された。

@ 「深める」

 これまでの定例会では、時間が限られ、深い討論ができなかったため、少数の人員でも、じっくりとテーマを定め議論する場を定期的(3ヶ月に1回程度)に設ける。当面、下記の通りテーマを定め開催する。

 第 1 回  8 月 23 日(土) 午後 1 時から 5 時 

   テーマ「公・私・公共 三元論を問う」

 第 2 回  11 月 29 日(土) 午後 1 時から5時 

   テーマ「領域主権論と市民運動」

 ※いずれも、会場は杉並 NPO 支援センター研修室、参加費は 2000 円(資料代とお茶、茶菓子等を含む)

A  「広める」

 公共哲学の基本的な考え方を多くの人々に広げるため、関連団体との共催・協力により、既存事業の中に組み込んだり、新たな研修事業を開発したりする。 

 案1  NPO 研修情報センターの主催事業である「協働コーディネーター講座」において、公共哲学を内容に組み込み、参加者と学習議論を行う。

 ○ 協働コーディネーター養成講座 東京開催 ( 6/14 、 6/15  公共哲学研究会との共催は 6/15 )
    13 : 00 〜 13 : 30  コーディネーターの世古によるオリエンテーション
    13 : 30 〜 14 : 30  稲垣久和さんの講演。テーマは「公共哲学入門」
     ( 15 分休憩)
    14 : 40 〜 15 : 40  質疑のワークショップ(コーディネーターは世古一穂)
    15 : 40 〜 16 : 00  まとめとふりかえり

 ○ 協働コーディネーター養成講座 東京開催 ( 7/5 、 7/6  NPO公共哲学研究会との共催は 7/6 )
   日 時 :2008年7月6日(日) 13:00 〜 16:00
   会 場 :杉並NPO支援センター
   参加費 :5千円(会場費・資料代等含む)
   プログラム:
    13 : 00 〜 13 : 30  コーディネーターの世古によるオリエンテーション
    13 : 30 〜 14 : 30  長坂寿久さんの講演。テーマ「NGO発市民社会力」
      (休憩)
    14 : 40 〜 15 : 40  質疑のワークショップ(コーディネーター世古一穂)
    15 : 40 〜 16 : 00  まとめとふりかえり

 ○  協働コーディネーター養成講座 京都開催 ( 7/26 、 7/27  公共哲学研究会との共催は 7/26 )
    13 : 00 〜 13 : 30  コーディネーターの世古によるオリエンテーション
    13 : 30 〜 15 : 00  金泰昌さんの講演。テーマは「公共哲学入門」
     ( 15 分休憩)
    15 : 10 〜 16 : 40  質疑のワークショップ。コーディネーターは世古一穂
    16 : 40 〜 17 : 00  まとめとふりかえり
    参加費はいずれも 5 千円。会場費と資料代等を含む

案2 杉並や横浜などで、 NPO 向け講座を開催し、その中に公共哲学の要素を組み込む。

 ○ 「協働のルールづくりと公共哲学」横浜開催( 12/6 )
    日時 :2008年12月6日(土) 13:00 〜 17:00
    会場 :横浜市市民活動センター(JR桜木町駅下車徒歩7分)
    参加費 :2千円(資料代等)
    プログラム:
    13 : 00 〜 13 : 30  オリエンテーション
    13 : 30 〜 15 : 00  講演「協働のルールづくりと公共哲学〜協働の 契約あり方を考える」
                  (講師・コーディネーター世古一穂)
      (休憩)
    15 : 10 〜 16 : 40  質疑のワークショップ(コーディネーター世古一穂)
    16 : 40 〜 17 : 00  まとめとふりかえり

 以上の通り、今年度も各種の講座・団体と協働しながら、公共哲学の必要性を広めていく活動を行っていきますので、皆さんの積極的なご参加をお待ちしています。

5.コメント

 「民にできることは民に」「この事業は業務委託ができないか」

 今自治体では、予算の策定時、あらゆる分野でこのような観点から事業見直しが行われている。一見すると、行政改革が着々と進行しているかのごとく思われるが、一言で言えば「思考を停止した委託の跋扈」である。行政の役割や委託の必要性などは語られることもなく、いま行政では事業委託は目指すべき価値であり、疑問をさしはさむことさえ難しいものとなっている。

 一方、行政の市民活動への「支援」は、支援センターの設立を持って終了し、職員の頭からは「協働」の言葉さえ失われつつある。 NPO は、一受託事業者としてのみ扱われ、その特性や地域性は省みられることはない。市民活動の発展にとって、行政の存在は足かせにさえなりつつあるといっては言い過ぎであろうか。

 このような時だからこそ、 NPO に背骨となるこの公共哲学が必要であり、それに基づいた行政への対案提示が求められるのである。

 「少しは考えろよ。何でこの事業を委託するのか」と。


 



 

 

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