Vol.48 2008年5月4日号

〜環境省 政策提言 に応募して〜
 
市民の手で「ご近所マーケット」を広げよう!

富田久恵(NPO 法人アクション・シニア・タンク代表理事/
コミュニティレストラン地域の茶の間「てまえみそ」主宰) 

1. 「優秀に準ずる提言」を受賞

 昨年12月、環境省が政策提言の募集をしていることを知り、地産地消を進める手段として、何か政策提言に出来ないだろうか?と考えてみた。コミレスとして「てまえみそ」を開店してから2年、週2回ご近所の皆さんへのサービスとして、野菜を中心に朝市を開催してきたが、その中からいろんな課題も見えてきたので、それを中心にまとめて、締め切り間際の駆け込みではあったが、応募してみることにした。

 そして、結果としていただいた通知には「優秀に準ずる提言」に選ばれた、とあった。正直なところ、それがどういう意味を持つものか、とっさには理解できなかった。まずは53件の応募の中の5つに選ばれたということは理解したので、素直に嬉しかったが、予算をいただけるものでもなさそうだし、これからこの提言をどうすればいいの?という思いだった。その後、4月16日のフォーラムで発表させていただけるということと、今後の取り組みについては、環境省から助言や支援をいただける可能性があるということをうかがい、企画倒れにすることなく、具体的な動きに繋げられそうであることが分かり、少しずつ勇気と元気が湧いてきた。そして、フォーラムに向けては、改めて内容も見直し、課題を流通のしくみに絞って発表資料を準備した。

 当日は広い会場で200人近い人が聞いてくれる中、5団体の最後に発表した。そうそうたる素晴らしい内容の発表の後で、こんな身近な、草の根的なテーマで場違いの様な気もしたが、委員の皆さんや会場からも、予想外に共感や賛同の反応を頂き、心強く思った。たとえ少しずつでも、是非とも、出来るところから具体的に動いて行きたいという思いを新たにすることができた。

キーワード

 地産地消
   (環境に配慮したライフスタイルの現実化)

 ご近所マーケット
   (ユニバーサルデザイン・生活環境の改善)

 コミュニティ流通
   (地域循環型社会・地域経済の活性化と自律)

 コミュニティの再構築
   (人、物、情報の交流拠点)

2.提言の内容

(1) 現状と課題

 静岡県浜松市は平成18年7月に周辺12市町村が合併して、人口82万人、広さが1500 平方Kmという大きな市となり、昨年平成19年4月に政令指定都市の仲間入りをした。ピアノやオートバイなどの物づくりのまちとしても知られる一方で、北遠の中山間地域から西区の海岸地域まで、豊かな自然に恵まれ、気候も温暖で、農水産業も盛んで、住みやすいまちであると思う。しかし、一方で、いわば「車が無いと暮らせないまち」でもある。郊外型の大型ショッピングセンターがいくつも出来、車が無いと買い物が出来ない状況がある。私は中区の中心部に近い中沢町に住んでいるが、歩いて行けるスーパーが近くにない。これまで何軒か小さな店はあったが、経営者の高齢化や仕入れが困難ということで、シャッターを閉めてしまった。我が家は、主人の母の世代から言えば、もう30年以上も生協の共同購入に頼っていたが、この共同購入でさえ、仲間の高齢化で個別宅配(おうちコープ)に変えざるをえなくなった。こんな現状の中で、益々コミュニティは疎遠になり、食料品を始め、日用品の確保にも不安を感じざるを得ない。

 そんな現状とそこから見えてくる課題をまとめると、次の様になる。

 @ 生産者、経営者、消費者、共に高齢化が進み、車社会の限界もあり、ユニバーサルデザインの視点からも生活環境の改善が求められる

 A  CO2 削減が求められる中で、地産地消を推進することでフードマイレージを減らし、環境に配慮したライフスタイルを現実化する。

 B 対話型のコミュニティ流通を通して、物だけでない、人や情報の交流拠点としてのご近所マーケットを市民の手で広げることにより、コミュニティの再構築を図る。

 次に、生産者、流通、消費者という視点から課題を整理し直してみると次ぎの様になる。

 @ 生産者からの課題:市場に出す程沢山は生産出来ないが、取りにきてくれれば、出せる物はある。

           規格外品でも捨てるのはもったいない。

           新鮮なものを早く消費者に届けたい。

 A 流通からの課題: 仕入れに行くのが困難で店を続けられない。

           毎日店を開けるのは辛いが、週1.2日なら・・・

           配達の車が片道空になるので、ついでに運ぶ物があれば、

 B 消費者からの課題:車に乗れないので、買い物に行けない。

           荷物が重くて持てないのでカートで、小さな子供がいるのでバギーで、買い物に行きたい。

           ちょっとした買い物が気軽に出来る所が必要。

           ご近所の情報交換が出来る所があるといい。

 そんな中で、誰でも歩いて行ける「ご近所マーケット」があちらこちらに出来たら、それぞれの課題の解決に有効なのではないか、と考えた。

3. コミュニティ流通の提案

 最大の課題は「流通のしくみ」であると考えた。

 郊外型の大型ショッピングセンターやファーマーズマーケットには、当然大量輸送のしくみが必要であり、小口配達のしくみにはミクロのきめ細かな輸送のしくみが必要である。しかし、一人ひとりが車で郊外まで買い物に出たり、個別に小口の配達に回るという事態は、 CO 2削減が叫ばれている昨今、環境に配慮したライフスタイルとは相反するのではないかと感じている。また、小口配達の車が、もし帰り道は空で走るのならば、何か業界を越えた物流のしくみを作ることが可能であれば、輸送の効率化やエコドライブにつなげることが出来るのではないか、と考えた。

 大量流通のしくみとミクロ流通(個配)のしくみの中間的な位置づけで、「コミュニティ流通」といえる、市民と生産者の当事者ネットワークによる共同調達、共同消費の「ご近所マーケット」をつくることが可能であれば、いくつかの課題の解決につなげることが出来るのではないだろうか?そして、その場が、コミュニティの拠点として様々な人や物や情報の交流拠点として育っていくことで、コミュニティの再構築にも繋がると期待できるのではないだろうか。

4.「コミュニティ流通」の定義と課題

 ここで云う「コミュニティ流通」とは、ニーズとシーズを併せ持つ主体者としての、生産者、流通業者、消費者がネットワークを組むことで、ニーズとシーズを直接繋ぐ顔の見える関係のしくみを構築することを意味する。あくまでも、コミュニティビジネスとして、3者がそれぞれに、何らかのメリットや利益が得られ、尚且つ、しくみを維持、継続していける形態を前提とする。

 その場合、想定される課題としては、

 @ 場所と人材の確保

 A 出荷、販売、在庫管理システム

 B 物流経費、運営経費の捻出     等が考えられる。

5. ご近所マーケットの事例として、地域の茶の間「てまえみそ」の活動紹介

 地域の茶の間「てまえみそ」は2005年10月末に、浜松市中区中沢町に開店したコミュニティレストランである。一人ひとりの持つ、得意なこと、好きなこと(=てまえみそ)を持ち寄って、人もまちも自分も元気になれる場を目指して、多様な事業を展開している。

 事業の4つの柱は、@ 日替わりシェフのランチと喫茶のレストラン事業 

             A  ギャラリーショップと様々な交流イベント企画 

             B  フリースペースとして各種講座の開催など 

             C 新鮮野菜や地場産品等の朝市          である。

 この中で、「ご近所マーケット」機能としては、「Cの朝市」である。そして、ここでの課題もまた流通に他ならない。「てまえみそ」のある中沢町から10 Km 程北東の東区大島町にある「森島農園」から、野菜や果物、乾物等を借りて委託販売させていただいている。これまでは運搬を手伝ってくれる仲間がいたので、順調にやってこられたが、都合によりこの3月で辞めてしまったので、今は自分自身が、一回ニ往復している。野菜販売の利益は運搬費を賄うのが精一杯というのが実情である。そういう意味でも、コミュニティ流通のしくみつくりは、「てまえみそ」の切実な課題でもあり、今後の継続の鍵といえる。

 「てまえみそ」が目指すものは、「人もまちも自分も元気になれる地域の拠点」である。この想いを、「物好きな人が居るから出来ること」で終わらせないで、想いを持つ仲間が居れば、誰でも、何処でも、全ての人が歩いて行ける所にこの様な地域の拠点をもっと気軽に作ることが出来る様な「しくみ」として育てて行かなければならないと思う。その為の流通システムつくりや政策的な支援の可能性を調査、研究し、実験事業を進めていくことが出来る様、この度の受賞を大いに活用したいと思っている。

 環境省のご指導、ご支援を期待したい。

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