Vol.48 2008年5月4日号

協働のデザイン 第27回 「NPO法」成立10年 とこれからの市民社会づくりに向けて」

世古一穂(金沢大学大学院教授 / (特非)NPO研修・情報センター 代表理事)

1、10年を振り返って

 民間が担う非営利公益活動の重要性や機能が社会的認知を受け、関心が高まる契機となった。
 NPO法の設立とこの10年でNPO法人数が33675法人(2008年1月31日現在)となり社会的存在として定着したことにより、非営利セクター全般の制度改革の先駆けとなり、行政改革と相まって社会システム全体が変化の時代を迎えるようになった。
 しかしその一方でNPO法人の役割が不透明になったともいえる。

 それはNPO法人が財団や社団法人といった民法法人の数を凌駕したが市民セクター形成には悲しいかないたっておらず、現実には行政セクターの補完的セクターとしての位置付けとなるにとどまっているといっても過言ではなくなっている。
「協働」の名目のもとに行政からの委託に依存し、行政の下請け化しているNPOも数多い。
 本来NPOは市民活動団体であり、公共サービスの提供であると同時にアドボカシー(政策提言、代案提示)を行うことをミッションとしているものだ。
 それが現実には多くのNPO法人がサービス提供に終始しアドボカシを行えていない。
 公益法人改革の影響を受けて新たな三セク、官僚の天下り先として(実態としては)行政がつくるNPO法人まででてきている始末である。
 またNPO法立法のときに積み残された課題が、そのまま現在も残っている。
 寄付税制(認定NPO法人制度)、NPO法人の経営システム、公益性との関係の問題、低廉性、会計基準、行政からの独立性、財源、公益法人とNPO法人の違いの問題、非営利法人の中でのNPO法人の位置付け、情報公開システムの問題などである。

2、好事例の紹介〜NPO法人わたぼうしの活動〜

 先述したような日本全体の状況の中で、老いても安心して住むことができる地域、共に支えあい、安心して老いられる地域づくりを基本理念として、 「わたぼうしの家」は平成12年6月に設立され特定非営利活動法人となり、今日まで非常に地に足をつけた、まっとうな活動を展開し地域まちづくりの核となり、大きな成果をあげている稀な例である と思う。

 多様な活動のコンセプトと現状を事務局長の工藤洋文さんが次のようにまとめている。

1.グループホーム さんぽみち (介護保険事業)

 「どんなに、年を取っても認知症になっても、その人がその人らしく生活できる!」

 これは、グループホームならではのケアです。そんな思いから市民の手で、建てようと進めてきました。

 平成12年8月に介護福祉士、ホームヘルパー、理学療法士、作業療法士、保健師、建築士、家族の会、わたぼうしの家のスタッフ、それに市民公募によるメンバー、合計15人でワークショップを積み重ね、図面を作成しました。

 北海道のNPO法人としては初めて国庫補助を受けました。認知症高齢者の共同住宅で、個室があり、家庭的で暖かな雰囲気の中で安心して生活出来る「お家」です。

 入居者は9人で、専門的な介護を受けながら職員と一緒に家事や掃除など、自宅と同じような生活をすることによって認知症(俳回、妄想等)が落ち着き、自分の居場所を見つけることができます。共有空間が多く、静かに過ごせる穏やかな、とてもすてきな住まいを目指しています。

 春採湖畔の散歩時に、寄って欲しいとの思いで「さんぽみち」という名前も、市民公募からいただきました。市民が企画し、市民が参加し、地域の人達と共に暮らして生きたい、「さんぽみち」にはそんな思いが込められています。

2.デイサービス(介護保険事業)

 あったか・ミニデイサービスは、平成13年4月からスタートしました。毎週2回(火、木曜日)12人の認知症の高齢者が通所しています。

 市内では、「わたぼうしの家」が認知症対応型通所介護を初めて行ってきた事業者です。 認知症の高齢者は自ら意思を伝えることが困難なところがあり、スタッフが常時そばに寄り添う形で、一日を過ごしています。

 一般にデイサービスでは危険ということで、包丁をもたせないことが多いのですが、わたぼうしの家では、実際に通所者に包丁を握って調理をしてもらっており、はじめは戸惑っていた方々も、次第に昔の記憶を思い出して包丁を動かすようになります。「ゆっくり・のんびり」をモットーに、一人一人が輝いていた頃、得意としていた事を思い出していただき、再現する中で自信を取り戻していただきます。

3.わたぼうし宅老(自主事業)

 第二土曜日に「虚弱な高齢者」とボランティアが一緒に楽しく、1日を過ごしてもらっています。「介護して上げる」とか「介護してもらう」とかの関係ではなく、そこに集まった35人前後が、楽しく過ごすことを基本としています。

 車の運転、調理、介護等をそれぞれ担当するスタッフ、ボランティアがおり、最近では市立高等看護学生も参加しており、高齢者からが若い人まで、お互いにエネルギーをいただいています。

4. 地域食堂(自主事業)

 高齢者は、意識しないと外出しなくなり、地域との交流も少なく、会話の機会もなくなります。一人で寂しく食事することよりも、大勢で「わいわいガヤガヤ」食事することはとても楽しいです。

 集い・交流・食事をテーマに「地域食堂」は、普段は作らなかったメニューで食事を提供し、楽しい食事をすることで「心と体の健康」を図かります。

 最近はお子さん連れのお母さんも多く見かけます。

 食事とコーヒーで320円、毎週月曜日の11時から13時までで、ボランティアスタッフが皆さんをお持ちしています。

5.地域交流会(自主事業)

 弥生、浦見、宮本、米町地区を中心とした、隣近所の人達が声をかけ合って交流します。芸能や手芸、餅つきや料理教室等。地域のネットワークをつくりながら異世代の交流も図ります。一人暮らしの高齢者に来ていただき、自宅で一人での食事は食欲もありませんが、大勢でいると楽しいと、沢山の人が楽しみます。

6.高齢者生き活きグループリビング  ほがら館(自主事業)

 高齢者が介護保険や医療保険をなるべく使わないで、いつまでも元気で心豊かで自律した生活をするために、9人の仲間と助け合いながら共同生活を営むことを目的とした住宅です。高齢になり独居生活が不安ですが、仲間と支えあいながら生活します。コーディネーターが身の回りの相談や連絡・運営の支援・地域とのつながり・遊びのお手伝いをします。

 16畳の個室と食堂・居間・台所・浴室・玄関が共有で、地域の人達と交流できるスペースもあります。

7.家族介護教室(釧路市受託事業)

 高齢者を介護している家族に対して、介護方法や介護予防、介護者の健康づくり等についての知識・技術を習得させるための教室です。毎月1回開催しています。

8.やすらぎ支援事業(釧路市受託事業)

 家族介護者の支援の観点からボランティア(やすらぎ支援員)により認知性高齢者の見守りや話し相手のために訪問をします。わたぼうしの家は支援員の研修・コーディネートを行っております。支援依頼は直接釧路市介護高齢者福祉課(31−4539)へ連絡願います。

●わたぼうしの家の目指すもの

 高齢化社会となり、80歳の親を60歳の嫁が面倒を見ることもあります。家族の心労は察するものがあり、そんな時、「地域の仲間で支えることができたら、どんなにすばらしいか」と思います。介護保険で全てをカバーできるものではなく、「生活で親しんだ地域で暮らしたい」とほとんどの人が思います。

 「老いても、心も体も健康で、地域の仲間と生活したい」その、一助になれることを「わたぼうしの家」は目指します。

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  実に地域のつぶやきを形に思いを実践し、NPO法人として大きな成果をあげていると高く評価するものだ。

 筆者は各地で苦戦しているNPO法人に相談される際に良いNPO法人の経営システム、地域ニーズにあった取り組みの好事例として紹介している。

 毎年、釧路の「わたぼうしの家」の活動を現地に見に行かせていただいているが、日々改善と工夫を行い新たなチャレンジをつづけている様子に脱帽、敬服している。

3、今後10年をどう展開するか

 新しい課題に対応しながら先に挙げた残された課題を解決していくことがNPOセクターだけでなく日本社会全体の課題である。

 新しい課題とは公益法人改革やその他の非営利法人制度改革、政府・自治体の財政難と行財政改革の進展、行政の協働ブームへのきちんとした対応(安上がりの委託業者としてのNPOとの協働という誤った政策を変えていくこと)、企業などのCSRの展開、ボランティアや寄付へのニーズの高まり、等である。

 また非営利セクターの中でのNPO法人(市民活動)の位置付けと成果を再定義して、私達市民が実現できるもの、実現すべきことはどのようなことなのかを明確にして真の市民社会を日本に創出していくことが必要だ。

 それは民間非営利公益セクターの再編成を促すことになっていくことである。

4、人材養成の強化

 1990年来、「市民活動の制度をつくる会」の世話人の一人としてNPO法の実現に力を入れてきた。
 その一方、人材養成という専門分野の中間支援組織として特定非営利活動法人「NPO研修・情報センター」 を立ち上げ、市民社会の担い手となる人材の養成・強化に尽力してきた。

 独自に開発した「協働コーディネーター」養成講座の参加者は10年で3000人近くになる。「協働コーディネーター」は参加協働型市民社会に不可欠の『専門職』だ。
 養成講座の修了生はNPOのリーダーや行政職員、企業人としてそれぞれの地域や持ち場で協働のまちづくりやコミュニティ・レストランなど多様な分野で成果をあげている。

 明治以来、日本の社会は「公(政府)」「私(個人)」の二元論でやってきた。その中間領域である「公共」を行政任せにし、行政に依存してきた。
 これからは「公・私・公共」三元論を軸に、新しい公共を市民活動によって拓き、強化していくことが大切だ。
 今後、「市民活動」の意味を明確にするため、市民・NPO・国会議員の協働で、「特定非営利活動促進法」の名称を「市民活動促進法」に変えていく必要がある。

 

 



 

 

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