Vol.47  2008年3月20日号

NGO的映画の楽しみ方  第6回 -- デイ・アフター・トゥモロー
        The Day After Tomorrow ローランド・エメリッヒ監督、 2004 年                     

長坂寿久(拓殖大学国際学部教授)

キーワード・・・ グリーンピース・インターナショナル、 energy [r] evolution 、
          エネルギー・〔レ〕エボシューション、環境NGO、地球環境、地球温暖化、日本沈没、不都合な真実

デイ・アフター・トゥモロー

(ローランド・エメリッヒ監督、 2004 年、米国)

1.「北半球凍結」――1万年前の氷河期へ

 地球が急速に氷河期へと陥って氷結していく混乱を描いたFSパニック映画である。『インディペンデンス・デイ』 (1996 年 ) で宇宙人にホワイトハウスをはじめ地球の各地を消滅させ、『GODZILLA』 (1998 年 ) にマンハッタンを踏みつぶさせたエメリッヒ監督は、この映画で地球の生態系を破壊した地球人を奈落の底に突き落とす。

地球温暖化が深刻化する中で、地球は逆に氷河期に向こうことになる現象をいち早く予測し、警告していたのが 古気象学者のジャック・ホール(デニス・クエイド)。彼の警告から数ヵ月後、世界各地は 前例のない異常気象に見舞われる。ジャックの警告は予想外の速さで襲ってくることになる。

 フロリダでは巨大な低気圧の雲。雷が夜空を劈く。 ロサンゼルスでは ロスの山の上にある「 HOLYWOOD 」の看板が飛ばされ、 超巨大竜巻によって壊滅す る。東京にはゴルフボールサイズの雹が大量に降り注ぐ ( 日本では 13 センチ大の雹が降ったことがあり、ありえないことではない ) 。 インドのニューデリーを襲う猛吹雪、 欧州や北欧は雪に埋もれる。 ニューヨークでは雨が絶え間なく降りつづける。地球 観測史上初の巨大ハリケーンが荒れ狂う。洪水でトンネルが陥没する。潮位が上昇し、地下は冠水する。ニューヨーク(マンハッタン)には巨大な高潮が押し寄せ、大洪水となる。

 急激かつ大きな気候シフトは6〜8週間という急激な速さで起きると彼は予測する。しかし、それが7〜8日以内にくることになり、やがて地球の北半球は48時間以内に1万年前の氷河期に入ることになる。ヘリコプターは油が凍ってしまい墜落する。洪水で浸水したニューヨークの街並みはまたたく間に凍結し、自由の女神も凍っていく。人間も瞬時に氷人間になって破滅していく。 その不気味さと美しさに圧倒される。

しかし、この映画の後半のストーリーはいただけない。人類の大危機の時に、ジャックは仕事を放り出し高校生の息子の救出に向かうのである。電話で息子に対して、外に出ないで暖をとり続け、救出を待つように説明すればすむはずである。億単位の人々が死に、あるいは生活を奪われて難民となる地球的パニックの時なのに、凍結が起こることを知っていれば、外に出たりしなければ決して人間が生きられない気温ではないのに、無理矢理ハッピーエンドを作るためにジヤックはワシントンからニューヨークへ氷上の危険な旅をし、同行した仲間を失いながら父子再開のシーンをダラダラと作り上げる。凍ってしまった外の世界の様子を見せたかったと言えばそれまでだが、なんともシナリオ性に欠ける後半である。

 また、この映画には、地球温暖化を招いた工業化への非難も、政府の無責任も糾弾されない。ジャックの警告を無視してきた副大統領一人が悪者になるだけである。しかも大統領が氷結による飛行機事故で死亡し、副大統領が大統領に昇格すると、素直に無理解を謝り、ホワイトハウスは国民に南のメキシコへ逃避するよう勧告する。そしてメキシコ大統領にはそれまでの横柄な態度から受け入れを懇願し、感謝する態度に変わる。この辺りはブッシュ政権の地球環境やイラクへの対応に対する皮肉が少し描かれているといえるかれもしれない。

 この映画の最大のブラックユーモアは、氷結するのは北半球であることだ。かつて地球は「全球凍結」 ( 地球全体が凍結 ) したことがあったことが立証されている。しかし、この映画は「半球凍結」、つまり北半球が凍結することを想定している。地球の温暖化をもたらした先進国側がまさにその復讐を受けるのである。

 しかしこの映画は、一万年の地球文明の終焉をもたらそうとしているのが人間自身あることをテーマにしているのだが、観客はこの映画によって地球環境問題への意識を向上させたりすることにはならないに違いない。ただ単に映像の凄さに圧倒され、最後は父子のハッピーエンドに収斂された楽観的な未来を感じて、映画館を出てくることだろう。地球温暖化の問題意識を啓蒙するには、アル・ゴアの『不都合な真実』(デイビス・グッゲンハイム監督、 2006 年、米国)の方がはるかに説得力がある。

 しかし、それでもこの映画を契機に、世界の環境NGOたちは地球温暖化を考える素材として広報を行い、発売されたDVDには、 メイキングビデオが収録された2枚組みとなっているが、それには環境NGOや科学者たちからの温暖化の危機を訴えるメッセージ「サイエンス・オブ・トゥモロー」が入っていて、なかなか面白い。
  また、 グリーンピース・インターナショナルは、当時、この映画をパロディ化した気候変動サイトを開設した。監督に米エクソンモービル社、プロジューサーにジョージ・W・ブッシュ大統領なる名前をあげていた。

 映画はこれまで多くのパニックものを送り出してきた。隕石の衝突も火山の爆発や地震や竜巻もやはり局地的パニックに止まるものである。巨大グモや微生物や宇宙人の襲撃は最初からは荒唐無稽なエイターテイメントである。これ対し、この映画は、すべてが凍っていく未体験の映像の大迫力を楽しみながら、私たちは、生きている地球を破壊することによってもたらされる 脅威と、それを前にした人間の営みを俯瞰的に見守ることになる。それが この映画の醍醐味である。

2.SF映画の仮説の面白さ――『日本沈没』

 こうしたSF映画で楽しみなのは、仮説の立て方である。例えば、『日本沈没』という小松左京の小説は2度映画化されている。最初が1973年、2本目が30年後の2006年である。73年制作 ( 森谷司郎監督 ) では、冒頭、ウェゲナーの大陸移動説とマントル対流の流れについての説明から始まる。ウェゲナーの大陸移動説をまだほとんどの人が知らない頃だったからである。マントルの日本海溝への沈降を上部の太平洋マントルが支えている。マントルの沈降にともない日本列島は日本海溝に引きずり込まれるが、やがて元に戻る。その時地震が起こる。ここまでは当時の科学的知見である。

 しかし、日本列島に沿った海溝で地殻の変動が起こり、太平洋マントルのバラスン機能が弱まり日本列島を支えられなくなり、マントルの沈降にともない列島は海溝へ引きずり込まれ、崩落していく。これが当時の映画 ( 小説 ) の沈没への仮説であった。

 30年後の06年制作 ( 樋口真嗣監督 ) では、沈没のスピードを速めるため、この仮説の上にさらに追加の仮説を用意する。海底のバクテリアが有機物を取り込んでメタンガスを発生させ、それが液化して潤滑油の役割を担いマントルの沈降を速めている。さらに、それによってデラシネーションと呼ばれる地殻の壁の崩落現象が起こり、一挙に沈降していくという想定である。

 日本列島がすべて崩落するまでに時間は338.54日、つまり1年もないのだった。しかも、06年版は、解決策もSF的に用意する。マントル対流によって海溝に引きずり込まれている列島の陸地部分を海溝に沿って爆破し、切断することによって、引き込みから引き離し、列島の沈降を止めるという方法である。

 しかし、この解決策が採用されるのは日本列島が相当沈没してしまった後である。切断に成功し、バラバラに小さい島となった日本列島の一部分は残る。マントル対流の日本海溝への沈降も、太平洋プレートによる日本列島の支えも科学的事実であるが、均衡が破れて支えきれなくなり、列島が沈没していくという部分はSFである。

 

3.氷河期再来の仮説

 何故地球温暖化によって急速な寒冷化がもたらされるのか。 氷河期が発生する理由は、まだ明確ではないが、太陽エネルギーが何からの理由で減少することから起きるとされている。この映画は、太陽エネルギーの変動なしに、地球温暖化にともなう地球内部の環境の変化から氷河期が起こるという仮説を発想している。この考え方は科学的にも存在するようだ。

 映画における地球温暖化がもたらす 氷河期への移行プロセスは次のとおりである。 南極のラーセンB棚氷の大規模な崩壊により、淡水が大量に海水に溶け込み、地球全体を回っている深層海洋大循環のポンプが停止し、結果として急激な氷河期が起こるという想定である。

 北半球の気温を左右するのは北大西洋海流である。赤道一帯から太陽熱を北に運ぶことによって北半球を温暖な気候にしている。しかし、地球温暖化が極致の氷を解かし、解けた多量の淡水が大洋に大量に流れ込み、塩の濃度が急激に低下する。この解氷が海流の流れを変えてしまい、気候の異常をもたらす。つまり、北大西洋海流の流れが止まり、温かい赤道一帯の太陽熱が北に運ばれなくなり、北半球には温暖な気候は失われ、急速な寒冷化がもたらされる。大西洋の海水温度が13℃も低下し、1万年間なかったことが起こる。短期間のうちに、地球は1万年前の氷河期に移行することになる。

 現在の地球全体の平均気温は15 ℃ である。それが1万年前の最後に訪れた氷河期では、平均気温が7〜9 ℃ 下がったという。それだけ気温が下がれば各地の気候は急激に変化し、生活様式も大きく変化することは確かであろう。

 この理論はまったく根拠のないSFというわけではないらしい。 地球温暖化がある段階まで達すると、極地の氷が融けて海洋になだれこみ、暖かい空気と海流の流れを止めてしまう。これによって地球全体の気候が凶暴化する、ということはありうると言われる。また、 映画と同じ海流理論で、海流の流れが止まってしまうため「今後10年単位で平均気温は4℃低下する恐れがある」とする科学者の見解も実際にあるという。

 但し、この映画のような 寒冷の規模と速度はやはり科学的には空想のようである。映画のように巨大な スーパーフリーズは起こり得ないらしい。海洋大循環の停止をもたらす、ラーセンB程度の小さな棚氷が何個完全に溶けても大して塩分濃度が変わるわけではない、それに溶けるのには長い時間が掛かりうるというわけである。

 この点で、この映画は、地球温暖化問題は温暖化ガスなどによって地球の大気温度が上昇するから大変だといっているだけでなく、それによって起こる地球の循環への影響を明示していること、つまり大気と海流の動きが様々な連鎖反応を伴って、予測のつかない気候変動が起きていくという、生きている地球の活動の奥深さを感じさせてくれる。

4.後戻りできない地球温暖化の現実

 2007年は、地球上の人類がそれぞれの「生活世界」において地球の異変に気付かせられた年、あるいは地球温暖化の危機ラインの目安としての2℃上昇への「ポイント・オブ・ノーリターン」(二酸化炭素の排出をストップしても平均気温は上昇し続けて2℃を突破してしまう、後戻りできない時点)を突破してしまうことが明らかとなった年として記憶されることになるだろう。

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が出した2007年の第4次報告書は「地球システムの温暖化には疑う余地がない。20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは、人為起源の温室効果ガスの増加が温暖化の原因であった可能性が高い( 〜 95 %の確かさ)と指摘し、2℃以上上昇の必然性を断定することになった。

 これを受けて、2007年6月のドイツでのハイリゲンダム・サミット(G8)では、総括文書に「2009年までに国連(気候変動枠組条約交渉)の場で京都議定書に次ぐ次期(2013年以降)枠組を決定していく」と07年12月から始まった京都議定書後の交渉開始をオーソライズし、「2050年までに地球規模での温室効果ガスの排出を少なくとも半減(50%削減)させることを真剣に検討する」という言葉が盛り込まれた。

 次いで、9月のシドニーでのASEAN(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議では、省エネルギーの推進や森林面積の拡大といった地球温暖化対策で数値目標を盛り込んだ特別声明「シドニー宣言」を採択した。省エネの目安となる「エネルギー利用効率」をAPEC域内で2030年までに2005年比25 % 以上改善する、域内の森林面積を2020年までに2000万ヘクタール(本州の面積に匹敵)増やす、といった数値目標が含まれている。

 京都議定書に参加していない米国、オーストラリア、中国、それに途上国も含む、世界の温室効果ガスの約60%を排出するAPEC参加21カ国・地域が数値目標で一致したことでは確かに意義ある前進のように見える。しかし、具体的交渉はこれからである。

 地球の平均気温が産業革命前に比べて「2℃を突破すると地球上にさまざまな破局的現象が生ずる」と予測されている。こうした中で、海洋研究開発機構と宇宙航空研究所開発機構は、2007年9月10日には、衛星で観測した北極海氷面積が436万平方キロメートルと史上最小となり、さらに記録を更新中で、これがグリーンランド氷床やツンドラの融解を加速していると発表した。北極海氷は太陽光線を反射するため地球気候システムの“冷却板”の役割を果たしているため、北極海氷の急速な融解は本当にただごとではないと専門家は指摘している。

 地球温暖化の暴走(ランナウェイ)が引き起こされる引き金となるのが気温上昇2〜3℃で、これは21世紀末と考えられていたが、2050年頃となる可能性が指摘され、2028年と予測され、さらに2℃突破の確率は2016年に50%を超えると予測されるに至っている(山本良一『地球温暖化地獄』ダイモンド社、 2007 年)。

 2℃突破を抑制するには、2012年までに全世界の温室効果ガス排出量を減少に転じさせなければならない、あるいは今から2℃以内に抑えるのは不可能である、といった予測も出されるようになった。そして、「2050年までに温室効果ガスの削減目標は80%が当然」と指摘されるようになった。

 地球気温が2℃に達すると、「海面上昇とサイクロンで1200〜2600万人が移動、10〜28億人が水ストレスを受ける、珊瑚礁の97%が死滅する。グローバルな穀物生産が低下し、食料価格が増大し、1200万〜2億人が飢餓リスクに晒される。そして、多くの生物が死滅の影響を受ける」(国連資料)という。

 飢餓、マラリア、洪水、水不足などが急激に進行し、多くの人々が脅かされる。まず開発途上国の貧しい人々がその被害にあう。干ばつの多発、海面の上昇、疫病の蔓延、農作物生産力の低下、生物多様性の消失。2100 までに海面は80センチ上昇する。ツバルは世界で最初に沈む国となると言われている。

 温暖化によって 水不足が起こることは容易に想像がつく。気候が変化することによって水や食料生産環境が変化するため、人は移動せざるを得ず、人の移動によって人々の対立、紛争が起こる。2003年発生のダルフール紛争の原因の一つが干ばつの長期化である。 気候変動によって200万の難民が発生したことから始まる。水と牧草を求めて人々が移動し、そこに石油利権が登場し、スーダンを支持する中国への気兼ねなどから長期化していった。今後2億人が自然災害で難民となり、新たな紛争の種となる恐れがあると国連は報告している。現在、紛争 ( 戦争 ) 難民は2300万で、環境難民 ( 自然災害による難民 ) はすでに2500万人いる。環境難民の方が多くなっているのである。

 地球温暖化問題について、今年の洞爺湖サミットの位置づけは実に大きなものとなっている。G8の役割は、主要国の国益の調整の場としてではなく、「地球益」を確認し、対応にリーダーシップをとるための調整の場となるならば、G8はその正当性を保持しうるといえよう。G8の役割がこうした地球統治(グローバル・ガバナンス)としての役割に転換する可能性をもちうるという意味でも、洞爺湖サミットの歴史的意味は大きいと思われる。しかし、すでに日本の政治力は国際的視野から完全に「沈没」してしまっているかのようだ。
5.削減目標の競争へ

 このように地球環境問題への認識は、2007年を契機に大きく転換した。欧米の政治家も経済界も、地球温暖化をもたらす排出ガスの削減を競い始めている。前述のハイリゲンダム・サミットでの2050年までに世界のCO 2 排出量を50%削減するという目標値の明記に続き、EU(欧州連合)は2020年までに20%の削減を約束しており、英国は2050年までに、ブレア前首相時代(2007年)に60%削減を発表していが、現ゴードン首相は80%削減を決めている。ドイツは2020年までに40%削減を約束しており、ノルウェイは2030年までにゼロエミッション化すると発表している。

 また、EUはCO 2 排出権を2013年以降は完全有償/有料化するとしている。排出権を自分でお金を出して買う必要がある時代になるのである。さらに2020年までにリニューアブル(自然)エネルギーを全エネルギー需要の20%にもっていくとしている。スウェーデンはおいては2020年の自然エネルギーの目標値は49%としている。

 日本経団連は、今年( 2008 年)1月、世界の経済界や政治家のトップが集まるスイスのダボス会議で、従来の産業別削減目標ではなく、国別の削減目標方式に賛成する旨やっと発表したが、目標数値については提示できず、そのため日本の発表はまったく評価されなかった。欧米の政治家も経済界の人々も、政府によるもっと厳しい取組みの必要性を口を揃えて語るようになっているが、日本の経済界の認識もまた国際的視野から「沈没」してしまっている。

 京都議定書への不参加を表明してきたオーストラリアでも政局の変化が起きた。この国は2007 年に大干ばつに襲われ、選挙でハワード長期政権が敗退し、野党の労働党が勝利、新政府は京都議定書への参加を表明した。

 米国でも、すでに削減目標の競争時代が始まっている。カリフォルニア州とニュージャジー州は、2050年までに80%削減を目標とする州法を導入した。連邦議会では、2050年までに53%削減目標とするリバーマン・ウオーナー法案が委員会で採択され、08年の本会議での採択を待っている。全米ですでに30以上の州と800以上の市が京都議定書の遵守を打ち出し、取組みを開始している。大統領選挙戦を闘っているヒラリー候補は2050年に80%削減を公約している。

 このように、NGOたちが主唱してきた2050年までにC O2 削減50 % はすでに国際的常識となっており、80 % 削減が先進的目標として定着しつつある状況にある。

6.NGOの提案
―― グリーンピースの『エネルギー・レ [ エ ] ボリューション――持続可能な世界エネルギーアウトルンク』

 地球温暖化への対応として、今国際的に注目されているのが、英国のニコスラ・スターンの報告書 『 The Economics of Climate Change 』 である。地球温暖化による経済的被害はこのままいけば世界のGDPの20%に及ぶだろう。それに対応するコストは世界のGDPの1%の 負担増で可能であると推計している。

 また、NGOの主張として、 現在もっとも注目されるようになったのがグリーンピースの『エネルギー [ レ ] エボリューション』シナリオである。

 地球環境問題について、NGOはいつも先端的に問題・課題を指摘し、いち早く取り組んできている。NGOはいつも地球の、そして人々の生活世界の最先端におり、活動している。政府・企業とも、NGOの活動を知ること、NGOと協働することが、ますます重要な意味をもつようになってきている。世界がNGOの提示する目標値に急速に近付いてきている。

 グリーンピースは、ベトナム戦争当時の1971年、米国の核実験への抗議運動がきっかけで誕生した国際NGOである。問題が起こっている現場へ行き、現場の証人となり、同時に抗議の意を示す、当時としては驚くべきアイディアと行動である「非暴力直接行動」を理念として設立された。

 以来、地球温暖化、酸性雨や有害物質、遺伝子組み換え、海洋生態系、森林、有害物質、核・原子力等々、地球規模の環境問題(グリーン)と平和問題(ピース)に取り組む、世界でも代表的な環境保護団体のひとつとなっている ( 本部はオランダのアムステルダム ) 。

 世界27カ国にグリーンピース団体が設立されており(グリーンピース・ジャパンは1989年に設立)、42カ国に事務所を置いている。世界の会員総数は250万人で、会員の会費のみで運営され、企業からの寄付や政府の補助金等は受けないことを理念としている(但し、企業支援は個別プロジェクトベースでは受けることがある)。

 グリーンピース・インターナショナルは欧州自然エネルギー協議会 (EREC) と共に、2007年1月、『エネルギー [ レ ] エボルーション ―― 持続可能な世界エネルギーアウトルック』 (energy [r]evolution: A Sustainable World Energy Outlook) を発表した。「 [r]evolution 」とは、エネルギー革命とエネルギー進化をかけた言葉として使っている。

グリーンピース・ジャパンのホームページから日本語版を入手可能。

 グリーンピースの 『エネルギー [ レ ] エボルーション』 シナリオでは、2050年までに、一次エネルギー需要の50%を自然エネルギーによってまかなう。それによって、2050年までに世界の二酸化炭素総排出量を、1990年比で50%削減すると同時に、原子力発電の段階的廃止を行ない、 化石燃料消費の大幅削減も実現する。CO 2 を回収して地中や海洋に捨てる、いわゆる貯留も不要である。こうしたことを、エネルギーの安定供給と世界経済の着実な発展をともないながら可能であると、 というものである。

 2050年までに、二酸化炭素の排出量を経済を圧迫することなく、今後43年以内に半減すること、そして自然エネルギーを大々的に導入することは、技術的に可能であることを明らかにしている。条件はそろっている。「欠けているのは、政策による支援だけだ」とグリーンピースは述べている。

 この報告書の調査と分析にあたったのは、ドイツ航空宇宙センター (DLR) をはじめ各国の研究者、エンジニアなど約30名。このうち日本についての調査分析は、環境エネルギー政策研究所 (ISEP) が担当した。

 本報告書の提案は、IPCCの第4次報告書の発表や地球温暖化の加速化の傾向が顕在化するに従い、ますます国際的に注目される提案となってきている。

 OECD諸国の発電所の多くはこの10年程に寿命を迎え、建て替えが必要となる。もし石炭火力発電所を再び建設したら、それらは2050年までに二酸化炭素を排出し続けることになる。原子力も、世界の稼働中の原発の大半は、運転開始からすでに20年以上を経過し、老朽化が進んでいる。事故の発生率は高まる一方だ。原子力の寿命は設計上40年前後だが、電力事業者はこれを60年位にまで引き延ばそうとしている。世界は、「これから数年のうちに電力事業者が下す決定にかかっている」と指摘する。

 グリーンピースの「エネルギー・シナリオ」の内容は次のようなものである。

 京都議定書締約国は第二約束期間(2013〜2017年)における排出量は1990年比で18%の削減、また2018〜2022年までの第三約束期間においては30%の削減を、先進国に対し目標とするよう求める。2050年までには、OECD諸国は CO2 の排出量を80% 削減することは可能であるというシナオリである。

 2050年には世界の最終エネルギー需要は47%減少させる。エネルギー効率のよい家電製品、冷暖房システム、コンピュータ、自動車などが市場を席巻するようになる。また、経済成長と化石燃料消費を切り離すことが必要である。1971年以降、世界のGDPが1%成長するにともない、一次エネルギー消費は0.6%増大している。従って、将来のエネルギー需要を削減するには、エネルギー需要の伸び率とGDP成長率の分離、いわゆる「デカップリング」が不可欠である。

 自然エネルギーは2030年までに世界のエネルギー需要の最大35%を供給できるようになり、2050年までに50%を供給するようになる。風力発電機、太陽光発電、バイオマス発電、太陽熱温水システム、地熱、潮汐力、水力をはじめとする自然エネルギー技術の向上、成長と、エネルギー効率化技術とを組み合わせることによって、現在と同水準のエネルギー・サービスを提供しながら、エネルギー消費の大幅削減も可能になる。

 エネルギーの生産・流通・消費のあり方を基本的に変えることが必要である。自然エネルギーの利用を、とくに「分散型エネルギーシステム」の拡大を通して増大させる。「分散型システム」とは、エネルギーの地産地消である。電力や熱は最終消費地近くで生産されるため、送電などにともなう損失が少なくてすむ。2050年には世界のエネルギーの大部分は分散型エネルギーで供給する。

 自然エネルギーやコデェネレーション(熱電供給)と、エネルギーの効率利用を組み合わせることによって、グリーンピースの提案は達成可能である。小規模分散型の自然エネルギーとコジェネレーションによって、今後20年のうちに世界のエネルギー消費を横ばいにすることが可能であるとしている。

 現在、世界では20億人が電気にアクセスできずにいる。分散型システムによればこれらの人々へ電気を提供することが可能となる。また、途上国は分散型自然エネルギーとエネルギー効率化技術を選択することで、経済成長を損なうことなく、十分なエネルギーを享受しながら、二酸化炭素の排出を実質的に抑えることができるだろう、とグリーンピースは2050年へのエネルギー・シナリオで明示している。

7.自分でできること

 他方、地球環境に対して、NGOたちは自分でできること、 自分の行動を変えることについて多くの提案を行なっている。「自分でできること」について、NGOが提案していることを最後に少し紹介しておこう。

 すでに 多くの消費者運動がNGOによって提唱されている。エコ商品(有機、自然食、健康食等)のコンセプト、産直運動、グリーンコンシューマー運動、スローフード運動、LOHAS、環境保全運動、食育運動、生協運動、地域の多くのNPOが「自分でできること」を提唱している。途上国の貧困問題や紛争、平和、人権などの問題に取り組んでいるNGOも多い。反グローバル化運動、地球環境運動等、すべての市民社会運動と問題意識はつながっており、それらを具体的に結びつける取り組みが求められている。

 自分でできることを日常的に考えると、自動車ではなく、バスや電車を使う、お皿の数を減らす ( 水使用削減 ) 、最近では、カーボンフットプリントをカーボンオフセットにするという提案も普及してきている。自分たちが排出したCO 2 を削減してくれるカーボンオフセット・サービス会社がある。お金を出すと途上国のCO 2 を削減するプロジェクトに投資してくれる。インターネットで自分が出したCO 2 を算出しお金を払うのである。

 フェアトレードなど新しい消費革命を目指す『ニュー・コンシューマー』誌は、『新消費革命への道』として、次のよう提案を行なっている。いずれもNGOたちが開発してきた手法である。

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●〔新消費革命への道〕●

 @グリーン電力へ切り換えよう

 Aフェアトレード商品を買おう

 Bプラスチックの買い物袋を断ろう。長持ちする自分用の麻袋をもとう

 Cカーボン(炭素)ニュートラルにしよう。炭素のフットプリントを数え、相殺しバランスするよう対処しよう

 D長持ちするものを買おう

 E産直の食品 を買おう

 F有機 農作物 を 食べよう

 G公共交通機関を使おう。バス、地下鉄、自動車をプールし合い、あるいは自転車を買おう。

 H暖房の温度を一度下げよう。

 I環境問題に関心があり、すぐ取り組む自治体議員をみつけよう

 Jミクロを理解するために、グローバル経済の本を読もう。読書も重要だ。

 Kコンポストしよう(堆肥をつくろう)。

 Lフェアトレード団体の会員になろう。フェアトレード団体のメルマガや通信リストに登録しよう。もうそうしているなら、友達に勧めよう。

 M購買習慣を革命的にするのは容易だといえる友達をもとう。

 N物質的なものに惑わされず、倫理的なキャリアを選択できるようにしよう。

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(出所)『 New Consumer 』誌(2006年1・2月号)

長坂寿久の映画の本: 『映画で読む21世紀』明石書店、 2004 年、『映画、見てますか。 Part 2』文藝春秋社、 1996 年、『映画、見てますか』文藝春秋社、 1990 年(『映画で読むアメリカ』朝日文庫で再版、 1995 年)。


 

 



 

 

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