Vol.46  2008年2月5日号

12月「NPO公共哲学研究会」報告

                             土田修(NPO協働e-news編集委員)

 NPO公共哲学研究会(略称NPPC)12月定例会が12月25日(火)午後6時半から、東京都杉並区のすぎなみNPO支援センターで開かれた。

 テーマは「中国北京五輪とNPO公共哲学」で、笹川平和財団主任研究員の岡室美恵子さんが1時間余り講演した後、参加者15人と質疑を交わした。岡室さんの講演概要は次の通り。

 ――北京五輪(2008年8月)は2001年7月、モスクワで開催された第112回IOC総会で開催が決まった。IOC基準に見合った環境にやさしい技術による建設、植林と環境保護、一般大衆の環境意識向上、市民のエコライフ奨励をめざすグリーンオリンピックと位置づけられている。既に広報された五輪キャラクターはパンダ(森林)、ツバメ(青い空)、チベットカモシカ(草原)などをあしらっている。

■五輪開催への負の要素

 2007年10月に出たUNEPの北京五輪環境評価では、多額投資の成果を上げているとの評価はあったが、大気汚染や温室ガス効果、公共交通機関の問題など今後の課題が指摘された。

 北京五輪について欧米では、スーダン・ダルフールの国際人権問題を重視しており、フランスのサルコジ大統領はスーダンを支援する中国が開催する五輪へのボイコットを呼びかけている。このほか、チベット、ウイグルの国内人権問題、住民強制退去、政治犯の問題などもあり、今後の動向が注視される。

 中国法律年鑑によると「国家の安全に危険をさらす」行為での逮捕者は296人(2005年)から604人(2006年)に急増した。その背景には2007年の党大会開催がある。中国では党大会開催にあわせて取り締まりや引き締めが強化されることがある。同時に経済格差で一般大衆による争乱事件が増えているのも理由の1つ。

■NGO飛躍のプロセス

 一方、北京五輪はNGOや市民社会の発展にとって大事な飛躍のプロセスでもある。

 中国にはNGOを規制する2つのハードルがある。「1行政区1分野1団体」という規制と業務主管単位(主務官庁)の許可。1つ目は1行政区に同じ分野の団体が1つしか認めないという制度。もう1つは、新しく団体をつくるとき、自分たちで主務官庁に当たる役所を探さなければならないという原則。市民の自発的発意に基づくグラスルーツ団体は法制度の面できちんとした地位を与えられないのが現状。

 しかし、1992年、ケ小平の南巡講話(経済先富論)を機に、経済的に豊かな人が増え意識変化が生じ、グラスルーツが増える。93年に「自然之友」が活動開始し、94年に北京文化書院別院として登録。95年には国連世界女性大会があり、NGOフォーラムを結成。「農家女」「紅楓」などが世界の表舞台に躍り出る。

 96年に北京地球村はNGOではなく民間非営利企業として、緑家園はボランティア集団(掛コウ=ぶらさがり)として活動開始。

 98年に米大統領クリントンが訪中し、地球村の寥暁義と自然之友の梁従誠と面談し注目を集める。中国政府はNGO活動を「合情不合理」(社会主義国家の理に合わない)としながらも「三不主義」(接触せず、承認せず、取り締まらず)=黙認の立場をとる。

 中国政府は99年に五輪招聘申請。その際、グリーンオリンピックに向けての取り組みが必要なので環境NGOの力を借りることになった。2000年にアースディ2000北京フォーラムが開催され、地球村の寥氏が環境のノーベル賞といわれる「ソフィー賞」を受賞。同年8月に政府とNGOが「エコオリンピック行動計画」に調印し、官民協力での取り組みが始まった。寥氏の記事で人民日報が初めて「NGO」と記載する。

 NGOの活動としては03年、世界遺産の怒江のダム建設計画に環境NGOが異議申し立てし、翌04年に政府が棚上げ宣言。中国で初めてグラスルーツが中央政治に影響を与えた。

■変わりゆく中国社会

 中国では農村部から都市部への非合法流入が後を絶たず、社会不安が起きている。都市部の政府は労働力として認める方向で動いているが、NGOも受刑者を地域で受け入れて矯正させる「コミュニティ矯正」というサービスを開始。その一方でNGO登録のふるい分けが始まった。目的は五輪に向けた社会不安解消。その1つ、「民間シンクタンクに対する新規制」で規制回避のための企業登録ができなくなった。

 07年、中国発展簡報と中山大学の雑誌「民間」が発禁になるなど思想面での管理強化が進んでいる。

 中国政府は社会主義市場経済の進展に伴い、93年に社会主義ではあってはならない「失業」を認めた。さらに社会保障の不足を「慈善事業」が補完することを党が認めた。

 07年の第17回党大会で胡錦涛は「慈善事業、商業保険で補充し社会保障制度を完備すると報告。現実に社会的起業家としての慈善家や篤志家が出現し始めている。経済特区の深セン市にはライオンズクラブもでき、経済界が地方自治を先導し始めている。


 



 

 

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