5.全国の実践事例
第4章では全国6人の実践者から事業の経過や現状の課題、責任者は協働コーディネーターであることの苦労、そのやりがいと喜びが示される。
(1)「地域食堂」(釧路市弥生 工藤洋文さん)
工藤さんは、認知症通所・入所介護を実施している NPO の事務局長でもあるが、コミレスによって引きこもり気味の独居老人を外へと誘い、集まることの楽しさによって介護予防を図ること、また子育て中の母親に外食の場を提供することも目的である。来た人を必ず名前を覚えて呼ぶことの励行にケアのこころが、事業としての収支規律に意を払い、地元のネットワークから人材を得ることで地域に合った可能性に応える姿がみてとれる。
(2)いこいの店「野の花」(札幌市豊平区 伊藤規久子さん)
都市住民の問題解決型のコミレスである。高齢化率は高まりつつあるものの、なおバイタリティを残す大都市に立地し、「地域のお茶の間」づくりを目的としている。そのためには地域住民の様々な能力や知恵を活かすことが必要と考え、考えたからには実行しようと集った同志の面々が、共同出資で資金を集め、店舗所有のメンバーは割安で貸与し、メンバー同士で議論し、運営面でのノウハウを蓄積しながら進める、学びの共同体である。
(3)「浅めし食堂」(青森市浅虫 三上公子さん)
三上さんご自身が保健師であり、医師である夫君とともに地域医療に携わってきた経歴を踏まえ、日常の食の改善プロジェクトとしてのコミレス事業を、先行事例研究や行政等理解者からの援軍を得て実行しているものである。温泉地なるがゆえの飲食業集積もあっての誤解・中傷と戦いつつ、既往集積とのうまい補完関係を形成しながら、実は求められていた地域づくりの要請とコミレスを結び付けて今日の成功に至る姿は感動的である。
(4)地域の茶の間「てまえみそ」(浜松市中区 富田久恵さん)
「てまえみそ」の名は、一人ひとりの手前味噌(好きなこと、得意なこと)を持ち寄って事業をなすことを表象し、同時に専門性の「うんちく」を傾け、ミッションには徹底的に「こだわる」姿勢をもって「人も、まちも、自分も、元気になれる場」の形成を目指している。コミレスのみならず、朝市、ギャラリーショップ、フリースペース提供の4つを事業に含めている。模範的な世古学徒である富田さんらしいプロジェクトである。
(5)コミュニティ・レストラン「シュフ・シェフ」(海南市名高 かもとみゆき さん)
親子が共に「成長」することを組み込んだ「海南子供劇場」を立ち上げた経験を有し、マネジメント能力に長けた“かもと”さんが、 JR 海南駅前の飲食系空き店舗を得たことをきっかけに、コミレス哲学を踏まえた活動に転換したものである。主婦が「1日シェフ」になれる日替わりシェフ登録制度を導入、コミレス・ネットワークを利用した研修にも怠りなく、また公共の助成制度を巧みに活用して事業運営を行っている。
(6)コミュニティ・レストラン「 PIKO ・ POKO 」(北九州市小倉北区 宮村 貴幸さん)
子育てコミュニティスペースを併設した子育て支援がコンセプトである。宮村さんは、ご自分の経験を通じて、子育ては、親、地域行政支援者、専門家のすべてが互いに協力しながら子供と一緒に親も育っていく環境が必要で、子育て環境の改善はまちづくりであるとの認識に至ったという。自宅近くの元倉庫を公的金融の支援で改造し開業、収支的にはなお厳しいがミッションの追求を行っている。頑張ってください。
巻末に付けられたコミレス・ガイドはたいへん充実している。所在・連絡先、運営主体、コンセプト、サービス内容等の紹介がある。それらに加えて開業資金、助成の有無、家賃、収支状況の判るデータも盛り込まれている。今後「コミレス白書」のような形でフォローアップが望まれるが、単なる飲食業ではない「コミレスの成果」をどう捉えていったらよいのかという評価の指標づくりが期待される。それらを通じてボランティアなどインプット面の寄与とその必要の程度も明らかになるし、行政との協働がどういった部分で必要なのかといったことに光を当てることができるように思われる。 |