Vol.45 2007年12月24日号

「コミュニティ・レストラン」発刊に寄せて

                   久保田裕美( TRC メルマガ編集委員 / 農政調査委員会 )

キーワード・・・ 食生活、地域、協働コーディネーター、地産地消、ネットワーク

現代人の食生活

 現代人の食生活を思い描くと、栄養バランスの偏りや食生活スタイルの乱れが容易に想像できる。たとえば、三大栄養素であるたんぱく質( P )、脂質( F )、炭水化物( C )のエネルギーバランス(PFCバランス)を見てみると、昭和50年代ごろの米を中心とした日本型食生活に見られた適切なバランスから、現代では、脂肪と動物性たん白質の消費量が増加し、脂質に偏った
PFC バランスになっている。

 食生活スタイルについては、家族全員が自宅で夕食を一緒に食べた回数を見てみると、2人世帯では50%以下、3人以上世帯については、わずか 15%という状況である(農林水産省「食品ロス統計調査報告」)。また、働き方を見ると、5人に1人が10時間を超えて働いており、会社までの通勤時間の平均は1時間18 分で、東京圏は 1 時間 42 分、大阪圏は 1 時間 25 分と、都市圏の人の方がより長い通勤時間となっている( NHK 国民生活時間調査)。職場での長時間労働が恒常的になり、その上、通勤に 1 時間以上かかるという生活スタイルでは、家族全員で夕食を食べる食生活の実現は、非常に難しい状況にある。

日本の食料事情

 ところで、わが国の食料事情はというと、自給率39% ( H18 年カロリーベース)、つまり食材の6割以上を海外に依存している。日本の自給率は、先進国の中でももっとも低い数値である。さらに穀類については27%という状況にあり、米を主食としているはずの日本の穀類自給率が3割もないのである。ちなみに、米の自給率は94%、小麦が13%である。自給率が低ければ、国内農産物を増産すればよいという人がいるかもしれない。農業の現場では、高齢化、耕作放棄地の増加、担い手不足、農産物の価格低迷など問題が山積であり、いろいろな努力がされているが、増産以前に生産基盤の維持ですら厳しい状況にある。また、地産地消への期待が高まっているが、これまでの需給構造からみて、すべての食材を国内から調達することは非現実的である。

 現代の食生活は、バランスが偏った食事、家族ばらばらの食事、、、そして海外依存といった多くの課題がこうしている進行している。こうした現状を打開できるのは、出来ることから少しずつでも実行していく私たちの「行動」に他ならない。

「コミュニティ・レストラン」

 現代の食をとりまく状況の中、行動につながる一例として、本書『コミュニティ・レストラン』を紹介したい。「コミュニティ・レストラン(以下、コミレス)」とは、「楽しく働き、おいしく食べる、くつろぎの場」をコンセプトに展開する地域の食卓であり、1998年から特定非営利活動法人 NPO 研修・情報センターが展開してきたプロジェクトである。詳しくは本書を参照いただきたいが、コミレスは次の5つの機能を包含している。

@人材養成機能、A生活支援センター機能、B自立生活支援機能

Cコミュニティセンター機能、D循環型まちづくり機能

 また、コミレスは、いろいろなテーマをもって立ち上げ、NPOとして運営していく事業モデルである。たとえば、「安心安全な食の提供」「障害者の働く場づくり」「高齢者の会食の場づくり」「循環型社会の拠点づくり」など地域の人々の多様なニーズにあわせてテーマを決めていく。食材に関しては、食材をまるごと食べる「一物全体」や、「 医食同源」「身土不二」などの考え方がコミレスのコンセプトに反映されている。食べ物を大事にすることは、昔の日本の台所では当たり前に実践されていたことなのであるが、現代の台所では失われつつある。

 人々が集い、楽しく食事をする。昔は家庭の中に当たり前に見ることができたのかもしれないが、現代では、家庭内でそれを実現するのが難しい状況の人も増え、地域が受け皿として、その役割を果たす時代となったのかもしれない。本書を読んだ後には、こんな居場所が自分の地域にもあったらいいなと思う読者も多いのではないか。

 コミレスは、営利の追求ではなく、地域支援の社会的ミッション(テーマ)を持っているという点で、一般の企業が経営するレストランとは異なるものである。そのため、一般の営利組織の経営だけでなく、 NPO の経営の要素が必要となる。そのため、協働コーディネーター(詳しくは NPO 研修・情報センター HP 参照)として、 NPO マネジメントの力が求められる場とも言える。

 コミレスは、食を核にした地域づくりの拠点として、子どもからお年よりまで世代を問わず、地域を元気にする取組である。本書では、北海道、青森、静岡、和歌山、福岡など全国のコミレスの実践者から寄稿された現場のレポートが収録されている。苦労や課題、喜びややりがいなど、実践者の生の声は、コミレスに興味がある人、これからコミレスを立ち上げたいと思っている人にも、非常に参考になる内容である。

各地に広がるコミュニティ・レストランネットワーク

 こうしたコミレスの概念に賛同する仲間を中心に、ネットワークが各地に広がっている。本書巻末には、コミレス・ガイドが収録されている。コミレスは全国各地にあるので、ぜひ地元のコミレスを探して行ってみて欲しい。残念ながら近くにないという人は、旅行などで各地を訪れた際に、またはコミレスを目当てに旅行を計画するなど、ぜひコミレスに足を運んでみてほしいと思う。


 



 

 

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