今年8月、新たな市民社会構築をめざし、「NPO研修・情報センター」(略称TRC=世古一穂代表理事)が事務局となって発足した「NPO公共哲学研究会」(NPO PUBLIC PHILOSOPHY CONSORTIUM=略称NPPC)は9月29日、 東京都杉並区 の「すぎなみNPO支援センター」で「協働 " 再考 " フォーラム」(TRC主催)を開き、「公共」から見た市場化テストの問題点や、「公共」をめぐる今後の課題などについて話し合った。
同フォーラムでは、まず、伊藤久雄・東京自治研究センター事務局長が「市場化テスト・指定管理者制度等の問題点」をテーマに、続いて、稲垣久和・東京基督教大学教授が「『公共』とは何か――公共哲学の視点から」をテーマにそれぞれ講演し、管理委託や競争入札など自治体業務の問題点や「公共」概念の重要性について参加者と質疑を交わした。
伊藤氏は、自治体業務の中で業務委託や競争入札が低価格競争を招いている実態や、予定価格(基準価格)算定の問題点に触れ、「NPOを安い下請け機関としか見ていない自治体のNPO観に問題がある」とし、今後の課題について「公共サービスの担い手は多様化しているが、自治体が安く買いたたけば地域は疲弊する一方だ。モニタリング評価システムの確立など、市民や利用者が参加する多様な評価主体の形成が必要だ」と述べた。
一方、稲垣氏は、「哲学とは現実に起きていることをラジカル(根源的)にとらえ直すことだ。公共哲学においては他者との共生が重要な課題となる」とした上、「自治体業務が価格競争に走るとすれば、生活の質や生きている現場、人間そのものについての視点が忘れさられてしまう」と指摘。共に生きる「自己・他者」の権利の整合性を図り、「自己・他者」の幸福を追求する公共哲学の有効性を力説した。
さらにNPO、NGOなど市民セクターの活動を広げていく上で、最近のEU(欧州連合)内の法的基礎として定着している「補完性」の思想的ルーツとして注目を集めているアルトゥジウスのいわゆる「領域主権論」についても説明した(註1)。
フォーラムにはNPO市民団体関係者や行政職員、研究者ら約50人が参加。講演後の質疑では、「『市民主権』と『領域主権』とはどういうものなのか?」「『市民主権』と『領域主権』の違いは?」など、「市民主権」と「領域主権」についての質問が集中した。
領域主権について、稲垣氏は「『生のニーズ』を基本にして、生命、生活、生存という基本的なものが充足される社会とはどういう社会か? 自己・他者関係を考慮しつつ、皆が幸せになれる社会を、暴力ではなく対話によって築いていく、そうした各領域での主権を確立していくこと」と説明。「『国民主権』の名の下に、結局は公・官がトップダウンに主権を行使し、民衆がそれに従うのではなく、(民衆の側から)ボトムアップに議論し、対話能力を開発し、違った意見を調整しながら自他が幸福になるような社会を築き上げること、それが『領域主権』だ」と話した。
また、「市民主権」については「国家からではなく市民の側から発想し、地方自治体から決めていく政治理論のこと」と説明(註2)。その上で、稲垣氏は「以前は『国家主権』に対して『市民主権』という言葉が使われた。国境を越えてネットワークをつくるNGO・NPOが活動している現在は、地方分権的な意味での『市民分権』ではなく、領域ごとに主権というものが分散されていくという意味で『領域主権』という言葉を使いたい」と語った。
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