Vol.41 2007年8月10日号

協働のデザイン  第26回 協働「再考」〜格差社会をつくる民営化、市場化テストの問題点!

世古一穂(金沢大学大学院教授 / (特非)NPO研修・情報センター 代表理事)

キーワード・・・ 協働、市民への分権、民営化路線の問題点、協働コーディネーター

1. 「協働」とは
 1998年にNPO法が施行されて10年がたった。

 NPO法人数は3万6千(2007年7月現在)を越え、日本社会に着実に定着した感がある。

 今日、市民・NPO・企業と行政がお互いを理解し合いながら共通の目的を達成するために協力して活動する「協働」というスタイルが、全国各地で取り組まれている。

  「協働」は市民にとっては、生活、活動する地域、まち・都市について考え、行動し、責任を分担することによって、参加協働型の地域、まちづくりを実践し、住み良い、住み続けたいまちづくりを実現するとともに自己実現をはかり、市民、NPOが専門的な能力を高めることが可能になる方策である。

2. 真の「協働」は市民社会への分権
 協働は、地域への分権、市民社会(=市民セクター=NPOセクター)への分権である。

 地方分権は国から都道府県、市町村へのタテの分権である。

 協働はタテの分権ではなく国、都道府県、市町村という行政セクターからそれぞれのレベルへの市民セクターへの水平分権である。

 公共公益領域を行政セクターと市民セクターがどのように役割分担し、公共の仕事を担っていくかということである。

それには、市民セクターへの分権は税の再分配を伴うことはいうまでもない。

 

税制改革なしには真の「協働」はすすまない。

 また、「協働」とは行政が担うべき公共領域とNPOと協働する公共領域、NPO、市民が担う公共領域を設定していくということであり、それは行政改革の新しい手法と言えるのである。 協働は、地域への分権、市民社会(=市民セクター=NPOセクター)への分権である。

3. 現実の「協働」と聖域なき民営化路線の問題点
 各地での「協働」の取り組みは、まだまだ実践の中での試行錯誤の段階のものが多く、NPOが行政の下請化する傾向があるとともに、自治体の担当者レベルで実務の負担感・・・NPOとの合意形成、NPOの専門性の不足等も関連・・・から「協働」への取り組みに消極的な意見も少なくないのも現実である。

 また、日本の政府や自治体の多くが現在、民営化、市場化テストに邁進しているが、福祉、医療、教育等へ、聖域なく斬り込んで、ともかく「市場化」するのがいいのだと決めるのは、間違いだ。「民営化」の意味が「市場化」と同じになっている点が大問題である。

 通常、政府や自治体やマスコミが「官」から「民」へと言うときに「民」を市場と想定して使っているが、「民」=「市場」と短絡すべきではない。「民」は、非市場的なものや非営利、つまりNPOセクターも指すのである。

 公共領域の何を行政サービスでやり、何をNPOが担い、市場に任す領域は何かをきめるのは行政ではなく、市民のはずだ。

 NPOセクターは現在実施されている格差を拡大する民営化に強く「NO」を言っていかなければならない。また安上がりの民営化先としてNPOが位置づけ、活用される現実を受け入れてはならない。

4.真の「協働」実現に向けて
 行政とNPOの協働推進のしくみづくりを実現するためには

 @ 協働推進の専門部署を設置

 A @に各課への調整が出来る権限の委譲、予算権をつける

 B 各課に協働担当を置き、それぞれ事業をコーディネートして協働推進担当との連携をはかる

 C 協働のルールづくり

  ●ルールづくりは行政とNPOの協働で作ることを原則にする

  ●委託に関しては本来、「委託」は対等性を欠いた請負契約であるため、行政とNPOの対等性を担保するための「協働」協定書を作成して市民に公開する。

 D 協働推進の評価のしくみづくり

 E  「協働コーディネーター」の認知と活用

 「協働コーディネーター」とは様々なネットワークの要となり、参加と協働をデザインしていく専門家である。筆者は10年来、その養成に取り組むと同時にその社会化、職能化 の必要性を問うてきた。(世古一穂編著『協働コーディネーター〜参加と協働のデザイン』ぎょうせいを参照)

 真の協働の実現には行政とNPO双方のセクターが協働推進のアリーナを形成するというしくみづくりと同時に「協働コーディネーター」が不可欠である。

 

 



 

 

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