旬に会う 書籍「優生保護法が犯した罪」(現代書館刊)

熊本県の黒川温泉にあるホテルが、ハンセン病元患者の宿泊を断ったことが大きなニュースになった。ホテルの支配人が元患者たちが暮らす施設「国立療養所菊池恵楓園」に出向き謝罪した。当初、批判していた元患者側が2度目の社長を伴っての謝罪は受け入れた。
  
当時、ホテルの受け入れ拒否の態度も変わらず、そればかりか県が悪いのだという責任転嫁の発言がなされたが、なぜ、元患者側がホテルの謝罪を受け入れたのか。
  
 先日、東京在住のハンセン病元患者に話を聞く機会があった。彼は、菊池恵楓園には励ましの声だけでなく、批判や嫌がらせの電話などが届いているという話をしてくれた。「まだ金が欲しいのか」「税金で温泉に行くな」など。元患者側はこれ以上話が大きくなることを望まなかったのだろう。
  
書籍「優生保護法が犯した罪」では、現在「母体保護法」と改正された優生保護法によって、障害者に行われた強制不妊手術、同意をしなければいけない状況に追い込んでの不妊手術の実態を明らかにし、厚生労働省に謝罪を求めるために編まれたものだ。この本の中には、ハンセン病患者への国の政策、不妊手術の実態も納められている。日本では1953年にらい予防法ができ、明治からの終生隔離政策が45年も続いてきた。しかし、1943年にはハンセン病特効薬が開発され、日本でも46年以降特効薬が続々開発され、治る病気、感染力の低い病気というのが分かってきていた。また、世界でもハンセン病療養施設の開放が進んでいった。そういう状況を知りながらも、国は隔離政策を執り続けた。結果、人々の中の差別意識も動かしがたいものになった。
  
 この本の中には、障害を持つとして差別され、強制不妊手術によって尊厳を剥奪された日本人の告白、スウェーデンやドイツでの事例が納められている。
  
 時間は戻せない、だからこそ、一刻も早い実態調査と謝罪により、強制不妊手術を行われた人たちの尊厳の回復が求められている。
 そこに暮らす人が幸せになる、それが国の本来のシステムだろう。
  

(TRC常務理事 TRCメールマガジン編集担当 本田真智子)
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