NPO研修・情報センターでは2004年12月13日に日米エコレス公開フォーラムを開催した。そこでのこと。 パネリストとして米国から招請したエコロジー・センター(カリフォルニア州バークレー市)のジョイ・モアさんが米国の貧しい人々の貧しい食生活の現状と貧困なコミュニティでの食生活改善、食をテーマとしたまちづくりの取り組みを報告した。
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米国は周知のように車社会であり、車をもたない貧しい人々はスーパーに行きたくてもお金もないし足もない。食べ物を手に入れようと思ってもいわゆるリカーショップ(酒や加工食品中心の雑貨屋、日本のコンビニの方が品揃え等はよほどまし、おまけにアルコール中毒者や薬物中毒者もたむろしていることも多く、安全性にも問題がある場合が多い)くらいしかないのが現状だ。質のよくない加工食品中心の食生活は心身の健康に及ぼす影響も大きく、脂肪の取りすぎによる肥満や様々な病気の原因になっているといわれる。エコロジー・センターは循環型社会形成、環境をテーマに活動するNPOであり、特に有機農産物の生産農家をネットワークしてファーマーズ・マーケットをバークレー各地で運営し、食と農の連携による取り組みで実績をあげている。
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ジョイさんはアフリカ系アメリカ人だ。自身の体験からもファーマーズ・マーケットと連動して、そこで販売している安全で新鮮な野菜を貧しいコミュニティの人々に届けたいと「ファーム・フレッシュ・チョイス」というプロジェクトを発案した。「ファーム・フレッシュ・チョイス」はファーマーズ・マーケットの野菜を仕入れ、貧しいコミュニティに専用のトラックで運び保育園や学校、コミュニティ・センター等の庭先で卸値で販売し、同時に食べ方も教えるプログラムを実施している。その運搬と販売に貧しいコミュニティの高校生等を活用し、若い世代の雇用にも役立っている。プロジェクトは助成金を活用して実施されており、貧困層のコミュニティの人々の食生活の改善に大きく貢献している。貧困層の人々は週に一度の「ファーム・フレッシュ・チョイス」のオープンマーケットが開かれるのを心待ちにしている。
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私も昨年10月末に現地でその活動をつぶさに見て、その有効性を実感してきた。新鮮な野菜や果物を手に入れられない人々が、一見華やかで豊かな都市のまわりに多数いる、それもアメリカのもうひとつの現実である。
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ジョイさんの報告に対してフォーラムの参加者から「豊かな米国でそんな現状があるとは驚いた。どうして?」という質問。彼女は「あなた方日本人が知っているアメリカはお金さえあればなんでも手に入る国だ。しかし、私が話したのはもうひとつのアメリカだ。そこは何もないアメリカだ」と答えた。明らかなのは「お金がない人には何もないアメリカ」について日本の既存のメディアはほとんど何も伝えないし、一般の日本人のイメージにはジョイさんのいう、もうひとつのアメリカは存在しないのだ。
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従来の価値観に基づいた取材と報道によって知らされる断片的事実を束ねてもこの地球上で起きていること、いや地域社会で起きていることすら本当の姿は見えてこない。というより意図的に、また無意識に知らされていないことが多すぎるのか。 |
もうひとつのアメリカがあるようにもうひとつのイラク、もうひとつの日本がある。私たちはメインストリームのマスメディアでは知ることのできないもうひとつの世界があるということを常に意識しておく必要があるし、それを知らせるもうひとつのメディアが必要だ。イラクに行っているアメリカ兵の多くは「もうひとつのアメリカ」の人々である。 |
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