Vol.37 2007年4月10日号

協働のデザイン  第22回 能登半島地震復興支援に向けて

世古一穂(金沢大学大学院教授 / (特非)NPO研修・情報センター 代表理事)

キーワード・・・ 能登半島地震 復旧から復興へ 酒蔵の被災 「能登のお酒を飲もう」キャンペーン、
         まちづくり交付金 義援金、地震に強い木造建築のあり方、門前まちなみ景観復興

1.はじめに
 2007年3月25日9時42分に起こった「能登半島地震」から2週間がたった。

 首都圏では新聞等ではほとんど復旧、復興の動きは報道されていないが、現地では復興に向けた様々な動きが本格化している。

 筆者は金沢大学に席をおいており、知人、友人に被災した人も多く、現在は、現場は被災した家屋の取り壊し、仮設住宅の建設、道路の修復復旧作業等等、全国各地からのボランティアの方々の協力を得て復旧作業に追われている。

 筆者は復旧作業の手伝いをする一方で、復旧の後の復興にむけての取り組みに奔走している。

 現在の現場の状況と復興支援の取り組みをレポートする。

2. 局所的な建物倒壊
 石川県災害対策本部のまとめでは、家屋被害は全壊363棟、半壊436棟、一部損壊 2679棟。避難所 25 ヶ所には、 569人が避難している。(4月3日日夜現在)

 今回の地震は能登半島地震を名づけられ、TV放送などの映像では能登半島全体が被害激甚のような印象を持っている人が多いが、実際は被害の大きかったのは局所的だ。

 特に家屋の倒壊が多かったのは 輪島市 門前町 町道下、清水両地区と同市鳳至町のほ か穴水町 大町。

 防災科学研究所( 茨城県つくば市 )の調査によれば、輪島、穴水、両市町と 七尾市 では、揺れが往復するのにかかる周期が 0.5 秒以上のゆっくりした大きな波が多く見られ、一方、揺れの激しさを示す加速度が最も大きかったわりに倒壊が少なかった 志賀町 富来では、周期が0.5秒以下の波が多かったという。

 建物には柱の本数や質量などで決まる固有の揺れの周期があり、古い建物は比較的長い 0.5 から0.7 秒程度で、「地震の周期が固有周期に近いと、建物が地盤と一緒に揺れる共振が尾こり、倒壊しやすくなる」と現地調査にはいった防災科学研究所の村田晶助教は説明している。

 同研究所の調査では、 穴水町 で建物が倒壊したのはいずれも川沿いで、土砂が堆積して地盤が軟らかかった上、聞き取りで過去に水害の経験があったことも分かった。

 倒壊の要因には揺れの周期以外に地盤の固さも影響するという。

 能登半島地震で、 輪島市 門前町 と 穴水町 で建物被害が特に目立ったのは、ゆっくりとしたゆれに共振して多くの古いが建物が倒壊したためということ(金沢大などが参加した土木学会と地盤工学学会の合同調査による)のようだ。

3.被災地の現状
 被災者の仮設住宅を建設する工事が本格化している。

 石川県によると、仮設住宅は4月4日現在、130 戸を既に着工。

 4月末の完成を目指している。被災者は高齢者が多いため手すりやスロープなどの設置の要望には個別に対応するという。

 また、 輪島市 など能登地方の3市4町で実施した応急危険度判定で「危険」とされた家屋は1200棟あり、 輪島市 門前町 などでは「危険」と判定された家屋の取り壊しもはじまっている。

 輪島市 で電気店を営んでいた男性(50歳)は「この家で生まれ、育っただけに、実家が重機で押しつぶされるのはつらい」といいながらも被災住宅の修理に走り回っていた。

 また能登半島地震で 輪島市 門前町 の小山地区の水田では崩落やひび割れ被害が相次ぎ、今年の作付けが危機的な状況になっている。同地区は四方を山に囲まれ、河岸川に沿うように農家数件が並ぶ地区。門前地区でも有数の米の産地として知られ、棚田11ヘクタールの集落。各農家が負担する整備事業の工事費を昨年夏に払い終え、ほっとした矢先の地震だったという。

 棚田 150枚のうち、一割で崩落箇所や縦横の地割れが確認された。

 「過疎、高齢化が深刻。先祖代々の土地だが、多額な資金をかけて復旧させる意欲が各農家にわくかどうか心配」と区長さんは話している。

 被害を受けていない田でも水を張れば新たな崩落を招く恐れもあり、耕作放棄しなければならない可能性が高いという。これからの雨で被害がさらに拡大する可能性も高い。

 春の観光シーズンを前に観光業も大きなダメージを受けている。能登の温泉地では予約客のキャンセルが相次いでいる厳しい状況だ。

 以下は、輪島市の中島酒造店で撮影した写真(写真提供:赤須企画事務所 赤須治郎)

 地震から1週間経過。蔵の中は落下した建材や壁土を運び出した後なので、歩ける状態になっている。掃除をするために動かした機材や酒箱が、そのまま放置されているので、乱雑に見えますが、することが多くて、整理整頓まで手が回らない。


槽場。右に佐瀬式の「槽」(ふね)が見える。
自然光が入り込んでいるのは、土壁が落下したため。
手前の斜めのモノは梁。


貯蔵用の土蔵。
土台がずれ、土壁が落ちている。
タンクが傾き、お酒が流失した。


2月24日の酒蔵見学で撮影した槽場。
左端の写真とは逆方向からの撮影。
画面奥に見える梁が地震で落下した。

4.石川県、国等行政の対応
  石川県 谷本正憲知事は被災者生活再建支援法に基づく生活再建支援金を上積みするほか支援対象や使途の拡大を図る独自策をスピーディに決定、実施している。

 また、谷本知事は安部晋三首相と4月3日官邸で会い、

 △ 激甚災害の早期指定

 △ 風評被害対策

 △ 地方交付税などによる財政支援措置

 △ 仮設住宅の建設支援

 △ 輪島塗など伝統産業への支援

 など11項目の緊急要望書を提出、政府の協力を求めた。

 被災者に高齢者が多く、集落単位での仮設住宅整備などを進めるため国に支援を求めていくという。

 政府は4月3日、能登半島地震で被災した自治体への支援策として、地方交付税の前倒しや、災害復興住宅を自治体が建設すると際の財政支援を決定している。

 能登には極めて財政力の弱い自治体が多い。財政破綻しないように現地市町への県、国の支援が不可欠だ。

 現地の市町、県の職員は臨戦態勢で新規採用の職員は辞令交付を同時に被災地に入り、復旧支援の活動に従事している。

5.ボランティア等市民の動き
  阪神淡路大震災、中越地震の復興支援の経験者をはじめ全国からボランティアが駆けつけ、最も被害の大きかった 輪島市 門前にボランティアセンターもNPOの尽力で立ち上がり、活発な活動を展開している。

 全国各地から多くの人々からのお見舞い・ご声援・支援物資等の提供の申し出が能登の各地区・諸機関に届いている。

 風評被害対策として「能登は元気だキャンペーン」が震災直後から始まっている 。

 政府から激甚災害の指定が確実となった今は順次「復旧から復興へ」と局面が移っていく。
  その際、復興の妨げとなる重大な点は風評被害の発生や旅行・出張などのキャンセルを始めとする経済活動への影響だ。
  阪神大震災のときも「阪神復興には阪神の物を買おう」という活動が起きた。
  被災地支援というとボランティア・義援金などが真っ先に浮かぶが、意外かもしれないが、 同キャンペーンでは

 「より多くの人々が気軽に復興支援に参加できる方法として、
  ・旅行予定をキャンセルしない
  ・能登の地酒を呑んで頂く
  ・能登の産品を買って頂く
  ・というような動きが何より暖かい被災地への「復興支援」となるのです。 」
  とアピールしている。

 詳しくは「能登は元気です!」ぜひ読んでください。
http://www.groovy-net.co.jp/
http://blog.goo.ne.jp/hiro-hama/
http://ishikawanpo-inet.jp/003notogisin.html

6. 「能登の地酒を呑もう」キャンペーンに呼応して
  筆者は酒蔵を核にしたまちづくりを進める市民活動「酒蔵環境研究会」を15年前から主宰している。今回は「能登の地酒を呑もう」キャンペーンに呼応して「酒蔵環境研究会」では能登半島地震で被害を受けた石川県能登地方の造り酒屋を支えようと、全国各地で4月末から5月にかけて北海道、東京、浜松、京都、熊本等全国 7 地域で、能登の地震被害の実態を紹介し、復興支援の呼びかけと地酒や地元産品を販売するイベントを開催することにした。

 この企画は全国のコミュニティ・レストランのネットワークとも連携しておこなうもので、開催に協力していただける方は是非世古までご連絡ください。

 詳しくは下記の 【飲んで能登復興支援を】(北陸中日新聞 2007年4月5 日朝刊) をごらんください。

 なお能登の酒蔵の現状と支援関係は下記でごらんください。

 ・能登産品の新着キャンペーンは こちら にまとめました (2007.04.06)
  ・ 輪島のお酒は酒蔵に直接注文できます。 ( 和紅茶: 2007.04.03)
  ・ 輪島 の 酒 蔵の状態( 4 月 1 日訪問) ( 和紅茶: 2007.04.03)
  ・ 能登の酒蔵は元気です ( 和紅茶: 2007.04.01)
  ⇒ 被災地の蔵元さんの最新情報です!
  ・ 能登のお酒を飲もう(能登半島地震サイト) ( 和紅茶: 2007.03.31)
⇒ 同キャンペーンへの参加表明
  ・ 能登のお酒を飲もう!の輪が広がる ( 和紅茶: 2007.03.31)
  ・ 能登のお酒 (ROBERTO さん: 2007.03.28)
  ・ 頑張 れ!能登!通販で応援

7.今後の復興まちづくりにむけて
  高齢化率の高い能登地方では経済的理由などから被災住宅の建て替えがすすまず、「板塀、黒瓦」の昔ながらの町並みが失われてしまう可能性が高い。

 生活の建て直しの復旧作業に追われる今こそ考えておかねばならないのが復興のまちづくりの計画だ。元の景観をまもりつつ復興を進めるには今からの準備が不可欠だ。

 景観や伝統文化などの保全を含めた支援策により、本来の「能登」の価値を失わずに、復興を進めること、長期的な視点と取り組みで、どのようなまちづくりを進めるかがキーとなる。

 復興のまちづくりに向けて七尾市内で自らも被災した民間まちづくり会社 褐葢P川の森山奈美さんと話しあい以下の点をまとめた。

 □ 現在 懸念されることとして

  ・輪島、門前の美しいまちなみ景観が、建て替えによって失われること

  ・被災地の高齢化( 輪島市 門前地区は高齢化率 49 %)が進んでおり、立替がすすまずに、放置されてしまう可能性が高いこと

  ・建て替えの財政的な支援が不十分で、経済的な落ち込みに拍車をかけること

 等があげられる。

 □ また現時点で考えるべきこととして

 〈建築技術的に〉

  ・地震に強い木造建築のあり方

  ・土蔵のあり方

  ・伝統的な景観を保ちつつ耐震性の高い建築のあり方

 〈制度的に〉

  ・基金の設立:民間、行政からグレードアップのための資金支援

  ・伝統的な景観の保全を実現するための支援のあり方

 等がある。

 □ 使える制度の検討

  ・包括的に使えるまちづくり交付金を被災した自治体の負担をできるだけ軽減して使える制度に緊急的措置をとるよう国にはたらきかける必要

8.おわりに

 能登半島地震復興支援で遠方の皆さんにお願いしたいことは

  ・義援金を送る

  ・能登の産品を買う

  ・「能登復興支援応援団 能登のお酒と産品を!」に協力いただき、各地で開催の共催をしていただくこと・・・被災地の様子をスライドで上映、復興支援にむけてのお話をさせていただき(世古または森山がお話します)、能登のお酒を楽しむひとときと能登の地酒ともみいかの麹づけなど能登の産品の即売に協力いただくこと

 協力いただける方は k-seko@xvh.biglobe.ne.jp にご連絡ください。詳細をお知らせします

  ・能登への観光を企画いただくこと

 等です。

 また、筆者自身は市民参加、協働のまちづくりの専門性を生かして基金設立やまちづくり交付金を被災自治体が使えるように政府にアドボカシーをすること、復興のまちづくりの相談、コーディネートに実践的に取り組んでいく。皆様のご支援をお願いします!!!

 

 



 

 

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