Vol.34 2007年1月10日号

協働のデザイン  第21回 「協働」再考

世古一穂( (特非)NPO研修・情報センター 代表理事)

キーワード・・・ 協働コーディネーター、真の協働、 協働のルールづくり、パートナーシップ、下請け化しないNPO

1.はじめに
 1998 年にNPO法が施行されて 10 年がたった。

 NPO法人数は 2 万 9 千( 2006 年 10 月 31 日現在)を越え、日本社会に着実に定着した感がある。

 今日、市民・NPO・企業と行政がお互いを理解し合いながら共通の目的を達成するために協力して活動する「協働」というスタイルが、全国各地で取り組まれ、成果をあげつつある。

 「協働」への関心はいわゆる 2007 年問題・・・団塊の世代と呼ばれる人々の大量の退職などによって、より高いものになると思われる。

 地域・まちづくりに関心を持ち、実際に地域で協働のまちづくりや地域づくり、その他多様な活動に取り組む「協働コーディネーター」の人材養成はますます重要な社会的課題となってきている。

 2006 年に ( 特非 ) NPO研修・情報センターが自主事業として、また委託事業として各地で実施してきた「協働コーディネーター養成講座」も多くの方の参加があり、大盛況だった。

 今年はこの路線をさらに充実させ、各地の「協働コーディネーター養成講座」経験者と協働で講座を作っていきたいと考えている。

 「協働」は市民にとっては、生活、活動する地域、まち・都市について考え、行動し、責任を分担することによって、参加協働型の地域、まちづくりを実践し、住み良い、住み続けたいまちづくりを実現するとともに自己実現をはかり、市民、NPOが専門的な能力を高めることが可能になる方策である。

 「協働」は自治体によっては、多様化する市民のニーズにより高い次元で応えるとともに、限られた財源、人員の中でのきめ細かい対応を補足する手段として期待されているが、本来は市民セクターへの分権、自治体改革の真髄と捉えるべきものである。

 各地での「協働」の取り組みは、まだまだ実践の中での試行錯誤の段階のものも多く、NPOが下請化する傾向があると共に、自治体の担当者レベルで実務の負担感・・・NPOとの合意形成、NPOの専門性の不足等も関連・・・から「協働」への取り組みに消極的な意見も少なくないのも現実である。

 本稿では協働とは何か、市民、NPOと行政の協働を進める上で必要なこと、真の「協働」を実現するために必要な社会的仕組み、ルールづくり、評価の方法、協働をコーディネートする人材養成のあり方等について論及したい。

2.協働とは
@ 真の協働を進めるための 5 つの原則
 協働とは「お互いを理解し合いながら共通の目的を達成するために協力して活動すること」、「社会の課題の解決に向けて、それぞれの自覚と責任の下に、その立場や特性を認め合い、目的を共有し、一定の期間、積極的に連携・協力することによって、公共的な課題の解決にあたること」である。

 これまでの行政の対応においては、「単に相手がNPOであれば協働」と言った誤解や「行政が協働を主導・管理」するような傾向があったことは否めない。

 しかし、これでは協働によってNPOが行政の下請け化してしまったり、NPOが本来もっている特性が発揮されずに終わってしまうことにもなりかねない。

 協働をうまく進めるためには、NPOと行政がお互いに協働をすすめるにあたっての基本理念と下記の基本原則を共有しておくことが必要だ。

 1 )対等の原則
 協働においてNPOと行政は上下関係ではなくお互いに対等の関係を保つことが基本であることをよく認識することが必要だ。

 行政はNPOを育てる、育成するといった視点ではなく、NPOと同じ地域、まちづくりのパートナーであるという意識が重要だ。

 行政はNPOの支援者、援助者、まして指導者ではない。

 対等の関係をもつためにはNPOと行政が日頃から話し合いの場をもち、相互理解を深める中で、協働の可能性や協働事業の進め方が共有される。そのためには特に行政側からの積極的な話し合いの場の設定や計画段階からのプロセスの情報の提供が不可欠である。

 2 )公開の原則
 NPOと行政が協働する際、お互いの説明責任を果たすことは勿論だが、協働についての社会的な理解を得るためにはNPO等の参加機会を広く確保するとともに協働のプロセスや成果等を積極的に公開していくことが必要である。

 また、NPOと行政は価値観や行動原理が異なるため、お互いの立場や特性をよく理解し、尊重しあった上で、協働事業におけるお互いの役割や責任の分担等を明確にし、合意した上で協働の取り組みをおこなうことが必要だ。

 そのためには協働に関する協定書等を交わし、それを市民に公開することも必要だ。

 3 )目的共有の原則
 NPOと行政がお互いに協働によって達成しようとする目的を共有することが不可欠である。

 行政の目的にNPOを従わせたり、NPOの目的に行政が合わせる、擦り寄る、といったことは間違いだ。それぞれが主体的に取り組むべき課題に対して役割を明確にし、円滑に協働をすすめられるようにするには、まず目的を協働によってつくることが大切だ。そのためには行政からもちかけるにしろ、NPOから提案するにしろ、計画の最初の段階からラウンドテーブルを用意することが大切である。

 4 )自主性、自立性の尊重の原則
 NPOと行政の協働を進めるにあたっては、行政は、NPOの活動が自主的かつ自己責任のもとで行なわれていることを理解して、その主体性を尊重すること、NPOの特性をいかした柔軟な取り組みができるよう行政内部の対応方法、ルールを作る必要、行政職員の意識改革が必要である。

 また、対等の立場に立つということから、NPOの活動が自立できる方向で協働をすすめることが重要だ。

 5)時限性の原則
 協働が「仲良しごっこ」「馴れ合い」にならないようにするためには、行政とNPOは協働のプロセスが市民に常に開かれているようにし、常に緊張関係を保つことが必要である。協働事業について常に自己評価し、一定の時期に客観的に評価されるプロセスを組み込むこと、評価を協働のプロセスにきちんといれて協働を継続する必要があるかどうかを常に検証していく必要がある。

A協働は市民分権
 協働は分権の視点からみれば、地域への分権、市民セクターへの分権でもある。

 地方分権は国から都道府県、市町村へのタテの分権である。

 協働はタテの分権ではなく国、都道府県、市町村という行政セクターからそれぞれのレベルへの市民セクターへの水平分権である。

 公共公益領域を行政セクターと市民セクターがどのように役割分担し、公共の仕事を担っていくかということである。

 勿論、市民セクターへの分権は税の再分配を伴うことはいうまでもない。

 もっといえば、税制改革なしには真の「協働」はすすまない。

 また、行政が担うべき公共領域とNPOと協働する公共領域、NPO、市民が担う公共領域を設定していくということは「協働」とはいいかえれば行政改革の新しい手法と言えるのである。

3.真の「協働」を実現するために必要な社会的仕組み、ルールづくり
 真の「協働」を実現するためには次のような社会的仕組みやルールづくりが必要である。

 @ NPOのネットワークによるNPO活動を促進するための連絡・調整機関、及びNPO活動に関する専門家のネットワーク

 ・NPOのネットワークによるNPO活動を促進するための連絡・調整機関
 地域のNPO間のネットワーキングによるアドボカシー活動を行うとともに地域の行政から「協働」の依頼があったときに個々のNPOで受けるのではなく中間支援組織がその仕事がどのNPO、もしくはNPO間の協働で実施すべきかをコーディネートし、委託や補助金等の利害調整もできる中立的な立場の中間支援のNPOが必要である。

 日本では各地で行政主導でつくられたNPO支援センター等のNPOの支援組織ができているし、また民間の中間支援組織もできているが、いずれも行政との協働をすすめるためのコーディネート機関としての独立性、中立性に欠けている。また、ネットワーク組織としての利害関係の調整能力をもたない。

 NPO活動を促進するための中立的な立場の連絡・調整機関が不可欠である。

 米国では財団協議会やインディペンデント・セクターなどの団体がそれにあたる。

 ・NPO活動に関する専門家のネットワーク
 NPO活動のプロとしてNPOの現場、最前線で働く人々でコンサルティングやPRの専門家(非営利、営利を問わない)のネットワークとNPOセクター支援の仕組みづくり。企業内のCSRやフィランソロピー部門の担当者等とNPOが協働していくためのラウンドテーブルをつくることも今後の日本の市民社会形成に必要だ。

 例えば米国にはフィランソロピー(開発、環境、貧困、人種差別、異文化理解等々の社会問題)を認識させ、フィランソロピー活動に参加していくことの意義について教育活動を行うNPOが各分野ごとに多数あるが、日本社会にもそうしたNPOが必要であり、そうしたNPOがきちんと運営できる資金や寄附を得られるしくみが必要である。

 A NPO活動に関する調査・情報提供機関、NPOメディア

 ・NPO活動に関する調査・情報提供機関
 NPO組織のダイレクトリーの発行や関連図書資料を整備して提供する機関や、各地の多様で多元的なNPOの活動を調査するコンファレンス・ボード(協議会など)が必要である。

 各地の官設民営、官設官営型のNPO支援センターでは一様に地域のNPOの情報は集めているが、ダイレクトリーとしてきちんと年次ごとに発行しているところはほとんどない。また多様で多元的なNPOの活動を調査する機能をもっていない。関連図書資料をおき、会議スペースの貸し出しと各NPO等のイベントやNPO法人申請の支援、講座案内のちらしの設置、印刷機等の提供で終わっているところがほとんどというのが現状である。

 調査機能をもつにはネットワークの要になり、紙ベースでの情報収集は勿論、インターネットでの情報があつまる仕組みづくりとそれを専門とする人材の配置が必要である。

 ・NPOメディア
 NPO/NGOの情報を報じる専門の新聞、雑誌、TV等が必要だ。日本でもそうした雑誌や新聞があるがまだミニコミの域を出ないか、各NPOの機関紙にとどまっているといわざるを得ない状況である。

 例えば韓国はNPO活動(韓国では市民運動といい発音もシミンウンドウそのままの発音)が非常に盛んで、特にアンブレラNPOと呼ばれるインターミディアリーNPOが発達しているが、韓国ではNPO新聞(日刊、月刊)、オーマイニュースというインターネット新聞等が非常に活発でNPO/NGOの活動を報道することで、市民のNPO/NGOの支援につなげている功績が大きい。

 日本でも独立したNPOメディアが是非とも必要である。

 B ボランティア紹介機関
 2007年問題、いわゆる団塊の世代と呼ばれる人々の大量の退職などによって、ボランティアをしたい人、できる人の数は多くなると予想されるが、ボランティアをしたい人、できる人とボランティアを求めているNPOとのマッチングをする機関が必要になる。

 現在でも各地の社会福祉協議会(社協)や官民それぞれのボランティアセンターがあるが、まだまだマッチングの機能が弱い。そのための媒体や専門のコーディネーター等の養成も急務である。

 米国、英国、カナダ、デンマーク、ベルギー、オランダ等々のNPO、ボランティア先進国ではボランティアの求人情報紙をだして、マッチングを専門にやっている中間支援のNPOが多数存在する。

 C 募金促進機関
 日本のNPOにおける資金源の多くは会費、少し大きな事業型のNPOになると行政からの委託や補助金である。どのNPOも寄附収入を増やしたいと願っているが寄附が集まらないのが現状である。

 募金活動を促進、支援するための機関や募金活動を実施してくれる団体や機関が必要である。また募金活動をどのようにすすめたらいいかの相談にのってくれるコンサルタントの育成も日本の市民社会を強化していくのにひつような課題である。

 米国ではAAFRC(米国募金協議会)等が上記の役割を担っている。

 D 社会のNPOに対するニーズ調査・支援機関
 NPOの支援を必要とするプロジェクトや団体を調査、情報収集し、該当するNPOと助成財団等の助成団体や寄附したい人々につなげ、コーディネートする機関が必要である。

 米国では福祉、教育、芸術、医療、マイノリティ等々の各部門ごとに多数ある。

 E 助成機関、融資機関、政府の補助金制度、税制優遇措置

 ・助成機関
 日本にもトヨタ財団、三菱財団、日本財団等NPOの活動に助成する助成財団はあるが、NPOセクター先進国といわれる欧米にくらべてまだまだ少ないのが現状である。

 ・ 融資機関、制度
 NPOに対して低利、無担保で資金を融資する金融は日本にも未来バンク、市民バンク等があるがまだほんの一握りである。欧米のNPOセクター先進国では一般の銀行がNPOへの低利の融資の枠をもっていてそれをきちんと実行することが銀行の評価にもつながるといった仕組みも発達している。

 ・政府の補助金制度等
 NPOセクターを支援するための政府の支援制度、補助金の拠出の日本ではまだまだ未発達だ。

 例えば米国ではODA(政府開発援助)をNPO/NG0経由で拠出していく制度をもっているが、日本でもそうした仕組みづくりが必要である。

 またそれはそうしたしくみに携わる専門家を政府、NPOセクター双方に養成することとセットである。

 ・ 税制優遇制度
 税制優遇措置について、日本ではNPOに寄附した人が優遇税制をうけられる認定NPO法人制度があるが、NPO法人が2万9千団体あるのに対して認定NPO法人はわずか 39 法人( 2006 年 8 月現在)にとどまっていることからもわかるように、税制優遇制度がNPO支援制度として機能していないのが実態だ。

 NPOへの寄附に対する個人・法人への税制優遇制度をもっと実質的に使える制度に改革することと、日本のNPOセクターの力量形成をはかるためにはNPOそのものへの税制優遇措置も必要である。

 F NPOの評価機関
 NPOが社会に役立つ有効な活動をしているか、活動、組織運営、会計処理、情報公開のあり方をチェックし、評価する独立、中立のNPOが必要である。

 例えば米国ではウォッチドッグ・格付け機関としてNCIBとCBCCがある。

 NPOの評価にあたっては受益者評価、第三者評価の必要性がいわれることが多いが日本のNPOセクターを強化し、協働の担い手として自立した運営をしていけるようにするためにはまず自己評価が必要である。

 自己評価の基準、評価指標について NPO が協働で開発し、それを活用し、その結果を公表していくことが必要である。

 同時にNPOの自己評価をサポートするNPOや専門家、NPOが自己評価をするために必要な資金を支援する助成金の仕組みも必要である。

 また企業や行政がNPOを評価するためにはNPOの中間支援組織との協働で評価をおこなうことが不可欠である。

 一方的な格付けはNPOの自立性を阻害し、NPOを行政や企業の下請け化する可能性もあり、NPOセクターの強化にはつながらない。格付けが必要ならば社会的合意を得られるNPOの参加型、協働型の方法論をとることが前提となる。

参考文献
世古一穂 「協働のデザイン」(学芸出版)2001
世古一穂 「市民参加のデザイン」(ぎょうせい)1999
塚本一郎編 「NPOと新しい社会デザイン」(同文館出版)2006
(特非)市民活動センター神戸編 「NPOのためのアドボカシー読本」(市民活動センター神戸)

 

 



 

 

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