Vol.32 2006年11月10日号

「協働コーディネーター」養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ6 
  地域の茶の間「てまえみそ」
  「こだわり・うんちく・てまえみそ」がコミュニティの場を作る
第3回  てまえみそのこれから

コミュニティ・レストラン「てまえみそ」管理人 富田久恵

 特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは「協働コーディネーター」を養成する、「協働コーディネーター」養成講座を開催してきました。その成果として、「協働コーディネーター」として各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、「協働コーディネーター」として活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
  シリーズ6では、静岡県 浜松市 で地域づくりの核となるコミュニティ・レストラン「てまえみそ」の開設し、運営している富田久恵さんの実践の報告です。コミレスは思いを形にするためのものです。その中での協働コーディネーターの役割、重要性を知ってください。

キーワード・・・ 人と物と情報の交流拠点、地域課題の解決、発展途上

1.イベントなどの活動事例
 「てまえみそ」は、レストランの機能だけではなく、人、物、情報の交流拠点としての機能も目指している。そのためには、様々な媒体やイベントなどの活動を通して、人、物、情報の交流を仕掛けていかなければいけない。初年度の実績に基づいて、以下の様に「春」「夏」「秋」と3つのイベントをメインに定例化して行こうと考えている。

1) ぜんまいいもむしの「けいちつまつり」(春イベント/4月〜5月)
 「春イベント」として、ギャラリーショップを中心に企画・実施。ぜんまいいもむしの手作り作品を店内一杯に広げ、期間中の毎週土曜日には「作り手さんの講座」と「ミニコンサートや紙芝居」も企画した。特に子ども連れのお母さんたちが講座に参加してくれたので、新しい広がりが出来た。最終日には「誰でも一品シェフ」の交流会で、ランチシェフの皆さんだけでなく、講座参加者なども加わり、持ち寄り形式の交流会で、賑やかなひと時となった。

2) てまえみそ夏祭り(夏イベント/8月2日(水))
 ちょうど、リュートのコンサートをやりたいという申し出があり、その機会に合わせて 「夏イベント」 として、企画・実施することになった。昼間は「子どもの時間」として、夏休み工作教室で「万華鏡」つくりとプチ縁日を楽しみ、夕方からは「おとなと子どもの時間」として、夕涼みコンサートとビアガーデンという趣向であった。

 普段は夜の営業も、アルコールの販売もしていないが、こんなイベント形式であれば、また新しい利用者の広がりも出来て、良かったのではないかと思う。多少、余裕が出来れば、夜の営業(利用)の可能性も考えて行きたい。

3) 開店一周年記念イベント(秋イベント/11月<予定>)
 早いもので、10月29日で開店一周年を迎えた。この日から一週間程度を「秋イベント」として計画したいと思案。やはり、フォークギターの演奏の申し出もあり、ミニコンサートとの組み合わせを定番の形にしていきたいと考えた。また、ランチシェフの皆さんのご協力も頂き、何か特別なランチやディナーの企画なども出来たらいいな、と思った。

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2.「コミュニケーションの場」としてのコミレス
1) いろいろな形の「コミュニケーションの場」の誕生
@ 朝市はご近所さんのおしゃべりの場
 買い物をしながらのおしゃべり、買い物が済んでからの立ち話、ちょっとゆっくり店内でお茶しながらのおしゃべり、などなど。近頃では管理人やスタッフもすっかり顔見知りになり、仲間入りできるようになった。大きい物や量の多い物は、仲間を見つけて分け合う光景も見られ、野菜の調理法談義もあったり、にぎやかなひと時である。少し遠方からも車で来店してくれるお客様は「森島農園」野菜の根強いファンでもある。

A ランチは仲間、友人達とのおしゃべりの場
 ランチのお客様はご近所ばかりではなく、遠くからでも、友人・知人同士連れ立って来てくれたり、近くの企業の社員の皆さんの交流の場になっている。シェフの友人や家族が来てくれる時は、シェフとの交流の場でもある。また、小さな子ども連れで気軽に外食が出来ない友達同士が久しぶりに会って、食事とおしゃべりを楽しんでくれることもある。ご近所の一人暮らしのお年寄りが食事に来てくれたり、一人のお客様のときには、管理人自身も話し相手になりながら、なるべく他の方と相席をお願いして、おしゃべりができる様にご紹介をするように心がけている。

 少しずつ常連さんの顔も覚えて、ちょっとしたおしゃべりも出来る様になってきたが、初めて見えるお客様は新聞で見たり、人から聞いたり、何らかの関心を持ってわざわざ見えてくれることが多いので、なるべく声を掛けて、説明などをさせて頂く様にしている。これが、単に「食事をする場」だけでなく、「コミュニケーションの場」としてのコミレスの違いであろう。

B 「歌謡サロン」はちょっと昔の児童たちの「唱歌」の時間
ご近所の皆さんと、少し遠方からの参加者と、「歌」をきっかけに新たな出会いと仲間が生まれている。ハーモニカおじさん、草笛おじさんの参加もあり、歌うだけでなく、演奏に耳を傾けたり、おしゃべりにも花が咲く。ゆるやかで自由な集まりの場になっている。時には、ピアノ伴奏をしてくれるボランティアの方が参加してくれることもあり、歌だけでなく、手話や振り付けを交えたりして楽しむこともある。特に参加費は集めてはいないが、休憩時間に何か飲み物をひとつご注文頂くだけで、店としても大歓迎のお客様である。

C ランチシェフ同士の交流
 互いにお客様としてランチを食べに来たり、手の足りないシェフのお手伝いに入ることもある。もとより料理が大好きという共通点があり、新たなネットワークが生まれるのに、そう時間はかからない様である。ランチの売れ行きに一喜一憂しながらも、シェフの皆さんがそれなりに楽しんでくれていることが、本当に救われるところであり、心から感謝している。

 また、シェフ同士が集まり、互いに課題を共有したり、意見を出し合う場を自主的に企画してくれたことで、事業の協働運営者という意識で関わってくれていることが嬉しかった。今後2ヶ月に一度の定例化を予定している。

2) 地域課題の解決
 高齢化が進む地域の中で、朝市の野菜や豆腐などの提供はもちろんのこと、ランチや夕食の弁当の配達など、まさしく日常生活を支える活動になってきている。また、古くからの住民と新しいマンションの住民、またお年寄りと少し若い世代の年齢幅の広がりなど、少しずつ地域内の交流が広がりつつある。そして、何よりも、自分達自身が地域の一員として、受け入れられつつあるのを感じることが嬉しい。

 デジタル時代の恩恵で、インターネットを通じて、新しいコミュニティが生まれている。てまえみそもささやかながらブログを作ってランチ情報などを発信しているので、ブログのご縁で来店頂くことも多い。しかし、この「場」はあくまでも、実際に会って、顔が見える関係の中で、コミュニケーションが生まれ、育み、楽しむ「現実の場(コミュニティ)」として必要とされる様に、大事にしたいと思う。

 まだ始まったばかりなので、これから情報発信、機会や場の提案、支援などを通して、もっともっと、多様な人の想いが活かされ、そして、ひともまちも自分も元気に居られる様な「場」つくりを目指して、コーディネートの役割が出来たら嬉しい。

3.「てまえみそ」を支える人々、集まる人々
 てまえみそは「みんなでつくる、みんなの居場所」である。これまでも沢山のてまえみそを支える人々、てまえみそに集まる人々がいるが、主体はあくまでも自分であり、誰もが「自分がしたいことをする」ことで支え、「自分がしたいことができる」居場所にして欲しいと願っている。

1) 朝市の顔とぜんまいいもむしの手下2号、 T さんは心強いパートナー
 彼女がいなかったら、てまえみそは今の様な形で続けられなかっただろう。本当に心強いパートナーのお陰で、順調なスタートをすることが出来たと感謝している。ぜんまいいもむしの手下2号としてギャラリーショップの管理業務をする傍ら、週2回の朝市を手伝ってくれている。今ではご近所さんとのおしゃべりも上手にこなし「朝市になくてはならない顔」である。

2) ぜんまいいもむしの手下1号:Gちゃんは好きなことに夢中のクリエーター
 「ぜんまいいもむし」の名づけ親であり、生みの親でもある。手下2号の T さんと一緒に、ぜんまいいもむし全体のプロデュースと参加クリエーターのコーディネート、店内のディスプレイを担当。イラストも含めて、てまえみそのチラシ製作者でもある。

3) ご近所のハーモニカおじさん、Oさん
 85歳で一人暮らしであるが、とてもお元気で、時々ランチを食べに来たり、珈琲を飲みに来ては、何曲かハーモニカを吹いてくれる。このハーモニカが半端ではないプロはだしで素晴らしいのだ。ハーモニカの演奏が始まると、居合わせたお客様同士が急に打ち解けて、空気が和むのがわかる。なにげないおしゃべりの中にも人生の大先輩のうんちくがあって、頭が下がる。

4) 歌とボランティアの大好きなにこにこおばさん、Sさん
 一度、人手が足りなくて、流しに下げたお皿が山になっているのを見かねて、お皿洗いのお手伝いをして頂き、本当に助かったことがあった。それ以来、ランチを食べに来てはお皿洗いのボランティアを申し出て下さるようになった。そして、 S さんの呼びかけで、毎月第一火曜日の午後の「歌謡サロン」が始まった。ちょっと昔の懐かしい童謡・唱歌とおしゃべりの場であるが、 S さんの人柄を反映してか、ほんわかと温かく、ゆるゆるとした集まりが続いている。

5) 笑顔とやさしさをまいて渡る「草笛おじさん」
 月に一度の歌謡サロンの常連さんでもあるが、気が向くと時々ふらっと寄っては、あちこちで仕入れてきたこだわりのお店情報などを提供してくれる。自称「渡りの加茂」と言っているが、本当の意味でのネットワーカーであると思う。特技の草笛を披露してくれたり、めずらしい植物を教えてくれたり、とても話題が豊富で、その場に居合わせた人をすっかり巻き込んでしまう、コミュニケーションの達人である。

6) 毎月2回の「気功治療」で、人とまちの元気を応援
 NPO 活動つながりのご縁で「いきいき健康サロン」というお話の会をやったのがきっかけで、月2回の気功治療が始まった。「健康」についてのうんちくを沢山持っているので、話題には事欠かない。

7) 一番身近な、最強の応援団「家族」に感謝
 最後に、先の分からない実験事業のような、また理想を追いかけてばかりの夢のようなことを、何とか実現までこぎつけることが出来たのは、他ならぬパートナーをはじめ、家族の理解と応援無しではあり得なかった。改めて、心から感謝の意を表したい。

 朝市や店内販売品の一番のお客様は義母である。時々は、義父や友人とランチを食べにきてくれたり、販売品を購入したり、イベントに参加したり、強力な広報担当でもあり、積極的に「地域の茶の間」として活用しようとしてくれているのが有難い。

 コミレス事業では自立出来ていない管理人の生活を、経済的にも精神的にも支えて、応援してくれているのは、他ならぬパートナーである。土曜日の時間がある時には、積極的に店の朝市を手伝ってくれたり、お客様とのコミュニケーションを楽しんでくれたり、又職場の仲間を誘ってランチに来てくれたりと、本当に有難いと感謝している。

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3.これからの課題と今後への想い
 「てまえみそ」は、この文章を書いている時点では、開店してまだ1年に満たない、発展途上のコミレスの卵である。これまでの経過や事例はあくまでも、現状であり、1年後、2年後、何がどう変わっているのかが、楽しみでもあり、不安でもある。これからの課題も夢も、次に報告する機会があれば、それまでの宿題である。

1) ワンデイシェフが増え、そして、毎日ランチを提供できる様になること。
 「毎日ランチを提供する」ことがまずは基本の出発点であるとすれば、現在はまだ助走期間である。現在のシェフの皆さんの協力も得ながら、常にワンデイシェフの募集をしていく。関心があり、問い合わせを頂くことは時々あるが、実行まで踏み出せない。既に60組以上のシェフ登録があるという 四日市市 の先進事例からも学びながら、まずは「基本の出発点」に到達することが第一目標である。

2) 毎回、20食のランチが確実に出るまで、定着すること。
 やや不利な立地条件や不定期なランチ営業という条件の中で、20食を完売することはなかなか難しいのが実情である。毎日ランチの体制を整えることが前提ではあるが、地域や周辺への情報発信や、メディアを活用した広報、一度来て頂いたお客様からの口コミやリピーターの確保など、といった「営業努力」も求められる。経済的に赤字にならないことはもちろんのこと、シェフの皆さんのやりがい、楽しみといったモチベーションの維持のためにも、一日も早く20食を安定して出せるようにしたい。

3) 夢はさらに大きく広がって
 お年寄りの行事食や、子どもと作る料理教室、学生が主体で運営し、子どもや学生を対象の「学生カフェ」「キッズカフェ」の企画などもこれからやってみたいこととして夢の中にある。ぼちぼちと機会を見つけて具体化していきたいと思っているが、てまえみそ的には「やりたい」と言って手を挙げてくれる主役の登場に期待している。

4) 全国各地から集まれ!「こだわり」「うんちく」「てまえみそ」
 NPO 研修・情報センターが主宰する全国版の「コミュニティレストラン・ネットワーク」に参加し、情報交換をしている中で、ネットワークを活かして、それぞれの地元産の商品を集めて、全国の「てまえみそネットワーク」が生まれたら楽しい!そのためにも、まずは情報交換と交流を期待したい。

 

5) コミュニティビジネス・NPOの起業モデルとしての役割。
 近くに参考にする事例も無く、 四日市市 のこらぼ屋など、他県の先進事例に学びながら何とか起業、運営してきたが、てまえみそ自身がひとつのモデル事業となれば幸いである。次第に身近な地域にも関心や興味を持ってくれる人も出てきて、見学や相談もある。失敗も成功もどちらも貴重な経験として、広く提供しながら、コミュニティビジネスの可能性を一緒に考えてゆく場になると良いと思っている。

6) 「ユニバーサルデザインの取り組み」として 浜松市 より特選表彰
 企画当初より、建物だけでなく、事業そのものにも、どんな人にも使い易い「ユニバーサルデザイン」の考え方を柱にしていきたいと考えていた。そんな中で、平成17年度の 浜松市 「見つけた!ユニバーサルデザイン」という顕彰事業で「取り組み部門」の特選を頂いたことは、何より光栄で嬉しいことであった。これからは、この顕彰にふさわしく、一人でも多くの皆さんに、気軽にこの場を活用して「人もまちも自分も元気に」なってもらえることを期待している。

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