Vol.32 2006年11月10日号

NPOマネジメントに活かす知恵と技  第1回  NPOにおけるメンターの役割

                          
池内健治(産能短大教授)

キーワード・・・ メンター、メンティー、メンタリング・プログラム、キャリア形成

 NPOで働く方は、行き詰まったときや愚痴をいいたくなったとき、だれに相談しますか? メンターとは、このようなときの相談相手の機能を果たす役割のことを言います。自分と同じ立場で経験豊かな方が適任ですが、NPOのように組織の歴史の短い場合、まだメンターにあたる方を求めるのが難しいのではないかと思います。今回、企業組織でメンターをどのように整備しようとしているか、その背景にある事情を紹介します。

1.メンタリング・プログラムとは
 5年ほど前、シリコンバレーの先進的企業を調査したときに、強く印象を受けたのが、人材の育成に関心が集中していることである。その中で、個人のキャリアマネジメントと組織のヒューマンリソースマネジメント( Human Resource Management; HRM)をいかに連動するかという課題が注目されていた。二者をつないでいるのが価値の共有であり、○○ウェイといった組織の価値を明確にして、それを浸透することに企業は努力をしていた。個人のキャリアマネジメントに連動するHRMを実現するために、情報システム(IT)によるデータベースを整備することも重要な条件であった。

 個人のキャリアは自分でつくり上げるという考え方が徹底していて、企業はそれに対する支援システムを整えることが求められていた。たとえば、個人のキャリア形成と自立促進のしくみ、社会でキャリア形成が可能になる仕組み、評価と異動を本人との相談の上で決定するしくみなどがある。ここで印象的だったのが、メンタリング・プログラムやバディ・システム(注)である。

 今回のメルマガでは、このメンタリング・プログラムをとりあげる。メンタリング( mentoring )とは、経験豊かな人( mentor メンター)が未熟な人( protege  プロテジェ もしくは  mentee  メンティー)に対して行うキャリア発達への支援と、心理・社会的な支援を指している(渡辺・久村、 1999 )、と言われている。メンターがメンティーと1対1で、継続的、定期的に交流して、信頼関係を築きながら、仕事やその他の活動の支援を行って、キャリア発達を支援すること、あるいはその制度をメンタリング・プログラムという。最近、外資系企業を中心にメンタリング・プログラムの導入が盛んである。

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2.NPOにおけるメンタリングのニーズ
 多くの人が、仕事で悩みを持ったときや自分の能力に関する悩みを持ったときに、自分の悩みを相談する相手を求める。サラリーマンが居酒屋で話している内容は、多くがこのたぐいの話である。愚痴を言う人と、それを聞く人という構図になっている。聞き手は愚痴を言っている本人とは、直接利害関係のない、昔の上司や同僚、隣の組織に所属する人の場合が多い。このような聞き手がメンターに相当する。落語で言えば、与太郎が転がり込む町内に住む伯父さんといったところだろうか。自分よりも経験が豊富で、自分が行き詰まったときなどに、相談相手になってくれる人がメンターである。

 5〜6年ほどまえのシリコンバレーでは、とくに女性管理者やマイノリティ、企業経営者などにメンターが必要だとされていた。過去の離職率調査から、キャリア発達と昇進の機会が十分でないことが離職の大きな理由であり、とくに女性管理職と有色人種の管理職の離職率が高いことが顕著であった。その解決策としてメンタリング・プログラムの導入が検討された。

 男性の一般社員や管理者の場合、同じ立場を経験した先輩が数多くいて、どこかにメンターを求めることができる。ところが、女性管理者・マイノリティの管理者・企業経営者は、企業社会の中で少数派であるため、自分と同じ経験をしてきた先輩を求めることが困難である。

 それらの優秀な人材が適切なキャリア形成をすることを支援するために、企業がメンタリング・プログラムを提供するケースが増えているのだ。考えてみれば、NPOのリーダーとして活躍している人も女性管理者と同様の立場に置かれているのではないだろうか。NPOといっても組織的にはそれほど大きくなく、常に先頭に立ってリードする立場の人が必要になる。活動の中で行き詰まり、壁を乗り越えなければならない場面も多い。組織の中で、自分と同じ立場で相談できる相手がいない。NPOにこそ、メンタリングが必要ではないだろうか。

3.メンターの活動と成長
 コーチングも同様の意味で使われるが、違いは次の点にある。コーチングが目標達成のための支援に焦点が絞られているのに対して、メンターはキャリア形成のために幅広い分野を相談する相手である。メンティー自身がメンターを選択でき、基本的にメンターはボランタリー活動である。

 メンタリングには、言いたいことを言える信頼関係が必要である。メンティーの能力や個性を知っていて、メンターはメンティーを受け入れ、適切なアドバイスで支える役割を果たす。直接利害関係のない、以前の上司や先輩などを選択することが多い。これらの人はメンティーの価値観や仕事ぶりを知っていて、メンティーにあったアドバイスを行えるからである。

 面白いのは、メンタリング・プログラムにおいてメンティーがキャリア成長するだけではなく、メンター自身もキャリア発達が促進される点である。 K. Kram(1983) は、メンタリング行動の記述と分類を行い、仕事に向けての「キャリア的な支援行動」と組織の中で生きる個人としての「心理・社会的な支援行動」を指摘している。また、その成果として、プロテジェだけでなく、メンターにおいてもキャリア発達が促進され、組織自身への効果的な影響を与えていることを報告している。

 メンタリングは20世紀初めの米国におけるBBBS運動 ( Big Brothers Big Sisters Movement ) による非行少年少女の更正支援活動として始められたとされ、今日の米国においても、メンタリングは、青少年の健全育成のためのプログラムにも適用されている。(松田ら、 1995 ) メンタリングは、現在の産業界における企業システムとしてだけではなく、今日の学校教育における諸問題を鑑みると、学校教育、地域教育の中においてもメンタリング・プログラムは、子どもたちの健全育成のために有効であろう。
http://www.nihon-mentor-kyoukai.org/news-file1.htm

4.メンタリング・ネットワーク
 NPOの場合、組織の規模の点、歴史の点で、組織の中にメンターを求めるのが難しいであろう。幸い、NPO間のネットワークが拡大しているので、組織外に自分のメンターを求めることができる。実質的にメンターの機能を果たす先輩を持っている人も多いのではないだろうか。

 NPOにおけるキャリア形成やキャリアパスを考えた場合、メンタリング・プログラムは問題解決に大きな力を発揮できる可能性がある。さまざまなNPOの連携のもとで、メンタリング・ネットワークの形成を構想するインターメディアリーがあってもよいのではないかと考える。

注:バディ・システム
 もともとは、水泳やキャンプなどでお互いの安全を確かめる2人組のことである。互いにサポートし合う仲間としてのつながりである。互いに支えある同僚のつながりをバディ・システムとして,制度的に人事システムに組み込んでいる企業もある。シリコンバレーなどの新興企業の中には、仲間同士のつながりを促進するために「週末ビアパーティ」などを用意する企業もある。

日本メンター協会
http://www.nihon-mentor-kyoukai.org/mokuji.htm

http://www.nihon-mentor-kyoukai.org/news-file0.htm

http://www.nihon-mentor-kyoukai.org/news-file1.htm

コラム メンターって何だろう?
http://www.jamjapan.com/jp/columns/i_media/Mentor.html

企業におけるメンターの必要性
http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/tech/docs/ct_s03600.jsp?p=000070


 



 

 

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