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国庫に入らない新しい国際徴税システム
フランスは 2006年 7 月 1 日 に、フランスの空港を経由する航空券に対して一定税額を課す新税制を導入したのである。この税金はフランスの国庫に入るのではなく、 MDGs の実現のための追加資金として提供される。とくに HIV /エイズ、結核、マラリアに苦しむ子どもたちへの対応を中心とする医薬品購入プロジェクト (IDPF) に充当される。
IDPF は国際的な医薬品購入機関(ファシリティー)として、開発途上国のための医薬品購入を推進するための投資基金を募ることを目的としている。この IDPF を実施するための資金の受け皿である UNITAID が9月19日に、フランス、ブラジル、英国、ノルウェー、チリの5カ国とクリントン前米国大統領のリーダーシップによりついにスタートすることになったのである。
UNITAID の発足時の資金規模は、年間(2007年から)約3億ドルで、拠出はフランスが2億5000万ドル、英国が2500万ドル(2010年までに3倍に増額すると発表)、ノルウェーは2000〜2500万ドルとなっている。資金調達方法は、フランスとノルウェーは主に前述の航空券税で、英国は旅客税である。
この資金は UNITAID によって、開発途上国のエイズ、結核、マラリアの治療のために医薬品の購入にあてられる。 UNITAID は特許料を支払わないで生産される格安のジェネリック薬を、より安く購入できるよう医薬品メーカーと交渉を行なうとしている。
これにより、2007年中にはHIV感染の20万人の子どもに抗エイズ薬を、15万人の結核の子どもと2800万人以上のマラリアに苦しむ子どもの治療が行なわれるとしている。これら治療に向けて購入した医薬品の供給は、 WHO( 世界保健機構 ) 、ユニセフ、エイズ・結核・マラリアと闘うグローバル基金、 UNAIDS (国連共同エイズ計画)、それにクリントン HIV/AIDS イニシアチブなどの既存の機関と連携して行なう。また、 UNITAID の事務局や基金はWHO(世界保健機構)の中に設置されている。
7月1 日のフランスでの航空券税の導入は、今までの国家主権を中心とする徴税制度とは異なる、新しい国際徴税システムの導入を図る第 1 号の実現であるといえる。現在、この国際連帯税の導入を求めるNGO宣言に対する署名国は6月時点で 43 カ国に拡大してきている ( 2 月のパリ会議時に38カ 国 ) 。そして、国際的な通貨取引に課税するトービン税に関する研究や議論も国際的に次第に熱を帯びてきており、日本でも国際セミナーが開催され、議論されるようになってきている。しかし、残念ながら日本政府はこれら国際連帯税の導入は現時点では拒否している。 |