Vol.32 2006年11月10日号

「世界の潮流とNGOの動き 第22回」
国際連帯税 ( 航空税 ) と UNITAID/IDPF (国際医薬品購入ファシリティー)の発足

長坂寿久(拓殖大学国際開発学部教授)

キーワード・・・国際連帯税、航空券税、旅客税、IFF(国際金融ファシリティー)、
         開発資金調達メカニズム、トービン税、通貨取引税、
          ミレニアム開発目標(MDGs)、国際医薬品購入ファシリティー(IDPF)、
         UNITAID、ODA、 エイズ、結核、マラリア、ジェネリック薬、
         WHO(世界保健機構)、NGO

1. MDGs を実現する新しい資金源
 今年 ( 06年 ) 9月19日に、 UNITAID / IDPF( 国際医薬品購入ファシリティー ) が正式にスタートした。これは06 年6月2日の 国連エイズ総会のサイドイベント時に立ち上げられた国際連帯税(航空券税など)と IDPF の国際キャンペーンであり、新しい国際機関である。正確にいえば、“国際医薬品購入ファシリティー( IDPF=International Drug Purchase Facility) である UNITAID という国際機関 ”( 本部はスイスのジュネーブに設置 ) という方がいいだろう。

 この機関は、2000年の国連総会で採択された、2015年までに世界が達成すべき MDGs( ミレニアム開発目標 ) の新しい開発資金調達メカニズムの導入を目指して設立されたものである。新しい資金調達メカニズムとは、 ODA( 政府開発援助 ) 以外の手段という意味で、その第1号が今年7月1日からフランスが導入した航空券税である。将来、私たちは2006年を歴史的な年として記憶することになるかもしれない。

 「国際連帯税」は、 MDGs を実現する新しい資金源として、ODA ( 政府開発援助 ) とは別の資金源の獲得を目指す運動である。 MDGs の実現には、先進国からの援助の倍増が必要である。しかし、各国は政治的理由によってかつて約束した総国民所得の 0.7% の援助目標を達成していない ( 現在は 3% 強程 ) 。 2015 年までに MDGs の目標を達成するには、現在の国家主権を前提とした所得再配分システムとしての ODA 以外に、新しい開発資金メカニズムの導入が必要となっている。そこで、NGOは、世界の資金移動 ( 為替取引 ) に対し課税するトービン税を提案しているのはよく知られている。 2005 年国連ワールドサミットでは、「革新的および追加的開発資金源」の具体的な創出案として、英国が提案している IFF( 国際金融ファシリティ ) とフランスが提案した航空券税が注目を浴びた。

 「連帯」 (Solidarity) という言葉は、米国ではほとんど聞かないが、欧州ではNGO用語としてきわめてよく聞く言葉である。NGOの主張は、一つは前述のようにナショナリズムをベースとする ODA だけに期待するには MDGs 実現のための資金の調達が十分でないため、もう一つ別の調達手段を造り上げる必要があるということ、そしてもう一つは、貧困を増殖し、格差を拡大し、世界を不安定にしているグローバリゼーションの深化を抑制するために、グローバリゼーションの場から調達する手段を考えようというのが、「国際連帯税」の考え方のベースにある。さらに、貧困や HIV/AIDS などの世界的課題に取り組むための目的税として提案されている取組みとして注目されている。

2. 国庫に入らない新しい国際徴税システム
 フランスは 2006年 7 月 1 日 に、フランスの空港を経由する航空券に対して一定税額を課す新税制を導入したのである。この税金はフランスの国庫に入るのではなく、 MDGs の実現のための追加資金として提供される。とくに HIV /エイズ、結核、マラリアに苦しむ子どもたちへの対応を中心とする医薬品購入プロジェクト (IDPF) に充当される。

 IDPF は国際的な医薬品購入機関(ファシリティー)として、開発途上国のための医薬品購入を推進するための投資基金を募ることを目的としている。この IDPF を実施するための資金の受け皿である UNITAID が9月19日に、フランス、ブラジル、英国、ノルウェー、チリの5カ国とクリントン前米国大統領のリーダーシップによりついにスタートすることになったのである。

 UNITAID の発足時の資金規模は、年間(2007年から)約3億ドルで、拠出はフランスが2億5000万ドル、英国が2500万ドル(2010年までに3倍に増額すると発表)、ノルウェーは2000〜2500万ドルとなっている。資金調達方法は、フランスとノルウェーは主に前述の航空券税で、英国は旅客税である。

 この資金は UNITAID によって、開発途上国のエイズ、結核、マラリアの治療のために医薬品の購入にあてられる。 UNITAID は特許料を支払わないで生産される格安のジェネリック薬を、より安く購入できるよう医薬品メーカーと交渉を行なうとしている。

 これにより、2007年中にはHIV感染の20万人の子どもに抗エイズ薬を、15万人の結核の子どもと2800万人以上のマラリアに苦しむ子どもの治療が行なわれるとしている。これら治療に向けて購入した医薬品の供給は、 WHO( 世界保健機構 ) 、ユニセフ、エイズ・結核・マラリアと闘うグローバル基金、 UNAIDS (国連共同エイズ計画)、それにクリントン HIV/AIDS イニシアチブなどの既存の機関と連携して行なう。また、 UNITAID の事務局や基金はWHO(世界保健機構)の中に設置されている。

 7月1 日のフランスでの航空券税の導入は、今までの国家主権を中心とする徴税制度とは異なる、新しい国際徴税システムの導入を図る第 1 号の実現であるといえる。現在、この国際連帯税の導入を求めるNGO宣言に対する署名国は6月時点で 43 カ国に拡大してきている ( 2 月のパリ会議時に38カ 国 ) 。そして、国際的な通貨取引に課税するトービン税に関する研究や議論も国際的に次第に熱を帯びてきており、日本でも国際セミナーが開催され、議論されるようになってきている。しかし、残念ながら日本政府はこれら国際連帯税の導入は現時点では拒否している。


 

 



 

 

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