Vol.31 2006年10月10日号

「協働コーディネーター」養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ6 
  地域の茶の間「てまえみそ」
  「こだわり・うんちく・てまえみそ」がコミュニティの場を作る
第2回 プロセス〜準備から開設まで

コミュニティ・レストラン「てまえみそ」管理人 富田久恵

 特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは「協働コーディネーター」を養成する、「協働コーディネーター」養成講座を開催してきました。その成果として、「協働コーディネーター」として各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、「協働コーディネーター」として活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
  シリーズ6では、静岡県 浜松市 で地域づくりの核となるコミュニティ・レストラン「てまえみそ」の開設し、運営している富田久恵さんの実践の報告です。コミレスは思いを形にするためのものです。その中での協働コーディネーターの役割、重要性を知ってください。

キーワード・・・ 協働コーディネーターの実践の場、核となる協働パートナー、資金、社会的なビジネス

1.開店に至るまでの過程
(1) NPO研修・情報センター(以下TRC)「協働コーディネーター養成講座」
 漠然とした想いが、実現可能かどうかも分からないながらも、「コミュニティ・レストラン」という形態に興味を持っていた。そこで、TRC代表理事の世古一穂氏に相談したところ、「協働コーディネーター養成講座」を知り、初級(2回)・中級・上級と1年以上を掛けて受講してきた。

 これまでも、 NPO法人アクション・シニア・タンクの活動を通して、行政や企業との「協働」の必要性が急にクローズアップされ、本質の共有が充分にされないまま「協働」という言葉だけが独り歩きしてしまっている様な不安を感じていたので、この際、「協働」についてしっかり学ぶ良い機会であろう、という気持ちで参加してみようと思った。

 そして、研修を受ける中で、本来の「協働事業」を成功させるためには、中立な立場で間に入り、それぞれのパートナーの役割と共通のゴールを踏まえてコーディネートし、その結果を評価する「協働コーディネーター」という役割(職能)が必要であることを実感した。自分がもし、この研修を終えて、「協働コーディネーター」として活動することが出来れば、少しでも、より良い「協働社会」の実現に寄与できるのではないか、とは思っていた。

 正直なところ、最初は、それがコミュニティ・レストランとどの様に結びつくのか、良く分からなかった。が、具体的な準備を進めるにつれて、コミュニティ・レストランの現場は、多様な人の想いをつなぎ、共通の目的(ゴール)に向かって「協働」するための「協働コーディネーターの実践の場」そのものであることを、実感として腑に落ちてきた。

 個人経営として、普通の飲食業のレストランを開業することとの最大の違いは、ワンデイシェフとして、あるいはギャラリーショップのプロデューサーとして、朝市のお手伝い、歌謡サロンのお世話役として、などなど、様々な形で「てまえみそ」に関っている人々も、場の提供者である管理人も、同じ「協働のパートナー」であり、「事業主と従業員」「事業主とお客様」の関係ではない、ということであろう。そして、ここでは、管理人が「協働コーディネーター」としての役割を、研修の実践としても、日々果たしてゆくことになる。

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(2) 場所と建物、店内備品等の準備 
 きわめて個人的な都合で、実家の近くに自宅を建てることがまずは第一条件であり、土地は既に確保していた。やっと新築することになって、一階部分を自分の夢の実現の場にすることが出来たという次第である。市の中心部に近い 「近隣商業地域」 ではあるものの、少し奥まった閑静な住宅街の一角に位置し、決して飲食店を開くには条件の良い場所とは言えないが、コミレスの場所として相応しいかどうかの選択の余地は無かった。その上、一方通行の狭い通りに面していて、車で来ようとすると分かりにくいという苦情もいただく。しかし、自分達自身も一員である地域の仲間に入れて頂きながら、コミュニティスペースとして開店することが、自分にとっても意味あることであった。 <地図はこちら>

 TRCの「協働コーディネーター養成講座」へ参加したり、浜松ビジネスプランコンテストに応募したりするのとほぼ同時進行で、具体的な建物や設備の設計作業を始めた。コンセプトや事業計画が具体化しないと設計のイメージが持てないこともあり、設計士が決まってから基本設計が完成するまで、ほぼ1年以上の歳月をかけたことになる。

 自宅の新築という機会に合わせたので、最初から店舗付住宅として設計することが出来た。一番こだわり、苦心したところは、誰にでも利用していただける様に、というユニバーサルデザイン(*)をどこまで取り入れられるか、ということだった。理想は高くも、現実の予算との綱引きで、入り口のスロープや引き戸、車椅子対応トイレといった必要最小限のバリアフリー設計に留まらざるを得なかった。足りない部分は、事業のコンセプトそのものでもある「コミュニケーションと思いやり」で補っていくことが出来よう。

 次に悩んだのが、厨房の設計である。 プロの料理人の意見を聞いたりもしたが、誰が何の料理をするのかが特定できず、家庭の主婦が使うことが多いという「中途半端なプロ仕様」 を要求し、厨房業者を困らせた。それでも、冷蔵庫、ガス・オーブンレンジ、製氷機等は業務用を用意した。最小限の広さの基準として、車椅子でも入れる広さを確保したので、3、4人までなら、何とか動きがとれる。

 9月末に建物が完成してから、10月末の開店までの間に、 厨房器具、 台所用品、食器から洗剤などの消耗品に至るまで、こまごまとしたものを準備した。なるべく家庭にある物や使っていない物を持ち寄って、新規購入備品を最小限に抑えることにした。 これも、 コミュニテイ・レストランの始め方としては許されるのではないかと思う。実際に営業する中で、必要な物についてはその都度買い足してきた。

 店内の椅子やテーブルも随分とリサイクルショップを廻って探した掘り出し物である。丁度20脚揃ったアウトレット品や、まさにうってつけのテーブルに出合った時には、イメージした物とは多少違っていたにも拘わらず、もう最初からそれに決まっていたかの様な、運命的なものさえ感じてしまった。

 食器や調理器具に関しては、必要最小限の物、どんな料理にも使えそうな物は店側で用意したが、シェフとメニ ューによっては、それぞれに必要な道具や、使い慣れた包丁とまな板などを持ち込む場合もある。

(*)ユニバーサルデザインとは、子どもや高齢者、障害のある方々など、誰もが利用しやすい物や施設などのデザインのことである。

(3)核となる協働パートナー「ワンデイシェフ」の募集
 コミレスの運営方法として「ワンデイシェフシステム」を取り入れたいと思ったのは、事業計画を具体化する2年位前に、四日市の 「こらぼ屋」 というコミレスを知り、実際に現地にうかがい、見学や試食をさせていただき、コミレスネットの海山氏のお話をうかがう中で、自分で料理が出来なくてもレストランが運営でき、シェフの皆さんにも楽しんでいただける素晴らしいしくみであると思ったからである。

 ちょうど、身近で、料理がとても上手で、機会があれば手作りのお菓子やランチを提供してくれていたK子さんのことが頭に浮かんだ。ボランティア活動を通しての知り合いでもあり、コミレスという考え方も、想いも共有できそうだったので一番に相談をしてみたところ、興味を持ってくれたので、実現できるかもしれない、という勇気が出た。ビジネスプランコンテストに応募するための事業計画つくりでは、相談したり、協力いただいたりしたが、K子さん以外にワンデイシェフの目処がついていた訳ではなく、開店までに果たして何人(組)のシェフが確保できるか、不安もあった。

 それでも、何とか最低でも開店までにせめて毎日ランチを提供できるだけのシェフを確保したいという思いで、いろいろな方々に声をかけていった。しかし、実際には開店の時には4組(5名)の登録があったが、週の内、火曜日と水曜日の二日間だけのランチという状態で見切り発車をせざるを得なかった。そんな状態でお客様に来ていただけるのか、営業が成り立つのか不安もあったが、しかし、無理に誰かにお願いをしたり、自分がシェフとして厨房に入ることは考えなかった。

 ここでは、管理人(=協働コーディネーター)は「場」の提供者として、この場を使って、何かをやってみたい、生きがいを見つけたい、夢を実現したい、楽しみたい、元気になりたい、といった人々を応援し、「つくる人」と「ほしい人」をつなぐ場を提供し、多様な想いや情報、物や人が交流し、それぞれが主体的に何かを実現してゆくための支援をする、という「協働コーディネーター」としての役割を実践していかなければいけない。

 その中で、一番大事にしたいことは「誰もが主役」である。だから、「てまえみそですが・・・」などと謙遜や遠慮などしないで、得意なこと、好きなことをどんどん持ち寄って、ちょっと皆のために使うことで、人も、まちも、自分も、元気になろうよ!という場と機会を提案、支援しながら、自ら「シェフをしてみたい」という、料理が大好きで、得意な主役の登場を待ち続けている。

 2005年11月からスタートして1月後、12月にもう1組(3名)が登録をしてくれたが、残念ながら1組(男性1人)が本業が忙しくなってしまって、シェフに入れなくなってしまった。その後、年が明けて、2月から1組(1名)、5月から1組(5名)、6月から1組(1名)と、少しずつ増えてきてはいるが、まだ全ての営業日にランチを提供できる体制までにはなっていない(2006年8月末現在)。こらぼ屋の海山氏のお話でも、最初は7人の登録から始まって、3年後には50組ものシェフ登録があったということだったので、引き続き「シェフ募集」もしながら、一日も早く「毎日ランチ」を提供できる体制ができることを願っている。

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(4)資金  
 あまり儲かる見込みのないコミュニティ ビジネスとはいえ、責任とリスクを自分なりに背負うことで、本気で事業を立ち上げる覚悟を持つために、事業部分の立ち上げ資金として500万円を県の起業支援の融資を受けることにした。ところが、取引銀行を通して具体的に手続きを進める中で審査があり、そのための資料があれこれと要求され、ほとんど途中で投げ出したい気持ちになった。まだシェフ体制の目処も立たない内から、登録名簿や契約書、1ヶ月の営業予定表などを出す様にと言われても、出来ないものは出来ないと言うしかなく、間に入った銀行の担当者を困らせたりもした。結果的には、2004年度の浜松ビジネスコンテストに出した事業計画書と入賞した実績に助けられたお陰で、無事融資を受けることが出来た。後日、銀行の担当者から「この様な先行き不明なビジネスで融資がおりたことは画期的なこと!」と聞かされ、一応社会的な「ビジネス」として認められたということがやはり嬉しかった。

(5)「食品衛生管理責任者」と「営業許可」
 「ワンデイシェフシステム」を導入し、厨房を設計する上で、一番気になるのが「営業許可」の問題であろう。「食品衛生管理責任者」は調理師や栄養士の資格を持っていなくても、一日の講習を受けることで、誰もが簡単に取ることが出来る。「営業許可」は食品衛生管理責任者がいることと、厨房と厨房設備の基準を満たしているかの検査を通れば、取ることが出来る。厨房と厨房設備の基準については、設計段階で事前に保健所に相談に行けば教えてくれるし、厨房機器の業者でもいろいろな情報を持っているので、相談するといい。営業する「場所」で営業許可を取れば、実際にそこで調理するシェフは、調理師や栄養士の資格が無くても料理を提供することが出来るので、ワンデイシェフシステムが成立するという訳である。

 次回は、コミレス「てまえみそ」で行われている様々な活動と広がり、今後の課題などを紹介する予定。

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