Vol.30 2006年9月6日号

「協働コーディネーター」養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ6 
  地域の茶の間「てまえみそ」
  「こだわり・うんちく・てまえみそ」がコミュニティの場を作る
第1回 コミュニティ・レストラン「てまえみそ」を開設

コミュニティ・レストラン「てまえみそ」管理人 富田久恵

 特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは「協働コーディネーター」を養成する、「協働コーディネーター」養成講座を開催してきました。その成果として、「協働コーディネーター」として各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、「協働コーディネーター」として活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
  シリーズ6では、静岡県 浜松市 で地域づくりの核となるコミュニティ・レストラン「てまえみそ」の開設し、運営している富田久恵さんの実践の報告です。コミレスは思いを形にするためのものです。その中での協働コーディネーターの役割、重要性を知ってください。

キーワード・・・「誰もが自分らしく、活き活きと輝ける場」、「人もまちも自分も元気になれる場」

1.想い
(1) ゆっくりと、5年掛かりの想いを熟成させて開店
 1997年末に25年間勤めた企業を退職したことをきっかけに、 NPO と出会った。アメリカでの勉強の機会にも恵まれ、以来、様々な活動に積極的に参加してきた。2000年にはアクション ・シニア ・タンクという、豊かな経験と多様なニーズをもつ、高齢者、障害のある方々、女性などのグループを基盤としたコミュニテイ・シンクタンク NPO の立ち上げに参加し、現在も代表理事として活動している。

 そんな中で「誰もが自分らしく、活き活きと輝ける場」、「人もまちも自分も元気になれる場」づくりがしたい、という想いが自分の中で次第に膨らんできた。そして、NPO研修・情報センター(以後TRCと略す)が提案している「コミュニテイ・レストラン」という事業形態を知り、興味を持った。

 2004年11月に、 TRC 代表理事でコミュニティ・レストランの提唱者の世古一穂氏を招聘して、地元浜松でコミレス講座を開催したところ、20名以上が関心を持って集まった。TRCが主催する協働コーディネーター養成講座にも参加し、様々な地域での活動や人々と出会う中で、次第に「漠然とした想い」を「具体的な夢」という形に描いてゆくことが出来た。

 2005年10月29日の開店を迎えるまでに、5年余りの歳月が過ぎていた。ゆっくりと熟成された想いがやっと小さな芽を出した。これからは多様な人々の想いや係わりに育まれ、ゆっくりと実らせて欲しいと願っている。

(2)なまえこそ命! 店名「てまえみそ」の決まるまで
 柱となるコンセプトとそれに合った店の名前が思い浮かばず、悶々としていた時、TRCの協働コーディネーター養成講座で偶然に隣の席に居た O 氏の名刺に「手前味噌」とあるのを見て、「これだ!」と閃くものを感じてしまった。早速に事情を話すと、快く店名に使用することをご了解頂き、店の名前はひらがなで「てまえみそ」と決めた。

 本来は、自分の得意なことを少し控えめに「てまえみそですが・・・」と言って披露する時の言葉ではあるが、ここは、一人ひとりの「てまえみそ」を持ち寄って、「ひとも、まちも、自分も、元気になれる場」にしたい、という自分の中の想いが名前とぴったりマッチし、コンセプトも明確になり、実現に向けて大きく一歩前進したのを実感した。

 「名は体を現す」の通り、名前の持つイメージ、意味、音、全てに店の命運が掛かっていると言える程、店の名前にはこだわりがあった。漠然とではあるが、ひらがなの日本語で、覚え易い名前が良いと、ずっと考えていた。てまえみそではあるが、自分でもこの名前が大変気に入っているし、一度聞いたら記憶に残る名前でもあり、開店後のお客様の評判も予想以上に良いのが嬉しい。敢えて難を挙げれば、何の店かが分かりにくい、味噌屋と間違えられたこと、くらいだが、お陰様で話のネタとしては事欠かない。 

(3)「こだわり」「うんちく」「てまえみそ」はコミュニケーションの種
この3つが、てまえみそをコミュニケーションの場として運営するコンセプトの柱となるキーワードである。イベントの企画や、取り扱い商品の選択、運営の全てを常にこのキーワードのものさしからずれないことを確認しながら考えている。何故ならば、それらは、ここが目指す「コミュニケーションの種」だからだ。てまえみそで提供する物(ランチや商品)やサービス、企画などは全て、人が足を運んで頂くためのきっかけであり、目的とする所は、そこで生まれる人と人の出会い、コミュニケーションなのである。その為には、「これはね・・・」「この方はね・・・」といったこだわり、うんちく、てまえみそが、まずはコミュニケーションの種として重要な役割を果たすという訳である。

4)ビジネスコンテストでの入賞で力を得た
 毎年、浜松地域では起業を支援する取り組みとして「浜松ビジネスプランコンテスト」の募集がある。ちょうど良い機会だったので、2004年夏に、事業計画書をまとめて応募したところ、同年12月5日の最終審査のプレゼンテーションの結果「優秀賞」を頂いた。

 この応募審査の過程を通して、事業の先輩から事業計画のブラッシュアップを受けたり、会計の専門家から収支予算に対する助言や指導を得ることができた。また、同じ起業を目指す多くの仲間とも出会うことができ、何より「一人ではない」という心強い応援を得ることができた。そして、この時の受賞が、県の制度融資の借り入れをする時に、大きな力を貸してくれることになった。

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2. しくみ
(1)4つの事業の柱で「人が集まる」しくみ、「場所を維持する」しくみつくり
  「てまえみそ」はコミュニティ・レストランだけの運営ではなく、4つの柱となる事業を組み合わせることで、「人が集まり」「場所を維持する」資金を確保することを目指している。

@ 【朝市】 
 毎週火曜と土曜は「てまえみそ朝市」でご近所さんへ新鮮な野菜を提供している。市内の認定農業者(エコファーマー)である「森島農園グループ」から地元産の新鮮な農産物を直仕入れで安く提供している。店のある中沢町周辺には歩いて行けるスーパーや商店が無く、車を運転しないお年寄りには大変不便な所である。自治会が農家グループに依頼して、週一回公民館で朝市を誘致しているが、それ(木曜日)に加えて、週2回(火・土曜日)開催することで、地域の皆様の便宜を図っている。地元産だけに、季節はずれの物は入らなくなってしまうが、生産者から直だからこその規格外の格安商品が入ったりして、お得感もあり、喜んで頂いている。

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A 【ギャラリーショップ「ぜんまいいもむし」】
 手作りが得意な方の作品をお預かりして展示販売するギャラリーショップ事業で、店の名前が「ぜんまいいもむし」という。手下1号と2号と呼ばれる二人がショップのプロデュースと販売管理をしている別経営体である。 <写真3>

 「ボックス貸し」ではないので、一点でもお預かりすることができ、固定費が掛からないので、作り手さんには安心して作品を出展できる。売れた場合は売上の7割を作り手さんへ渡し、3割を運営費として入れて頂くことになっている。が、あくまでも、売り上げが発生したら、なので、毎月の固定費が入る訳ではないが、店内のディスプレイの役割も果たしてくれているので、お互い様の関係でもある。

B 【カフェ&ランチレストラン】
  ここが、本題のコミュニティ・レストラン(コミレス)の部分である。料理が得意な主婦等のグループが日替わりで心のこもったランチを提供する「ワンデイシェフシステム(*)」で運営。現在6組のシェフの皆さんが担当している。 <写真4>

 ワンディシェフは毎週1回〜月1回まで、それぞれの都合に合わせて、担当の予定を決める。材料、調味料等は全て持ち込みで 1食800円のランチ20食 を目安に準備をし、余った場合は持ち帰る。実際に出た数の売り上げ金額から3割をてまえみその運営費・光熱費として頂き、7割をシェフに支払うというしくみである。あくまでも売り上げベースなので、20食が出なかった場合は、てまえみその受け取る3割も少なくなり、言わば痛み分けでリスクを背負うことになる。てまえみそはもちろん、シェフも自ら広報、 PR をしてお客様を呼ぶ協力もすることになる。

 残念ながら、まだ全ての稼働日にランチを提供できる体制が整っていないため、一日も早く、「毎日ランチ」を提供できる体制ができることが当面の最大の課題である。なるべく早めに「ランチ予定表」を作成し、印刷物として配布したり、ブログで情報発信することで、何とか不定期の体制の中で利用して頂ける努力をしている。

 また、月曜日の担当グループ「ポラリス」の皆さんは、お年寄りに夕食のお弁当を作って配達するという活動もしている。月曜日にはランチの準備と同時に夕食のお弁当の準備もし、店の定休日の木曜日にも厨房を使ってお弁当作りをしている。新たに、ご近所の一人暮らしのお年寄りから配達の予約を頂いたり、障害のある方々のネットワークからの予約注文が増えたり、軽度の知的障害のある方の就労訓練の場としても協力して頂いたり、活動が広がっている。

ランチの時間外の「カフェタイム」については、管理人が一人で対応しているが、まだ期待する程の利用が無いのが実情である。地域の皆さんが気軽に足を運んで、寄り集まりやすい場所になるには、もう少し時間が掛かりそうだ。

(*)「ワンデイシェフシステム」は 四日市市 のコミレス「こらぼ屋」の海山氏が始めたコミュニティ・レストランの運営方法で、てまえみそで導入するに当たっては、何度か訪問し、ご指導を仰いだ。

 

C 【フリースペース】 
 特に、ランチや朝市などの通常営業外の時間を、グループやご近所、ご家族などの寄り合う場、貸切りの会合やミニパーティなどに使って頂くことで、コミュニティつくりを支援する場としての活用を提案している。  

 これまでも、ボランティアグループと車椅子の方々との集まりや、小さな子ども連れの保育園の仲間の新年会、シニアのサークルの新年会など、様々なグループの新年会や送別会、交流会などにご利用頂いている。貸切りであり、厨房を使うことができるので、家庭の居間の延長として、アットホームな雰囲気で楽しんで頂いている。飲み物、食べ物については、持参・自炊が原則で、自炊、後片付けが出来る仲間が居れば、場所代を払っても、格安で、安心して楽しんで頂けること請け合いである。 <写真 5 >

 シェフとの都合が合えば、特別メニューでパーティ料理の提供も可能であるが、この場合は時間貸しではなく、料理の料金で設定させて頂くことになる。これまでも、男性ばかりのグループで、お気に入りシェフ付の貸切りランチパーティをして好評を頂いた。

 毎月1回第一火曜日の午後には歌の好きな「ちょっと昔の児童たち」の緩やかな会「歌謡サロン」の皆さんが集まる。子ども連れのお母さん達のグループの料理教室や男性のグループの囲碁・将棋サロンの様な、仲間つくりの場に活用されることを期待している。

(2) メニューと販売品
@ ランチメニューはシェフによって特徴があり、また、同じシェフでも毎回メニューが違うので、毎日食べても同じものは出ない。2週間前までに、次の2週間のメニューを出して頂き、全体の「ランチ予定表」を作成し、印刷して、来店者やご近所を通じて配布したり、ファックスで案内もしている。それぞれのシェフの特徴としては、

 1) 毎週月曜日担当「ポラリス」さん は高齢者へのお弁当の配達もしているグループなので、和食中心の家庭料理、いわ   ば「お袋の味」であろうか。

 2)  毎月一回、第二火曜日に「こだわりカレー」 を提供してくれるのは、本格的なプロの「カレー処・ヤサカ」さん。店のコンセプト   が近いことから、宣伝と応援になれば、ということで、自分の店の定休日に出張サービスをしてくれている。

 3) 毎月二回、第二・第四水曜日の担当は、 Two-some Kitchen ( 京子&慶子 ) のお二人。国際交流協会のボランティアや   海外生活の経験のから得た様々な国の美味しい料理のレシピを上手く活かして、いつも珍しい多国籍料理を提供してくれ   る。家庭ではなかなか作れないメニューで楽しませてくれる。

 4) 毎月一回、第三水曜日だけを担当するのは、自家製麺「はな」さん。 本業は「自家製生うどん」を無店舗で受注・販売をし   ている。生麺を実際に食べて頂く機会として、ご飯ものや付け合せ、デザート等とセットにしてランチとして出している。

 5) 毎月二回、第一・第三金曜日の担当は、 PEANUTS の3人組み。 韓国風、和風、中華他なんでも、とそれぞれの得意分   野を活かした幅広いメニューでボリュームもたっぷりである。珍しい食材を使ったり、意外な食材の組み合わせなどで、毎回   小さな「サプライズ」を提供してくれる。

 6) 毎月一回、最後の金曜日の担当は、バングラディシュ出身の英語講師ウーシャさん。 彼が作る「バングラディシュカレー」   は、本国の母親手作りのスパイスを使ったダイナミックな本格カレーで、彼の英語教室の生徒から、大学の先生や学生など   ファンも多い。異文化交流と英会話と美味しいカレーが一度に楽しめる。

A 喫茶メニューと店内販売品には「こだわり」 「うんちく」 「てまえみそ」が大事なキーワードである。店内の販売している物は、「売る」のが目的というよりは、コミュニケーションの種であると考えている。従って、「こだわり」「うんちく」「てまえみそ」が大事な要素であり、お客様に「これはね・・・」とお話ができるストーリーが必要なのだ! 作っている人の顔が見える物、ストーリーのある物、他のお店ではあまり売っていない物、自分が買いたくなる物、を基準にして品揃えしている。

 1) <UCC有機栽培珈琲> 安心・安全へのこだわりだけでなく、味も良く好評である。有機栽培シュガーと合わせて、持ち   帰り用の販売もしている。

 2) <地元( 浜松市 三方原)産葵乃紅茶> 緑茶は有名でも意外と地元産の紅茶は知られていない。マイルドで、ストレート   かミルクティーがお勧め。店内喫茶メニューはもちろん、お土産用の販売もしている。この紅茶は「葵乃名品工房」というまち   づくりのグループがまち起こしのために商品開発したもので、葵乃姫様せんべいとセットのお土産用もあり、うんちくには事   欠かない。

 3) <豆乳わらび餅とおから茶セット> しっかりした歯ごたえとボリュームがある「豆乳わらび餅」の満足感がヘルシー指向と   相まって人気の定番メニューである。豆乳わらび餅、おから茶も、持ち帰り用の販売もある。また、販売用の豆乳シリーズ   製品(豆乳入りかりんとう、芋けんび、クッキー等)にもこだわりが詰まっている。

 4) <車椅子のケーキ屋さん「ケーキ屋くんちゃん」のクッキー> 不自由な手でパウンドケーキやクッキー作りを楽しんで、車   に乗せて行商し、笑顔と元気を振りまいてくれるくんちゃん。 元々のNPO活動の仲間だったのが、てまえみその開店を機   に、委託で販売させてもらうことになった。美味しくて根強いファンも多く、入荷するのを待って、買ってくれる。

 5) <都田カクトロコ自家製「のんちゃんみそ」> 店の名前が「てまえみそ」であるからには本物の「てまえみそ」も置かなくて   は、ということで、のんちゃんの自家製みそを仕入れ販売している。製品としての味噌の販売だけでなく、ここでは作業場を   借りて誰でも 「てまえみそ作り」 をすることが出来る。我が家でも一年前からここで「てまえみそ」を作り、毎朝の味噌汁に   使っているが、何故か本当に一番美味しいと感じる。今年は店のお客様を誘って「てまえみそ」の仕込みをした。今頃、どん   どん熟成して美味しくなっている頃かと思うと、幸せな気持ちになる。自家製のんちゃん味噌の根強いファンも居るが、これ   からは「てまえみそ」仲間も増やしていきたいと思っている。

 次回は、開店までのプロセスや、資金、ネットワーク作りなどを紹介する予定。

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