Vol.30 2006年9月6日号

「世界の潮流とNGOの動き 第21回」
新しい世界システムと憲法九条(その4) “『9条』を世界のNGOネットワーク”へ

―― 「GPPAC」で結び合おう

長坂寿久(拓殖大学国際開発学部教授)

キーワード・・・ 九条、9条、NGO/非政府組織、NPO/非営利公益団体、GPPAC、
         ネットワーク、平和学、人間の安全保障

1.本稿の目的 九条を世界の市民の力で守る
 本稿は、日本国憲法九条の「改訂」を阻止し、かつ九条を世界中の人々の共有財産とするために、これに賛同する世界のNGO・NPOとネットワークを組みつつ、この運動を展開していくキャンペーンの形成を想定して書いています。

 現在、すでに日本においても、九条を世界に発信していくことを目的とした人々や団体は多く存在し、貴重な活動を展開しています。その中でも、本稿では「GPPAC」 ( ジーパック ) の役割に注目し、九条を世界のものにするために、これらの力をGPPACへ結集することの意味を考えるものでもあります。GPPAC( Global Partnership for the Prevention of Armed Conflict )は「武力紛争予防のためのグローバル・パートナーショップ」という国連のアナン事務総長の呼びかけを通じて結成された世界のNGOネットワークです。このGPPACネットワークを舞台に今後の九条運動を展開していくのが最も有効ではないかと考えられるからです。

 本稿に対して、皆様の忌憚のないご意見をお寄せいただければありがたいと思います。

2.はじめに
 日本は戦後61年を経て歴史的な危機に直面していると強く感じます。

 昨05年選挙で、小泉政権が衆議院の3分2を占める事態となりました。と共に、民主党は憲法九条2項を削除し“改正”することを主たる主張としている人物が党首となりました。この時、私は友人と、次のようなことを語り合いました。

 今後3年のうちに、日本で最もありうることは、こうした政権党の絶対多数と第二党野党の支持を背景に、日本国憲法の “改正”が急速に具体化し、日本が太平洋戦争の経験から唯一獲得した歴史的未来への道しるべである「9条」を喪失することになるのではないか。「9条」を私たちの子どもたちの世代に残すことができないのではないかという思いに、胸が突き刺されるような痛さを感じました。

 私たち、私自身は、この歴史的危機にどう行動すべきなのでしょうか。

 その時、私の頭の中に浮かんだのは、世界中のNGOたちがネットワークを組んで、「九条を世界の共有財産に」というキャンペーンを展開しており、日本での国民投票の前日には、世界中の街角で「九条を守り、世界の共有財産へ」というデモが展開されている姿です。これに呼応して、日本でも市民の圧倒的な支持を得て九条が守られるのです。

 これはその時の空想に過ぎませんが、空想は次第に現実化すべき夢に変わっていきました。夢を形にし、システムにしていくことをもう少し具体的に考えてみたいと思い、今更ながら(遅ればせながら)九条の勉強を始め、本メルマガに九条問題について書き始めました。

 九条に関して、本メルマガでの第1回(05年10月、第24号)として 『新しい世界システムと憲法九条(その1)』 で、「軍隊のない国を国家といえるのかという質問がよくある」と教えたくれた人がいたので、新しい国家システムと九条の意味について考えてみました。「21世紀になり、世界状況の変化、国益の変化を踏まえ、『近代国家システム』の変容が求められている。近代国家は『自衛』の名において武力をもち、暴力(戦争)へ邁進する仕組みを内包している。しかし、21世紀は、『超近代国家システム』を追求すべき時代となっている。近代国家システムは、ヘントの和平条約を先駆的理念とし、ウェストファリア条約を経て具体的に形成されてきた。新しい『超近代国家』システムの形成において、 “ ヘントの和平協定 ” の導入のような先駆的理念となり、役割を果たすものは、日本国憲法九条である」ことを紹介しました。

 第2回(05年12月、第26号)の「 日本とアジアの安全保障と憲法九条」 では、「アジアの国々にとって憲法九条とは何なのだろうか」と質問してくれた人がいたので、現代のアジア情勢を分析しつつ、『九条 2項』の放棄はアジアと日本の安全保障をいかに脅威に陥れるかについて書きました。 この時にGPPACについて触れました。

 第3回(06年4月、第29号)の 「開発協力と平和について〜〜MDGs(ミレニアム開発目標)への取り組みと憲法九条」 では、「憲法九条とアフリカの貧困問題とは関係あるのだろうか」と質問してくれた人がいたので、格差を広げる開発途上国がその貧困の厳しい実態から脱出するには、今や日本国憲法九条がいかに重要な意味をもっているかについて、『ミレニアム開発目標』(MDGs)への取り組みを紹介しつつ述べました。「人間開発」という視点で開発途上国や格差の構造を捉える時、「新しい平和学」としての「人間の安全保障」の重要性を認識し、憲法九条の先駆的意味と役割が浮かび上がってきます。

 今回は第4回として、「世界のNGOの活動と憲法九条」のようなものを書きたいと考えましたが、結果としてGPPACを紹介する形となりました。これは本稿を読んでいただければお分かりいただけるものと思います。

 なお、余計なことですが、GPPACの日本の受け皿(GPPACジャパン)を引き受けているのはNPOピースボートです。ピースボートの日頃の活動には敬意を表しており、事務局にお伺いしたこともあり、かつGPPACジャパンの会合に2回程出席させていただきましたが、本稿を書くことを事前にお話しているわけでは全くありませんので、GPACCの関係者の方々には唐突でご迷惑かもしれません。ご容赦下さい。

3.九条を世界のものにするためのプロセス〜〜NGO国際キャンペーンについて
  日本において「9条」を守り、世界に普及させることを願って活動している団体は実に多くあります(注1)。それ らの中で世界のNGOと連携しうる可能性を最ももっているのがGPPACだと思われます。GPPACのホームページには次のように記されています ( 注 2) 。

 「イラクやアフガニスタンでの戦争や、相次ぐ『テロ』問題 … 世界からは一向に戦争や紛争がなくなりそうにありません。世界の多くの政府は、特定の人々を『テロリスト』と呼び、武力をもって封じ込めようとしています。しかし、私たちが本当に考えるべきなのは、テロや紛争が起こる前に『予防する』という視点ではないでしょうか。

 GPPAC(ジーパック)とは、その『紛争予防』を目的とした、世界的なNGOプロジェクト。戦争や紛争が起こらない世界をつくるために、私たち市民が政府や国連と協力し、どのような役割を果たせるか、を議論する大規模なプロジェクトです。

 Global Partnership for the Prevention of Armed Conflict (武力紛争予防のためのグローバルパートナーシップ)の頭文字を取ったのが「 GPPAC 」。

  2001年、国連のアナン事務総長が報告書の中で「紛争予防にける市民社会の役割が大切」だと述べ、紛争予防に関するNGO国際会議の開催を呼びかけました。これに応えて発足したプロジェクトがGPPACです。

 欧州紛争予防センター(ECCP)を国際事務局とし、世界各国のNGOが「地域プロセス」に参加。2005年7月にニューヨーク国連本部で行われた国際会議において、それぞれの地域からの提言を討議し、GPPAC世界提言「武力紛争予防のための世界行動提言」を採択しました。

 ピースボートは韓国や香港のNGOと共にGPPACの進行役として、東北アジア地域プロセスを進め、2月に東北アジア地域からの提言「東北アジア地域アジェンダ」を採択しました。」(HPから。読みやすくするため、若干筆者の修正あり)。

 また、その後、東北アジア地域プロセスの一環として、2006年3月に北朝鮮・金剛山において 「GPPAC金剛山会議」 を開催。この会議で、GPPAC東北アジア声明 ( 金剛山声明 ) と、「地域行動計画(2006−2010)」を採択しています。

 また、活動の一環として、05年8月15日には世界各地の新聞に九 条を広報するキャンペーン広告を掲載、11月には朝日新聞に掲載しています。

 さらに、ピースボートを中心に、「グローバル9条キャンペーン」を展開しています。「日本が『国』として『もめ事を解決するために武力は使わない』『その手段としての軍隊も持たない』と決めた憲法第9条。その理念や平和主義を、世界の人々に知ってもらい、もっともっと広めていこう」、というのがキャンペーンの主旨。

 「9条を世界に発信する前に、国内での改憲問題に取り組むべきという見解もみられています。しかし私たちは、私たちならではのネットワークを通して、9条を支持していくという意志を隣国に伝えるとともに、世界からの関心の強さを国内に反映させることによって、悲惨な戦争を体験せず憲法9条改正に対する抵抗が弱まった日本現代に、9条の重要性を再確認して欲しいのです。そして『二度と過ちを繰り返さない』というアジアの人々に対する誓いを守っていくために、今後も前向きな活動を続けていこうと考えています。」とHPで紹介しています。

4. GPPACプロセスと九条―― NGOネットワークの意義
  九条を世界化していくプロセスの場として、GPPACがその条件をもっている第1は、GPPACはNGO主催の会議であり、NGOの国際ネットワークであることです。しかもアナン事務総長の提案に呼応した形で始まったことからも、国連との共同プロジェクトとして進められてきています。05年7月の国連本部でのGPPAC国際会議には世界から約1000人のNGO代表者、国連関係者、政府関係者が一堂に会したそうです。

 NGOの国際ネットワークは、90年代後半から、いくつかの新しい多国間条約の形成に大きな影響力を与えてきました。1997年署名、99年発効した対人地雷全面禁止条約は、ICBL ( 対人地雷禁止国際キャンペーン ) というNGOの国際ネットワークによって導かれもので、NGOが主導した初めての国際条約、国際機関以外の場で成立した初めての国際条約となり、国際条約の成立にプロセス革命を起こしました。そのためノーベル平和賞を受賞しました。

 1997年の気候変動枠組み条約に基づく京都議定書の締結は、CAN(気候行動ネットワーク)という環境NGOの国際的ネットワークの影響力によって、数値目標を設定できたといわれています。CANというNGOがなかったならば、京都でも結局「総論賛成、各論反対」で、数値目標を設定しないこれまでと同様の空疎を国際条約の締結に終わっただろうといわれています。京都議定書成立は、国際条約の成立にNGOの国際ネットワークが強い影響力を与え得た初めてのケースといわれています。

 2002年に発効した国際刑事裁判所設立規定は、国連の場で交渉されましたが、CICC(国際刑事裁判所を求めるNGO連合)というNGOの国際ネットワークと国連とが連携することによって成立にこぎ着けた初めてのケースとなりました。その他に、重債務開発途上国の債務帳消しを求めるNGOの国際キャンペーン(JUBILEE2000)や、NGOによる必須医薬品入手キャンペーンなどが行なわれたことを通して、現在やっと少しずつ進められている重債務問題への対応や、エイズなど特定の必須医薬品の入手(ジェネリック薬)に対するWTOルールの軟化も行なわれてきたのです。このように、NGOの国際ネットワークは今や世界システムに非常に強い影響力を与え得るようになっているのです(注 3 )。

5.九条平和学の理論化と適用
 第2に、GPPACは紛争予防と平和構築に取り組むNGOの国際ネットワークとなっていることです。九条は 非暴力・非軍事的紛争予防を追求しています。これに日本国憲法前文が合体して、 紛争予防と平和構築を積極的に体系化・理念化しているのです。

 九条は「 戦争放棄・戦力不保持」という禁止規範となっています。そこにこそ世界史的意義と展望があるのですが ( 本シリーズの < その 1> 参照 ) 、この「戦争放棄・戦力不保持」は前文「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われわれの安全と生存を保持しようと決意した」と一体となって、積極的な「人間の安全保障」理論となっているといえるのです。

 つまり、日本の私たちの「安全と生存の保持」(人間の安全保障 ) は、「平和を愛する諸国民」(世界の平和を愛する人々、つまり平和を愛する世界の市民 ) の「公正と信義」に対する「信頼」によって成り立っているという理論体系となっています。

 ここでは3つの重要な点を指摘しておきます。一つは、「公正と信義への信頼」は紛争予防と平和構築によって担保されるであろうということです。国際的な紛争予防システムの構築と共に、原点には平和教育が最も重要なものとして指摘されるでしょう。

 二つ目は、「諸国民」とは、各国の政府というよりも、各国の市民、その組織化されたものとしてのNGO、それが国際的なネットワークを組むことによって「公正と信義」が「信頼」へと担保されるということを現代では示しているということだと思います。世界のNGOのネットワークは基本的にはどれもその信頼の担保を期待できる存在ですが、その「信頼」を担保させうる最も積極的なNGOの国際ネットワークの一つとして、GPPACは位置づけられるのではないかと思います。

 三つ目は「人間の安全保障」です。こうした紛争予防と平和構築の理論として、すでに「人間の安全保障」という言葉があり、理論化されています。「人間の安全保障」については、本稿の<その3>で紹介していますので、ご参考下さい。

 GPPACはこのように、九条の平和学の理論と適用について議論できる場となっていると同時に、それが実践できる大切な場でもあるのだと思います。

6.GPPACの中の「九条」
 第3に、GPPACの世界提言の中に、九条を地域紛争予防メカニズムとして評価・指摘されていることです。九条はGPPACの中で、「@平和メカニズムとして、A紛争解決の理念として捉えられ」ています(注 4 )。地域別に討議し取りまとめた報告書『平和を構築する人々:暴力紛争予防のための世界行動提言』には、コラム掲示で次のように記されています ( 注 5) 。

 「世界には、規範的・法的誓約が地域の安定を促進し信頼を増進させるための重要な役割を果たしている地域がある。例えば日本国憲法9条は、紛争解決の手段としての戦争を放棄すると共に、その目的で戦力の保持を放棄している。これはアジア太平洋地域全体の集団的安全保障の土台となってきた」

 この点について、本シリーズ<2>で、次のように解説しました。 「九条の放棄はアジアの安全保障体制の根幹を崩壊させることになる。日本は、九条2項を廃棄した後のアジアの安全保障の安定に責任をもてるだろうか。歴史の教訓と謝罪を放棄し、日本はアジアの軍事大国として、パンドラの箱を開けてしまうことになるだろう。九条2項の破棄は、日本とアジアの安全保障にとって『脅威』そのものとなる。日本の軍事大国への道に歯止めをなくし、アジアの安全保障を脅威に陥れ、経済安全保障をも脅かすものとなるであろう。このように九条とくに2項の放棄は、日本の安全保障を脅威に陥る。九条は実態として、日本だけの問題ではなく、国際的意味をもっているのである。これまでもそうであったし、これからもそうである。」

 地域討議の中で議論され、取りまとめられた「東京アジェンダ」では、九条について上述のように、「九条改訂の動きは、東北アジア内の近隣諸国に対する脅威になろうとしている」と指摘し、さらに次のように記しています。「九条が地域的平和を促進するための不可欠な要素の一つである。九条は日本の軍事主義を封じ込めることで地域の民衆の安全を確実なものにするための規範であるとされてきた」「とくに、紛争解決のための手段としての戦争およびそのための戦力の保持を放棄したという九条の原則は、普遍的価値を有するものと認知されるべきであって、東北アジアの平和の基礎として活用されるべきである」(注 5 )。

 GPPACジャパン関係者が、GPPACの体系の中にこのように九条をビルトインしようとしてきた努力に対し敬意を表します。今後は、これを東北アジア地域のイッシューとしてのみならず、GPPAC全体の、世界のイッシューにしていくことを目指すことになるのです。

7.「『九条』を世界へ、NGOネットワーク」へキャンペーンの展開について
 『九条』の理念を世界に発信し、世界のNGOとネットワークを形成することによって、その理念を世界に広げ、世界の共有財産(国際公共財)としていく。それを確認するため、各国で「『九条』宣言」を行なうよう運動すると共に、国連で「『九条』国際公共財宣言」を行なうことを目指す、という日本発のキャンペーンを想定してみよう。

  私たちは「『九条』を守る」という姿勢にとどまらず、『九条』を世界に発信し、国境を超えて世界の市民とネットワークを形成し、これを世界の共有財産(国際公共財)としていく積極的な姿勢をとっていくことが必要だと考える。

 これまで『九条』について、日本の多くの団体や市民がこれを世界に訴え、『九条』の理念を世界の財産とすべく活動を行なってきています。しかし、依然『九条』の存在は世界に十分知らされるに至っているとは言えないし、『九条』をもつ国がすでにこの地球上に存在することの意味について注目する人々も多いとはいえません。

 しかし、21世紀に入り、NGOの国境を超えたネットワークが世界の構造に大きな影響を与え、オルタナティブなもう一つの新しい構造を造り上げてきている実態に注目するとき、私たちは世界の市民・NGOと連携(ネットワーク)することによって、『九条』を世界の共有財産(国際公共財)とする可能性をもちえてきていると感じます。

 また、こうした運動を行なうことが、まもなく明らかになる憲法“改正”の具体的かつ強力な動きを阻止しうる恐らく最も有力な手段となりうるのではないかと考えます。

 そして、世界に不戦の誓いを求めるこのキャンペーンが、日本から発信される国際的な波及とインパクトをもち得るキャンペーンとなることを目指すものでもあります。

 そして、このキャンペーンをGPPACの場を基盤としつつ、基本的にはGPPACにとらわれず、世界のNGOに対してキャンペーンを行なっていくことになるでしょう。

 その際、いくつかの点を指摘しておきたいと思います。

(1) “『九条』全文 ( 1・2項共 )( の理念 ) に賛成・同意”することがネットワーク参加の条件となりますが、その際、「『九条』に賛成・同意」することのみを条件とし、それ以外のことは一切条件としないということ。「賛成・同意」の背景にあるさまざまな前提条件、考え方、例えば、自衛隊や日米安全保障条約の問題などへの姿勢は一切問わないという方針をとることです。

 「九条を守ることに賛成」というピンポイント以外に条件をつけていくと、参加条件が厳しくなり、九条の賛成者は次々と脱落し、支持者を減らしていくだけになる恐れが起こりかねないからです。今直面している九条を喪失しかねないという問題には、多様な思いや価値観の人々の大同団結が必要だと思います。

 NGOが国際キャンペーンを行なう時、3つ程のターゲットの設定の仕方があります。ICBLは対人地雷を「即時、例外なし、抜け穴なし」を参加条件としました。つまり、まさにターゲットはピンポイントです。CANは「環境」に関心のあるNGOなら誰でもいいという参加条件としました。非常に広範な参加条件です。そこで皆で集まって議論し、合意を得たもののみを要求項目としていきました。CICCは「国際刑事裁判所の設立に賛成」を参加条件にしました。どのような裁判所であるべきかその内容については集まって議論し、合意しつつ決めていく方式をとりました。CICCはICBLとCANの中間的ターゲットといえます。

 九条の場合は、この点でCICC方式的なターゲットの設定の仕方となるのでしょうか。九条に賛成なら、その賛成理由は条件として問わないという方式がいいのではないかと考えます。

(2) 九条の国際アピールの仕方について、世界の人々に向かっての理論構築と理論の確認がさらに必要なのではないかと思います。この点について、馬奈木氏は、九条の議論は軍事力に代わるオルタナティブの手段を積極的に提示しているかと次のように問いかけています ( 注 6) 。

 「平和を達成するための手段としての戦争放棄・戦力不保持という禁止規範の側面については、九条を国際的にアピールしようとする取り組みが成果もあって、近時、次第に国際的にも理解を広げつつあるが、アピール自体が禁止規範の側面を強調しすぎることもあり、軍事力に代わるオータナティブの手段を積極的に提示するまでに至っていない。」 ( この点へのトライアルのつもりで、私なりにこれまで 3 つの報告を書いてみたつもりなのです ) 。

 また、現在のGPPACでは、「東北アジア地域以外との連携をどのように強めていくか」が課題だと指摘されています ( 注 7) 。現状では、九条は東北アジア地域の課題としてしか認識されていないように感じられるようです。

(3) GPPACジャパンの今後の運動展開として、GPPAC内での討議を通じた連携の強化だけでなく、まずは日本のNGO・NPOとの連携を図っていく努力、つまり日本のNGO・NPOに対して、この九条キャンペーンを理解してもらえるような展開を心がけるのがよいのではないかと私は思っています。そもそも日本のNGOの支持がなければ世界には広がらないでしょう。

 また例えば日本のNGOの中でも本部を海外にもっているNGOに対しては、そのNGOジャパンを通じて本部に伝えてもらい、そしてそのNGO本部から世界ネットワークへ伝えていってもらうプロセスを想定することです。そのためには、NGO・NPOを対象に想定したテキストの作成と新しい取り組みが必要となっています。

(4) GPPACの展開に賛同してくれている政府として、例えば アイルランド、スウェーデン、ドイツなどの政府などの名があげられています ( 注 8) 。GPPACジャパンとしては、このキャンペーンの展開には、GPPACジャパンの主張に賛同してくれる政府を探し、協働していくプロセスも重要な取り組みプロジェクトとなります。これにはGPPAC本部 ( 欧州事務局 ) の基本的理解と支持が必要となるでしょう。欧州事務局との対話とロビー活動も重要だと思います。

 前述したICBL、CAN、CICCなどのNGOの国際キャンペーンは、いずれもNGOの主張に賛同してくれる特定の政府 ( 国家 ) との協働によって達成・成功してきたのです。ICBLは、カナダ、オランダ等々の中核国 (Core Countries) と、CANは太平洋島嶼諸国 (AOSIS) や主な非産油国 ( グリーングループ ) と、CICCは設立に賛成する「志を同じくする諸国 (Like Minded Countries) 」と、それぞれ協働することによって達成してきました。国際条約の署名権は政府 ( 国家 ) にあるので、主張に賛成してくれる特定国政府との協働によって進めていくことを模索し続けなければなりません。

 多くの尊い命を犠牲にして勝ち取ってきた平和憲法九条の世界への普及について、日本政府自身が世界のNGOとの協働国として期待できないのが何とも残念でなりません。

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注1:日本におけるこうした「九条」関係の団体としては、例えば以下があります。これらはほんの一部です。
○九条の会――各地に、また多様な形であります。
○グローバル 9 条キャンペーン(ピースボート/GPPAC)
○憲法9条−世界へ未来へ 連絡会
○WORLD PEACE NOW 実行委員会
○日本ハーグ平和アピール運動――「世界に訴える憲法 9 条の危機アピール」
○憲法 9 条を世界の宝に・ピース9(ナイン)の会
○憲法 9 条にノーベル平和賞をの会
○人道的停戦を呼びかける実行委員会
○反戦・平和アクション(戦争反対、有事をつくるな!市民緊急行動事務局
○憲法調査会市民監視センター〔憲法市民フォーラム〕
○日本列島に、本当の民主主義を根づかせる会(民主主義の会)
〇許すな!憲法改悪・市民連絡会
〇厭戦庶民の会、等々
〇9 LOVE
〇九条アピール法律家の会、等々

注2 : GPPACについては、 HP は http://www.peaceboat.org/info/gppac/index.html
また、『法と民主主義』 2005 年 8/9 月号 ( 第 401 号 ) はGPPAC特集号で、最も包括的。
その他に渡辺里香「紛争を解決するのではなく、予防するために」『世界』2005年9月号、など。

注3:NGOネットワークと国際条約との関係については、弊著『グローバリゼーションとNGO・NPO』 ( DTP出版、 2004 年)に詳しく紹介していますので、参照ください。また、目加田説子『国境を超える市民ネットワーク』(東洋経済新報社、 2002 年)が優れています。

注4:『法と民主主義』 2005 年 8/9 月号、「 GPPAC 東北アジア地域アジェンダと日本国憲法九条」笹本潤、 p.10 。

注5:『平和を構築する人々:暴力紛争予防のための世界行動提言』  GPPAC ジャパンのHPから引用可能。ピースボート。

注 6: 『法と民主主義』 2005 年 8/9 月号、「国連改革の一環としての紛争予防をめぐる議論とGPPACプロセス」 馬奈木厳太郎、 p.31 〜 32

注 7: 『法と民主主義』 2005 年 8/9 月号、「市民社会は世界を変えられるか ? 」渡辺里香、 p.25

注 8: 『法と民主主義』 2005 年 8/9 月号、「国境を越えた市民が平和を創る」、馬奈木厳太郎、 p.3


 

 



 

 

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