コミュニティ・レストラン(R)実践報告
「コミュニティ・レストラン」プロジェクトとの出会いと実践(第1回)
       
伊藤規久子 (北海道コミュニティ・レストラン研究会代表/いこいの店「野の花」代表)

 北海道コミュニティ・レストラン研究会を立ち上げ、道内でのコミレス普及に尽力してきた伊藤規久子さんの、研究会での活動と実際に多くの仲間共にコミレスを立ち上げて運営している実践の報告をしていただきます。 2 月 25 日には、東京都内でコミュニティ・レストランフォーラムを開催します。詳細はコミレスホームページをご覧ください。

キーワード :協働コーディネーター養成講座、社会の様々な課題を解決するための有効なツール、素材選びと手作り、
        生産者とのネットワークづくり、安全・安心な食、コミレスの「循環型まちづくり機能」

1.「コミュニティ・レストラン」プロジェクトとの出会い
 2000年、札幌市が開催した「市民活動促進検討委員会」の公募委員を経験したことがきっかけで、「市民参加」や「協働」に大きな関心を持つようになった。「市民参加」や「協働」についてもっと深く学びたいと思い、札幌から東京へ出向き、NPO研修・情報センターが主催する「『協働コーディネーター』養成講座」を受講し始めた。 「協働コーディネーター」養成講座を受講する中で、私はNPO研修・情報センターが1998年から取り組んでいる「コミュニティ・レストラン」プロジェクトのことを知り、大いに共感した。

 というのは、自分が毎日の生活の中で出会う様々な課題、例えば「農薬や添加物の入らない安全で安心な食べ物がほしい」「空気や水、土の汚染が心配。子どもたちにできるだけ良い環境を残していきたい」「子育てをしていく上で出会う困難さ」「自分自身の働き方」など、そんな課題を解決するためのひとつの方法を見つけた!と思ったのである。

  友人の中には障害を持つ子どものいる人もいて、みんな子どもの将来に対し大きな不安を持っていた。コミュニティ・レストラン(以下コミレス)は社会の様々な課題を解決するための有効なツールであると感じたのである。

2.「コミュニティ・レストラン」を多くの人に伝えたい
 自分でも実際にコミレスを運営してみたい、また、コミレスのことをもっと多くの人に知ってもらいたいという思いで、2003年3月、コミレスの主旨・社会的意義に賛同する仲間と 「北海道コミュニティ・レストラン研究会」 を立ち上げた。北海道内におけるコミュニティ ・レストランの主旨・社会的意義の普及とコミレスに関わる人たちのネットワークづくりを目的に、講座やセミナーの開催、調査研究を始めた。

 2003年、2004年にはNPO研修・情報センターと共催あるいは協力団体として、札幌市で公開講座・実践研修会を開催。また、調査研究事業として北海道内外の各地のコミレスを視察し報告書を作成した。

 2005年度は、苫小牧市、当別町、釧路町、札幌市市民カレッジ講座でコミレス講座が開催され、私はNPO研修・情報センター /コミュニティ・レストランコーディネーターという肩書きで講師を務めた。コミレスに関する社会の関心は強く、毎回大勢の人が講座に参加する。講座の参加者の中から、実際にコミレスをスタートさせた人、準備を始めた人も現れた。地道にコミレスのことを伝えていく活動、 また、各コミレスが運営力を高めていくためにコミレス間で情報交換などができるネットワークづくり の重要性を感じている。

3.いこいの店「野の花」オープン
 一方、2003年6月、私は自分の住む住宅街の一角で、共同購入運動などを通して知り合った仲間15名(全員女性、平均年齢59歳)と一緒に「野の花」という小さなコミレスをスタートさせた。「地域でコミレスを開きたい」という私の思い、「自分が所有する店舗の一部を地域の人に活用してもらいたい」というメンバーNさんの思い、「何か地域に役立つ活動をしたい」という他のメンバーの思いが運よく出会い、「野の花」の誕生となった。

 オープンに際しては、自分たちに一体何ができるのか何度も何度も話し合い、最終的にはNさんが経営している食料雑貨店の2分の1のスペースを賃借し、喫茶・軽食コーナーの運営、手作り食品・手芸品・リサイクル品などの販売を行なうことになった。

 「野の花」の目指すコンセプトは「子どもからお年寄りまで地域に住む人たちが気軽に立ち寄り、お茶を飲んだり、ものを食べたり、世間話をしながらくつろぐことができる場所、いろいろな情報を交換できる場所」である。

 資金に関しては、メンバー全員が3万円ずつ出資した。この金額は、いくらであればリスクを負えるかという基準で決めた。備品は食器棚など新しく買ったものもあるが、できるだけお金をかけないようにし、ガスレンジ、テーブル、イス、鍋、食器など大部分は各メンバーの家庭で不要になったもの、眠っているものを持ち寄った。流し、湯沸かし 器 など譲ってくれる人を探したものもある。店舗の改装費は大家であるNさんが負担してくれた。冷蔵庫もNさんの業務用のものを使用させてもらうことになった。

 調理師免許を持っているメンバーに 食品衛生責任者 を引き受けてもらい、保健所からは「喫茶店」という形 で営業許可 を取った。「野の花」は本当に最低限の設備と備品でスタートした。その後は、売上の中から、炊飯器、冷凍庫、レジスター、陳列棚など必要な備品を少しずつ買い足して来た。

札幌の住宅街にあるのコミレス「野の花」            明るい店内はメンバーが知恵を絞ってレイアウトした

4.素材選びと手作りをモットーに
 「野の花」ではメンバーが当番制で店に立つ。今のところ謝礼程度の時間給しか出せない上、他に仕事をもっている人、自分あるいは連れ合いの親の介護をしている人なども多く、店の仕事をみんなで分担し合うという意味で交代制という形をとっている。店に立つことができないメンバーも、会計、買い物、ケーキを焼くなど自分ができる形で運営に関わっている。複数の人が調理に関わることに加え、厨房設備も限られているので、メニューはコーヒー・紅茶・ココア、ハーブティー、ジュースなどの飲み物、日替わりケーキ、おにぎり、あっさりアツアツうどん、カレーうどんといった軽食に限られている。

 しかし、食材に配慮し、共同購入品を中心に減農薬・無農薬・有機栽培の北海道産の野菜や米、添加物の入らない調味料、遺伝子組み替え対策済のものをできるだけ使うように心がけている。

 また、一品一品に心を込め、ていねいにつくってお客さんに出している。コーヒー、紅茶、ココアは何度も何度もおいしい入れ方を練習した。おにぎりは注文を受けてから握る。外はカチッとしていて中がふっくらとなるような握り方を心がけ、中身には手作りの梅干や添加物の入らない天日干のかつお節を使う。うどんのだしも自分たちが選んだ素材を使って作っている。

 食事を注文してくれたお客さんには当番の人が用意したおかずや漬物がつく。週 1回「蕎麦の日」があり、メンバーの連れ合いが手打ちする蕎麦を出している。

 お弁当やオードブルも注文を受けて販売している。近隣の町内会や老人クラブなどが主なお客さんである。今年は幼稚園・小学校の運動会用のお弁当の注文があった。日々の軽食とは異なり、お弁当やオードブルづくりはメンバーの料理の腕前を十分に発揮できる機会であり、各自の得意料理やアイディアをもとにメニューが決まっていく。

 その他、「野の花」では、ケーキ、クッキー、あんまん・肉まん、ぎょうざ、草もち、おはぎ、豆乳、漬物など各メンバーが得意とする手作り食品を販売している。

 素材にこだわり、ひと手間かけた「野の花」の 料理・食品 は評判が良い。お客さんに「おいしい」と喜んでもらうと本当にうれしく感じる。

 今、レストランや居酒屋では業務用の冷凍食品が大量に使われていて、大根おろしまで冷凍品を使う店があるそうだ。また、スーパーやコンビニではたくさんのお弁当やおかずが売られていて一見おいしそうに見えるが、実際に買って食べてみるとがっかりすることも多い。素材も素性が不確かである。

 そんな時代だからこそ、素材を吟味し、ていねいに手作りした料理、お弁当、お惣菜をより多くの人に提供したいと思っている。店で提供するものの品質を維持させるため、 料理・食品 に対し、お客さんから、あるいは他のメンバーからも率直な感想をもらえる雰囲気を作っている。クレームがついた時は謙虚に受け止め改善している。

近隣の町内会や老人クラブ等へのお弁当、オードブルの注文も。少しずつ地域でのお得意さんが増えている

5.生産者とのネットワークづくり
 「野の花」は、共同購入運動を通して知り合った仲間が運営する店なので、「安心・安全な食」は大きな関心事である。より多くの人に安心・安全でおいしい物を食べてもらいたい、自分たちも食べたいという思いから、自分たちが手作りしたもの以外にも、自分たちが信頼できる生産者がつくったもので自分たちが欲しいと思う商品を仕入れて販売している。

 生産者探しには、各メンバーが持っているネットワークを活用している。野菜は、有機・無農薬・減農薬栽培に取り組んでいる近郊の生産者のものを直接、あるいは直売所から仕入れている。また、鶏肉・豚肉は抗生物質を含まないエサを与えるなど飼育環境に配慮して育てられたものを予約制で販売している。コーヒー豆は地元の小規模作業所が焙煎するものを使っている。地場の素材を使い、おいしい漬け物や味噌作りに取り組む女性グループなどからも商品を仕入れている。その他、北海道産の干し椎茸、切干大根、大豆、冷凍フライドポテトや枝豆など「野の花」で扱う商品は少しずつ増えている。

 質の良い商品づくりに取り組んでいる生産者と出会うことは「野の花」を運営していく上で大きな励みである。共に「安全・安心な食」の実現に取り組んでいるという気持ちになる。

 また、消費者と生産者が直接顔を合わせ、互いの声を交換することで、消費者は生産現場について理解を深め、一方、消費者の声は生産者にとって励みになり商品の品質向上に結びつくこともわかって来た。食の安心・安全を実現するためには、消費者と生産者の「顔の見える関係」、そこから生まれる「信頼関係」が一番重要だと感じている。

6.環境に配慮した商売のスタイル
 「野の花」では、自分達ができる範囲で、環境に配慮した商売のスタイルを心がけている。調理にはコミレスが目指す「地産地消」「旬産旬食」「一物全体」などの理念を実践している。また、メンバーが各家庭で実践しているように、洗い物には合成洗剤は使わず、石けんを、それも最小限度の量を使うようにしている。また、できるだけゴミを出さないような販売を心がけている。野菜や肉はスーパーのようにトレーに入れる必要がないので使わない。

 レジ袋の使用は最小限度にし、デパートなどの紙袋を再利用したり、マイバックを持ってきてもらったりしている。お弁当の容器も、使い捨て容器のものを使うこともあるが、できるだけ使い回しのきく容器を使うようにしている。オードブルのお皿も使い捨ては使わず、たいていは近所からの注文なので後で回収に行く。堆肥づくりとまでは行かないが、コーヒーかすを猫よけ、畑の土壌改良剤、燻製づくり用にお客さんやメンバーに利用してもらうなどゴミの活用方法を工夫している。

 その他、石鹸・たわしなど環境に配慮した商品の販売、リサイクル品の販売、和服や洋服のリフォームなども行っている。「野の花」のメンバーの多くは「もったいない」が身についている世代である。「物を粗末にせず大切に使う」という精神を店の運営に反映させ、その精神をより多くの地域の人に伝えて行くことで、コミレスの「循環型まちづくり機能」を充実させたいと思っている。


 



 

 

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