「南」の世界拾い読み 第21回

 このコーナーは、主に南の国々(開発途上国)のメディアやNGO/NPOで流されている情報を中心に独断で選んで、そのサマリーをコメントをつけて紹介していきます。情報の詳細を知りたい場合は、併記のホームページにアクセスしてください。
  今回のテーマはつい先日香港で行われたWTO(世界貿易機関)閣僚会議。会議の内容よりも、会議場の外側で行われた抗議の様子を紹介する。活動家が何を問題にして、何に抗議しているのか、日本ではもっぱら過激な抗議行動が注目されるが、その主張にも耳を傾けたい。 (本田真智子  ( 特非 ) NPO研修・情報センター常務理事)

1.小さな成果と大きな抗議
WTO-SPECIAL: Farmers Get Violent as Trade Talks Fail
http://ipsnews.net/news.asp?idnews=31475

 HONG KONG (中国) 12月18日、第6回WTO閣僚会議の会場の外で、韓国の農民が警官と闘った。抗議行動には韓国の農民に中国と東南アジアのグループ、そして米国や欧州の活動かも加わった。

 多くの活動家はEU商務官にWTOのドラフトはバランスに欠き、改善されることを望むと要求した。小さな成果は、2006年までに豊かな国の綿の輸出補助金の削減である。この補助金削減は、西アフリカの貧困に陥った綿花栽培農家を救うことができる。

 一方、韓国の農民は農産物の自由化により、作物価格が急降下し、負債が増えたと抗議した。抗議行動を行なった韓国の農民の一人は「米は作物以上のものである。文化であり人生である。私たちは農業を続ける権利のために戦いを続ける」と語っている。

 中国人の活動家は、警察に殴られ病院で頭を縫い24時間の安静を言われたが、抗議の場に戻ってきた。「WTOによって多くの中国の農民は苦痛の中にいる。それは、寒さの中鉱山で一晩過ごすよりも辛いものだ」と訴えた。

(IPS Inter Press Service News Agency より)

2. WTO 会議には多くの活動家が会場を取り囲み会議を監視している
Ghanaians Involved in Protest Scuffles in Hong Kong
http://allafrica.com/stories/200512190949.html

 Accra ( ガーナ )  先週の水曜日に香港市治安当局とぶつかった多様な国の活動家が参加した抗議グループの中にガーナの労働組合員、農民グループのメンバー、NGOがいた。抗議は水を含む社会サービスの自由化および民営化に反対するものであった。

 抗議行動における発言者は、WTO、アメリカ、国際金融機関、特にIMFと世界銀行を世界、特に開発途上国におけるの貧困の代理人と非難した。

 WTO閣僚会議の参加者は12000人を越え、その周辺には多くの活動家が抗議に会場の周囲に集まっている。会場の周辺は、都市で開催された会議というより、軍隊守備隊のように見える。すべての街角に治安部隊が配置され、即座に戦えるようにしている。また、治安部隊のなかには中国の地方の軍隊が配置されていることもわかる。

( all Africa.com より)

 

3.香港でも公正はかなえられなかった
WTO draft sets date to end farm export aids
http://southasia.oneworld.net/article/view/124315/1/

 WTOの作成した草案は、農産物輸出補助金を2013年に終了すると期日を設定し、最も貧しい状態にあるアフリカの綿生産者にWTOは小さな支援を提示した。草案によれば、 合意した計画は世界経済に数十億ドルを注入することができ、貧困から何百万人かを救い上げるかもしれない。開発途上国はそれを用心深く歓迎した。香港でのWTO関係閣僚会議の参加者は豊かな国と貧しい国の間で行われた激しい交渉を経て提案された妥協したテキストを承認しなければならない。草案には「私たちは、2013年の終わりまでに農作物の輸出補助金の廃止を保証することに合意します」とある。

 しかし、開発途上国の利益を求めるNGOは、そのことをよしとしなかった。「公正は香港でも伝えられていません」とカトリックの救助機関CAFODが語った。

 ( One World South Asiaより)

コメント  日本ではこの香港のWTO閣僚会議での市民社会の抗議について、韓国の活動家を中心とした過激な行動を、過去のシアトルやカンクンでのWTO会議で行われた抗議行動と引き比べている。中国政府の香港における今回の警備は、天安門事件の警備以来の厳重さだという報道もあった。しかし、なぜこのような激しい抗議が起きるのか、抗議する側の主張と焦燥を正しく理解する必要があるだろう。

 世界の一方には農業補助金でなければ国際競争に耐えられない農民があり、農業が自由化されていないので輸出ができないと抗議する農民がいる。一見対立するようだが、農業のあり方、位置づけを考えると、同じ問題が根っこにあるのではないかと思えてくる。

 また、社会サービス、特に水 ( 水道事業 ) の民営化、自由化に対する抗議は大きい。それは、イギリスや南米で社会サービスを自由化することで、 結局料金が値上がりし、貧しい人たちが利用できなくなったという過去の苦い経験があるからだ。電気やガスがなくても生きていけるが、水がなければ生きていけないのだ。その命綱を利益を優先させる民間企業にゆだねていいのか。

 民営化が日本でも大きなテーマになっているが、民間に任せられるサービスと任せられないサービスがある。 そのことを「命」 「人権」 「機会」 「平等」などのいくつかのキーワードから考えることが大切だろう。

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