中国の民間非営利組織  第8回 「国家に先導される市民社会」は今
 
岡室美恵子( 笹川平和財団プロジェクト・コーディネーター

 フロリック( 1997)が、中国の市民社会を「 State-Led Civil Society (国家に先導される市民社会)」 (※)、と称し、「短期的にみれば、伝統的な市民社会の手法を用いるような国家への挑戦はだれもその容量と意志を持ち得えないと言ってもさしつかえないが、長期的にみれば、そのような社会構造は、国家と社会の関係の再構築と効果的に機能を果たすような市民社会の出現により変化するだろう」と結論づけてから10年近い時が経過している。

※Frolic, B.Michael, 1997, State-led Civil Society , in Brook, Timothy and B.Michael Frolic (ed), Civil Society in China , New Yor k: An East Gate Book.

1.JICA研修団の来日
 2006年10月16〜29日の2週間、JICAの派遣により、中国の民政部門、財政部、国務院法制弁公室、清華大学などから行政官及び学者の10名が日本NPOセンターの受入れで来日した。目的は、日本のNPO法律制度の研修であった。

 中国のNPO業界は、今、 ”バブル”といってよいほど海外から注目を集めている。民間組織を管理・監督する立場にある民政部門の行政官の出国機会も急増しているため、通常業務に支障が出ないようにと、出国は1人あたり年2回までと制限されているそうだ。そんな状況から、団を権威づけるようなハイクラスの参加が難しいと聞いていたが、却って(?)、一線で働く実務者が多く参加し、各訪問先でも積極的な議論がなされたと聞く。

 団長の廖鴻は民間組織管理局の局長級巡視員である。行政部門における実際の権限云々はさておき、ネット検索をすると、ある任務のために廖鴻の名がヒットする。 「民間組織評価暫定弁法」草案作成の総責任者、それがその任務である。 「 弁法」とは 主として当局の管理方法を明示した規定のことである。中国政府は民間組織の評価に関する規定を作ろうとしているのである。

2.政府主導の評価システム始動?!
 8月30日、清華大、北京大学、中国科学院などから評価の専門家を召集し、弁法草案の加筆・修正を目的とした討論会が開催された。

 同会議で、民政部副部長(次官に相当)の李立国は、「改革開放以降、政府と各界の共通の関心の下、民間組織は急速な発展を遂げているが、全体としては、発展の初期段階にあり、数も少なく、経済規模、就業の受け皿の面でもまだ小さい。活動が規範的でないものもあり、組織の不健全なものもあり、また行政化傾向の著しいもの、社会的信用の不足しているものもある。民間組織の評価システムを構築し、民間組織のセルフコントロールと外部監督メカニズムの建設を強化することは民間組織を発展させるための重要な対策である。民間組織の自己管理、自己完成を促し、政府による管理方式の科学化、規範化を促し、わが国の民間組織の総合的な発展水準と競争力を向上させよう」と述べた。

 この草案では民間組織の評価を 「評価機関が一定の原則、手順と基準、科学を用い、可能な方法で、民間組織の組織構造、業務活動、財務資産状況、 社会的影響などの方面からら専門的に行う分析、コンサルティング、審査活動」と規定し、 組織構造、業務活動、資産財務管理、クレディビリティと影響力の4つの面から民間組織を評価する。評価の対象は、民政部門に登録する社会団体、基金会、民弁非企業単位である。民間組織は4段階にレーティングされ、AAAAの団体に対しては重点的に支援し、表彰を行なうなど評価結果により待遇に差をつけ、賞罰の政策をとるというのである。役所が所轄する団体を監督・管理する目的の他、社会主義体制下で生成された大量の官設団体の改革も意図していると考えられる。 民政部は、全国範囲の民間組織評価活動の総合管理部門として、評価の技術規範と基準の公布、改訂、上級評価機関の認定と資格証の発給、評価人員の育成と認定書の発給を行うという。

 JICAの研修中、日本のNPO法制度の中で、関心の高かったものの1つが 「認定NPO法人制度」であったという。清華大学公共管理学院教授王名は、「制度のしくみを理解するよいチャンスだった。現行制度の多くの課題についても知りえたが、(制度の)考え方は中国にとって大変参考になった」と話す。

3.評価は何に使う?
   「政府部門からの委託による民間組織評価は国家の民間組織に対する管理監督の重要な形式で、民間組織自身からの   委託による評価は、民間組織の自己管理と能力を高める重要な手段であり、 各政府部門と社会公衆が民間組織 を評価す  るための重要な根拠にも なる。 その他社会組織と個人の委託による民間組織評価は、組織と個人が民間組織の状況を理  解し、協力を発展させるための、取引、助成などの活動に便利である」(弁法草案より。斜体文字付けは筆者による)。

 弁法草案によれば、民政部が現段階で意図する評価とは「外部者による診断、審査」である。その目的をみれば、民間組織に関する情報の蓄積と開示がすすみ、そのデータの積極的な利用という行動が一般的になれば解決できる問題も多々あるはずである。その評価基準を政府が規定するという点については、反発を感じる読者も多いのではないだろうか。しかしながら、より積極的な視点からみれば、評価弁法の意義は、政府の裁量ではなく、第3者による評価への取組みが始動するという点であろう。

 「NPOのステイタスが定まらないからこそ権威によるレーティングが必要 」 「 いや、まずはNPOを育みパイを増やすことが必要」、評価の導入について日本で依然として聞かれる様々な議論を超えて、社会主義国家中国の「評価政策」が動きつつある。

▲ページトップへ

 

 



 

 

©2004 NPO Training and Resource Center All Right reserved