「協働コーディネーター」養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ5 
  小さな港町・七尾のまちづくり
 第3回   協働コーディネートの現場から(2)

株式会社 御祓川 チーフマネージャー 森山奈美

 特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは「協働コーディネーター」を養成する、「協働コーディネーター」養成講座を開催してきました。その成果として、「協働コーディネーター」として各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、「協働コーディネーター」として活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
 シリーズ5では、石川県七尾市でのまちづくりの取り組みを紹介します。まちづくりの様々な取り組みでの、「協働コーディネーター」の役割やその重要性を知ってください。

キーワード・・・ 公共事業への参加 道路 河川 協働コーディネーターの役割

  七尾市は、能登半島の付け根に位置する人口6万4千人の港町である。このシリーズでは、七尾のまちづくりから、協働コーディネートの重要性について検証していきたい。前回に引き続き、“筆者が直接関わったまちづくり活動で、どのようなネットワークが組まれているか”また、“筆者がコーディネーターとして、どのような役割を果たしているか”を具体的な事例で紹介し、今回は失敗例の中からも「協働コーディネーター」の役割について考察し、現場で求められる役割や資質について整理する。

※事例紹介では、ネットワークを組んだ主体名を 斜体 で、「協働コーディネーター」としての役割を 緑の字 で示す。

事例3−1.道路と河川を一体的に検討(七尾都心軸整備計画)
  七尾市では、「港」を中心としたまちづくりが1980年代より展開されてきた。市民運動のひとつの成果として、平成3年に能登食祭市場がオープン、平成7年に七尾駅前に再開発ビル「パトリア」がオープンし、七尾市は中心市街地に2つの集客核を持つことになった。次の段階として、この2つの核を結ぶ軸づくりを進めるため、JR七尾駅と七尾港を結ぶ延長690mの県道をシンボルロードとして整備することとなった。筆者は平成7年度より、新米コンサルタントとしてこの業務に携わることになったが、そのときは既に、計画幅員が20mに都市計画変更された後であった。本来ならば、道路拡幅に伴うまちづくりを行なう場合は、残地の形状や活用策を含めて検討すべきであるが、当時は一般的な街路事業の考え方が優先されたようである。

  さて、シンボルロードの整備に合わせて、平成9年度より県道の横を流れる二級河川御祓川の「ふるさとの川整備事業」が動き出した。当初、県当局は道路とは別に河川整備に関わる参加の場を設けようと考えていた。しかし、住民にとっては道路も川もそこに架かる橋も、連続する空間にある“生活の場”である。そこで、平成10年度より、 「都心軸まちづくりワーキング」 (以下、ワーキング )を発足させ、道路計画と河川計画を同じ主体で検討する公共事業への参加の場とした。

  ワーキングでは、舗装材や街路灯など道路の景観要素、架け替えをする泰平橋・長生橋・慶応橋の高欄デザイン、御祓川の護岸デザインなどを検討した。月1回のペースで、1年半に22回の会議が開催され、熱心な討議が交わされた。道路と河川を一体的に検討することによって、境界部分に特徴的なデザインを施すことができた。それは、御祓川沿いの連続ベンチである。もともと、御祓川の下流は地下水の汲み上げが影響して地盤沈下の著しい地区であり、橋の架け替えにあたっては嵩上げが絶対条件であった。そのため、道路の高さも橋の高さがコントロールポイントとなって、最高で1m程度の嵩上げをすることになっていた。 しかし、整備前の御祓川は、道路際から水面の距離が近いという点が大きな特徴であった。 安全性の面から、嵩上げはやむを得ない条件だが、せめて川沿いだけは、人と水との距離を現況のまま保ちたいという想いがあり、道路と河川の間にある三日月地帯 (道路敷地) を現況高さのまま保った形で、道路高さとの段差を利用したベンチ空間が提案された。 ワーキングでの話し合いの結果、座面や背もたれの材料は木材を使うこととなり、現在は、川辺に親しみのある空間が実現している。 計画当初、川の水は非常に汚かったが、同時に川への祈り実行委員会などで、川づくりの活動が活発になってきた時期とも重なり、「市民 と川の関係を取り戻す」という考え方が、ここにも反映されたといえる。

(写真1−御祓川沿いのベンチ)

  また、橋の架け替えにあたっても、橋ごとにテーマを設けて「あかり・かおり・かざり」の特徴的な橋を整備することができた。これらは、参加の場で地域住民から出された「地域の知」が生かされ、デザイナーによる「専門の知」によって美しいデザインに仕上がった例である。


(写真2−あかりの橋・泰平橋には地元の特産品和ろうそくを立てる燭台がとりつけられる)

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事例事例3−2.ハード整備での苦い経験
  しかし、このようにうまく行ったことばかりではない。御祓川の護岸デザインでは、後世に残る失敗をしてしまった。「護岸は自然石積みにしよう」 ということが、ワーキングでの一致した意見であり、石の積み方や色について、色彩デザイナーも登用しながら検討を深めていた。 また、サンプルだけでは分かりにくいということで、買収済みの道路用地を使って、臨時の擁壁を立てて数種類の試験施工を行い、現場検討会も開催した。 その結果、もっとも住民の支持を集めた茶色の自然石が採用されることになり、積み方は布積み(長方形の石を水平に積んでいく工法)とすることが決まっていた。

  ところが、施工直前になり、事業者である県が石材料の変更をワーキングに申し入れてきた。理由は、現場検討会で使った材料を取り扱っていた業者が倒産し、入手が困難になったことと、予算的なことであった。ワーキングで選んだ材料と同等品のものを用いるということで、会議では小さなサンプルが提示された。ここでの了承が失敗の元だった。もともと、大きな面積で施工される護岸がサンプルではイメージしにくいということで現場検討会を開催したにも関わらず、最終的に施工される材料をサンプルで決断してしまったのである。実際に施工された護岸は、現場検討会での材料よりもはるかに明度が高く、赤くけばけばしい色の石が用いられていた。工事矢板が取り外され、完成した赤い護岸が見えたときの失望感は忘れられない。当然、住民や市役所からも苦情が上がり、住民と事業者である県との信頼関係は一気に失われた。
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◆「協働コーディネーター」の役割と課題
  この事業も、筆者は協働コーディネーターとしての自覚はなく、むしろ、このような経験が元になって、自身が「協働コーディネーター」としての能力を高めなければいけないという教訓となった事業である。

  まず、複数の公共事業が同じ場所で計画されているという状況の中で、 統一の参加の場を設定する ということが最初の仕事であった。同じ土木部であっても連携の少なかった 都市計画課 河川課 および出先事務所である 七尾土木事務所(現、中能登土木総合事務所) に参加の場を統一することの意義と必要性を説明し、 市役所の担当課 を巻き込んで、 必要な主体が参画できる検討の体制を整えた 。また、都心軸まちづくりワーキングには、 沿道住民 だけではなく、 本事業に興味を持つ人 は誰でも 自由に参加できる方式をとった 。毎回の会議結果はニュースにして現場に設けた掲示板で広報し、次回の会議予定は、コミュニティFMを使って参加を呼びかけた。その結果、市内の視覚障害者が検討に参加してくれるなど、バリアフリー面の検討も当事者と共に行うことができた。

  ワーキングでは、毎回の会議を始める際に、前回のおさらいと今日の目標確認を必ず行い、会議の最後には目標の達成確認(達成できなかった場合も含めて)と次回の日程決めを行った。年間を通じての検討ではあるが、公共事業にはタイムリミットがあるため、 限られた期間で必要な項目を検討できるように年間スケジュールを組み、進捗に応じて臨機応変に対応する ことが求められた。

  さらに、多くの景観要素を検討するにあたって、全体のコンセプトを確認しつつ、 CGや模型を用いて完成予想図を示すなど、専門用語を分かりやすく翻訳 しながら検討を行った。また、街路灯や橋のデザイン全般において、景観や家具で実績を持つ ナグモデザイン事務所 との協働を提案した。 参加の場での意見を美しいデザインに昇華できるデザイナーとの協働 は、ハード整備を伴うプロジェクトにおいて不可欠な要素である。

  失敗点から学ぶこともある。このようなハード事業においては、参加の場のコーディネートだけではなく、 事業者や 施工業者 との意思疎通を図る ことも重要である。現場での施工まで監理する必要はないが、少なくとも参加の場での決定事項が担保されるようにしなければ、参加型で事業を進めたことが返って仇になって、地元と行政との信頼関係が崩れることになりかねない。そのためには、 事業主体となる行政担当者に、市民参加で公共事業を進める上での心構えや姿勢についてよく説明し、理解を得ておくこと が重要である。

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「協働コーディネーター」の役割
 これまでに、筆者が「協働コーディネーター」として関わった3つのプロジェクトについて、失敗例も含めて紹介した。前回のまとめに加えて、今回紹介した事例からも「協働コーディネーター」の役割を再度、整理してみたい。

<協働の場や体制づくり>
 ・課題に参画すべき人々を集め、協働の場を設置すること
 ・事業に関係する主体が関わる検討体制を整えること
 ・課題に関心のある人が参加しやすい方式をとること

<目的共有>
 ・参加者が目的を共有し、合意を得る手助けをすること
 ・協働の場における具体的な目標と活動内容を定めること

<プロセスデザイン>
 ・クリティカルパスを見極め、全体のスケジュールを組むこと
 ・事業の進捗にあわせて臨機応変にスケジュールを組みなおすこと

<検討の推進とネットワーク>
 ・必要な情報と合意形成に向けた選択肢を提示すること
 ・様々なツールを使い、専門用語を分かりやすく翻訳すること
 ・事業推進に必要な専門家を巻き込むこと
 ・言葉を形に昇華できるデザイナーとのネットワークを持つこと
 ・地域の様々な主体への働きかけによって賛同を得ること

<関係者の調整>
 ・課題に関する行政担当者・管理者との調整を行なうこと  
 ・必要に応じて行政担当者や関係者を教育し、協働への理解を促すこと
 ・ハード整備を伴う場合は、施工業者との意思疎通を図ること

<市民活動のエンパワーメント>
 ・必要に応じて、参加の枠を広げ、イベントを開催すること
 ・パブリシティを利用した広報リリースを行なうこと
 ・必要な資金調達やそのためのアドバイスをすること
 ・維持管理の楽しいしかけづくりをすること

 以上のような「協働コーディネーター」の役割は、文献でも学ぶことができるが、現実には、協働の原則やルールが理解されていない現場で、セオリー通りに事が運ぶことはむしろ稀なことである。それでも、「これは正しい協働の姿ではない」と嘆いたところで、実際のまちづくりは進んでいくわけで、その中では次のような役割や資質も必要になってくる。

<番外編>
 ・関係者の中で、発言力や影響力のあるキーパーソンを見極めること
 ・いわゆる地域の有力者への理解を得て、トップに話を持っていくこと
 ・原則論を振りかざすより、地域のやり方に従うこと
 ・地域の問題点に寄り添い、愚痴に耳を傾け、ともに悩むこと

 七尾で取り組んできたまちづくりから、「協働コーディネーター」の役割とその重要性について、事例を紐解きながら検証してきた。今回までは「協働コーディネーター」の役割に焦点を当ててきたが、次回は、さらに事例の紹介を交えて、どのような主体が何のテーマでネットワークを組んでいるのかを整理し、多様な主体が関わるまちづくりの姿に、さらに迫っていきたい。

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