IT技術を生かした社会参加  第12回 ブログという新しい「メディア」                        

                          
池内健治(産能短大教授)

キーワード・・・ ブログ、 weblog 、トラックバック、RSS、2ちゃんねる

  アメリカではブロガーが世論の形成に大きな影響を与えている。大統領選挙でキャンペーン手法の一つとしてWebやブログの活用がさかんである。日本では、公職選挙法ではインターネットを使った選挙運動は認められていない。しかしながら、先の衆議院選挙では、2ちゃんねる、ブログなどにさかんに選挙に関する書き込みが見られた。ネット世論について考えてみたい。

ブログとは何か
 ブログとは、個人や数人のグループで運営されている日記風 Web サイトの総称である。 文字が主体なので手軽に更新できる。そのため、ホームページよりも更新の頻度が高く、トラックバックというブログ同士の連携機能もあるので、情報交換や議論に適したシステムだといえる。著者の行動記録や身辺雑記を記述した単なる日記サイトばかりではなく、時事ニュースや専門的トピックに関するブログや他のブログの著者と議論するブログも多い。影響力の大きさやネットワークの広がりから、一般に話題に上るのは後者のブログである。

 本稿では、狭義のブログ、自分の意見や分析を表明するブログ、専門的な立場からの分析を表明するブログを議論の対象とする。

 ブログの特徴を支える2つの機能、連携機能としてトラックバック、即時検索機能としてRSSを説明する。

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2.ブログの特徴 トラックバック
 ブログはトラックバックという他のブログサイトとの連携機能に特徴がある。他のブログへリンクを張ったときに、リンク先の相手に対してリンクを張ったことを通知する仕組みのことを言う。

 Webの場合、リンクを張られた相手はリンクが張られていることを容易に知ることができない。ブログの場合、リンクを張られた相手に「リンクしたサイトのURL」、「簡単な要約」などが送信される。トラックバックされたサイトはこの情報を元に記事を参照しているサイトの一覧を表示することができる。

 IT用語辞典 e−wordsでは、次のようにブログの普及を説明している。

 多くの人が個人のWebサイトで日記をつけ始めたが、Web日記は紙の日記と異なり、その内容が広く一般に公開されており、他のサイトからリンクされたり論評されたりする。また、電子メールなどを通じて著者と読者がコミュニケーションをはかったり、特定のトピックスについて電子掲示板で多人数で論議することも容易である。

 そうした環境の中で、Web日記は独自の進化を遂げ、それまでの個人サイトでもない、紙の日記でもない新しいメディアとして台頭した。そうした新しい形式の日記風サイトを指す言葉として「Web」と「Log」 (日誌)を一語に綴った「weblog」(ウェブログ)という言葉が誕生した。現在では略して「blog」(ブログ)と呼ばれることが多い。

 トラックバックという機能によって、自分のサイトの引用をみて、さらに新しい情報を書き足す。両者の議論を見ていたインターネットユーザーが、さらに自分のブログに引用して議論を発展させる。といったことが、ブログの醍醐味であろう。これが、「新しいメディア」と呼ばれる一因である。

 企業のマーケティング担当者がブログに注目しているのは「口コミ」としての機能である。政治的立場からは、新しい言論の場として機能に注目があたる。趣味や同じ興味を持ったサークルでの情報交換機能としても注目できる。個人のつぶやきが個人にとどまらず、全世界に広がる。つぶやきの交換が新しいつぶやきを生み、新しい意見や考えを創り出すことに、ブログの特色がある。

3.ブログの特徴 RSS
 ブログに特色を与える第2の機能として、RSSがある。RSSとは、 Rich Site Summary 、Really Simple Syndication、 RDF Site Summaryなどの略である。Webサイトの見出し、要約などの情報を記述する文書の仕様のことである。このRSSフォーマットにしたがって記述することによって、情報を更新するやいなや「見出し、要約、更新時刻」などの情報を自動的に公開することができる。

 この機能を活用しているブログ検索サイトがテクノラティ Technoratiである。日本のサイトはテクノラティ・ジャパン: http://www.technorati.jp/home.htmlという会社が運営している。更新されたブログのRSSを即時的に取り込み、検索エンジンに組み込む。

 ブログを更新すると数分でその更新結果を検索できる。Googleの場合、ブログの更新結果がグーグルの検索結果に表示されるようになるまでに早くて半日。遅ければ1カ月後になることもあるという。

 11月 12日16時20分現在、最も検索されているサイトの第7位「本田美奈子」を検索すると、16分前に書き込みがあったブログを先頭に、23分前,58分前と続く。

 会員に登録しWatch Listを作って自分のブログのアドレスを登録する。自分のブログに誰かがリンクすると数分後には通知される仕組みになっている。リンクを張ってくれたブロガーの書き込みを読んで、それに対して新しく書き込みすることも可能。ブログを使った議論をリアルタイムでできるわけだ。

テクノラティに関する記事:
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0510/17/news011.html

4.ブログと大統領選挙
 1924年は初めてラジオで報道された選挙、1954年はテレビ、2004年はブログで報道された選挙だと言われる。この選挙に関する政治ブログの人気が高まり、ブログ読者が一気に増えた。オンラインメディアにおける一つの転換期といってもよいかもしれない。

 民主党のDean氏のキャンペーンは、初めてオンラインツールを駆使した政治キャンペーンとして語られることが多い(注1)。Dean陣営は、Dean for Americaというブログを立ち上げ、Dean氏の政治思想や政策における立場などを表明する場とした。同時に、数人のブロガーによって、様々なニュースの解説、他の政治ブロガーたちへの意見へのリンクなどが多数張られた。コメントやトラックバックを公開して、有権者やボランティアが参加できるようにした。多い日には2000を超えるコメントが入った。政治資金を集めるための場としても活用した。目標までの金額を表示し、人々の募金への気持ちを煽った。

参照:  http://nikkeibp.jp/style/biz/marketing/orita/050614_senkyosen2/

 John Kerry氏のケースもブログの影響力を示すものだ。彼は、ベトナム戦争で名誉の負傷をし、勲章を受けたヒーローであるとされてきた。また、帰国後反戦運動家と政治的な地盤を作ってきた。そのため、イラク戦争に反対することによって、Kerry陣営は有利に選挙戦を進めることが予想された。ところが、Kerry氏と一緒に従軍した260人の元兵士がSwift Boat Veterans for Truthという団体をつくり、彼が報じられているようにベトナム戦争で活躍したわけではないといい始めた。

 Swift Boat Veterans for TruthはSwiftvets.comというサイトを運営している。次の図は、Intelliseek社のBlogPulse   ( http://www.blogpulse.com/)による調査結果で、Swiftvets.comがブログ書き込みでどれだけのシェアを得たかというデータである。

@ ブロガーに取り上げられ一気に書き込みが増えた時期

A  Swift Boat Veterans for Truthに関する書き込みが徐々に増えていく時期

B  Kerry氏がSwift Boat Veterans for Truthに対して反論して、マスメディアが一気に取り上げが時期で、書き込みがさらに増えている時期

C 徐々に書き込みが減っていく時期

ブロガーに注目された話題にのぼりTVのニュース番組に出演したことで、Swift Boat Veterans for Truthは2600万ドルもの寄付を集めることができた。ブログからのネタがニュースになることは今や当たり前で、ブログに取り上げられた時点でKerry陣営が対応しておけば、Swift Boat Veterans for Truthはこれほど力を持たなかったかもしれない。

参照:  http://nikkeibp.jp/style/biz/marketing/orita/050708_senkyosen5/

5.2005年9月11日衆議院選挙にみるブログと政治
 ジャーナリスト佐々木俊尚氏によると、9月11日の衆議院選挙投票日のブログを前述のテクノラティで検索してみると、ほとんどのサイトが自民党支持であったそうだ。日経ビジネスは2005年9月12日号で日本最大の掲示板「2ちゃんねる」の政治分野では「小泉すげえ」「小泉自民党が勝たなければ日本は終わる」といったタイトルの書き込みが目立ったと報じている。「2ちゃんねらー」と呼ばれる愛好者は、自民党支持の姿勢を示していた。ヤフーのニュース掲示板でも同様の傾向がみられた。

 ただし、ブログの書き込みが多いからといって、ブログが選挙に影響を与えたかどうかの確証はない。公職選挙法では公示や告示後に利用可能な文書は、ビラ(チラシ)とハガキに限られ、その枚数も制限されている。そのため、あからさまな選挙運動をインターネット上で行なうことはできない。ブログは不特定多数の人が自分の意見を述べているだけなので、選挙運動とみなされない。

 だが、自民党は意図的にブログを活用した節がある。

ITメディア( http://www.itmedia.co.jp/info/about/)は次のように報じている。

 公示直前の8月25日に自由民主党が、著名なブログやメルマガ作成者を招いての懇親会を開いている。ネットエイジの西川 潔社長やはてなの近藤淳也社長などが出席し、武部勤幹事長らと約1時間対談したという。

 また同日、IT系起業家など157人が発起人となり、若者に衆院選投票を呼びかける「YES! PROJECT」が設立された。

参照: http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0509/07/news053.html
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0508/26/news056.html

 今回の選挙がいかに準備され、しかも新しいメディアを巻き込むまでに巧みな選挙戦術を使ったものだったか、見て取れる。民主党は全くブログに対して対策を打った様子がない。ITにかかわる人たちにとって、自民党の「改革路線」は、旧体制を維持しようとしているように見える「民主党の路線」に比べ魅力的に映ったのだろう。

 ITを活用した選挙戦術という点で、今回の衆議院選挙はエポックメイキングな選挙であったといえよう。今後民主党もブログをはじめとする新しいメディアを取り込みながら選挙戦を進めることになるだろう。


 



 

 

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