協働のデザイン  第20回 協働評価〜協働をよりよく実践するための秘訣

世古一穂( (特非)NPO研修・情報センター 代表理事)

キーワード・・・ 協働事業評価、公開会議、自己評価、協働

1.はじめに
  「協働」が社会のさまざまな領域、場面でキーワードになっている。

 行政とNPOの協働も各地で盛んに実施されているが、協働が手段ではなく目的化している傾向も強くなってきているのが最近の状況だ。

 @なぜ「協働」が必要なのか、「協働」でなければ解決しない課題なのか、「協働」のための「協働」になっていないか
   の問い直しの必要

 ANPOの先駆性、多様性、多元性等その正しい理解に基づく「協働」の方針を定める必要

 B守備範囲と領域設定、役割分担に基づく「協働」関係の整理の必要

 C協働のルールづくりの必要

 D公正に競争できる社会条件整備の必要

 等の視点での見直しが必要だ。

 そのためには協働の質を評価し、よりよい協働が実践できるような評価が不可欠となる。

 本稿では先日杉並区で実施した「平成17年度協働事業評価(中間評価)」会についてレポートし、協働評価の必要性とその効果について考えてみたい。

2.杉並区の協働事業評価会議のあらまし
(1)協働事業の内容
  事業名と団体、区所管課、協働事業の内容の概要は以下のとおり。

団体 名

【事務所所在地】

協働事業名・協働内容のあらまし

区所管課

NPO法人

杉並アヤックス

サッカークラブ

【杉並区】

『井草森公園運動場の天然芝生維持管理業務委託』

井草森公園運動場の芝生ピッチの天然芝生維持管理業務を受託実施し、経費減で芝のクォリティを保ち、利用効率のアップを図る。

教育委員会事 務 局

社会教 育

スポーツ課

NPO法人

HIVと人権・情報センター

東京支部

【千代田区】

『迅速・安心・受けやすい・すぎなみ AIDS即日検査&相談事業(通称:すぎなみVCTプロジェクト)』

近年国内でも導入されつつある、AIDS即日検査及び事前・事後カウンセリング事業を実施し、住民の健康(生命)を尊重した予防啓発等を行う。

保健福祉部保健予防課

(2)協働事業評価会議(中間評価)の進め方
 『井草森公園運動場の天然芝生維持管理業務委託』『迅速・安心・受けやすい・すぎなみAIDS即日検査&相談事業(通称:すぎなみVCTプロジェクト)』それぞれについて85分ずつの評価会議を行った。

 評価会議は 事業概要のあらましを杉並区の地域課NPO担当から説明したあと、コーディネーター(協働推進委員会の委員長世古と副委員長の塚本一郎氏が担当)が団体と担当課がそれぞれ記入した協働事業評価シートに基づき、40分程度のヒヤリングを行ない、その後一般参加者との質疑、意見交換を30分程度実施、その後コーディネーターから問題整理、改善の方向等のまとめを行うというかたちで進行した。

 協働事業評価会議は一般公開の形で実施、団体と区所管課は打ち合わせなしで、それぞれが記入した協働事業評価シートをもちよっての公開の会議である。当日協働推進委員会のメンバーと一般区民、行政関係者、あわせて約40人が参加した。

(3)評価のポイント
 杉並区の今回の協働事業評価シートの評価ポイントは次のようだ。

 今回は中間評価だったため計画段階と実施段階の評価が行なわれた。

■協働事業評価シートの評価ポイント

 1 計画段階
 @事業目的・成果目標を明確化し、共有したか
  着眼点
  ○ 区民ニーズや社会情勢を反映した事業目的とその事業の成果目標(事業を行なうことによって「何がどういう状態になるこ    とを狙っているのか」)を十分な双方の協議のもと作成、共有された。

 A協働の意義・効果を十分に検討し、共有したか
  着眼点
  ○ 単独実施より高い事業効果が得られるか、十分に検討がなされた。
  ○ なぜ協働で行なうのか、理由は明確である。

 B協働の相手方を選ぶ手続きは適当であったか
  着眼点
  ○選定理由、選定基準や審査基準が明確である。

 C事業計画を双方協議のうえ作成したか
  着眼点
 ○ 単独実施より高い事業効果が得られるか、十分に検討がなされた。
 ○ なぜ協働で行なうのか、理由は明確である。

 D双方の役割分担を明確化し、共有したか
  着眼点
  ○ 事業における役割分担を行ない、協定書等で明示した。

 2 実施段階
 @双方の役割分担を十分に果たしたか
  着眼点
  ○ 役割分担に基づく適切な対応を行なった。
  ○ 進捗状況を適宜確認しあった。

 A受益者からの意見を聴いたか
  着眼点
  ○ 利用者アンケートなどを通じて、受益者の意見や満足度を把握した。

 B事業の進捗状況や関連情報を共有したか
  着眼点
  ○ 双方の話し合い機会を設けた。
  ○ 必要に応じた企画の修正など十分な議論のうえで柔軟に行動した

 C課題の発生に、双方の立場から適切に対応したか
  着眼点
  ○ 課題の発生にすばやく対応できた。
  ○ 双方の連絡調整が円滑に行なえる体制ができている。

3.協働事業評価(中間段階)を実施しての成果と課題
 今回の評価会議の議題となった2件は区のはじめての協働事業提案制度でNPO側からの提案であったものだった。それだけにNPO側も区側も力が入っていたようだ。

 評価会議をとおして協働について双方の意識の違いや一致点が明確になるとともに2件ともおおむね双方の熱意と努力で協働がうまく進行している様子がわかった。

 また、協働事業の実施によって従来の委託の問題点や協働事業と従来の業者委託との違いは何か、など問題点も浮き彫りになった。

 特に仕様書の作成方法や委託費用をどのように決めるのかなども今後の課題であることも明らかになったといえる。

 また公開での評価会議によって協働事業がどのように進んでいるのか、進捗状況が公開され、協働事業の問題点、課題を市民が共有することができたことが有意義である。

 パートナーシップは団体と区の担当課の二者で閉じているところでは形成されない。

 市民に公開され、だれでもがその情報を知れることが必要条件だからだ。

 評価会議の参加者からは「協働事業に取り組んでいる担当課だけでなく、区職員全体に協働についての考え方を浸透させる必要がある」「評価方法について、お互いの自己評価を比較しながら課題を見つけ出す方法がわかりやすかった」「率直な意見交換ができてよかった」などの声がきかれた。

4.協働事業評価について
 〔特非〕NPO研修・情報センターでは2001年から評価システム研究会を主宰して研究、実践してきている。(詳細は「レポート2002 NPOと評価〜評価でつくるNPOパワー 評価システム研究会研究報告書」(評価システム研究会事務局 〔特非〕NPO研修・情報センター)を参照してください)

 今回杉並区の協働評価会議でも、公開での協働事業の評価会議のあり方の有効性を実感するとともに、こうした評価会議をNPO側からの提案事業だけでなく、行政が実施しているさまざまな協働事業も評価会議で公開の評価をすることが必要だと再認識した。

 協働の課題と解決方法は協働評価会議のプロセスを通して市民参加のもとであきらかにしていくことが重要だ。またそこでの課題を行政内にフィードバックするシステムも必要だ。

 三重県では協働事業の評価会議をふりかえり会議として3年前から先行して実施しているが杉並区をはじめ、各地でこうした試みがひろがっていき、協働評価会議の成果や課題が協働事業の進展、ひいては市民社会の活性化、NPOのエンパワメントに役立つことが必要だ。

 〔特非〕NPO研修・情報センターでは協働事業の評価方法、協働事業評価会議のコーディネーターの養成等の研修プログラムを企画、実施している。
 関心のある方は是非お問い合わせを!

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