協働コーディネーター養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ5 
  小さな港町・七尾のまちづくり
 第2回   協働コーディネートの現場から(1)

株式会社 御祓川 チーフマネージャー 森山奈美

  特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは協働コーディネーターを養成する、協働コーディネーター養成講座を開催してきました。その成果として、協働コーディネーターとして各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、協働コーディネーターとして活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
シリーズ5では、石川県七尾市でのまちづくりの取り組みを紹介します。まちづくりの様々な取り組みでの、協働コーディネーターの役割やその重要性を知ってください。

キーワード・・・ 民間まちづくり会社、TMO、河川浄化、協働コーディネーターの役割

 七尾市は、能登半島の付け根に位置する人口6万4千人の港町である。このシリーズでは、七尾のまちづくりから、協働コーディネートの重要性について検証していきたい。前回、これまでのまちづくりの流れを大まかに紹介したが、第2回では、“筆者が直接関わったまちづくり活動で、どのようなネットワークが組まれているか”また、“筆者がコーディネーターとして、どのような役割を果たしているか”を具体的な事例で紹介する。

※事例紹介では、ネットワークを組んだ主体名を 斜体 で、協働コーディネーターとしての役割を 緑の字 で示す。

事例1.川沿いにまちづくりの拠点をつくる(寄合処 御祓館)
 七尾市の中心市街地に民間まちづくり会社をつくろうという動きが出てきたのは、1998年の秋頃であった。前回紹介した、七尾マリンシティ運動に当初から関わってきたメンバーが中心となり、会社の設立に向けた事業構想が議論された。出資予定者が集まり、最初の設立準備会は同年の暮れに行われ、その6ヵ月後には設立総会という短期間で検討は進められた。

 筆者は、新しく設立される民間まちづくり会社のスタッフとして設立準備に関わり、その主要事業となる寄合処御祓館の事業スキームを描いた。事業の検討は、会社設立準備と並行して行われた。 設立発起人は8名で、資本金は5000万円と定められた。これは、同社の総合プロデューサーとなる出島二郎氏によるアドバイスで、一人当たり500万円以上の出資金を出すことを出資の条件とした。すなわち、お付き合い的な数十万円の出資ではなく、腹をくくって本事業に関わる主体を形成したわけである。

 参加のデザインにおいて、この手法は、ある意味衝撃的であった。世の中では、一口株主等で小額の出資者を募り、より多くの人の関わりを仕掛ける方法で資金を集める事業が多い中で、敢えて少人数で高額の投資をするのである。このような、まちづくり会社型の事業スタイルには反発も多い。しかし、衰退または停滞しているまちづくりに一石を投じて、大きく事業を動かそうとするとき、場合によっては、少人数の理解者による主体性とスピード感のある活動が不可欠になる。そうでなければ、この短期間で事業スキームを固め、ステークホルダーを説得し、行政の協力を得ることはできなかったかもしれない。事実、まちづくり会社をつくるという噂はすぐに広まり、設立後2ヶ月で、新たな出資希望者からの増資を受け付け、資本金は6800万となった。

 当初は、かつて銀行として使われていた古い土蔵造りの空き家を再生し、川沿いにモデル店舗を民間開発で作ることを目指した。しかし、最終的には、当時の通産省が管轄するインキュベーター施設整備事業の補助を受けて、貸店舗を整備することとなった。

◆協働コーディネーターの役割と課題
 この事業については、協働コーディネーターとしての自覚はなく、ただ目的に向かって夢中に走ったという感がある。筆者はまず、民間まちづくり会社 ( 株 ) 御祓川 とTMOである 七尾街づくりセンター ( 株 ) および 七尾市役所商工観光課 の協働を提案し、各主体が 事業方式を判断するための選択肢を用意 した。当初、民間だけの投資によって事業を進めようとしていた出資者らは、中心市街地活性化法の知識はなく、TMOによる事業の進め方も知らなかった。そこに 必要な情報と合意形成に向けた選択肢を提示すること が主な役割であった。もちろん、本事業を何のために行うのか、 目的を共有するために明文化 して合意を得ることも行った。

 もともと、公共的な目的のために立ち上げた会社である。検討を重ねた結果、最終的に、寄合処 御祓館の事業主体は、七尾街づくりセンターとなり、TMO事業として国の補助金を受けて施設整備をすることになる。 ( 株 ) 御祓川は、TMOから管理運営を引き受け、テナントとして家賃をTMOに払い、その中からTMOが地主に地代を払うという形をとった。土地には、20年間の事業用借地権を適用した。市役所スタッフの協力で、事業化に合わせてTMOへの七尾市からの出資比率を50%にするための増資を図り、国からの補助率を有利に引き上げた。TMO構想の書き換えやTMO計画の提出も市役所スタッフの尽力による。当時はTMOの専従職員がいなかったからである。また、地権者との交渉には、本業が不動産業である ( 株 ) 御祓川の役員が活躍した。このように、民間まちづくり会社とTMO、市役所がそれぞれの力を出し合って、御祓川沿いに新しい拠点「寄合処御祓館」を整備することができた。

 ただし、本事業について、建築家のコーディネートや出店計画は、出島二郎氏のプロデュースによる。 事業推進に必要な専門家のネットワーク を持っていないと、適切な協働体制を築くことは難しい。

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事例2.川と市民の関係を取り戻す(川への祈り実行委員会・御祓川浄化研究会)
 川への祈り実行委員会 ( 以下、委員会 ) は、「川と市民の関係を取り戻す」ことを目指す、法人格のないNPOである。合言葉は「川はともだち」で、毎月第2日曜日の川そうじ & 川あそびや川への祈りコンサートなどのイベントを開催している。汚染の進んだ都市河川である御祓川では、その水質を改善することが大きな課題であった。委員会の活動で、川との関わりを深めていくと、必然的に、どうしたらこの川がきれいになるかという話になる。委員会としても、掃除だけではなく、もっと直接的に浄化を進めることはできないかを検討し始めていた。

 一方で、地元の商業高校が、課題研究として御祓川の浄化対策をテーマに挙げ、水の中に空気を送り込む“ばっ気方式”の有効性を実験していた。熱心なT教諭が指導者となって、金沢大学工学部の教授も協力し、川の水を水槽に汲んで空気を送るときれいになることを確かめた。

 これらの動きを受けて、筆者はまちづくりシンポジウム 「考えよう!川とまちづくり」を企画した。都市河川の再生に詳しい新潟大学の大熊教授を招き、シンポジウムのパネラーには、T教諭や委員会のメンバー、さらに市長も参加した。商業高校からは、“ばっ気方式”が紹介され、これを実際の川でやってみたい旨が提案された。大熊教授からも「こういうことは、“みためし”と言って、やってみて確かめることがよい」と後押しを受け、市長にその場で協力を約束させた。

 シンポジウム後、早速、筆者は「御祓川浄化研究会」を立ち上げる準備を進めた。構成員は、 石川県七尾土木事務所七尾市環境課環境日本海サービス公社川への祈り実行委員会七尾湾沿岸全住民会議いしかわ水辺再生研究会七尾商業高校金沢大学 等である。事務局を ( 株 ) 御祓川 に置き、いわゆる産官学民の共同研究体とした。準備会を経て、 2000 年 6 月に研究会を立ち上げた。我々は、研究会の目標を「御祓川浄化実験の実施と効果の把握」として、水質の達成目標をBOD値5 mg/l とした。これら一連の動きの目的は、もちろん「御祓川の浄化」である。

◆協働コーディネーターの役割と課題
 この動きの中で、筆者はコーディネーターとして、御祓川浄化研究会という 協働の場を設置 した。この 課題に参画すべき人々を集め、より具体的な目標と活動内容を定め て、浄化実験を開始した。浄化実験装置の とりつけに当たっては、参加の枠を広げ、 商業高校の生徒をはじめ、地元住民や子どもたちが参加できるイベントとしたほか、実験を 技術的にサポートする有識者を巻き込み 、実験計画や結果の分析などを行った。実験装置は河川占用許可をとって行うため、 河川管理者との調整 も研究会で行った。さらに、このような動きを市民に広く知ってもらうために パブリシティを利用した広報リリース を行った。実験には失敗がつきものである。その失敗をどのように乗り越えて、装置の改良を行ったかについても逐一、広報を行った。1年目は、まったくの手弁当で浄化研究会を運営してきたが、2年目は、より有効な方法に浄化実験を広げるため、助成金の申請を行った。地球環境基金からの支援を受けて、浄化実験装置の改良と詳しい効果の把握を行うことができた。プロジェクトを進めるために 必要な資金調達やそのためのアドバイス も、協働コーディネーターの大切な役割である。

 実験は3年目に入り、排水路の水を浄化してから川に流し、さらにリンや窒素を植物の力で除去する高度処理まで可能な「御祓川方式」と呼べる浄化システムの原型が完成している。浄化装置で育つクレソンを商品化し、委員会がクレソンケーキを販売している。ケーキ1リングにつき、100円が浄化のための基金に寄付されるしくみとなっており、このような楽しいしかけが、浄化の必要性を多くの人々に知ってもらうきっかけとなった。今後は、これを常設化するにあたり、 河川管理者との調整や維持管理のしくみをつくっていく 必要がある。

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協働コーディネーターの役割
 今回は、筆者が協働コーディネーターとして関わった2つのプロジェクトについて紹介した。今回紹介した事例より、協働コーディネーターの役割に関する記述を再度、整理してみると、次の通りである。

•  課題に参画すべき人々を集め、協働の場を設置すること

•  参加者が目的を共有し、合意を得ること

•  事業推進に必要な専門家を巻き込むこと

•  協働の場における具体的な目標と活動内容を定めること

•  必要な情報と合意形成に向けた選択肢を提示すること

•  必要に応じて、参加の枠を広げ、イベントを開催すること

•  課題に関する行政担当者・管理者との調整を行うこと

•  パブリシティを利用した広報リリースを行うこと

•  必要な資金調達やそのためのアドバイスをすること

•  維持管理の楽しいしかけづくりをすること

 今回は、 ( 株 ) 御祓川の設立以降に筆者が関わった、協働事業の事例より、協働コーディネーターの役割について振り返ってみた。次回は、失敗例も含めて、さらにいくつかの事例を紐解きながら、多様な主体が関わるまちづくりについて、考察をすすめてみたい。

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