世界の潮流とNGOの動き 第17回
CSR(企業の社会的責任)とNGO ―企業はNGOとどう付き合ったらいいのか(4)

              企業への提言

長坂寿久(拓殖大学国際開発学部教授)

キーワード・・・ CSR、企業の社会的責任、NGO、NPO、市民社会、NGOとの交渉、NGOとの協働、NGOとの連携

  企業にとって、「社会」(つまりNGO・NPO)との関わりが決定的に重要になったという認識をもたなければならない時代となっていることをこれまで述べてきた。

 オランダのヌミコ社のデヨング筆頭副社長(CSR担当)は次のように述べている。

 「これまでは、環境等を含め、規制は政府によって押し付けられていたが、今日は民間企業が法規制以上に自主的に取り組み、それを市民社会に公表している。社会での企業活動の許可は政府から与えられるものであったが、今日は市民社会との対話を通して決められる。同様に 会社の正当性は政府から与えられるものであったが、今日においては市民社会との対話のなかで獲得していくものに変わって来ている。」

 こうした認識の仕方 (市民社会という認識) がCSRの本質に存在するのである。 「市民社会」の概念は欧米を中心に存在してきた。開発途上国には市民社会は形成されていないという議論もあった。しかし、グローバリゼーションの進展の中で、価値観もグローバル化していき、一人の市民にとって、社会での役割や所属は多様化している。企業の従業員として、企業の株主として、労働組合員として、政府の役人として、消費者として、地域社会の一員として、NGOの会員として、NGOの活動家として、家庭人として等、きわめて多様な側面を人間はもっていることを再認識するようになった。

 NGOと対話することは、従業員との対話にも役立っている。現在では従業員の中にはNGO・NPOの会員となっているもの、実際に活動している者が多くいるからである。

 すなわち、今日では、 「社会」 が中心となっており、企業は社会のひとつのステークホルダーであるという考え方が中心軸になってきているのである。NGOは「企業」をこのように捉えているのである。

 結論的に、これからのCSRに取り組む企業に対し、提言として、次の諸点を提示しておきたい。

(1)企業にとって、21世紀における企業競争力の向上には、CSRへの対応が必要であり、それはNGO・NPOと付き合うことの必要性を意味している。

 それは企業にとって、2つの意味で重要である。一つは、NGOは社会の声を反映していること。NGOが何を憂慮しているかを知ることで、企業リスクを洗い出すことができる。もう一つは、NGO・NPOは人々のニーズの最先端で仕事しているのであり、企業はNGO・NPOと付き合うことを通じて、社会・人々の最先端のニーズとその変化を社内へ内部化できるからである。

 

(2)「NGOは企業にとって有益である。積極的に接触していくべきである」、と欧米の企業のトップは語る。企業にとってCSRへの対応は、実際的にはNGOの動向によって決まってくることになる。消費者の商品の選択行動もCSRの決定要因だが、不買運動や消費者の選択や消費者教育の展開に大きな役割をもっているのもNGOである。つまり、企業にとって、CSRに対応するもっとも重要なポイントの一つは、NGOが何を課題としているかを常に把握することである。

(3)問題が起こっていないうちに、NGOと話し合いを行っておくといい、「問題がないときにこそ対話を作ることが最大のポイント」というのがゴールデンアドバイスである。

 NGOとの対話には、取締役のメンバーが出席するのがよい。グリーンピースのようなNGOの組織構造は階層的ではない。NGO側はその分野の専門家が代表として話し相手となる。こうした話し合いは、同時に最良の役員のCSR教育ともなる。

 NGOはオープンにまた事前に付き合っていれば、互いの信頼関係を築いていくことができる。

(4)NGOとの交渉は、オール・オア・ナッシングではなく、ある一定の領域をもつことが可能である。例えば、武器に関わる売上が総売上の5%までとか10%までとかの交渉が可能である。

 そして、NGOと話し合うことによって、双方がある程度妥協し合いながら一定の合意が得られれば、国際的な営業活動が可能となる。

(5)NGOとの合意は、評判が落ちるリスクが少なくなる、ブランドイメージがよくなり収益が上る、将来必要だと予測される環境コストやリスクが少なくなる、従業員のモティベーションがあがる、見通しのいい経営が出来る、社会に対して果たしていない責任が少なくなる、そして株主の評判がよくなるのである。ただ単に社会、労働、環境法を満たしているだけでは、CSRを実行していることにはならない。法律以上のことがCSRには求められる。

(6)もう一つ最も重要なことは、NGOとの「協働」を行うことである。「協働」とは、二つのことを意味する。一つは、企業のコアビジネスの中にNGOを入れるということである。もう一つは、企業とNGOが一緒になってプロジェクトに取り組むということである。

 前者については、ヌミコの事例がそれを示している。後者について、少し説明しておこう。「企業の社会貢献」という言葉は昔からあった。日本にも 80年代後半頃から入ってきて、日本企業も今や大いに行っている。しかし、CSR以前の社会貢献論は、あくまでも企業は「経済(収益)」的存在であった。つまり、収益について、それを株主や役員や従業員などに還元すると同時に、社会にも還元(配分)すべきだという考え方である。その社会還元論の基本は「寄付」であった。

 しかし、CSR時代における企業の社会貢献論は、「寄付」ではなく、企業もNGOと協働して(パートナーシップを組んで)、社会的問題の解決・改善に取り組んでいくという取り組み方が必要であるということなのである。日本企業でも、まだ少ないものの、そうしたケースが少しずつみられるようになってきている。

(7)このNGO・NPOとの「協働」は単にそれが企業の評判を強化するだけでなく、CSR/SRIの評価機関による企業評価のポイントを高めることになるということに、日本企業も気付く必要があろう。

   評価機関は、NGOから実効性ある情報を入手している。とくに評価機関にとっては、企業が導入している仕組みについては、企業の報告書から情報は入手できる。しかし、それがほんとに実効的に実行されているかを調べる(裏を取る)ことは非常に難しいのである。

 そこで、評価機関にとっては、NGOと協働している場合には、そのNGOにコンタクトし、その実効性について問い合わせて、情報を入手できる。つまり、裏が取れるのである。そしてもし、そのNGOが企業の対応ぶりについて、評価を与える情報を提供すれば、評価機関にとっては、当該調査項目については最高点を付ける可能性が高いことになる。

(8)このため、企業にとっては、NGO・NPOとどのように「協働」するかは知恵の出しどころでもある。フェアトレードNGOの協力を得て、社内の従業員向けのコヒーや紅茶にフェアトレード商品を導入することも、「開発途上国に対してどのような支援を行っているか」という評価項目において有効な手段となるかもしれないであろう。スーバーなど小売店の場合ならば、コアビジネスにおいてNGOと協働したということになる。また、例えば、オランダの郵便会社TPGでは、ロジスティックスの専門知識を持った社員を、国連の食料プログラムに参加させている。これはコアビジネスの専門性を生かしたCSRを行っていると評価されている。

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