協働のデザイン  第19回 協働型議会(その2)  

世古一穂( (特非)NPO研修・情報センター 代表理事)

キーワード・・・ 地方分権改革、協働型議会、議会改革、議会招集権

  地方分権一括法が施行されて6年が経過。地域社会においては住民自治が活発になり、基礎自治体の行政は行政改革、NPO等との協働によって分権型システムに転換しつつあるが、「議会が変わった」という認識はほとんどないのが実態ではないだろうか?前回に引き続き、今後の地方議会のあり方を、市民参加と協働という視点で考えていきたい。

1.地方分権改革と地方議会
   平成11年3月31日に3232あった市町村が平成17年3月31日には611減って2521になった。さらに、平成18年3月31日には、平成11年と比べて581件の合併で、1410の市町村が減少し、市町村数は1822となる見込み(知事への申請済み)といわれる。

 1822の内訳は市が777、町が847、村が198となっている。市町村の平均人口と面積は平成11年24555人、106.9平方キロだったのが65198人、203.5平方キロと、人口も面積も大きくなる。
 分権型社会への外形は急速に整えられつつある。

 

 地方分権一括法が施行されて6年が経過した。この改革を先導した地方分権推進委員会は、その最終報告の第4章で「分権改革の更なる飛躍を展望して」で、残された課題として
  1 地方財政秩序の再構築
  2 地方公共団地の事務に対する法令による義務付け・枠付け等の緩和
  3 地方分権や市町村の合併を踏まえた新たな地方自治の仕組みに関する検討  
  4 事務事業の移譲
  5 制度規制の緩和と住民自治の拡充方策
  6 「地方自治の本旨」の具体化
の6つの課題を挙げている。

 その中で「第1次分権改革では住民自治の拡充を目的にした勧告事項はごく少数にとどまった」と述べ、議会制度に関する改正がほとんど手付かずであることを認めている。

 残された6項目の課題のうち、現在、進行しつつあるのが、いわゆる三位一体の改革で、これは国と地方の関係、役割分担を適正化しようとするというのが改革の本旨といえる。

 これからの改革は「住民自治の拡充方策」であり、住民自治の現場である地域社会そのものがその舞台となる。

 「住民自治の拡充方策」には、地方自治法に制度的に担保された、住民投票などの直接参加の他、行政への市民参加など多様にあるが、そのうちのひとつが議会への住民参加、協働型議会への転換である。

  地域社会ではNPOの台頭をはじめ、地域の住民自治の動きが活発化し、基礎自治体の行政はこうした自治体をとりまく社会環境の変化に対応すべく行政改革、NPO等との協働に取り組んでいる。

  しかし、民主主義の原点ともいうべき「議会が変わった」という認識や印象はほとんどないのが実情ではないだろうか。

2. 参加・協働型時代の地方議会のイメージ
  分権、参加・協働型時代を迎え、基礎自治体の重要性が指摘され、その機能が強化されるとともに、行政は市民参加条例や協働推進条例、パブリックコメント手続などを制定して、行政への参加を明文化するなど、市民参加、協働に力をいれている。

 そうした行政に対応して、住民は議会を飛び越して行政執行部に直接的に働きかけるようになっている。

  それに反して議会の位置づけは不明瞭になってきているといえるのではないか。

  議会は本来、住民自治の根幹をなす機関である。

  分権、参加・協働型時代の議会は住民の意志を的確に反映し、開かれたものであることが必要だ。

  今、分権、参加・協働型時代にふさわしい「議会」、「議員」像に焦点をあてた、議会改革、議員改革、「協働型議会」にむけた社会的議論が必要だと思う。

3.議会への市民参加
  とはいうものの、議会への参加は会議の傍聴や請願・陳情の審査など受動的な形態から、参考人・公聴会の積極的な活用や議会報告会の開催、市議会モニター制度の導入など能動的な参加の取り組みが実施されていることも事実である。

  昨今取り組みが多くなっている自治基本条例や議会基本条例などの制定は、住民と議会の関係を再構築するいい機会である。

  条例制定にあたって議会を協働型議会としていくという視点から、これからの議会の役割と責務、住民の議会への参加、協働について制定することも必要だ。

  また、議会が住民に開かれたものであることを明記し、その役割として、地方自治法に議会の議決事件を追加することも可能だろう。

  住民が積極的に議会に参加し、議会もそれを積極的に受け入れるようになれば、議会における議論は活発になり、本来の言論の府として再生することができるようになるのではないだろうか。

  議会が住民代表として機能するために必要な情報源の第一は住民である。

  住民との協働が必要である。

  協働型議会にむけて、もっとも大切なのは民意をいかに的確に反映させることができるか、である。

  そうした視点にたってみると、現在の地方議会の議員構成は多様な住民構成を反映しているとはいえず、代表制に偏りがある。

  不均衡を是正するためには多様な議員が選挙されるような選挙制度の改革も併行しておこなう必要がある。

4.おわりに
  地方議会を改革していくポイントは
  1、議会の自主性・自立性確保、2議会と首長との関係、3議会と住民との関係、4議員の位置付けと議員候補者の多様化 等が挙げられる。

 これまで議会と住民との関係に焦点をあてて述べてきたので、ここでは、議会改革に関わる町村議会議長会、市議長会、都道府県議長会、等の関係者に取材した中で、特に、議会の自主性・自立性の確保という点から、三議長会がそろって改革の必要性を訴えている「議長に議会召集権を」という点について言及しておきたい。

「議長に議会招集権を」について
【現状】現在、地方議会の招集権は自治体の首長にある。
ただし、議員定数の4分の1以上が付議事件を示して召集を請求した場合は首長が臨時会を招集しなければならないという規定になっている。

【改革のポイント】
  「議長に議会召集権を」という議会関係者の言い分は、

 二元代表制を採る中で、なぜ招集権が長だけにあって議会の議長にないのか、本来は議長にあるべきではないのか、というのが論点である。

 地方議会の召集権が自治体の首長にしかなく、議長が議会を召集できない。       

 そのため、議会と首長が対立している自治体では、 100条調査事件や、議員提出条令案などを議論しようとして議会が臨時会の招集請求を行っても、首長が早期に召集しない場合があったり、議会の組織、構成に関する臨時会についても、首長に依頼することが必要等、議会の自主性、自立性が担保されていないという問題がある。

 住民の直接選挙により選出された議員で構成される議会を参集するのに、一方の代表機関である首長の召集行為を要するとする現行の制度は、二元代表制の理念からおかしい。

 議会がその大きな役割である執行機関を監視し、政策を提案していくためには、自らの権限で参集できる制度とする必要がある。

 首長に召集権を専属させている現行の制度は戦前の制度を地方自治法がそのまま踏襲したもので、議会の召集権は一般的に議長がもち、臨時会の招集請求権を議員のほか首長にもたせるというかたちに変えるべきである。

というものだ。

【コメント】
 フランスやスペインのように議会の議長が自治体の首長をかねている場合は地方議会の招集権が自治体の首長にある、というのは理解できる。  しかし、二元代表制で、行政の執行部と並立する議会の招集権が首長にあるというのはやはり不合理だと思う。

 首長が自分に不利な場合、現行の制度では議会の招集に応じなかったり、極端な場合は定例会も招集せず、すべて専決処分で乗り切ることも可能というのは対等性に欠けている。

 ただし、実態としては予算や決算等、多くの議案が首長からの提出にあわせて行われているということから考えると、議会も首長もどちらも必要に応じて議会を招集できる制度にする必要があるのではないだろうか。

 現行の制度でも臨時会の招集請求があった場合には、一定期間内に議会召集を議長に持たせるという規定を設けることも必要だ。

 ともあれ、参加・協働型社会における議会はその自主性、自立性を確保し、その地域にあった議会運営、組織を自らの責任で構築できるようにすること、それが可能となるような制度が必要である。

 また首長との均衡ある関係をつくっていく必要がある。特に地方議会の役割である、監視機能を十分に果たすためには議会と首長が対等な関係になることが必要である。

 しかし、現実は「議長に議会招集権を」でもわかるように、議会は憲法上は当該自治体の意思決定機関であるといいながら、議会と首長の関係はバランスを欠いており、実際には条例の発案権は制限されているし、予算案の発案権ももっていない。実際の審議の場では、議会は首長の諮問機関的なものになっている。

 地方分権の推進によって首長の権限は拡大している。地方議会がそれとバランスのとれた力をもたないと議会は適切なけん制機能を発揮できない。

 分権社会における議会のあり方は住民自治の視点からも重要だと思うゆえんである。

 勿論、議会を構成する議員の質が問われることはいうまでもない。

参考文献
 第2次地方(町村)議会活性化研究会「分権時代に対応した新たな町村議会の活性化方策―中間報告」平成17年3月

 都道府県議会制度研究会「今こそ地方議会の改革をー都道府県議会制度研究会中間報告―」平成 17年3月

▲ページトップへ

 

 



 

 

©2004 NPO Training and Resource Center All Right reserved