協働のデザイン  第18回 協働型議会(その1)  

世古一穂( (特非)NPO研修・情報センター 代表理事)

キーワード・・・ 協働、協働型議会、全国町村議会議長会、地方制度調査会

 地方分権の進展および、ここ数年急速に展開された市町村合併によって地方自治体のあり方が大きく変化してきている。地方分権と協働による市民分権が進むこれからの参加協働型社会における地方議会の役割、機能は変っていくのか、また変えていく必要があるのだろうか。今回から2回にわたって、今後の地方議会のあり方を考え、「協働型議会にむけて」という視点で、問題提起していきたい。

1.はじめに
 地方分権の進展および、ここ数年急速に展開された市町村合併によって地方自治体のあり方が大きく変化してきている。

 私はかねてより協働の視点から、新しい公共のあり方を問い直し、行政セクターと市民セクターの役割分担、それはとりもなおさず市民セクターへの分権=市民分権を進めていくということが参加協働型社会へのプロセスであることを「協働のデザイン」として提起してきた。

 行政とNPO等との協働はこの2、3年急速に全国で政策課題化し、進展してきている。では、地方分権と市民分権が進むこれからの参加協働型社会における地方議会の役割、機能は変っていくのか、また変えていく必要があるのだろうか。

 周知のように全国町村議会議長会等、当事者団体は議会活性化研究会等を設置してこの課題に取り組んでいるし、私が委員として参加している内閣総理大臣の諮問機関である「第28次地方制度調査会」では「最近の社会経済情勢の変化に対応した地方行財政制度の構造改革について、地方自治の一層の進展を図る観点から、
 ・道州制のあり方
 ・大都市制度のあり方
 ・地方の自主性・自律性のあり方 
 ・議会のあり方
 ・地方税財政制度のあり方
 ・その他  を審議項目とする」として、地方議会のあり方について議論がされている。

 しかし、NPO関係者の関心はまだまだ行政との協働にあり、地方議会改革のあり方の議論はほとんど行われていないし、一般の人々の関心も低いのが現状だ。

 私は市民参加、協働の視点からこれからの地方議会のあり方を考えていくことは、行政と市民、NPO等との協働とセットにして考えていかなければならない緊近の課題だと考え、地方制度調査会で発言したり、町村議会議長会等の研究会に積極的に参加して取り組んできている。

 そこでNPO研修・情報センターが発行するメールマガジン『NPO協働e−news』では2回にわたって、「地方議会のあり方を協働型議会にむけて」という視点で考え、問題提起していきたい。今回は地方議会改革の背景と論点の整理から。

2. 地方議会改革の背景
 第一は、2000年の分権改革一括法の実施に伴い、国と地方の関係が上下・支配服従から対等同格になり、明治以来の機関委任事務廃止という画期的な成果を挙げることに成功したことにより、地方議会は権限を飛躍的に拡大し、審議対象を一部例外を除きすべての事務事業に及ぼすことになったことがあげられる。その結果、地方議会は政策調査・立案機能を強化するとともに、権限拡大に伴い不正・腐敗の機会の増大が予想される行政執行へのチェック機能を向上させる議会体制の確立の必要が高まるとともに、地方議員各自にはこのような状況変化に対応できる議員となることが求められ、その自覚、自己改革、能力アップが急がれている。

 第二は、ここ数年急速に展開された市町村合併によって市の数が急速に増加した市議会と、その逆に最終的にこれまでの3分の1以下の900台になる町村議会のありようが根本的に変化していることだ。特に離島や山村など弱小町村が大半となると懸念される町村議会については議員定数の削減とあいまって、合併の進んだ県では市町村と県が対等同格という建前とは裏腹に県の優位性が強まり、都道府県の弱小町村への補完機能を強化し、結果として分権改革が進む基盤を失いつつあるという状況になっている。

 また、町村議員の激減による従来のタテ系列の政治体制の全面的再編成を促進するとも言われ、市町村合併の影響が非常に大きい。

 第三は、そもそも現在の地方自治制度が太平洋戦争後、議会と長が並存対立する首長主義=二元代表制を採用したことからはじまっていることだ。

 二元代表制はいうまでもなく国の体制とは大きく異なる。

 地方自治体は国と違い、裁判所をもたない。

 また国会は国権の最高機関であり、同時に唯一の立法機関であるが、地方議会は最高機関性と立法権のどちらももたない「議事機関」でしかない。

 首長と対等同格の二元代表制を建前としているが、旧制度下での議会に対する長の優位性の名残が存続し、地方議会の自主性自律性の強化・活性化が阻害されている現状がある。

3.参加協働型社会の議会のあり方について考える際の論点整理
 参加協働型時代の地方議会は国会とは異なる論理、地域の自治=協働の論理で議会改革を考える必要がある。

 行政への市民の参加を促進する役割と執行機関を監視、政策立案(市民からの政策提言を受け止め協働で政策立案することも含めて)を行っていく議会を「協働型議会」と呼ぶ。

 議会の役割は「正統に選挙された唯一の合議体=議事機関」であり、首長とは異なるが対等の力を持つ。地方分権が進展に伴って、この役割がますます重要となる。

 市民参加を促進する議会は、行政への市民参加を促進するための提案・監視を行うだけでなく、議会そのものへの市民参加を活用、促進させることが重要である。

 行政への市民参加、協働が進めばすすむほど従来型の議会であればその役割と機能を失ってしまいかねない。議会への市民参加を促進させることが協働型議会には必須のこととなる。

 議会への市民参加の形は従来の議会報告会や市民モニター制度を超えた、付属機関の設置、本会議での参考人や公聴会の導入などが必要で、これには法改正を含めた検討が必要となる。

 分権が進展するこれからの地方議会は、市民参加を基本とした協働型議会は議会の自律性と権限強化を前提として、執行機関の監視や政策立案能力を今まで以上に高める必要があり、そのための実質的な手法の開発が不可欠だ。

 議会と執行機関の基本的なあり方として、特に現在首長に与えられている議会の召集権を議長に付与するように法改正することが必要ではないだろうか。自律性と権限を強化する具体的な方策である。

 監視機能を高めるためには現行法でも可能な方策として、三重県議会で実施しているように議会が執行機関の政策の立案、実施状況を評価する機関として機能する必要もある。

 また、議会の役割や組織、議会と執行機関との基本的な関係を変革すること、 議会そのものへの市民参加の流れをつくること、の他に女性やサラリーマン等が立候補しやすくしたり、議員の兼職禁止の規制を緩めて、例えば他の自治体の職員が立候補できるようにするなどの兼職禁止規定を見直し、地方議員の立候補の多様化、自由化をすすめることも必要である。

 それにともなって夜間や休日の議会の開催などの創意工夫が必要となる。

 また並行して議員の定数、報酬、処遇を見直すことによって自由で活発地方議会を実現していくことが重要だ。

 そのためには350万人の人口を抱える横浜市のような大都市と1000人以下の人口の町村議会が同じしくみであってはどちらにとっても運営しにくいのが現状だろう。全国の自治体の議会に共通のものと選択できるものという議論が必要だ。

 各自治体が地域の自治、市民参加、協働の視点から自分たちにあった議会や議員のあり方を選択できるようにするのが分権時代にふさわしい議会のあり方の前提となるのではないだろうか。

 協働型議会にむけての論点を整理しておこう。

@議会の役割
 ・地方分権の進展に伴い、議会に求められる役割について

A市民参加と議会のあり方
 ・公述人、参考人による委員等への質疑
 ・傍聴人による質疑、意見公表のあり方
 ・住民投票の導入 等

B議会と執行機関の基本的な関係
 ・議長の議会招集権を付与することについて
 ・専決処分の要件の見直し、不承認の場合の首長の処置の義務付け
 ・決算不認定の場合の首長の対応措置の義務付け
 ・再議制度
 ・選任同意制度  等

C議決事項のあり方
 ・議決権の拡大
 ・予算修正権の制約の緩和、予算の議決項目の拡大
 ・不信任議決と解散  等

D議会の組織のあり方
 ・閉会中の委員会活動に係る制約の撤廃
 ・議会の内部機関設置の自由化
 ・議会の付属機関設置の自由化
 ・議会事務局機能の明確化  等

E執行機関に対する監視機能のあり方
 ・調査権、監視権の強化 

F地方議員の立候補者の自由化、多様化
 ・女性やサラリーマン等が立候補しやすくするための方策
 ・議員の兼職禁止のあり方について

G議員の定数、報酬(処遇)について
 ・議員の位置づけ
 ・選挙制度

参考資料
第2次地方(町村)議会活性化研究会「町村議会の活性化方策に関する新報告書―中間報告―」全国町村議長会 平成 17年3月

第28次地方制度調査会「第 28次地方制度調査会審議項目及びその論点について」平成16年6月8日
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