協働コーディネーター養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ4 
 公共事業を「協働」でおこなう ゆとりとやすらぎをもとめた ある「村」の挑戦〜

 第4回   地域まるごとまちづくり

吉岡幸彦( 姫路市建設局建設総務部建設総務課係長

  特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは協働コーディネーターを養成する、協働コーディネーター養成講座を開催してきました。その成果として、協働コーディネーターとして各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、協働コーディネーターとして活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
  シリーズ4では、兵庫県姫路市別所町北宿での公共事業を‘協働'にて行った経験を紹介します。この事業を通して協働コーディネーターの役割やその重要性を知ってください。

キーワード・・・ つぶやきを形に、コーディネーターの役割

 田んぼの中の小さな「むら」。典型的な高齢化と過疎化が進む地域であったこの地区が、行政と住民が協力して住環境の整備に取り組んだ結果、『むら』は安全で快適な環境を得ることが出来、しかも過疎化に一定の歯止めがかかり始めた。このことは地区住民はもとより、行政にとっても大きな喜びと自信となっていった。

 前回は道路拡幅整備における地域住民と行政の協働事例を述べてきたが、今回はこのまちづくりの両輪となっているもう一方の主役である住民が参加して考えた公園づくりについて述べてみたいと思う。

1. ワークショップのその後
  地区住民に呼びかけて実施した公園のプランづくりワークショップ(前回記載)も半年かけて無事終了した。その結果、住民達の公園に対する愛着は人一倍強いものになっていた。自分達だけのオリジナル公園という思いなのであろう。公園ワークショップの最終日、一つ嬉しいことがあった。
 今回参加していた建築士会のメンバーからこのような提案がなされた。 

 「半年間このワークショップに参加させていただいて、住民のみなさんの熱心な討議に感銘を受けました。今回決まった公園のプランの中にはトイレや東屋が設置されることになっていますが、これは我々の得意とする分野です。もしよければこのトイレと東屋を建築士会に考えさせていただけないでしょうか」
  住民達はこの申し出を快諾したことは言うまでもない。

  建築士会の動きは早かった。ネットのホームページでメンバーを公募。集まった若手建築家10名余りが中心になって、建築士会内部での「公衆トイレ・東屋ワークショップ」が始まった。
 筆者はこの後、建築士会と住民と行政内部との意見調整に明け暮れることになる。
 地区住民の願い、設計集団の思い、そして維持管理をしていく行政の意見が合意しなければ、それは絵に描いた餅になってしまうからだ。

 住民達に設計を宣言してから8ヶ月、建築士会としても何度も検討を重ね、行政の了解を得た上で、ようやくプランを住民に披露する日がやって来た。この案に住民の意見を少し加味してもらうつもりであった。自信満々で望んだトイレ・東屋ワークショップで私は貴重な体験をすることになる。

 前回の公園ワークショップでこの手法の楽しさを学習した住民達は中々手強かった。自分達が本当にほしいものをつぶやきから意見として声に出して発表し始めた。内容もしっかりしている。この結果、トイレ案は了承されたが東屋案は地区住民の望んでいるものとは少し違うということで、再考を余儀なくされた。   
  いかにすばらしいものを提示しても、住民のニーズに合っていなければなにもならない。地区住民の意向を十分理解していると思い込んでいたことが、いかにいい加減であったかを筆者を含め建築家達も痛切に思い知らされた一幕であった。
  再度検討した結果、住民達の前で宣言してから約1年の歳月を要して、ようやくトイレ・東屋の青写真が決定した。児童公園の施設としては前例の無い、街並みに調和したすばらしいものが出来上がったのである。

 このワークショップに参加した若手建築家はこう振り返っている。 
 「ものすごく貴重な体験が出来、大変勉強になりました。いろんな人の意見を聞きながら物をつくっていくことの大切さと喜びをこのワークショップを通じて教えてもらいました」
  小さな村の小さなまちづくりが、さざ波となって次第に大きな波紋を広げていった。

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2. モニュメント製作
 筆者は地区住民と立ち話をすることがよくある。 別にこれといった話題もないのであるが、いわゆる世間話というやつである。ある日、老人が家の庭で竹とんぼをつくっていた。思わず懐かしくなって声をかけた。そして、昔話に花を咲かせた。

 その時の古老との会話はこのようなものであった。
 「今の子供達はナイフの使い方ひとつ知らない。昔はこうして、竹とんぼをつくって競争していたものや。田んぼやレンガ工場の裏でみんなで飛ばして遊んだもんや」
  「レンガ工場なんて聞いたことないですが、いったい工場はどこにあったのですか?」
  「この村に大きなレンガ工場が昔はあったんや。良い粘土がたくさん採れたので、いつも土を採掘していた。しかし、コンクリートちゅうもんが出来たから、営業不振になって昭和の初期には潰れてしまったんや」
  そうか、この北宿は粘土が採れるのか。私はこの会話からヒントを得て、特産である粘土を採掘して、陶板で何かつくってみてはどうかという構想を持った。これが、陶板モニュメントワークショップの取っ掛かりであった。

  さっそくまちづく協議会に提案して、「陶板つくりワークショップ」が始まった。
  粘土は集落の道路拡幅工事現場の残土を利用した。土をふるいにかけて、砂以上の小石を取り除く作業は老人会が協力してくれた。粘土を練り上げる作業は地域の子供育成会のメンバーが手伝ってくれた。陶板指導と焼くときの釜の提供は近所の陶芸家が申し出てくれた。PTAが子供たちに参加を呼びかけてくれた。
  地域を挙げて盛り上がること2ヶ月、準備が整い、いよいよ陶板ワークショップ当日を迎えた。当日は続々と地域の子供たちが集まってきた。そうして、粘土に向かって思い思いの絵や言葉を描き始めた。幼児や乳児は手形足型を残していった。実に一日で150枚以上の芸術作品が出来上がったのである。

  あれから3年の年月が経過した。現在このモニュメントはすっかり風景に溶け込み、地域の顔となり、住民達の宝物となっている。
時折、モニュメントの前に立って、手を陶板にかざして、手の大きさを比べている子供がいる。
  「いい成長の記録になります」と、おかあさんがつぶやいていた。

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3. 総務大臣表彰
 平成14年も暮れようとしていた12月の中旬、筆者の手元に大変嬉しい知らせが舞い込んできた。北宿でのまちづくり活動が評価されて、姫路市が総務大臣表彰を受賞することに決定したというのだ。
 受賞理由は官民一体となって公共事業を実施し、その成果が顕著に現れているすぐれた事例であるとのことであった。特に、「住民参加のまちづくり部門」 での受賞ということで、 住民主体のまちづくりを進めている姫路市にとっては価値あるものであった。

 地区住民の反応はどうだったのであろうか。意外にも住民達は冷静にこの賞を受け止めていた。彼らは別に特別なことをやったという意識はなかったのである。今までの活動は当然のものであり、通常生活の延長としてたまたま、賞を受けただけという思いであった。まちづくりは別に肩に力を入れてするものではない。まちづくりにゴールはないのである。北宿は100年の大計に向かってまだ歩みだしたばかりなのだ。このようなことで浮き足立ってはいけない。
  筆者はまたひとつまちづくりを通して、地域住民に教えられたのであった。

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4. まちづくりの成果
 平成2年から始まった北宿のまちづくり。かれこれもう15年の月日が経過したことになる。その間ずっとまちづくりを最前線で支えていた協議会会長はこう語っている。
  「 まちづくりは地元だけでは絶対出来ない。 行政のバックアップがあればこそ、ここまでやって来れたのだ」

  住民と行政の二人三脚で行ってきた街なみ環境整備事業であるが、事業期間終了の平成17年3月をもって一区切りすることになった。 この間、当初からの目標であった道路整備は90%が完了。防災拠点としての地区公園も完成した。一番嬉しいことは、ほぼ100%の家屋に緊急車両の進入が可能となったことである。

  うれしい誤算もある。道路が拡幅されたことにより、マイカーの進入が可能となり、生活の利便性が格段に向上したことで、地域から出て行き暮らしていた若者達が、新築家屋を建てて、地区内に戻ってきたことである。かつて、過疎化の進行を止められず、地域の高齢化が進み、むらの将来に暗雲が立ち込めていたこの地区に明るい日差しが差し込んできた。若者が戻ってくれば当然子供たちの数も増えてくる。静かで沈んでいた空間に子供たちの笑い声が聞こえるようになってきた。地域が活気づいてきたのだ。

 北宿夢公園と名づけられた地区公園。朝は幼児とそのお母さん達のおしゃべりの場として。 昼は老人たちの憩いの場として。午後は子供たちの遊び場として。夕方は中学生達の宿題する場として。夜はウォーキングする大人たちの場として一日中大活躍している。たった1500u足らずのこんな小さな公園をつくるのに延べ数百人の地区住民が関わり、完成までに実に5年という歳月を要したのである。このようにまちづくりには時間がかかる。公園を行政に任せておけば1年間で仕上がっていたかもしれない。はたしてどちらが良かったのかは今後住民達が判断してくれることであろう。

5. まとめ
 筆者はNPO研修・情報センター主催の協働コーディネーター研修を受講したことにより、コーディネート・ファシリテートの理論を学習すると共に、数多くの事例に接することが出来た。このことが今回の実践に多いに役に立ったことはいうまでもない。さらにこの研修を受講したおかげで、思いを同じくするたくさんの朋友に出会うことが出来た。このことは筆者の大きな財産となり、アドバイスを受けるネットワークが広がった。

 今回のまちづくりを実践して、まちづくりは、結局は人と人のつながりであると筆者は感じている。いかに人と人を繋げて行くことが出来るか、また、いかに自らが繋がっていくことが出来るかが、大きなポイントとなるのではなかろうか。志を持って、アンテナを張り巡らせながら、局面局面でその場に最適な人物を見つけ繋げて行く。そうすることがまちづくりを前進させ、かつ自分の人生も楽しくさせてくれるのではないだろうか。

まちづくりは長い。到底ひとりでは出来ないのである。
最後に私の好きな詩をひとつ紹介させて頂く

 「本気」  (伊藤静香作)
本気ですれば 大抵なことは出来る
本気ですれば 何でも面白い
本気でしていると 誰かが助けてくれる
人間を幸福にするために 本気で働いているものは 
みんな幸福で みんな偉い

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