中国の民間非営利組織  第7回  反日デモ雑感  
岡室美恵子(笹川平和財団プロジェクト・コーディネーター)
キーワード・・・ 反日デモ、報道、日中協力、草の根無償援助

1.反日一過?
 4月末に北京にある中間支援組織のスタッフから次のようなメールを受け取った。

  4 月に入ってからの中日関係はまさに紆余曲折で、デモなどは各地で起こっていますが、しかし、けっして日本のテレビなどで報道しているようなひどいものではないのだと思います。デモの中には暴行もありましたが、やはり、全国範囲では、結構小範囲やまれな例であると北京にいながら思いますが。しかし、日本のジャーナリストが細かく報道して、取り上げているのに対して、中国にいながらあまりこのような情報を手に入らないのはよくないなあとも思います――日本に関わるNGOにとっても特に影響はないと思います。かえって日本側の団体にどのような悪影響を与えるかは心配です――先週も、日本の団体や大学からの来訪があり、こちらでは、「日本週」というほど忙しかったのですが、学生さんと話をしたら、今中国に行くのは大丈夫かと周りから心配されたようです。やっぱり、日本の方がもっと大変ではないかと思いました――先週までは中日関係について、テレビで報道や評論が続いていましたが、それが今週台湾の国民党主席の連戦の来訪によって、マスコミの焦点が一気にそっちの方に向けてしまい、中日関係に関しては、ようやく落ち着いてきました。しかし、だからといって、問題はこれで解決したとは思いません――

 もともと中国の民間組織界では日本の影が薄いと思っていたので、ドラマチックな感想は期待せず、むしろ日本と関連を持つ団体の人達が悪い影響を受けないか、若干心配していた。「日本に比べ報道が少ないため」に活動に影響はないという話は、他団体のスタッフからも聞き、実際のところ意外であったが、連戦に話題をさらわれたと聞けばやっぱりと思った。呉儀副首相の首相会見キャンセル、森岡厚生労働政務官の発言などで日中関係は、またもや硬直化している一方、「歴史を鏡とした」天安門事件再評価を求める動きが出てきている。 この時期に「人民の感情を傷つけない」ための行為を対外的に示すことは、6・4への予防なのであろうか。

2.なんか足りない中国情報
 反日デモ行動についても、民意の調整に苦慮する中国政府がむしろ煽動しているのではないかとの見方も強かったようだが、2、3月号で紹介した民間組織のアドボカシー活動は、そんな「民衆重視」を示しつつも様々な不安定要素に直面している現政権と社会との駆け引きを示す別の側面であろう。中国の首相が民意と科学的な政策決定を優先させ、怒江ダム建設を棚上したニュースは、ニューヨークタイムス他海外のメディアでも紹介され、今春の両会(全人大、政協)でも、各地のダム建設再考に関する提案が出されている。環境NGOが最初に政策に影響を与えた楊柳湖ダム、このダムの上流にある紫坪鋪ダム事業に日本のODAが関わっているために中国の民間組織が激しく抗議していた。

 環境団体Foe Japan(地球の友)のHPに紹介されている中国からの声明文は、なぜ保護したいか、彼らの視点を示し呼びかけている。しかしながら、このような活動は日本ではほとんど報道されていない。反日デモの映像を見れば、やはりギョッとする。 デモはなぜ起きたか。報道の多くは日中関係のみならず、中国の発展の影の部分にまで原因を言及していた。しかしその影の克服に立ち向かう市民の姿は、日本ではあまり紹介されていない。

3.なんか足りない日中協力
 「政冷経熱」が続くだろうと言われるなか「ムード」づくりが期待される民間交流であるが、いわゆる「日中交流団体」間の交流以外の民間組織間の交流は活発とは言えない。

 民間団体が対等に協力し合い東アジアの市民社会の形成を推進していくというのは理想である。しかし中国での草の根団体の急速な発展はここ最近のこと、一足飛びに国際協力に至るのは容易ではない。これはどこの国の団体も同様であろう。市民団体はまず身近な社会問題に対して活動しているからだ。もしそこに、日中問題の打開策を求めるのであれば、政府なり助成団体なりからの最初のちょっとした後押しが必要である。

 日本には「 草の根・人間の安全保障無償資金協力」という制度がある。「発展途上国の地方政府、教育 ・ 医療機関、及び途上国において活動している NGO(非政府団体)等が現地において実施する比較的小規模なプロジェクトに対し、当該国の諸事情に精通している在外公館が中心となって行う資金協力であり、開発途上国において草の根レベルの社会経済開発プロジェクトを実施している非営利団体であれば対象となり、資金協力の趣旨から、主として、ローカル及び国際NGO、地方政府、教育 ・ 医療機関等が対象団体」と説明されている。2003年度北京大使館分の供与額は、 330,359,164円(計36件)。そのうち民間組織への支援は60,064,260円(計7件)で全体の18%にとどまっている(大使館HPのデータから筆者が算出)。

 米国フォード財団は、中国の草の根団体に対する援助を積極的に進めている。「ばらまき主義」や「米国民主主義の傲慢」といった批判もなくはないが、多くの草の根団体が一度は「公平な機会」を享受し、活動のステップアップにつなげている。 支援するということは、結構骨の折れることである。 同財団北京事務所のプログラムオフィサー達は足繁く団体をまわり、様々な会合に顔を出す。CIDA(カナダ国際開発庁)や欧州の大使館も積極的だ。「欧米とはあまりにも状況が違いすぎて」と民間組織関係者は聞かれれば口を揃える。しかし、いつも近くで見かける顔に馴染んできている。 理屈ではなく 「顔をみせる」活動の積み重ねを実践し、多くの国や海外支援団体が中国社会の認知と信頼を獲得しつつあること、そして相対的に日本の影が薄れている事実がどれだけ認識されているだろうか。

 中国に迎合する必要はない。しかし理屈抜きで重要なのは中国との「知る」「知らせる」チャネルを築くための発想の転換と地道な活動を続ける意志である。関係修復と新たな関係の構築、また対中ODAの軟着陸に向けて実行してみる価値はあろう。 

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